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秘め事

 旧トルトン街は200年前の廃墟である。

 ではあるが、石造りの頑強な建物は人々の迅速な避難もあってか、当時の街並みを色濃く残していた。


「探せばお宝とか残ってそうじゃない?」

「200年前だぞ。街も近いし、取り尽くされてるよ」


 ようやくフリーズから立ち直ったライオネルがオリーブの軽口に答えた。

 一手遅れてあらましを聞いた彼は、アイドル故にAランク冒険者への依頼が許されただけの案件だと察した(本来ならCランク冒険者が受け持つ依頼だろう)。


(対象が闇人の可能性なのが少しだけ気がかりだが)


 闇人とは、力を得る代償に魔王に魂を売った者達だ。

 暗躍されるので厄介ではあるが、直接戦闘ならばさして問題にならない。大概の闇人は元が弱く、強化されても脅威にはならないからだ(弱いから闇人になってしまうのだ)。

 だからこの場合留意するべきは、この依頼そのものが罠の可能性。


(でもフローラに限ってそれはないな。こんな可憐で儚い女性が闇人な筈ないし)


 極めて気を使って彼女を盗み見る。

 凛と口元を結び、しかし不安を隠せないのか、こわばっていた。

 怖いのだろう。当然だ。こんな所に来て良い女性ではないのだ。

 そして——


(やはり美しい……)


 そう締め括らざるを得なかった。


 アイドルという第2クラス・・・・・を獲得する程の女性だ。

 誰よりも輝いているのは自明だった。


「ん、向こうから少し煙の臭いが」


 セシリアが鼻を鳴らして言った。

 指差す方向へ向かい、誘導に従って建物の中へ入ると、火を焚いた後が見つかった。

 ライオネルが炭を崩し、オリーブはその様子を覗き込む。


「多分、昨夜の焚き火だな」

「焚き火で生活してるの? 逃亡生活はしたくないわね」

「論点そこじゃないだろう。真面目にやれ」

「うっわ、ないわ」

「え……」


「皆さん見てください。スプーンが落ちてます」


 マネージャーが窓の縁で言った。

 こびりついた汚れには水分が残っており、つい最近使用されたものだと思われた。


「……俺達が来たから、急いで逃げたのだろうな」

「そこまで分かるなんて。ライオネルさんは観察眼がおありですね」

「いやこれは、……いや、はい、ありがとうございます」

「わたしのお手柄だね」

「はいはい、セシリアちゃんは凄いですねー」

「オリーブと違ってね」

「お前マジで調子乗り過ぎだぞ」


 しかしこれで、相手の警戒を強めてしまったことが分かった。

 このまま追いかけても、一生追いつくことは叶わないだろう。別の場所に逃げられたら最悪だ。

 ライオネルの懸念に、しかしとマネージャーは言った。


「指名手配は掛かっていますから、そうそうありえる話ではないと思いますが」

「可能性はあるのね。ま、このまま追いかけっこは面倒よね。魔法探知に切り替えましょう」

「最初から——いやなんでもない」


 オリーブが精神統一に入り、途端に他の者は手空きになった。各々は自由に時間を潰す。

 ライオネルは外の見張りに行き、フローラは座って疲れを癒していた。


 ぼうと壁に寄りかかっていたセシリアに、マネージャーが声をかける。


「セシリアさん、お話を伺ってもよろしいでしょうか」

「ん、いいよ」

「ありがとうございます。

 貴方は、勇者を目指しているのですよね。それは何故でしょうか?」

「なんで? それは——」


 セシリアは何事か言いかけ、口を閉じた。その後目を泳がせた後、改めてこう言った。


「皆を守るためだよ」

「そうですか」


 まるで台本を読むかのような語り口だった。

 マネージャー、ライムと名乗った男は追及せず、また別の質問を行った。


「では貴方にとって、勇者とは何でしょうか」

「≪魔王を倒す者≫でしょ?」


 何を言っているのかと、セシリアは尊大に答えた。

 ライムは頷く。


「確かにアイドルが≪夢を魅せる者≫なのと同じように、勇者もそう定義されています。

 ですがそれは民衆が彼らに寄せるイメージであって、当人達が目指すべき姿は別にあるのだと私は考えています」

「んー?」


 セシリアには難解だったようで。彼の望む答えは出てこなかった。


 ライムは小さくため息をつき、彼女に背を向け呟いた。

 それは言葉にもならないような僅かな空気の振動でしかなかったが、何とも陰気な調子だった。


「貴様は勇者に相応しくない」




 *********




 ターゲットは間もなく見つかった。

 現在地が割れてしまえば簡単なもので、すぐさま件の男は袋小路へと追い詰められた。


 ライオネルが一歩前に出て言った。


「そこまでだ。観念しろ」


 ターゲット、フローラのかつてのマネージャーであるエディは唸り声を上げ襲い掛かってきた。

 理性を代償にでもしたかのような速度だったが、ライオネルはこれを見切り剣の腹で打ち据えた。


「パワーブレイク」


 その際弱体化のスキルを発動し、男は完全に無力化される。


「わあ、強いのですね」

「いえ、大したことではないですよ」


 やや鼻の下を伸ばしかけたライオネルだが、はっとして周囲を見渡す。こんな時煽りに来るであろう女の反応を恐れたためだ。


 だがその女、オリーブは口に手を当て考え込んでいるようだった。

 声をかけるべきか悩んでいたが、彼女の行動が終わるほうが早かった。



 オリーブは風の魔法をライムへと叩きつけた。



「……え、……は?」


 あまりにもあんまりな暴挙に、ライオネルは開いた口が塞がらなかった。遂にとち狂ったのかとさえ思った。


「ラ、ライムさん!?」


 ライオネルと同様の反応を示したフローラは、慌てて彼に駆け寄ろうとするも、セシリアに手を取られ体勢を崩した。


「セシリアさん! どうして!」

「邪魔」


 セシリアはフローラを後ろへ下げ、素早く剣を抜くとその勢いのままにライムへと叩きつけた。


 氷の壁に遮られる。アイスの魔法、その応用だ。


 ライムはその隙に大きく距離をとると、妙に陰気な調子で言った。


「一応、攻撃の理由を聞いておこうか」


 それに答えるのはオリーブだ。


「そこで倒れてる——ええと、旧マネにさ、本人のじゃない魔力が付着してたからね。これは操られているんじゃないかと思ったわけよ。

 で、それが誰かは分からなかったけど、少なくともアイドル様のじゃないし、そうするとあんたが怪しいなと、かまをかけてみたわけよ」


 そのかまは半殺しレベルだったが、結果的にしてやられたのは事実である。

 次いで——背後に発生した闇の刃を防ぎ、その不意打ちの下手人であるセシリアへと語り掛けた。


「お前も躊躇わなかったな」

「あなた、エグバートでしょう? わたしは逃した獲物の魔力パターンは忘れないから」

「ああ、防御時に僅かに漏れたか。目ざとい奴だ」


 かつて、順と初めて出逢った時に共に倒した相手ではあるが、肉体を破壊するだけでは倒せない相手であることは分かっていた。

 そして今度こそ逃がさないと、セシリアは油断なく剣を構える。


「ライムさん!」


 フローラが叫んだ。

 だが次の言葉が出ないようで、口をわたわたさせるだけに留まった。

 ライム——本当の名をエグバートは、彼女を一瞥だけしてセシリアに構えた。


「一体、一体何がどうなって……」

「フローラさん。お気を確かに」


 ライオネルは崩れ落ちた彼女から目を離した。

 どうにもあの男が油断ならない存在だと理解したからだ。


 だから、彼女が小声で呟いたのも、震えている理由さえも見落としてしまったのである。

 ライオネルは立ち上がり、剣に手をかけた。


「自分は彼女達の加勢に——」


 行くと言いかけ、同じく立ち上がっていた彼女に気が付き止めた。


「貴方は下がって——」

「邪魔」


 何気なく、振り払うように振るった(ようにライオネルには見えた)腕は吸い込まれるように鳩尾に突き刺さった。

 ライオネルはたまらず膝をついた。脂汗を流し、信じられないといった様子でフローラの背中を見送る。


「ライム」


 フローラは、地の底から漏れるような、怨嗟の声を漏らし——


「ライム——————!!!!!」


 怒声と共に、いや、音さえ追い越すように駆けた。


「ちょ」

「どけ!」

「ぎゃふん!」


 オリーブを突き飛ばし


「邪魔だ!」

「きゃん!」


 セシリアを押しのける様は猪のよう。


「ライム!!!!!!!」

「む」


 訝し気な目を向けたエグバートはプロテクションで彼女の突進を防————



 ——パリンと。薄氷を砕くように、彼の守りを事も無げに突破した。


「ラーーーーーー!!!!!」

「んな!」


 流石に面食らったのか、目を見開いたエグバートは咄嗟に腕を盾にし——彼女の拳が深々と突き刺さった。骨が砕け、筋が断裂する。


「アァ!」

「舐めるなよ!」


 フローラの追撃にエグバートは中級魔法——ハイフレイムで追撃する。

 強大な炎は一切の防御行動をとっていなかったフローラを包み込む。エグバートは勝利を確信し、意識を逸らす。警戒すべき相手は彼女ではないのだ。


 だがしかし、爆炎の中からフローラの拳が突き出される。

 彼女は生きていた。あまつさえ最低限の防御すら捨て、攻撃を止めさえしていなかったのだ。


「ばか、な」


 呆然とした呟きを意に介さず、フローラは彼の顔面を破壊した。



「うっそ……」


 そしてその攻防を見ていたオリーブも同じく絶句していた。


 ありえない。中級魔法は対大型魔物用の魔法。

 人間の限界魔力量では、受けきれるだけの耐久力は獲得できない筈だ。


「だいたいあの魔力、さっきとまるで違う。あれじゃあ狂戦士クラス——」


 狂戦士クラスとは、理性と引き換えに優れた肉体強化を得るクラスだ。

 一説では敵と味方の見分けもつかないと云うが、


「ぶっ!」

「あ、まじでついてないんだ」


 不用意に近づいたセシリアが殴り飛ばされたのを見て、彼女が狂戦士クラスだと断定する。

 アイドルクラスというのは嘘だったのか。いや——


第2デザイアクラス! そうであれと望まれた、人々の希望を体現する者!」


 魔力は時に人の思念に乗り、宙を漂う。

 それは酷く微弱な力で、通常何の効果も示さない。

 だがそのか細い力も、寄り添い、同じ指向を持つ魔力と紡ぎあうことで、この世界に影響力を持つことが叶う。

 その特殊な魔力達を纏う者——すなわちその思念、願いに叶う者は——本人の性質とは異なるクラスを獲得する。

 それが強大な力を約束することは、同じ第2デザイアクラスである勇者クラスが証明している。


「そう、か。狂戦士、か。道理で良いパンチな筈、だ」

「ライオネル。……拾い食いでもした?」

「んなわけ……」


 しかし、狂戦士とアイドルの組み合わせとは。

 一切のスキルが使えない狂戦士では、後方支援クラスのアイドルは活かせない。まるで噛み合っていない組み合わせだ。

 それでもあの強さ。中級魔法を無詠唱で唱える魔法使いを一方的に殴り殺すとは。


「つーか何時まで殴って——」

「ヒ、ヒィ!」


 情けない悲鳴に振りかえると、どうやら目を覚ましたらしい男、確か旧マネージャーのエディ——彼が腰を抜かしていた。


「た、助け————!」

「おーい落ち着けー」


 その抜かした腰のまま逃げようとする男は、オリーブの言葉も聞こえていないようだった。

 オリーブが溜息をついたその時、男がひと際大きな悲鳴を上げた。


 何を。男の視線の先に目を向ける。当然そこに居たのはフローラだ。だが、しかし、彼女は何時の間にか殴るのを止め、こちらを向いていたのである。

 その視線は真っすぐに男、旧マネージャーのエディを射抜いていた。


(狂戦士は敵と味方の見分けがつかない……)


 彼女の足元に居たエグバートは人の形を留めていない。それだけで彼女がもう正気を失っていることが窺い知れた。


(やばくない?)


 それで、まだ殴り足りていない様子の彼女は次に誰を殴るのか。


(やべえわ)

「其は死すら——」

「アァ——!」


 上級魔法の詠唱は、しかし既に目前へと迫っていたフローラに中断せざるを得なくなる。


(速すぎでしょ!?)

「パワー——」

「ガァ!!!」

 

 辛うじてライオネルが剣を彼女の拳に合わせるが、スキルまでは使う暇がなかった。2人まとめて殴り飛ばされる。


「ヒ、ヒァ……」


 フローラは大股で男に詰め寄る。

 男は既に諦めたのか、後退を辞め蹲っていた。せめて頭を守るような体勢で。嵐が過ぎ去るのを待つように。


「フローラ!」


 そんな彼の刑期が僅かに延びる。

 セシリアが彼女を呼び止めたからだ。


「何してるの?」

「何が!」

「その人は操られていただけだし、倒したら駄目だよ」

「うるさい!うるさいうるさい!!!」


 地面が割れるほどの踏み込みでセシリアへと襲い掛かった。

 大ぶりな攻撃を受け流したセシリアだったが、それでも全身に衝撃が走り、姿勢も大きく崩された。


「どうしてみんなして! 私怒らせるかな!」


 続けざまの攻撃は、暗黒騎士のスキル——生命力を破壊力に変換する斬撃で受けた。


「こんなの嫌なのに! 何で! ああ! イライラする!」


 連撃は続く。その全てをスキルにより相殺する。そうでなければ次の攻撃に間に合わないからだ。それほどに力強く、素早い攻撃だった。


 人間の限界を越えた力の正体は、第2デザイアクラスを形作るほどの魔力量である。

 それは多くの人々の力を個人に集約させるということであり、戦闘に適さない願いクラスでさえ強者を圧倒するのだ。


 今の彼女たちには関係のない話だが、もしも、戦闘者であることを願われた第2デザイアクラスならば、どれほどの力を発揮できるのだろうか。


「はあ! はあ!」

「……っ!」


 片や高揚し朱に染まった顔で。

 片や生命力を消耗し顔を蒼白にしながら。


 対峙した2人。余裕があるのは当然というべきか、前者であった。

 だが前者たるフローラは蹲り、対しセシリアは困惑しきった顔ではあるが、その両足でしっかりと立っていた。


「何でわたしに攻撃するの」

「もう、嫌だ……」


 ようやく怒りを鎮めたフローラは、しくしくと泣いていた。


「なんでぇー」

「う、ぐ、ぐすん」

「……むう」


 セシリアはフローラの隣に座った。

 正面を真っすぐ向いてるが、興味を殺しきれないのか、たまにフローラを盗み見ていた。


「う、むぐ、ズッ」

「……」


「ふ、ふ、ヒック」

「……んー♪」


「ふ、ふ、ふう……」

「んーんー♪」


「……」

「らー♪」


「……それ、何の歌ですか?」

「ら——これ? 知らないけど、昔流行った曲なんだって」

「私、職業柄色々な曲を知っているのですが、初めて聞きました。

 ……職業、アイドル。はあ」


 フローラはそう言って再び塞ぎこんだ。


「こんなの、アイドルじゃない……」

「? でもフローラはアイドルでしょ?」


 セシリアの問いに、フローラは力なく笑った。


「皆はそう言ってくれてるけど、本当の私はそうじゃない。

 本当の私は、頭に来るとすぐに暴れまわる狂戦士なんだ」


 魔力の波動——クラスはその者の本質を表すのだという。


 闘争心に溢れる者は、剣を手に取る戦士へと。

 探究心に溢れる者は、神秘を解き明かす魔法使いへと。


 そして血に飢えた殺戮者は、狂戦士のクラスとなる。


 どんなに言い繕った所で、それが事実として突き刺さる。


「……よく分からない。皆がそう言ってるなら、フローラはアイドルだよ」


 ——それでも、セシリアはフローラがアイドルだと言う。


「じゃあセシリアちゃんは、こんな血まみれの私をアイドルと呼べる?」

「? うん、フローラはアイドルだよ。ええと、だって美人だし」

「ぷ」


 フローラは小さく肩を震わせて、息を殺して笑った。




 ——生まれつき、自分の感情を抑えられなかった。


 どうにも頭に血が回ってしまい、気が付いた時には顔の腫れた相手が目の前に居た。


 反省はしている。感情を抑え込むよう努力だってした。


 でも努力は実を結ばず、我慢しろとよく怒られた。

 でも、まだ耐えられたのだ。それは所詮、子供の暴力でしかなく、謝罪すれば次の日には元通りだったからだ。


 あの日、私が魔力覚醒を果たすあの日までは。私の拳が凶器に生まれ変わるあの日までは!


 ——血に濡れた、人だったであろう肉の塊が脳裏にこびりつく。


 私は逃げ出した。自分自身が怖かったから。

 自責の念は一歩踏み出すごとに強まり、遂にその思考は一点に収束する。

 即ち——



 ——私は、生まれるべきではなかった。



 ただ逃げ惑うだけだった移動に、目的が芽生える。


 ——これ以上迷惑を掛けないように、自ら命を断とう。


 そして私は足を止めた。誰も居ない、夜の公園で。

 

「血に濡れた君も美しい……」


 誰も居ない筈の公園で、誰かの声が響いた。

 驚き声の主を探すように周囲を一望する。


 その声の主は空気に溶けるかのように朧気で、しかし確かにそこに居た。

 居たのは取り立てて特徴のない、背広の男。


 言動がおかしい。頭のおかしい人間だ。

 その男は続けてこう言った。


「綺麗な君よ。君には天賦の才がある。どうだろう。アイドルを目指してみないか」


 私がアイドルだなんて、あまりにも絵空事だ。


 でも、私は首を縦に振った。

 自暴自棄と化していた私は、全部めちゃくちゃにしてしまうまで——この男が私に声をかけたことを後悔するまでは——お遊びに付き合ってやろうと思ったのだ。



 なのにどういうわけか。幾度夢から目が覚めても、私はアイドルのままだった。

 そして私の心には、あまりにも大きな充足感が満ちていたのだ。


 男はこう言った。


「素晴らしいことじゃないか。

 君は狂気の怪物であったとしても、人々の希望になれることを証明したのだ」


 その時初めて、自分は生まれてきて良かったのだと思えた。




 ——フローラはアイドルのクラスを持つ。


 故に、やはりどう言い繕った所で、彼女がアイドル(人々の希望)だという事実も揺るがない。

 自らの本質に悩み、苦悩し、自死さえ考えていたとしても、彼女の願い(人々の希望)が、アイドルとしての自分を否定させてはくれない。


 故に——


「うん、もうちょっと頑張ってみようかな」


 フローラは立ち上がり、空を見た。


 一点の曇りもない、綺麗な空だった。







 ……。


「いや、何か清々しい顔してるけど、絶対やめたほーが良いでしょ」

「しっ、言うな殺されるぞ」


 殴り飛ばされたオリーブとライオネルが、小さく呟いた。

 視線を下に向けてしまえば、死屍累々なのである。


 人々に夢を見せる彼女こそ、誰よりも夢見がちな少女に違いない。

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