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脱出せよ!

 無尽蔵にあふれ出す魔物を斬り裂きながら、セシリアは目を見開いて順を見た。


「ジュン、強くなってる……」

「え、なんか言った!?」


 セシリアはそれには返事を返さず、魔物を切り裂いた。

 その斬撃はいつもよりも荒かったが、順にはそれに気付く余裕などなかった。


 そうして魔物を倒し続け、魔物も一段落ついた頃、順は息を整え言った。


「セシリアは全然余裕そうだな。なんか秘訣とかあるの?」

「……わたしはスキル使ってるからへっちゃらです」


 暗黒騎士のスキルにより、斬撃と共に魔物の生命力を吸っているのだ。放出が本領ではあるが、素の能力で戦える相手ならば持久戦も得意である。

 セシリアのツンとした態度に気付かず順は、高く伸びるエレベーターを見上げ言った。


「エレベーターは、まだ帰ってきそうもないな。他に道知ってたりしない?」

「知らない。奥に繋がる道なら知ってるけど」


 魔界に詳しいことが気になるが、それは地上に着いてからだ。順は目先に迫った第2波に備え剣を握りなおした。


(魔力は余裕があるけど、体力が心配だな。魔法に切り替えるか)


 次は何とかなるだろうし、このままならエレベーターにも乗れるだろう。だが——


(そうはならないだろうなぁ)


 そんなに簡単なら、魔物はとっくに現人類に滅ぼされているだろうから。


「ジュン」

「分かってる。えらく強そうなのが来るな」


 悪い予感ほど当たるものだ。ボスのお出ましらしい。


 多くの魔物を従えて、それは現れた。


 人間の女性のような見た目と、神秘的な佇まいから天女のようなイメージを抱かせる魔物。

 だがその金色の瞳は、天女とは思えぬ怒気を含んでいた。


「少し、おいたが過ぎるのではなくて?」


 彼女の視線はセシリアへと向いていたが、セシリアは罰が悪そうに顔を逸らした。


「知り合い?」

「知らない」


 セシリアは順にも分かるぐらいの嘘を付いた。


「意地張らないで話し合おうよ。戦わないで済むならそれが一番だよ」

「無理」


 セシリアはむべもなく拒絶した。

 そうして正面へと見据えた彼女の顔からは、表情が消えていた。一瞬だけ戻った子供らしさは鳴りを潜め、ただ殺戮するだけの存在へと移り変わったのだ。


「魔物は倒す。例外はない」


 こうなったら彼女は止まらない。止めようとすればこちらに牙をむくだろう。

 相手のほうの説得は————駆けだしたセシリアにより遮られた。あ、という暇もない速攻である。


 セシリアが大きく踏み込み、剣を振り下ろした。漆黒の斬撃は暗黒騎士のスキル——生命力を衝撃に変換する力を利用した証だ。

 斬撃の大きさはかつてないほど大きく、恐らく彼女の全生命力、更に全魔力をも込めていることが分かる。


 彼女が扱える最大火力。それを躊躇なく初撃で打ち出したのだ。


 それをあの女の魔物は、うすら笑いで、両手を広げて受け入れた。





 爆音と漆黒の波動は全てを飲み込み、結果を覆い隠す。

 順は爆音による頭痛に顔をしかめながら、剣を構えた。


「だから一撃で決めようとするのはやめろとあれほど————頭の悪い子」


 果たして女の魔物は立っていた。

 袈裟に裂かれた肢体は人間ならば生きているはずもない重体だったが、魔物は慈しむようにセシリアを抱えている。


 チリン、と電子音が鳴り、背後から光が漏れる。エレベーターが来たようだ。


「そこのお前」


 女がこちらに語り掛け、セシリアをボールでも扱うように軽く投げた。


「その子を地上まで運びなさい」


 セシリアの呼吸は荒く、酷く衰弱していた。全エネルギーを使い果たしたのだから当然だが、勇者候補である以上は命に別状はない。

 とはいえ、少女が弱っているのを見るのは胸が引き締められる。


 順は歯を食いしばりながらエレベーターに乗り——


「お待ちなさい」


 女に呼び止められた。


「……なにか御用でしょうか」


 順は言葉を選び、返事をした。

 女は不愉快な面持ちを隠そうともせず言った。


「お前、勇者候補何ですってね。お前はここに残りなさい」

「……理由を伺ってもよろしいでしょうか」


 女は舌打ちした。


「早くしなさい。力づくでも良いのですよ」


 順はセシリアをエレベーターに寝かせ、戻る際に最上階のボタンを押した。

 エレベーターは閉まり、地上へと向かっていった。


 これでセシリアは大丈夫だろう。


 女もエレベーターを見送り、十分な高さになった頃に宣告した。


「では死になさい」

「————ッ!」


 今まで物音1つ立てなかった、周囲の魔物が大挙して押し寄せる。

 深く息を吸い、自分に言い聞かせる。心を落ち着かせろ。魔力操作を誤るな。

 そして一言一言、力を込め詠唱する。


「焔に混ざりて濁浪となれ——フレイムウェーブ!」


 目と鼻の先に迫った魔物に中級魔法が襲い掛かり、瞬く間に火だるまとなる。固まっているうちに、いかに数を減らせるかだ。セシリアが抜けた今、囲まれれば勝機はない。


 数体の魔物が炎を越える。火傷した様子すらないので、火耐性持ちだろう。

 まだ炎の魔法は消したくないが、こいつらにも対処しなければならない。


(二重魔法——とはいわないまでも、剣と魔法が同時に使えたらな)


 雑念を掻き消すように、剣を強く握る。無いものねだりしたって仕方がない。戦闘中に強くなれる人間ではないのだ。


「はっ!」


 液状化した魔物を斬り裂き、次いで岩石の魔物を叩いた。手が痺れるし殺しきれてもいない。ならば——


「ストリング!」


 糸の魔法を叩いてできた亀裂に挟みこみ、即席のハンマーを作り出す。

 それを振り回し、炎を乗り越えてきた敵を粉砕する。岩の魔物が砕け、軽くなった剣を構えなおす。魔物はまだ多いが、様子見へと切り替えたようだ。


「そこそこですわね」


 女の魔物が重傷をそのままに口を開いた。


「だんまりですの? (わたくし)がせっかく話しかけてあげたというのに」

「え、ああ。話しかけてたの」


 今の攻防で、こちらに興味を示した様だった。

 時間を掛けるのは得策ではないけれど、切れた息は整えたかった。


「そこそこの実力に免じて、質問していいかな」

「よろしくてよ。寛容な措置に感謝するように」

「ありがとう。今更なんだけど、どうして俺は襲われているんだ?」

「間抜けな質問ですわね。魔物が人を襲うのに理由は必要ありませんし、勇者候補ならば猶更です」

「……セシリアは庇っていたように見えたけど?」

「当然——こほん、お喋りはお仕舞ですわ」

「露骨に誤魔化してきたな……」


 言葉は間抜けだったが、踏み出した一歩から感じる重圧は今まで会ったどんな存在よりも強烈だ。そも相手はセシリアを軽くあしらう存在なのだから油断など出来よう筈がない。


「土の四天王フリーデリンデ・ギレッセンが直々に磨り潰して差し上げましょう」

「————勇者候補、鈴音順。お手柔らかに」


 衝撃の名乗りに冷や汗は流したが、相手は明らかな死に体——


(勝機は十分だと思える)


 いや、それを確かめるためにもひと当て必要か。


「ウインド!」


 風の砲弾はフリーデリンデの手の甲で軽く弾かれる。


「————重傷に見えたけど、随分と余裕だな」

「残念でしたわね。そろそろ攻撃してもよろしいかしら?」

「もう少し待って欲しい」

「待つのは嫌いですわ」


 そう言うと、フリーデリンデはゆっくりと歩き始めた。袈裟に裂かれた肉体では左腕は使えないだろうが、見た目を信じるわけにはいかない。

 魔物といえど生きており、人型に近い以上急所も人に近い。あんな状態で歩ける筈がないのだ。

 だから、冷静になればそこに何らかのカラクリがあることは分かる。


(変身能力——傷を治さないのは油断させる罠だとして)


 相手の策にあえて乗り、その裏をかく。順は左手から攻めることとした。

 円を描くように走り、側面に回る。相手は目で追う以外のアクションは示さない。


「風の刃、より強く、強大とならん——ハイエアカッター」


 魔法が迫る。相手は動じない。


「それが最後の攻撃でよろしいのですね?」


 フリーデリンデは微笑むと、左手(・・)を振るい風の刃を側面から弾いた。それだけではない。指をゴムのように伸ばし攻撃へと転じさせた。


(————来た!)


 相手は油断しきっている。これで決まったと考えているだろう。この機会を逃すわけにはいかない!


 剣の腹で攻撃を受ける。腕の力だけでは抑え込めず、衝撃が肩を襲った。痛みをこらえ、足を進める。

 叫びは上げない。必要なのは呪文だ。


「リピート!」


 直前の魔法を唱えなおす魔法。消費は大きくなるが、中級魔法も詠唱なしで発動できる。


「う——」


 フリーデリンデ——土の四天王は何事かを言おうとして、その口を風の刃が切り裂いた。

 そのまま倒れ、身動き1つしない。


「————勝った?」


 魔物たちがざわめいた。感慨に耽っている場合ではなさそうだ。死体に背を向け考える。


 とりあえずエレベーターに戻ってきてもらって、それから——


 吹き飛んできた何かが背中に当たり、吹き飛ばされた。

 全身を鉄の扉に打ち付ける。

 痛みのシグナルを無視して振りかえる。


「オ。オォ!」

「——————死んだふりとか、つまらない小細工するんだな」


 死んだと思われた女の魔物が呻いていた。

 十分予測できたことではある。なのに死んだと思い込んだのは、俺の願望が混ざってしまたからだ。順は数秒前の自分を殴ってやりたいと憤ったが、そんな無駄なことを考えている余裕はなさそうである。


 負け惜しみをそこそこに、相手の変形を観察する。


 体を反らし、ブリッジの体勢で蠢いてる。四肢が徐々に膨れ上がり、地面を陥没させるほどの巨体へと変異していく。

 股には謎の腫瘍ができ、その肉塊もまた巨大化していく。


「オ、オ、オ、オ」


 うめき声はその肉塊が発しているようだった。顔のようなものも浮かび上がってくる。呻いているのは、どうやらその顔らしきものらしい。


「そっちが顔だったんだ。上を狙っても意味ない訳だ」


 思えば、セシリアも顔は狙っていなかった。痺れる体を無視し、真の顔へと狙いを定める。


「風の槍、より強く、強大とならん——ハイウインドスピア!」


 強化された風の槍は狙い違わず顔に当たり——僅かに傷を付け霧散した。

 驚く間もなく、突進により扉に叩きつけられる。鉄の扉がひしゃげ、内部に押し込められる。


 幸いにも敵は入り口よりも大きくなったため、追撃には数瞬の間があった。

 上を見る。暗闇はどこまでも続いているようだった。


 金切り音が悲鳴のように木霊する。扉はもう持たない!


(冗談じゃない。エレベーターを待っている時間なんてない!)


 順は恐怖に身を任せレールをよじ登った。


「逃がさないぃ!!!」


 甲高い声が足元から響く。


「————!」


 血に混じって冷や汗が額に浮かぶ。怪物が壁を揺らしながら途轍もない速さで登ってくる。逃げ切れない!


「リピート!」


 強力な風の槍を壁に向かって放ち、空いた穴から飛び降りる。

 高さは凡そ30m。強化された肉体ならば着地は問題ないが、考えをまとめる時間は取れそうもない。


(とにかく逃げの一手だ。幸い土地勘はある)


 昔住んでいた街だ。廃墟となっていても走り回る分には問題ない。


「ストリング!」


 糸の魔法をビルに突き刺す。気分はアメコミのヒーローである。


 ひと際高いビルの屋上に着地し、街並みを見回し考える。

 ふ、と息を吐く。化物からとりあえず距離を取り、心拍数も落ち着いてきた。


(……景色、だいぶ変わっているな)


 俺が居た時代から、何十年後に滅びたのだろうか。少し見ただけでは変わったようには見えなかったが、上から見ると変化は顕著だ。


(低い建物が多いな。もっとビルが多かったはずだけど。それにあれは、工場か? 随分と広いな)


 ビルが大きく揺れ、倒壊する。古くなっているとはいえ、数百坪の建物を崩すなんて恐ろしいパワーだ。


(逃げるには、やっぱりエレベーターを使うしかないな。厚い岩盤を抜いてるのはあれだけだ)


 エレベーター自体はもう使えないだろうから、自力で登るしかない。でも現状では追いつかれるに決まってる。


(倒す、まではいかないにしても、動きを鈍らせる必要はありそうだ)


 中級魔法でノーダメージな以上、手がなさそうなのが——


(工場か……)


 何か武器があるかもしれない。

 藁にもすがるようだが……。


 ガレキが舞い上がる。

 空中を糸の魔法で移動するこちらに対し、向こうもビルの側面に張り付いて追うことにしたらしい。


 コンクリートやら鉄柱やらをまき散らしながら、とてつもない速度で追い上げてくる。

 工場までに必ず追いつかれるだろう。


 糸の魔法を解き、自由落下に身を任せる。


「炸裂せよ衝撃の架空火薬——エクスプロージョン!」


 爆発の魔法をビル目掛けて放つ。

 粉塵と瓦礫が舞い、辺り一帯から視界を奪う。


「魔力よ我が影となれ——ブリンク!」


 次いで魔力の分身を作り出し、様々な方向に走らせる。

 そして自分自身は魔力を抑え、瓦礫に紛れ目的地へと向かう。


「どぉこだぁぁああああ!!!」


 甲高い声が粉塵を舞わせる。分身の一体がその役目を果たしたようだ。

 敵は分身を追いかけはせず、舐めまわすように瓦礫の隙間を覗き、時に粉砕した。


(分身に紛れて魔力を使うべきだったかな)


 いや、それは流石にばれるかと思い直す。冷静に、冷静に……。

 建物の中に入り、穴や出口を伝い、建物から建物へと移動を続ける。


 順調に見えたが、揺れに足を取られる。建物の崩壊音が響く。


(手あたり次第に破壊し始めたな。はやく逃げないと)


 破壊は想定以上に迅速に行われ、遂に順の潜んでいた建物に魔物が狙いを定める。たまらず魔力を噴かせ飛び出した。


「みつけたぁ!」

「速すぎんだろ!」


 よだれを滴らせるそれは酷く醜悪だ。


「そっちが素顔だなんて詐欺もいいとこだな!」

「あああああ!」


 今までの行動から、純粋な体術タイプ。巨体を活かした突進が留意するべき行動だ。


(工場まであと少し。多少危険だが——!)

「アイス!」


 氷の魔法を盾のように展開する。

 こんな物があの巨体への盾になる筈もないが、防ぐのが目的ではない。


「ひゃあ!」

「グッ————!」


 氷は砕け、狙い通り・・・・吹き飛ばされる。

 このまま距離を稼ぐ。氷の盾は捕まれないための一時的な障害物でしかない。


 塀を越え、遂に敷地内へと入る。

 姿勢を整え、魔力を迸らせ走る。魔力を消費した強化である。既に残量は少ないが、今は一秒でも早く向かいたい。


 背後のプレッシャーを力の限り振り払い、建物内へと入る。


 ——そこは、外見に見合う廃墟だった。しかし。


(……何だ?)


 廃墟、だというのに。人が出入りしている痕跡がある。

 背後の壁が崩れ去った。


(迷っている暇はない——!)


 獣道を進むように、人の痕跡を辿っていく。

 その間にも観察は絶やさない。


(これは、武器か?)


 武器工場? 何故そんな物が街中にあるのかは不明だが、今はただただありがたかった。

 しかし周囲の物は未完成で、しかも朽ち果てている。望みは人の痕跡を辿った先にしかないだろう。


 鉄の扉を蹴り飛ばす。

 中は綺麗に整列された何かの部品が壁に並び、幾らか埃が積もっていた。数年は掛かるであろう堆積である。


 もう居ない。無念の気持ちは中央に置かれた兵器に吹き飛ばされた。


 それは引き金のある銃であったが、銃口に穴はなく、ガラス板が取り付けられている。火薬による銃弾を放つような機構ではない。


 咄嗟にそれを両手で構え、数m先まで迫った怪物へと向ける。


 引き金を引いた。反動はなかった。しかし、その威力は絶大というにはあまりにも圧倒的だった。

 その銃は光線銃だ。だが、その小さな銃口から発射されたとは思えない分厚さであり、放出された白熱は周囲の温度を一気に引き上げた。


 直線上に居た怪物が無事とは思えないが——


「出鱈目だな!」


 悪態と共に引き金を引く。しかし光線は出ないし、銃からは焦げ臭い臭いが立ち込めていた。


 怪物は全身を黒焦げにしながらも健在で、一歩踏み締めるように近づいてきた。


 さて、当然ながら順に光線銃を直すスキルはないし、二丁目の銃もない。これ以上の奇跡は流石に望めないだろうし、倒すことは不可能であろうし逃げ場も残念ながらなかった。


 それでも虚勢を張り続けた。

 セシリアのことが心配だ。彼女の安否を確認するまで、成仏できそうもない。


「ここは、痛み分けで手を打たないか?」


 だから唯一の出口からどいてくれと、順は挑戦的に言った。


「……」


 相手は唸るような声を上げ、その拍子に血を吐きだした。


「1つ伺ってもよろしいでしょうか?」


 焼けた声だったが、不思議と穏やかだった。

 順は戸惑いつつも、肯定した。


「お前、ここまで迷いませんでしたね。何故かしら?」

「それは……」


 順は詰まり、悩んだが、結局は真実を話すことにした。


「俺は、ここが地上だった時に生きていたんだ。


 そしてどういうわけか、今の時代——遥か未来に移動していた」


 いや、移動した、というのは正しい表現ではあるまい。

 ——もう認めよう。これ以上誤魔化したって辛いだけだ。


「タイムスリップ——よりも遥かに現実的な方法がある。それはクローン技術だ。その証拠も、どうやら律儀に刻まれていたようだ」


 うなじを擦る。髪に隠れているが、そこにはある種のマークが刻印されていた。それはクローン技術で生み出された"物"に付けられる印である。


「ではお前は」

「俺はここが地上だった時の、とある人間のレプリカさ。どうして生み出されたのかは分からないけどさ」


 好意的に見れば、生まれ変わったと考えるべきだろうか。そうは思えなかったし、ショックではあったが、実は心配の種はそれだけじゃない。


「なあ、こっちからも1つ聞いていいかな」

「……内容次第ですわね。話してごらんなさい」


 押し留めていた不安は、1つ話したら溢れてくるように胸をついてきた。


「なんであんたらが此処に居て、人間が地上に居るんだ?


 地上の人間は、此処に居た人間と本当に同じなのか?


 もしかして、魔物というのは——」


 不思議だった。魔物は何処から来たのだろうと。

 順の時代には魔物なんて居なかったが、まさか忽然と現れたわけではあるまい。


 どうしても考えてしまう。


 魔物というのは、かつての人間で、新たに作られた人間と生存競争を繰り広げているのではないのかと。


 もしそうならば、俺は——


「くだらない」


 順の苦悩を怪物——フリーデリンデは切り捨てた。


「お前の存在は理解しましたが、魔物は魔物。人は人です」


 フリーデリンデは次の言葉を繰り返した。


「くだらない、くだらない……くだら、ない」


 彼女の言葉は徐々に小さくなっていき、最後の言葉は順にはほとんど聞き取れないほどだった。


「おい」


 順への返答はない。恐る恐る近づき、顔らしきものに手を触れる。

 黒焦げの皮膚がボロリと崩れ落ちた。


「……死んだ、のか?」


 あの光は、確かに致命傷を与えたのだ。

 しかしこの敵は、最期に残った力を攻撃ではなく問答に費やした。


「どうして……」


 彼の問いに答えるものは居なかった。

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