決意を胸に 8
「へぇ……隆哉が料理ねぇ……」
学校では、僕の机の周りに、いつものようにいつもの四人の幼馴染が集まっていた。
「あ、あはは……ま、まぁね……」
「それで、うまくできたのか?」
そういわれて僕と夢は顔を見合わせて、苦笑いした。
「あはは……なんだよ。だめだったのか」
「うふふ、翼だって、お料理は上手ではないでしょう?」
「なっ……! お、おい! 澪! てめぇ!」
澪がいつも通りニコニコ笑いながら僕を見ている。
ああ、久しぶりだなぁ、こんな状況……
思えば、最後の一ヶ月、僕はほとんど外に出られなかったのだ。
考えればこうして四人と楽しく話せていること自体が奇跡である。
「隆哉君? どうしました? そんな風にぼぉっとしちゃって」
と、僕がそんな風に感傷に浸っていると、そんな状況を作り出した本人が心配そうに僕を見てくる。
「い、いや、なんでもないよ……あはは」
戸惑いながらも僕は澪に返事をする。
さすがにまだ澪に関しては、顔を見るだけで恐怖が蘇って来てしまうようだ……
「ふんっ。いつもこんな風な間抜け面でしょ、隆哉は。それより……隆哉、アンタ、料理するなら、私にもその料理を振る舞いなさいよね」
と、杏が身を乗り出して僕の方に来る。
「あ、ああ、それなら、俺も隆哉の料理、食べてみたいな」
「私も、食べてみたいですね」
「え、えぇ!? そ、そんな一気に言われてもなぁ……」
困った僕は助けを求めるように夢の顔を見る。
「じゃあ……皆に作ってあげるのが、一番なんじゃないかな?」
「え……ゆ、夢……それは……」
「ちょっと! 隆哉! 夢には作ってあげて私に作らないってのは不平等なんじゃないの? さっき、私達全員が自分の大事な幼馴染だ、って言ってた癖に!」
「え、そ、そうなのか? だ、だったら、隆哉、俺にも作ってくれるんだよな?」
「もちろん、私にも、ですよね?」
「あ、あはは……う、うん。わ、わかったよ……」
三人の幼馴染に半ば強制的に約束させられる形となってしまった気がする。
でも、これが僕の選んだ選択肢なのだ。
未だ僕は覚悟ができていない。
だとしたら、その覚悟ができるまでは、僕は幼馴染全員を大事に扱う義務がある。
それは義務であり、僕がそうしたいと思ったのだ。
三人の幼馴染に詰め寄られた時は驚いたが、それ以外はその日は普通であった。
チャイムがなると全員、素直に席に戻って言ったし、僕も普通に授業を受けた。
そして、そのまま昼休みがあり、同じように幼馴染四人と喋る。
こうしてみると僕の日常というのは驚くほどに平和で、幸せなのだったと実感できた。
可愛い四人の幼馴染に囲まれ、それでいて悩むことがない。
もしかしたら、これまでの死のループはその報い。
幸せすぎることへの応報だったのかもしれないな。
幸せであることも実感せずにただただ漫然と生きてきたことへの罰、といった所だろうか。
そう考えるとなんだか納得も言ったし、その意味ではそんな機会を与えてくれた「あの子」にも感謝したいくらいだ。
「……あのさぁ、皆」
と、僕がそういうと幼馴染四人は僕の方に振り返って来た。
「どうしたの? タカ君」
「何よ、隆哉」
「どうした、隆哉」
「なんですか? 隆哉君」
僕は一呼吸置いてから、皆の顔を見る。
そして、準備していた言葉を言った。
「僕達……ずっといっしょ、だよね?」
僕がそういうと四人は最初キョトンとした顔で僕を見た。
しかし、四人とも次の瞬間には嬉しそうにニッコリと微笑んでくれた。
そう。
僕達は、これからも、ずっと一緒なのだから……




