天国から地獄 9
「そ、その……隆哉様?」
「ん? 何?」
「隆哉様……本当に付き合っている方がいらっしゃるんですよね?」
心臓が飛び跳ねる。
亜由美はニッコリとしたままこちらを見ている。
それなのに、なぜかその笑顔が怖かった。
いや……いる。いるんだ。
僕には翼がいる。
「……あ……ああ。いるよ。それが?」
「いえ……でしたら、その方はうらやましい限りです。きっと、こんな風に、隆哉様と楽しくデートもしていらっしゃるんでしょうね」
そういった亜由美の瞳はなぜか異様に鋭かった。
その瞳の奥には殺気さえ感じる……そんな印象。
「え、あ……」
そういえば、翼とはこの一ヶ月、デートなんてしていない。
彼女らしい扱いをしたことがない。
……いや、それでいいんだ。
きっと、翼はそんなこと望んじゃいない。
翼は男の子みたいな女の子だ。
きっとそんな風に扱ったら逆に嫌がるに決まって――
「それは、お主の勝手な思い込みじゃないかのぉ? 女子なら誰しも、好きな男に女子らしく扱って欲しいものじゃないかのぉ?」
神様の言葉に僕は背筋に冷たい物が走る。
……もし、そうだとしたら?
翼が、自分を彼女として扱ってもらうことに期待していたら?
僕は――
「あ、す、すいません、隆哉様」
「え? ど、どうしたの?」
「ワタクシ、ちょっとお手洗いに」
「あ、ああ。どうぞ」
そのまま亜由美は席を立つ。
しかし、そこからが問題だった。
何分、何十分経っても亜由美は帰ってこない。
「どうしたんだろう……」
さすがに心配になってきた。
その時だった。
ポケットの携帯に着信。
「え? あ……亜由美からだ。えっと……は? 公園? なんで?」
内容は亜由美からのもので、自分は一週間前、僕と始めて会った公園にいるから来て欲しい、というものだった。
「な、なんで?」
頭が混乱する。どうして亜由美は僕を残して公園なんかに行ったんだ?
「どうするのじゃ? お主」
「どうするって……行くしかないでしょ」
「……そうか。行くんじゃな」
そう言う神様の言葉には少し悲しそうな響きが篭っている。
……いや、気のせいだ。きっと。そんなことはあり得ない。
僕は席を立ち、亜由美の分までの会計を済ませるとレストランを飛び出したのだった。




