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最後の選択 1

 そして、さらに一週間が経過した。


 同じことの繰り返し。正直、頭がどうにかなりそうな一歩手前だった。


 たぶん、神様がいなかったら、ずっと独り言を繰り返す怪しい人間になっていたに違いない。その点では可愛い話し相手の存在はありがたかった。


 澪は相変わらず僕を解放する気配は全く見せない。毎日同じ通りに、嬉しそうに僕を見ていた。


 僕もそんな澪を見ているとこれがあるべき姿で、これでいいのだ、と思えることさえあった。


 しかし、そのたびに自分が監禁されていることを思いだし、この状況の異常さを再確認した。



 そして、その日も睡眠薬入りの夕食が僕の前に運ばれてきた。


「さぁ、隆哉君。どうぞ、召し上がれ」


 澪は一人暮らしということも料理も相当に美味い。


 そうでなくても腹が減っているのだ。


 睡眠薬入りとわかっていても僕はそのまま夕食を口の中にかっ込んでしまう。


「あらあら。隆哉君、そんなにがっついて……行儀が悪いですよ」


 困っている様子ながらも、嬉しそうにそういう澪。


 もはや僕は今や澪に何から何まで管理されているのだ。


 食事、睡眠、生活の全て……そう考えると無償に背中にゾクゾクとしたものが走った。


 夢や杏、翼と付き合っていた当時には感じない、奇妙な感情が僕を襲っていたのである。


 その感情は酷く捻じ曲がったものに思えたので……僕はそれを考えないようにそのまま飯と共に飲み込んだ。


「……み、澪」


 食事を進めながらも、僕は澪に話しかける。


「はい? なんですか?」


「学校は……どうだった?」


「学校ですか? 楽しかったですよ。いつも通り」


「……皆は?」


 すると澪の顔が少し曇る。


 そういえば、僕の方から学校のこと聞いたことは監禁されてからはこれが初めてか。


「ええ。元気そうでしたよ。相変わらず、隆哉君がいないことを心配していました。翼なんか最近イライラしっぱなしで……困ったものですね」


「そ、そう……そうだよね……」


 そこで僕は食事を止める。


「どうしました?」


 澪が心配そうな顔で僕を見てきた。


「あ、あのさ……澪。や、やっぱり、こんなのおかしいよ」


「……はい?」


「み、皆心配しているんだろ? 夢も、杏も、翼も。だったら……僕は皆と会いたいし、これ以上心配をかけたくない……ね? ぼ、僕達、四人とも幼馴染じゃないか。だから――」


 そこまで言った時だった。


 澪がいつのまにか僕の眼前にまで顔を近づけていた。


 そして、僕の目を真っ直ぐに見ている。


 暗い、どこまでも暗い瞳。


 あのいつもニコニコ優しい澪からは考えられないような色の瞳だった。

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