表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暗黒騎士だけど勇者目指してます!  作者: シドなんとか
シーフ・オア・アサシン編
23/45

彼女達の場合

 煤が宙を舞う。


 夜空に舞うそれは炎を反射し、煌めくように舞う。

 それはさながら地獄に生息する蝶のようであった。


 バチリ、と木が割れ、新たな蝶が飛び立った。


 羽化は至るところで起こっている。

 大きな屋敷が丸々焼けているから、住処には困らないのだ。


 一匹の蝶が女の肩に止まった。

 彼女はそれを払うが、緑のローブに黒いシミを作ってしまう。

 女は舌打ちした。


「ああ、熱い熱い。全部風で吹き飛ばせば良かったのに」


 愚痴を受けて、炎を白髪に照らし、紅に染めた少女が答えた。


「仕方ないよ。ゾンビが飛んでったら大変だもん」


 彼女の服にはべったりと血が付いていた。

 髪も、炎に照らされただけではなさそうだ。


 全身を緑にコーディネートした女の名前はオリーブ。

 白髪を紅に染めた少女の名をセシリアという。


 そも何故2人が燃えた屋敷を眺めているかというと、この屋敷でゾンビの魔物と対峙したからだ。


 ゾンビは人を介して生み出される魔物であり、放置すればそこに居る全ての人間がゾンビと化してしまう。

 彼らの弱点は火であり、これはまごうことなき正しき対処だ。


(ま、生身の人間もだいぶ巻き込んだけどね)


 その過程、あまりにも迅速な対処に逃げ遅れた人間も多い。

 もっとも、それがゾンビの種を孕んでいないかの判断も難しいから、まとめて焼くのも間違った対処ではないが。


 オリーブは合掌でもしておこうかしら、と考えつつも行動には起こさなかった。

 意味のないことはしないタイプなのだ。


「それにしても」


 ゾンビだなんてそうそう出逢える魔物ではない。ゴブリン並みの頻度ならとっくに人類は滅んでいるだろう。

 以前戦ったという狼型の魔物だってそうだ。人語を操り、擬態まで可能な魔物などレア中のレアである。どちらも人生で一度会うかどうか……。


(何か理由がある)


 特別なのはジュンの方だろうと当たりをつけていたが、今回の件を見るに、どうも特殊なのはこちらの方であるらしい。オリーブはセシリアを横目で見た。


 賢者という、超常の存在に至るためには、同じように超常の存在に触れるのが手っ取り早い。その点で彼女の存在は僥倖だった。


「つーか、そろそろ離れた方がよくない? 人が集まったら面倒でしょう」

「そうだね。でも、ジュンは何時来るのかな?」

「さあ。勇者候補の力を疑うわけじゃないけど」


 話を聞いた限りでは、2度と会えないのではないかと思うのだ。

 合流を疑わないセシリアはいじらしいが、とにもかくにももうこの村にはいられない。


「先に進みましょう。目的地は分かっているんだから、あいつも追いかけてくるでしょう」


 セシリアは頷いた。


 彼女たちはダブリスを離れ、次の街へと進む。目指すはこの国にあるという、迷宮都市だ。長い道のり、多くのことが起こるだろう。


 オリーブは次に起こる、セシリアが引き寄せる事件に期待を膨らませた。




 *********




 この国に初めて訪れた集落は、小さな村だ。そこはネイチャラントの集落とそう大差なく、古代文明とやらの力もこんなものかとオリーブは鼻で笑ったものだ。

 しかし、この大都市は――


「すっげ……」


 目を目まぐるしく泳がせながら、オリーブは呟いた。


 石畳でもないのに堅い地面(コンクリートというらしい)。

 凄まじい速度で走る車とやら。

 写真と呼ばれる精巧な絵はしかも巨大で、建物に貼り付けられている。

 街行く人々が身に着けている服はまるで卸したてのように綺麗だ。


 話には聞いていた。聞いていたが、これではまるで別世界ではないか。


「ほ、ほわあ……」

「オリーブ? ギルド行くんじゃないの?」


 対してセシリアは、特に驚いた様子は無かった。

 オリーブがもう少しだけ冷静であったなら、それに疑問を抱いたかもしれないが、彼女の意識は仲間にはちっとも向いていなかった。


 オリーブはセシリアに手を引かれて歩く。

 その様子は、まさにお上りさんだった。




 *********




「こ、これがペンね? 勿論知ってるわよ」

「うん、早く登録しようよ」


 国が違えばギルドも変わる。

 特に密入国した彼女達は以前のギルドからの引継ぎなど行えず、新規に作成することになった。

 ボールペンをおっかなびっくり触るオリーブへの、周囲の視線は温かった。


「はい、確かに受け取りました。冒険者ギルドへようこそ」


 受付の女性が用紙に目を通し、にっこりと笑った。続いてギルドへの説明に入るが、基本はネイチャラントと同じように、依頼表から受けたい依頼を選択すれば良いらしい。

 ネイチャラントとの違いは、自身のランクまでの依頼しか受けられないことだ。

 オリーブたちのランクは最低のEランク。これでは満足な稼ぎにはならない。


 彼女たちは昇格試験を受けることとした。一切の躊躇なく。


「あれ、金取るの? しかも結構高い」


 受付嬢は苦笑いしつつ説明した。ランクは本来は実績を積み、自然と昇格しているものだ。試験とは本来受けるものではなく、特殊な事情を抱えたものが受けるものであると。


「ま、トータルでプラスでしょ。セシリアも受けるよね?」

「もちろん」


 セシリアは自信満々に答えた。

 彼女達は自分の実力を疑っておらず、実際、鼻息混じりにクリアしてみせた。


 セシリア、オリーブは昇格試験で上げられる最大ランク。Bランク冒険者となった。


 ――すごい新人がやって来た。


 彼女達の噂は波紋のように広がり、ある依頼を呼び寄せることになる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ