最後の選択 5
神様は瞬時に姿を消した。
僕も澪の方を咄嗟に向く。
「あ……ああ。澪、おはよう」
「ええ。おはようございます。今日は元気そうですね」
たぶん、今の澪にとってはどんな僕でもとりあえず元気そうに見えるんだろう。
しかし、そう思った矢先、澪の顔が少し曇る。
「隆哉君。さっき、誰かとお話していませんでしたか?」
「え? だ、誰かって?」
「してましたよね? 誰かと」
僕の問いかけは無視して澪は質問を続ける。
口元は笑っているが、相変わらず目は笑っていない。
「そ、そんな……そんなわけないだろ? こ、ここには僕しかいないのに……」
「ええ。そうですね。この倉庫には隆哉君しかいません」
「だ、だろ? だったら、なんでそんなこと言うんだ?」
「……うふふ。ごめんなさい。でも、私、巫女だからでしょうか。小さい頃から見えないはずのものが見えたりしちゃってたんですよ。どうもこの二週間、この倉庫には、隆哉君以外に、見えない誰かがいるような気がしてならないんですよね……」
ニッコリと微笑む澪。
まさか……それは神様のことを言っているんだろうか?
僕の額に小さな汗が浮かぶ。
……いやいや。さすがの澪でも、僕にあのオンボロ神社の神様が取り付いているなんて思うはずもない。
でも、僕を見る澪の視線、それはなんだか確信に満ちた瞳だった。
まるで、さも、神様が見えているかのように。
「……なーんて、冗談ですよ」
と、澪は僕の頭を撫でる。
「心配しないでください。もし、そんなわけのわからないものが隆哉君に取り憑いていたら私が追い払ってあげますから。じゃ、学校に行ってきます。いい子にしていてくださいね」
そのまま澪は扉を開けて出て行ってしまった。
「……ふぅ。なるほど。さすがは神林の巫女。狂ってはいてもその力は侮れんのぉ」
完全に澪がいなくなったのを確認してから神様が姿を表した。
「……澪には、神様が見えているの?」
「ふむ……あの様子では見えていないじゃろうな」
「で、でも……」
もし、澪に、僕が澪以外の女の子と、この倉庫で二週間も過ごしていたのがバレたらと思うと僕の背中に自然と冷たいものが走った。
ただでさえ不安定な環境のなかで、さらに不安要素が増えてしまった。
僕は大きく溜息をつく。
「ははは。心配するな。バレたら、バレたでその時じゃ」
神様はそんな僕の気持ちを知ってか知らずか、ニコニコと微笑みかけてくるのだった。




