天国から地獄 10
それから走って公園に向かった。
息も切れ切れ、心臓も爆発しそうなほどに走った。
走って、たどり着いた公園には――
「……あれ?」
誰も、いなかった。
夕暮れでオレンジ色に染まった公園には亜由美どころか、人っ子一人いなかった。
「亜由美!?」
僕は亜由美の名前を叫んでみる。
返事は――
「よぉ、隆哉」
咄嗟に、ふり返る。
その瞬間、足に鈍い痛みが走った。
「あ……あがっ……あぁぁぁぁぁ!?」
絶叫とともに僕はその場に倒れこむ。
「お? 痛かったか? ま、金属バットだしな、これ」
完全に、骨が折れた。
焼けるような激痛が足に走る。
なんとか僕は上を見上げる。
そこにいたのは長い黒髪に、純白のワンピースを着た……
「あ……亜由美!?」
亜由美だった。
金属バット――僕が護身用に持ってきてそのまま忘れていったヤツだ――を肩に担ぎ、無慈悲な表情で僕を見下している。
そして、ニンマリと笑った。
「亜由美? ……ぷっ。あっはっはっは! 亜由美!? あはははは! あーあー……笑って涙が出てきやがった……そうです。私が笠木亜由美です。た・か・や・さ・ま」
そういって自分の髪の毛を掴む亜由美。
すると掴んだ髪がそのままずるりと抜け落ちる……
いや、正確にはそのまま取れてしまったのだ。
その下から出てきたのは男の子と見間違うような黒髪のショートヘアだった。
「あ、あぁ……」
あまりのことに僕は言葉を失った。
「そう。これ、カツラな? パッと見ただけじゃわかんないよな? それに、上手かっただろ? 澪の口調を真似してみたんだぜ? まぁ、伊達にアイツとも十年以上付き合ってないってわけだ……で、これでどういうことか、理解できたよな?」
そういって彼女は僕を睨みつけてきた。
僕を睨みつける彼女……風早翼の瞳は、黒い炎のように漆黒に燃え上がっていた。
「つ、翼……」
「……いやぁ。まさか、ここまで騙し通せるとはね。正直、俺自身もびっくりしているよ」
「え……だ、騙した?」
僕がそういうと翼は、キッと僕を睨みつけたかと思うと思いっきり先程バットで殴られた足の部分を蹴り飛ばした。
「あぁぁぁ……い、痛い……」
「あっはっはっは! そうかい! 痛いかい! ……でもなぁ、俺の心の方がよっぽどボロボロなんだよ!」
そういって翼は公園中に響くような怒声を僕に向かって浴びせたのだった。




