最後の選択 8
「ちょ、な、何して……」
錯乱していた僕の頭も一瞬にして覚醒した。
「ワシは……あくまでよかれと思ってやったんじゃ……お主と、その周りの物が幸せになればよい、と。じゃが……ワシは……ワシは、間違ったことをしたのかのぉ?」
「え……」
神様はそのまま大きな声を出して泣き始めた。ボロボロと涙を流している。
僕はただただ唖然としたまま大泣きする神様に、抱きしめられていることしかできない。
神様はそのまま泣き止むまでずっと僕を抱きしめ続けていた。
そして、いきなり泣き止んだかと思うと、そのまま倉庫の端へ行って蹲ってしまった。
僕としてもそんな風な神様に話しかけることもできず、ただただ、その様子を見ていることしか出来なかった。
「隆哉くーん。帰ってきましたよー」
扉が開いて、澪の声が聞こえてきた。
さすがに澪が帰ってくると神様は姿を消していた。
「はい。隆哉君、あーん」
僕はかつて杏にそうされていたように、澪が差し出してきた箸の先で挟まれた飯を口に含む。
「うふふ。おいしそうで何よりです、隆哉君」
僕はもう澪の言葉に返すこともしなかった。
澪はもう完全に一人の世界に入りこんでしまっているような気がする。
僕がどういう状態かは正直どうでもよくて、澪にとっては僕の世話をする……僕を監禁して自分だけのものにしているということが大事なんじゃないだろうか。
「……なぁ、澪」
そんな風に考えると自然と言葉が出てきてしまった。
「はい? なんですか?」
「き、聞いてもいいかな?」
「ええ、もちろんです。私は隆哉君の相談役ですからね」
「あ、あ、ありがとう……そ、そのさ……こ、小石川神社、って、知っている?」
「小石川神社?」
「あ、ああ。その……あ、あれだよ、街の外れの……辺鄙なところにある……神社さ。お、オンボロの……知らない?」
「ええ、知っていますよ」
「そ、その……その神社、って……どういう神社なのかな?」
「……どういう神社?」
「あ、ああ。起源とか……そういうの……わかる?」
「ええ。存じていますよ」
「そ、そう……よ、よかったら……教えて――」
「嫌です」
気付くと澪の表情は辛辣なものなっていた。
睨むような視線で僕を見ていたのである。




