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天国から地獄 11

 え? じゃあ、つまり、亜由美なんていう女の子は最初からいなくて、あれは翼の変装だった、っていうことか?


 ……い、いやいや。でも、あの態度。喋り方。オマケに声の高さまで翼とは何から何まで違う。


 それは全部翼のお芝居だった、ってことか?


 あまりのことに僕は呆然としてしまう。


「な、なんで、そんな……」


「なんで……だと? ……んなこともわかんねぇのか!? てめぇは!?」


「え……?」


「お……俺が……俺が! どれだけ! お前に告白されてうれしかったか、わかってんのか!? どれだけ……お前に女の子として見てもらえているって知って嬉しかったか……わかってんのかよ!?」


 ボロボロと涙を流しながら僕を見る翼。


 その顔は十年以上の付き合いでも一回も見たことがない。


 風早翼の女の子としての表情だった。


「なのに、お前ときたら……結局、あれだろ? お前は俺を盾にしたかったんだろ? お前と夢、杏、澪。それぞれの関係が壊れないように、俺っていう盾が欲しかったんだ。そうだよな? 俺がおまえの彼女ってなれば、あいつ等、お前に告白なんてしないもんなぁ!?」


 ……何も、いえなかった。


 あまりにも的を得すぎている。


 そうだ。そうじゃないか。僕は……翼のことを完全に……そんな風に扱っていた。


 今になってようやく実感としてそれが沸いてきたのだ。


「……いつになったら、俺のことを彼女として扱ってくれるのかと思って待っていたら……もう一ヶ月!? ふざけんなよ!? 挙句のはてに、他の女の子とデート!? あはははは! なんだよ……なぁ? 隆哉、俺、お前にとってなんなんだよ?」


「そ、それは……」


「友達か? 恋人か? それとも、あいつ等との距離を程よく保つために緩衝材か? なぁ? どうなんだよ?」


 翼の目が悲しそうにゆがんでいる。


 口元は震え、ひたすらに涙が零れている。


 僕はもっと翼のことを強い女の子だと思っていた。


 だけど……そうじゃなかった。


 十年以上付き合ってきて、なんで、そんなこともわからなかったんだろう。


 翼のことは絶対に理解していると思ったのに。


「ぼ、僕は……す、好きだよ。翼のことが……好きだ」


 なんとか腹の底から押し出すように声を出す。


「……もう遅すぎんだよ。馬鹿」


 翼も悲しそうにそういった。


「俺も……亜由美みてぇにお前に抱きついて歩きたかったよ。お前と一緒に怖い映画見て、お前に飛びついて、お前に服見てもらって、似合うって言ってもらって……恋人らしく、レストランで食事……したかったよ……」


 そのまま大きくバットを振りかぶる。


「……それで、亜由美みたいに……お前と同じ名字に……なりたかった……」


 ああ……


 これは、もう不味いな。


 足は完全に動かない。というか、身体がまるで金縛りにあったように動かないのだ。


「でも、俺にはできない。俺じゃ……無理なんだ。きっと、生まれ変わって、別の人間になりでもしないかぎり、俺はお前の彼女になんてなれない……だから、なぁ? 一緒に生まれ変わろうぜ?」


「つ、翼……何言って……」


 翼は悲しそうに微笑んだ。



「安心しろ。お前を殺した後、ちゃんと俺も死ぬから。な? 生まれ変わったら……もっと女の子らしくするから……生まれ変わっても……お前と、ずっと一緒、だからな?」



 ああ。そうか。僕はこの時ようやく理解した。


 僕は最低だった、のだと。


「ああ。このバット、昔よく一緒に野球したときに使ったバットだったな。あはは……なんつーか、ホント、とことん、俺とお前は友達でしかないんだな……」


「つ、翼……」


「……じゃあな……大好きだったよ、隆哉」


「ま、待って! 翼! 僕は――」


 僕が全て言い終わらない内に、そのまま翼は思いっきりバットを僕の頭目がけてスイングした。


 僕の頭がボールになってそのまま吹っ飛ぶほどに。


 文字通り、僕の意識はそれこそ、ボールのようにそのまま高く吹き飛んでしまった。


 二度と、戻って来られないほど、遠くに。

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