雑な依頼
「暗殺依頼? また物騒ね」
「はい、しかし確かな依頼です。まあ、物がものですので正式な依頼ではありませんが」
自動小銃を肩にかけた少女が言った。
彼女はセシリアらと同じ冒険者であり、ネイチャラントでは存在しない、銃を主武装とする『ガンナー』クラスの人間だ。
食堂にて発見したオリーブが物珍しがって勝手に隣に座り、戸惑う彼女に根掘り葉掘り質問したのだ。
そして今は冒険者らしく金目の話をしていた。
そんな中飛び出して来たのが暗殺依頼である。
「胡散臭いなあ。セシリアはどう思うよ?」
セシリアは特殊だ。
意識か無意識かは今の段階では不明だが、彼女の行く先々には事件が起きる。
故にオリーブは彼女の反応を伺う。
セシリアは、「良いと思うよ」と、いつもの何も考えていないような返事をした。
(……あたし、間違ってないよね)
あまりにもな反応にオリーブは不安に駆られるが、やはり初志貫徹を目指し、セシリアの意見を尊重することとした。
「提案した私が言うのも何ですが、本当に良いんです?」
投げやりっぷりに少女も引いた態度だが、オリーブは強く頷いた。
「ええ、ええ。その依頼に1枚噛ませて頂戴な」
少女の名前を言おうとして、そういえば自己紹介すら済ませていないことに気が付いた。
「あ、私はエリーです。オリーブさんであってますよね?」
一夜にして有名になりましたねと、エリーは言った。
オリーブは少し驚きながらも、溜息と同時に同意した。
昨日、昇格試験を終えてからやたらめったら周りが騒がしかった。
あまりにもウザかったので、ちょっとした魔法を見せてやり、そのかいもあり今日は遠回しに見られるだけだったのだ。
ちなみに、今も彼女たちの会話に聞き耳を立てているものは大勢いる。
が、彼女達の声が外に漏れることはない。オリーブが魔法により音を遮断しているからだ。
「詳しい話は私じゃ無理ですので、場所移していいですか?」
「あ、待った」
オリーブは魔法を解き言った。
「店員さーん、このパフェってのくださーい!」
「あ、ケーキおかわりお願いしまーす!」
セシリアが便乗する。
エリーはこの人達誘ってよかったのかと不安に思った。
*********
街を見渡せるいい立地だ。町長を差し置いて一等地に居を構えるこの屋敷の主人は、さぞや金持ちなのだろう。
待合室にてティーカップを傾けながら、Bランク冒険者ライオネル・ホアは考えた。
「警備に冒険者雇うだなんて豪胆だよねぇ」
それとも、よっぽどまずい状況なのかな、と。ソファの弾力を楽しみながら、彼の対面に座るマティルダ・クロウが言った。獲物を狙う肉食獣のような鋭い視線だ。口元の獰猛な笑みを誤魔化そうともしない。
彼女はライオネルと同じBランク冒険者で、知らぬ中ではない。同じ依頼を幾度も受け、その実力は信頼できる。だが彼は喋るのが苦手で、マティルダは大好きだった。早く誰か来てくれないものかと彼は祈った。
「お待たせいたしました」
彼の祈りは神に届いた。いかにも執事らしい男が部屋へと入って来たのだ。
執事は部屋を見渡し、僅かに唸った。ほんの一瞬のことだ。注視していなければ見逃していただろう。
「まだ――」
「やあ、悪いね遅刻しちゃったよ」
執事が何事か言い終える前に、彼の背後から能天気な声が被さった。
執事はさぞ驚いただろうに、態度に表すことなく謝罪し体をどけた。
声の主が部屋へと入る。
その人物に、ライオネルだけでなく、マティルダさえ目を見開く。
「こんにちは、一緒に依頼を受けるポーラだよ。知っていたかな?」
知らない訳がない。彼女は、世界に5人にしかいない冒険者の頂点。
『鷹の目』の異名を持つAランク冒険者なのだから。
「それでは本依頼について説明致します」
全員が席に着いたところで、執事から説明が入る。
依頼表には館の警護としか記されていなかったが、依頼を受領してから何故か呼び出されたのだ。依頼自体はCランク冒険者も多く受けていたが、呼び出されたのはBランク冒険者の2人と、ポーラだけだ。
説明が必要なのか。これはいよいよきな臭い。そもAランク冒険者が出張るなど、騎士団クラスの難事ではないか。ライオネルは早々に帰りたくなった。
「事の起こりは、旦那様に脅迫状が届いたことです」
執事は懐から1通に手紙を取り出し机に置いた。
果たして読んでいいものか。目線で訴えると、執事は「どうぞお読みください」と言った。
代表してポーラが手に取り読み上げる。
「『次の満月の夜、死神が貴殿の前に現れる。その者は命を求めるであろう。
だが案ずるが良い。死神はクリスタルを魂と見誤る』」
つまり、クリスタルを寄こせ。でなければ殺すという文面だ。
ライオネルはまず最初の疑問をぶつける。
「イタズラでは?」
執事は抑揚に頷いた。
「この手紙は、朝旦那様の枕元に置いてありました。部屋の鍵は旦那様しか持っておらず、何者にも侵入はできません。イタズラと断ずるには、あまりにも手が込んでいる」
次にマティルダが言った。
「しかし、それなら警察に依頼するべき案件では? 冒険者は何でも屋ではありますが、任せられるなら専門に任せたほうが良いかと」
「いやあ、そうでもないみたいよ」
返答をしたのは、ポーラだった。
彼女を紙を灯りに照らしながら言った。
「魔素が異常に染みついてる。よほど意識していない限り、地上でこれだけ着くことはないね。魔界で製紙された可能性が高いよ」
――魔界。
2人は息を呑んだ。それが事実なら、Aランク冒険者が出張るのも納得だ。確証がなければ騎士団も動かない。
しかも相手が魔物であるのなら、クリスタルを差し出すのは取引に当たり、極刑は免れない。
「それで、俺達にその話をしたのは」
「ええ、Cランク以下の方には警備の増員をお願い致しますが、あなた方には死神とやらの対策を考えていただきたい」
魔物退治ならば専門でしょうと。執事は挑戦的に締めくくった。
*********
「ははは、暗殺というのは間違いだよ。ただの脅し文句さ」
「なーんだ、そうだったんですね」
はははとオリーブと依頼主は笑いあう。
脅迫も犯罪です。
セシリア、オリーブ、エリーの姦し3人娘は依頼主の元へと行った。
そこで暗殺というのは間違いであることを知らされる。
「ま、脅迫が効かなかったら殺すんだけどね」
「そりゃそうだ。舐められちゃあアカン」
はははとオリーブ、依頼主の2人は笑いあった。
何だこいつらとエリーはドン引きした。
「それじゃあ、詳細を説明しちゃおうかな」
依頼主の優男はコホンと喉を整え言った。
「基本は潜入任務だね。君たちには館の主と接触してもらい、クリスタルを受け取る。渡さなければさくっと殺ってもらいたい」
依頼主は窓の外、ひと際大きな屋敷を指差し言った。
「勿論、可能な限りのバックアップはする。Cランク冒険者を何人か雇って、陽動にでも使おうかな」
今思いついたように言った。
エリーはあれ、私Cランク冒険者だけど、ここにいて良かったのかなと思った。
オリーブは訝しげに口を開いた。
「まるで話を通してるみたいな言い方だけど」
「ああ、脅迫状を届けてあるよ。警備依頼が出ていたから、本気にしてもらえたみたいだね」
「難易度が上がってる……」
はははと依頼主は笑った。今度はオリーブは笑わなかった。
「期待しているよ、大型新人君。何か必要なものがあれば言ってくれ。何でも用意するから」
どうやら作戦は丸投げらしい。エリーとオリーブは不安に駆られた。
セシリアは依頼主をじぃっと、感情を感じさせない瞳で見つめていた。




