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送り梅雨  作者: 藤泉都理
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油照




「だ、だきゃしめてくだしゃい」


 何日も何日も、自分でも分かるくらいに挙動不審になってしまい限界を覚った俺は、心臓を引き絞って梅田さんに願い出たわけだが。


 終わった。


「だ、抱きしめてください」


 終わったって。

 頭の中で今までの梅田さんとの、小学三年生の梅田さんの幽霊との、小学三年生の自分の幽霊との思い出がのろのろと流れているのに、往生際の悪い俺は小声でしかも目を逸らして言ってしまった。


 今日は俺の実家に二人で寝泊まりをする日で。

 今、俺と梅田さんは二階の俺の部屋で向かい合って椅子に座って片手読みをしていて。


 終わった。

 梅田さんの顔が見られない。

 離婚。

 嫌だな。

 嫌だけど。

 梅田さんには俺より相応しい人間が五万と居る。

 居るよ居るさ居るだろうけどさ。

 嫌だ。


 グググググッて。

 腹に力が入って背中にくっつきそうだ。


「風呂に入って隅々まで綺麗に洗い流して、歯磨きを念入りにして、臭気という臭気を弾き、だせなくて、短い間だけ撃退するので。震えるのはごめんどうしようもないし、鼻息は。なるべく息を止めるので、抱きしめて、ください」


 今度は梅田さんの目をきちんと見て、早流ししそうになる言葉紡ぎを丁寧にして。

 言うと。

 梅田さんはちょっと待ってくれと言って、部屋を出て行ってしまった。


 あ。終わった。

 両親が常備している離婚届を取りに行ったんだ。

 そうだよな。

 気持ち悪いよな。

 抱きしめてくれって頼むのも。

 抱きしめてくれって頼むのにこんなに必死になるのも。


 は、はは。

 すごいな。

 涙が出て来ない。

 二人が居なくなって、三日三晩寝込んで時に出尽くしたのかな。

 ああ。それがいい。もう涙なんか出したくない。











(2022.9.16)



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