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暗黒騎士だけど勇者目指してます!  作者: シドなんとか
侵略拠点迷宮攻略編
30/45

迷宮突入

 迷宮と化した洞窟の前では多くの天幕が張っており、本格的な野営地と化していた。

 それは冒険者ギルドでは用意できないほどのコストが掛けられており、お気楽な冒険者たちにもこれが唯の迷宮攻略ではないことを感じ取る者も現れていた。


 しかしそれを理解しても今更遅いことを、賢しい者は気づいていたのだ。騎士団が目を光らせていたからだ。


 一部の者の不安をよそに、今まさに迷宮攻略が開始されようとしていた。


「迷宮内部においては何があるか分からない。通信担当はどんな些細なことでも報告し、命令を厳守せよ!

 ――これより迷宮攻略を開始する! 1班から3班、突入せよ!」


 パーシヴァルが掲げていた手を降ろした。

 武装した9人の男女が、真っ暗闇への洞窟へと足を踏み入れる。


 その中に、白髪の少女セシリアも居た。




 *********




 洞窟内部には当然灯りはなく、また魔物の体内であるためか、魔力が満ちており魔力感知が一切機能しない。

 それに戸惑う者もいたが、事前の情報通りであり混乱は起こらなかった。


 ヘッドランプに照らされた壁は、一見してただの洞窟と変わらない。しかし試しにと突き刺したピッケルで傷つけた傷は、瞬く間に修繕された。


「場合によっては壁を崩して進むって話だが、これはちょっと手間が掛かりそうだ」

「だからなるべく進むんだな。迷宮は必ず入り口と深部が繋がってるらしいんだな」


 セシリアと同じ班のビルとランドルは、雑談しながらも警戒を怠らない。


「ランドル、変な臭いしない?」


 セシリアは鼻を鳴らし言った。

 ランドルはレンジャーのスキルを発動する。


 レンジャーは探索を本領とするクラスだ。それは例え迷宮内であろうと機能する。


「うん、ちょっと下の方にガスが溜まってるんだな。セシリアはガスマスクを使った方が良さそうなんだな」

「は、チビは苦労するなぁ」

「うるさいなあ」


 セシリアはぶうたれながらも、ビルから渡されたガスマスクを装着する。


 迷宮内では何が起こるか分からない。だから多くの装備が必要であり、しかし荷物が多ければ戦えない。

 故に探索を専門とするレンジャー、戦闘職、そして力のある荷物持ち兼通信担当の3人が1チームとして探索する。

 荷物持ちをやりたがる人間は稀なので、2人は戦いにより決めたのだ。その結果をビルは仕方がないと受け入れた。冒険者は細かいことを気にしては生き残れないのだ。


「気づけなくてごめんなんだな。警戒レベルを引き上げるんだな」


 レンジャーは自動発動型の危険予知スキルを持つが、魔力を消費してより軽微な危険も感知できるようになる。

 彼の判断を咎める者はいなかった。迷宮では警戒し過ぎるということはない。


「ん、魔物を感知したんだな。次の曲がり角で待ち構えてるんだな」

「待ち伏せか? それなりに知能のある魔物ってことかよ」

「大丈夫。私が先行して倒すよ」


 2人は黙って見送った。それは彼女の実力を信頼しているからだ。

 3人は即席でありながら、確かにチームとして完成されていた。




 *********




 オリーブは風の魔法でガスを吹き飛ばし、返ってきた風から魔物探知、行き止まりの判定を行った。


「こっちに魔物いるわね。コン、行ってきなさいな」

「え、姐さんが倒せるんじゃ……」

「あたしに危険犯せってか!? 行け!」

「ひぃ、押さないでください!」


 オリーブはコンと呼ばれた青年の背中を蹴とばし、鼻を鳴らして不満を露わにした。

 こんな時セシリアなら、何も言わずに特攻し返り血を浴びてくるというのに。


 荷物役の男は目の前の光景に眉を寄せながら言った。


「オリーブ、流石に今のは危ないぞ」

「はあ、あたしが悪いっての? 荷物持ちが出しゃばんないでよね」

「なんだと!?」


 魔法使いというのは、スキルを扱えなければ非力なだけの足手まといでしかない。

 そしてスキルというのは、誰もが無条件で扱えるものではなく、修練が必要なのだ。

 明日のことも分からない冒険者には、修練のために掛けられる時間は少なく、魔法使いは少ない。

 故に魔法使いは希少で、見た目も良いとなればチヤホヤされるので増長しがちだ。


 そして今、それが深刻な結果をもたらし始めていた。


「あんたらはレンジャーとかいう下位互換じゃなく、あたしがチームに居たことに感謝しなさい!」

「っ!」


 決してレンジャーは下位互換ではないが、荷物持ちの男は口を噤んだ。

 不満がまた1つ溜まり、爆発はそう遠くない未来に迫っていた。




 *********




「時間だ。第3陣を突入させる」

「ようやく俺達の出番という訳だな!」


 パーシヴァルが時計に目をやり立ち上がる。

 彼の声に、アーネストが威勢よく答えた。


 2陣目までの突入は、情報収集と迷宮の疲弊が目的だ。

 本命は第3陣。Aランク冒険者率いる第8班である。


「先行した者達からの情報から、ルート及びコアの予測地点が算出された。無論、ルートは変化している可能性が高いし、コア地点も予測でしかないがな」

「いや、十分だ。彼らの頑張りは無駄にしない!」


 彼は地図が印刷された紙を受け取り、次いで通信機から送られてきた迷宮のデータを頭に叩き込む。


 魔物の多くはゴブリンに始まる下位の存在ばかりだが、ごくまれに中位の存在が報告されている。また罠も落とし穴に始まり、無臭の毒ガスまで突発的に噴き出すようだ。

 多くの犠牲者が出たが、幸いにも死者はまだ出ていない。初日でこれだけの情報を引き出せたのも、潤沢なバックアップのおかげだ。


 彼は自らのチームメイトへ向けて言った。


「さあ、行こうか!」




 *********




 パーシヴァルは悩んでいた。


 第3陣が突入したまでは良かったが、魔物のレベルが唐突に上がったのだ。

 迷宮には大した知能はなく、半場自動的な筈だが、どうにもこちらの動きを読み、戦略的に動いているように思える。


 これはやはり魔王の介入による迷宮の変化だろうか。ここは大事を取って一度撤退させるべきかもしれないが、突入した者たちにはまだ余裕がある。


 引かせるか、現状維持か、それとも更なる戦力を突入させるか。


 第3班は負傷者もなく十分な休憩を取っている。再突入は問題ないだろう。


「セドリック、どう思う?」

「そうだな……」


 彼は騎士団長へと尋ねた。言葉は足りなかったが、十分に意味は伝わったようだ。


「情報が欲しい。現状維持も良いが、迷宮の余裕を少しでも奪いたいところだな」

「お前もそう思うか。通達してこよう」


 立ち上がったパーシヴァルを尻目に、セドリックは突入させるであろう3班――セシリアという少女について考えていた。

 戦闘能力の種は割れたと言って良い。特におかしな真似もしていないし、優秀な結果を残している。だが、彼の直感が彼女にはまだ秘密がある囁いているのだ。


「そういえば、彼女の仲間が負傷していたのだったな」


 それもフレンドファイアで。

 問い詰めつつ、そこはかとなく彼女のことを聞いてみようか。




 *********




 追加の突入部隊が迷宮に入ったようだ。


「俺達も、うかうかしていられないな!」


 断続的に訪れる魔物を、アーネストは標準的なブロードソードで斬り裂きながら言った。


 彼のトレードマークである大剣はこの洞窟では使えない。

 しかして得物を選ばないのが達人である。彼の戦闘力は衰えていない。


「旦那、魔物の気配はない。小休止できそうですぜ」

「そうか! 流石に堪えていたところだ!」


 まったくそうは見えない様子でアーネストは言った。


 僅かな休憩中、荷物を背負った女性が地図を片手に言った。


「ダンジョンコアの予測位置に近づいてきましたね」


 本部の予測したコアの位置は、彼らが地図を手にしてから変わっていない。

 魔物の勢いを考えると、当たりなのかもしれない。


「しかし、道なりに進むと離れていきそうだな」

「壁を壊した方が良さげですかね」

「それなら私がやります。体力は有り余っていますからね」


 やるなら魔物のいない今しかない。アーネストは頷いた。


「うむ、じゃあ頼む。コアの位置を断定できるなら安い出費だ」

「了解です」


 女性は左手を狙いを定めるように突き出し、右手を弓を引くように構えた。

 右手に魔力が溜まる。


「地烈斬!」


 暴力的な破壊を受けた壁は一瞬で破壊され、土塊が弾丸のように向かいの壁にぶつかる。

 探索役の男は滑り込むように向かいに渡り、敵の気配を探る。敵も罠もないことを探ると、2人に合図を送る。


「光が漏れてやすぜ。当たりっぽいですね」

「……様子を見ておこうか」


 実際に当たりを引くと、緊張が全身を覆う。それはアーネストですら例外ではない。


「様子を――――」


 様子を見よう。繰り返されたアーネストの言葉は最後まで続かなかった。


 光の漏れた部屋側の、通路が崩れ落ちる。逆方向の通路には新たな壁が生まれた。それも、1枚の壁ではなく、通路を埋めるように土がせり出したのだ。これでは壁が厚すぎて、破壊などできそうもない。


 そして目の前には、白く輝く球体と、醜悪なオークがいた。


 オークは分厚い皮膚に豚のような顔を持つ、2足歩行の魔物だ。人間のように道具を扱うことができ、知能も決して低くない。

 そして巨体に見合ったパワーを持っている。


 標準的なオークの体長は2m。今目の前に居るのは、3mはありそうだった。胴回りも2回りほど大きい。


「アーネストさん、持ってきて正解でしたね」


 彼は無理を言って、自らの大剣を持ってきてもらっていた。

 あの巨体だ。手元のブロードソードでは、大したダメージを与えられまい。


「出口は反対側のようですぜ。帰ろうと思えば帰れますかね」

「ああ、俺の責任だ。足止めは俺が引き受けよう」


 オークはぶは、と息を吹き出した。

 嘲笑したのだと理解できたのは、魔物の言葉を聞いた後だ。


「逃がすと”お”も”う”か」


 人の言葉を理解し、自ら発することすら可能とは。コアの守りを任されているだけはある。

 アーネストは笑った。これはまたとないチャンスだと思ったからだ。


 彼は仲間に目配せした。注意を引き付けると。


「俺はアーネスト。君がこの迷宮の主で相違ないか」

「いがに”も”」


 そしてこう続けた。


「おでは土の”だい3ぜぎ。グラムだ」


 誇らしげに言った。

 アーネストは困ったように返した。


「土の? 第3席? それは凄いのだろうか。魔王軍の階級は分からなくてな。教えてもらえるとありがたいが」


 グラムと名乗ったオークは、律儀に答えた。よほど誇りに思っているのだろう。自慢したくて仕方がないという様子だ。


「土、水、火、風。4づあ”る。土、い”ぢばんすごい”。おで、そ”の”3ばんめ」

「部隊は4つあり、君はその3番目ということか。それは凄いな」


 これは思わぬ収穫だ。そして、レンジャースキルにより気配を消した2人はもう出口付近に――


 突如、石柱が出口を塞いだ。


 迷宮は自力で出口を塞ぐことはできない筈だ。丸い石柱は確かに僅かな隙間があるが、あれで塞いでいないとでも言うつもりか。

 過去の例では、そんな屁理屈は見られていない。すなわち、あれを行ったのは――


 オークがぐふぐふと笑っている。


「お”で、ま”ほう”もづかえ”る”」

「まさか――――」


 魔法を使うオークなど、聞いたこともない。しかもこいつ、レンジャーの隠形スキルを無効化している。


 ――まずい。距離が離れてしまっている。見通しが甘かった。


 アーネストは剣を振り上げた。オークは既にその巨大な拳を振りかぶっている。


 間に合わないと悟った。相手の防御行動を期待し、絶望を押し込め攻撃を加える。


「ブレイブ!」

「パワーブレイク!」

「せいけん突き!」


 拳同士がぶつかったのは、ほぼ一瞬だった。2人は見るも無残な姿へと変わり果てる。


 しかしオークが攻撃を中断しなかったために、アーネストの攻撃はクリーンヒットしたのだ。その大剣は肩に喰い込んでいる。


 ――――喰いこんでいる、だけだった。


「な……に…………?」


 彼は剣を引き抜き、大きく距離をとった。

 驚いたのはダメージがなかった事だけではない。彼は確かに弱体化のスキルを打ち込んだのだ。なのに、それがまったく手ごたえがない!


 オークは不気味に笑っている。


「お”で、ぜん”じのズギル”、ぎかな”い”」

「耐性持ちだと――――!?」


 戦士のスキルは、敵を弱体化する。


 しかし稀にいるのだ。戦士のスキルが効かぬ者が。

 そして、歴代の魔王は全て耐性持ちだったという。


 奴が偶然耐性持ちだなどと、アーネストは楽観的に考えることはできなかった。

 もしかすると、今回の主要な魔物は全て――――


(――だとしても、今は俺に出来ることをやるしかない)


 戦士のスキルなど、彼の力の1つでしかないのだ。

 彼の孤独な戦いが幕を上げた。




 *********




 不気味なほどの静けさだが、急ぐ身にはありがたかった。


 Aランク冒険者率いる第8班がコアを発見し、ボスと思しきオークと遭遇。Aランク冒険者アーネストが引き付け撤退する――という報告の後連絡が途絶えた。上手くいかなかったことは明白で、少なくとも通信機が破壊されたことは確かなようだ。


 セシリア達に与えられた命令は、『様子を見る』だ。救援ではない。


 だが彼らだって鬼ではないので、出来ることなら助けたいと思っている。だからこうして急いでいるのだ。特にビルのやる気は凄まじかった。


「オ、ラァ!」


 ビルが魔力を叩きつけ、強引に壁を破壊する。スキルとして形となった魔力と異なり、この方法は誰にでも出来るが酷く効率が悪い。純粋な攻撃手段を持たない戦士の弊害だった。

 まあ、今回の場合は防御力を下げる戦士のスキルが有効なのだけれど。残念なことに彼には使えなかった。誰もが全てのクラススキルを使えるわけではないのだ。


「後1枚なんだな!」

「よっしゃ任せろ! 俺は次で限界だけどな!」


 つまり、戦えるのは実質セシリアだけという事になる。

 彼らがここまでするのは、偏にアーネストという冒険者への敬意からである。


 ビルは昔付きっきりで彼に稽古をつけてもらった。

 ランドルは命を助けられた。


 彼らが助けようと思う理由はそれだけで、そしてセシリアの強さが彼らの勇気を後押しした。


 人を奮い立たせる彼女の姿を、かつて共に冒険した順が見れば、すごく勇者らしいと称しただろう。彼女はこれを、勇者らしいと思っているだろうか?


 最後の壁が破壊された。戦場が彼らの視界に広がる。


 アーネストが振り下ろした斬撃を、あろうことかオークは拳で受けていたのだ。


 新手の襲撃に、1人と1体の魔物は戦闘を中断した。

 アーネストの動きは素早く、援軍に来た彼らを庇うように立っていた。


 そして矢継ぎ早に言う。


「魔王軍は4つの部隊に分けられている。奴は1部隊の3番目の強さ。弱体耐性持ちで魔法を使う。以上だ。情報を持ち帰れ」


 そして再び特攻を仕掛けた。


 彼らは唖然とする。彼の行動、それはとどのつまり、自分ひとりでは勿論のこと、セシリアと共に戦っても奴は倒せないということだから。


 彼らには思索する時間すら与えられなかった。セシリアが特攻に加わったからである。


 魔力を使い果たしたビルと、レンジャーのランドルだけでは迷宮を抜けられるとは思えなかった。


「あー、とりあえず報告するわぁ」

「魔物が来ないか注意しとくんだな」


 セシリアが加わったことで、一見して戦況が良くなったかのように思われた。

 オークの攻撃を避け、時にアーネストが受ける。

 そしてセシリアが素早く攻撃を加える。


 しかしよくよく観察すると、セシリアの攻撃がダメージを与えられていないのは、外から見ていた2人にも理解できた。敵の皮膚が分厚すぎるのだ。


「なんであのスキルを使わないんだ?」


 ビルが呟いた。セシリアがビルやアーネストとの模擬戦で使用した黒い斬撃である。あれならダメージを与えられるだろうに!


 やきもきしていた2人に対し、アーネストは冷静に分析していた。

 セシリアには強力な攻撃手段があるが、それが連発できないだろうことは、理解できていた。

 アーネストにはおおよその威力は感じ取れたが、あれではオークを倒す前にガス切れする。

 異常にタフな魔物だ。こういう手合いは、極限まで弱体化して倒すか、中級以上の魔法で大ダメージを与えるのがセオリーだが、相手は弱体耐性持ちで、この場に魔法使いは居なかった。


 アーネストのように正確な予想は出来ないまでも、倒せないという絶望がビルとランドルを蝕み始めたていた。

 気が付けば開けた筈の穴も塞がっていた。最早彼らには祈ることしかできない。


 そして実際に戦っている2人だが、戦いを続けるうちに、アーネストには逆に勝機が見え始めていた。

 いや、実は最初から分かってはいたのだ。しかしそれがあまりにもか細い希望で、それよりは自分が犠牲になった方が遥かに現実的だったのだ。


 そのか細い希望とは、セシリアが行っている僅かなひっかき傷である。


 勿論その程度のダメージを重ねたところで意味はない。しかし彼女は、そこから生命力を吸い出せる。そして蓄えた膨大なエネルギーを全て敵にぶつけることも。


 一度の斬撃で奪えるエネルギーなど僅かなものだろう。千では効かないほどの攻撃が必要な筈だ。一撃当たれば終わりの攻撃を掻い潜りながらである。

 そんな不可能と断じられる芸当を、彼女は機械的にこなしていた。


 その狂ったような行動を続ける精神力に、彼は覚えがあった。


 勇者候補――イライアス・ヒートリーだ。


 彼は勇者候補であり不死身ゆえに、心理的な余裕があったのは確かだろう。しかし彼は3時間に及ぶ死線を、ただの一度も被弾せず潜り抜けたのだ。

 人にはそれだけのことができる。


 だから彼も、彼女の強さに希望を見出し始めていた。


「ストーン!」


 オークは倒せないことに苛ついたように、魔法を発動した。

 初めに無詠唱で使われた石柱の魔法を、今度は呪文付きで唱えられる。


 戦闘中に無詠唱のような、繊細な魔力コントロールは出来ないのだろう。

 最も、集中さえできれば行えるというのは素晴らしいことだ。

 オークという優れた肉体を更に越え、魔法技能までも一流。これで一部隊の3番目なのかと、アーネストは敵の強大さに慄いた。


 石柱はセシリアの動きを制限する――――筈だった。


 彼女は蛇のように石柱の合間を縫って進み、むしろオークの攻撃への盾とする。


 これは今までのような戦士や騎士の動きではない。どちらかと言うと、シーフのような邪道の動きである。

 何という引き出しの多さか。味方にすれば頼もしく、敵にすれば恐ろしい存在だ。


 敵は魔法を解除せず、その剛腕で砕いた。破片による面攻撃が狙いか。

 流石にセシリアもこれは避けられず、体に当たる最小限の破片のみ斬りはらう。オークはその機を逃さない。


「させん!」

「じゃま”だぁ”」


 そして、その隙はアーネストによって埋められる。そしてセシリアがまた、傷を一つ追加する。


 ――この繰り返し。紙一重の殺陣を、一手たりとも間違えず繰り返す。


 しかし――


 アーネストの体からは、汗が蒸気のように噴き出していた。

 すでに手は痺れ、大剣を持ち上げるのも一苦労だ。


 セシリアが来てからだいぶ楽になったとはいえ、彼はオークの剛腕と真っ向から打ち合ってきたのだ。

 むしろ何故今まで耐えられていたのかが不思議なぐらいである。


(俺の限界が、早すぎる。鍛錬が足りんな)


 終わりは、アーネストから始まった。


 オークは先に邪魔なアーネストを始末しようと、その拳を振りかぶる。ご丁寧に強化魔法まで掛けている。


 その間に、セシリアは傷を一つ増やした。

 彼女はこちらが受ける前提で動いている。もし彼が力負けすれば、拳を弾けなければ、体勢の整っているオークはすぐさまセシリアを捉えるだろう。


「ウ」


 アーネストは、


「ウォオオオオオオオオ!!!」


 持てる力の全てを出し切り、追撃した。


「ブオ”ォ”!?」


 今までで最も力強い斬撃に、オークは体ごと弾かれ、2歩、3歩と後退した。


 白髪をたなびかせ、セシリアは彼の目前に立った。


「もう、限界かな」


 セシリアは追撃しなかった。

 アーネストに語りかける。


 彼は、既に剣先を地面につけていた。そしてふり絞るように返事をした。


「――――ああ、ここまでのようだ」


 オークがとどめを刺すために、助走をつけて走り出す。肩を突き出したタックル。受け取めることなど不可能である。

 まあ、あれではこちらの攻撃も回避・・・・・・・・・できないだろうが・・・・・・・・


 そして、と彼は続けて言った。


「――――気にするな。それ・・が最善だ」


 最高の結果は、先に行ったように、必要な生命力をオークから削りだすことだ。

 それは全員の生存と、迷宮の攻略がもたらされる。


 しかし最高の1つ下は、最悪ではない。


 今、その最高の1つ下のための、達成条件が満たされたのだとアーネストは悟った。



 アーネストの首を、セシリアが斬り落とした。



 ――生命力は、何もオークから奪う必要はない。命は誰もが平等に宿しているのだから。


 命を喰らい、敵を滅する。


 それこそが暗黒騎士の基礎スキルにして、あり方そのもの。


 セシリアは無詠唱で放ち続けていたそれを、あえて口にした。



「暗黒剣・びゃく



 暗く深い、魂の一撃がオークを襲う。


 斬撃はオークを2つの肉片へと変え、斬撃の余波が肉を壁へと叩きつけた。

 衝撃音が、入り組んだ洞窟中を反響し肉片へと返ってくる。



 ――呆然と見ていた冒険者達には、それが魔物の喚きにしか聞こえなかったという。

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