第3章 - スレイヤー
アッシュボーン:第3章 — スレイヤー
…銀河の深淵で…
静かな声が響き、呼びかけるにつれてその声はどんどん大きくなっていった。
「シルラ……シルラ……シルラ!」
声が叫んだ。シルラは目を開けて上を見上げると、ルパンが何かから逃げ出すように走りながら彼女を呼んでいるのが見えた。立ち上がると、自分が兵舎ではなく宇宙空間にいることに気づいた。ルパンは彼女の方へ向かっていたが、その直後に踏み潰され、かつて彼がいた場所には巨大な爪のある手が現れた。血がまず足元に流れ込み、女性は何が襲ってきたのか見ようと顔を上げたが、その視線は別の声へと移った。
「シルラ! 一体何やってんだ、あそこでただ立ち尽くして――」オーリンが叫んだが、その言葉は途切れた。
稲妻の矢が彼の胸を貫き、その魔法が彼を貫くや否や、オリンはその場に凍りついた。オリンは血を吐き出し、やがて頭を横に向け、肩の上に無気力に垂れ下がった。
シルラが顔を上げると、そこには容赦のない怪物がいた。彼女が恐怖に震えながら見つめる中、それは宇宙の虚空に向かって絶え間なく咆哮を上げていた。
「お前は私を失望させたな、我が娘よ」という声が響き渡る中、シルラは恐怖のあまり意識が遠のき始めていた。上空の獣は口を開き、そこから稲妻を生み出してシルラを狙うが、放つ直前に――
「うっ!――」
シルラはうめき声を上げて眠りから覚めた。振り返ると、絹のような冷たい、水膜でできた小さなハンモックの下には、依然としてルパンがベッドに横たわっており、二人はまだオリンの船の中にいた。シルラは息を吐き出し、ゆっくりとハンモックに身を預けて天井を見つめた。刻一刻と、彼女の呼吸は落ち着いていった。
……その日の後……
「……そして、一週間か二週間ほどで、前後するかもしれないが、出発する予定だ。皆、解散だ」と、オリンは兵士たちに言った。
一方、ルパンは集まりの方へと歩いていて、シルラがすでにそこにいることに気づいた。しかし、彼女はいつもの楽しげな笑みを浮かべてはいなかった。この表情の変化に、泥棒は興味をそそられた。
「やあ、シルキー!」
ルパンはそう叫ぶと、彼女の隣へテレポートした。
シルラは彼にほとんど構わず、代わりに会議から退散した男女の群れの中を縫うように進み始めた。ルパンも彼女と一緒に歩いたが、その存在感の薄さと物腰のせいで時折押しのけられそうになりながらも、やがて何とかシルラと共に人混みをくぐり抜けることに成功した。目覚めて以来、彼女の顔には一度も笑みが浮かんでいなかった。
「不機嫌なクモなんて聞いたことないな……まったく、 」ルパンはつぶやいた。
「二人とも見逃したな。一、二週間後には、銀河の奥深くにある別の基地へと進軍する。そうすれば、しばらくの間は敵の射程圏外で、視界からも外れるだろう」とオリンは言った。
シルラの尾が伸び、片目が船内をゆっくりと見渡した。彼女は、何かが起こるまでこれほど長く待たされることに乗り気ではなかった。
「一週間か二週間も……何をするの? ただ手をこまねいているだけ? 私たちはついさっき基地を破壊したばかりだし、犠牲者も一人も出さなかった。敵の戦力は、私一人で十分対処できる。彼らに計画を練らせ、態勢を立て直させることに、一体どんな意味があるの? 彼らの後退を、私たちの三歩前進に変えるべきよ」とシルラは反論した。
オリンは深く息を吸った。ローゼン王の娘が、おそらく何らかの戦争の達人である可能性を、彼は考慮に入れていなかったのだ。
「シルラ、どうするつもりだ?」
オーリンは、あまり乗り気ではない様子で尋ねた。シルラとオーリンが視線を合わせると、足音がゆっくりと遠ざかっていくのが聞こえた。
「私の提案は――」
シルラがそう言いかけようとしたとき、ルパンが部屋から姿を消していることに気づき、言葉を遮った。彼女は、ルパンがこの会話を無視して何かをいじっていたのかと確認しようと振り返ったが、 すると、その直後に警報が鳴り響いた。オーリンとシルラは制御盤へと向かい、そこで目にしたのは、遠くに浮かぶもう一隻の船だった。まるでその場で止まったかのように、ゆっくりと漂っていた。特にその船が普段より大きいことを考えると、シルラはルパンが何かを盗みに行ったに違いないと、ほぼ千パーセント確信していた。
「あれはラグーン船だ。つまり、彼はおそらくあそこにいるだろう」とオリンは言った。
オリンが振り返ると、シルラはすでにその場を離れていた。それに気づいた瞬間、ドーンという音が響き、シルラが船に向かって飛んでいくのが見えた。
「えっ……王族と平民か」とオリンは鼻を鳴らした。
……その頃……
「ラグーン号にしては、ちょっと空っぽだな」とルパンは呟いた。
ルパンは船内の通路やホールをこっそりと進んだ。しばらくは特に何も見つからなかったが、ある時、かすかな匂いが鼻をくすぐった。ルパンが探ると、 すると、ここに残されていた唯一の生命の気配は、すでに消え失せていた。それは、焼かれたか、あるいは雷に打たれたかのような姿の死体だった。
「うっ……」
ルパンは空中で手を振り、死体を通り過ぎた。それをできるだけ無視しようと努めながら、船の操縦室と思われる場所へと近づいていく。操縦席には誰もいなかった。それも当然だった。
「何もない? ここから何も略奪できないじゃないか! 女ボスが機嫌悪いのなのに、成果すら上げられないなんて」ルパンは独り言をつぶやいた。
ルパンは引き返そうとしたその時……
「ああ、私も何も見つからないわ」と声がした。
ルパンは声の主の方を振り返ると、そこには、全身黒ずくめの服にマントを羽織った、背の低い、濃い緑色の肌の女性が立っていた。ルパンは彼女を全く見覚えがなかったが、その威圧的な装いにもかかわらず、彼女はまるで以前から知り合いであるかのように、気さくに話しかけてきた。
「えっと……君は誰だ?」
ルパンは尋ねた。
「あ、そうね……私は、えっと、Z-Zzaptaよ」と女性が言うと、突然、彼女の指先から赤い稲妻の火花が飛び散った。
ルパンはそれを一瞬見ただけで、その一瞥だけで、彼女が少し前に戦ったドラゴンと似たような能力を持っていると察した。ルパンは彼女が話を続けるのを待ったが、彼女は自己紹介の瞬間を必要以上に引き延ばしてしまった。女性は恥ずかしそうにうつむいた。
「ごめん、かっこいい名前を考えようとしたんだけど……本名はクライン。あなたと同じように、この船をぶらついているだけよ」とクラインは言った。
「当ててみよう! 捕まったりしたんだろ? それに、あのカッコいい赤い稲妻みたいな能力も持ってるし、さっき通りかかった焼け焦げた死体の説明にもなるし、そうだろう? 当たってるだろ、言わなくてもわかるよ」とルパンは嘲るように言った。
クラインは反論しようともせず、ルパンはその沈黙を自分の推測が正しかった証拠と受け取り、驚きと面白がったような表情を浮かべた。
「まあ、君はそんなに奇妙には見えないな……あの本当に恐ろしいヴェールを除けばね。俺の船、絶対見てみるべきだよ。あそこで俺が仕切ってるんだ」
ルパンは壁を指差しながらそう言ったが、その表情は誰が見ても嘘をついているとわかるものへと変わった。クラインは彼の言葉を微塵も信じていなかった。足音が近づいてきたので、クラインは素早く方向転換して即座に発砲した。彼女の指先から赤い火花が飛び散り、稲妻が廊下を駆け抜け、誰か、あるいは何かに命中して船中に轟音が響き渡った。ルパンはその光景を冷静に見つめていた。ドラゴンがはるかに大きな稲妻を放つのを目撃したことがある彼にとっては、一瞬、どうでもよくなった。しかし、彼女が撃った相手がシルラかもしれないと、ふと気づいた。ルピンは目を見開き、その場から廊下の先へとテレポートした。クライネは畏敬の念を抱きながらその光景を目撃した。
「あ、あの人……テレポートしたの?!」
クライネは叫んだ。
一方、ルピンは攻撃を受けていたシルラを助けようとしていた。彼女の腕に張られていた氷の盾は徐々に溶け始めていたが、シルラはルピンの助けを拒み、尾で彼の指を叩きつけた。
「強いね」とシルラは言った。
「えっと……でも、彼女は敵じゃないよ。たぶん。僕にやらせて」とルパンは言った。
シルラは、この女性が敵かもしれないという印象を抱いていた……しかし、ルパンは無傷だったし、二度目の稲妻も襲ってこなかった。
「おいおい、クライン? そう、こいつはラグーンの凡人じゃないぞ! 『ごめんなさい』って言えば、陛下も許してくれるはずだよ」とルパンは言った。
クラインは角から顔をのぞかせ、自分が攻撃した相手が誰なのかを目にした瞬間、喜びのあまり飛び上がった。
「シルラだ! それってつまり……君はルパンってことね! 二人のことはよく聞いてたわ! 捕まる前だけどね」とクラインは言った。
「まあ、見てよ。ここまで遠く離れた場所でも、俺たちの評判は広まっているんだな! そうそう、彼女の名前はクライン。この子は手元に置いておこう」とルパンはクラインを指差しながら言った。
「彼女はすぐそこにいるわよ、ルパン。ペットみたいに彼女のことを話す必要なんてないわ」とシルラは言った。
シルラは数歩前に進み、振り返ると、氷の盾がすっかり消え去っているのが見えた。クラインは、彼女の任務を続けるための活力の源になるかもしれない。
「クライン、あなたは家からかなり遠く離れているみたいね。ここで寂しく過ごすか、それとも私たちと一緒に行くか。どちらにせよ、私たちはここを離れるわ」と、シルラは言った。
シルラはルパンの肩を軽く押した。彼に同行を促す、彼女なりの合図だった。ルパンは笑うと、シルラと共に歩き出し、宇宙へと向かっていった。クラインはその言葉を噛みしめながら、自分の置かれた状況を考え、船内を見回した。
「急いでよ、待ってるんだから」とルパンは言い、彼女の隣にテレポートして肩を冗談めかして軽く突くと、再び姿を消した。
クラインは、その仕草に慣れていかなければならないだろう。
……しばらくして……
リクテル船が銀河をパトロールし、さらに奥深くへと進み、やがて小惑星帯に到達した。そこには、娘の行方を探す手がかりを求めて、今も宇宙をさまよっているロゼン王が、ただ一人乗っていた。しかし、小惑星帯の中心部にたどり着いたとき、彼の目に飛び込んできたのは、彼自身でさえ言葉にできない光景だった。船は停止し、ローゼン王はそこから逃げ出した。
戦いが繰り広げられた巨大な岩の地面に着地すると、彼のブーツはこの竜の闘技場の血まみれの床に触れ、彼は吐きそうになった。至る所に死体が転がっており、鎖で縛られた者もいれば、手足を失った者もいて、その光景は延々と続いていた。
「我が娘が、このようなグロテスクな死をもたらすはずがない」と、ローゼン王は心の中で思った。
歩き続けると、血と切り傷にまみれているにもかかわらず、それらの遺体が自国民の、原形を留めない遺体であることに気づいた。ローゼン王は彼らを見下ろし、その状態では見分けがつきにくかったものの、鎧こそが決定的な証拠だと悟った。しかし、その中でも特に一つの遺体が他とは一線を画していた。ローゼン王は遠くにある死体に近づき、顔を確認するためにその男を蹴り倒した。それはラグーンの兵士で、喉から口へと鎖が垂れ下がり、その鎖には血と肉片がこびりついていた。ローゼン王は、別の任務中に自軍がラグーンの別の勢力と遭遇したのだろうと悟った。しかし、一つの疑問が頭から離れなかった……
一体誰が、あるいは何が、これほど邪悪なことをしたのだろうか?
ロゼン王は、この脅威が娘だけでなく、おそらくは自分自身にとっても問題になり得ると考え、ますます懸念を強めていた。ロゼン王はその場を離れ、岩場から逃げ出して自分の船へ向かうと、その勢いで死体たちは水面に浮かび上がった。逃走の最中、空の卵が転がり落ちてその衝撃で粉々に砕けたが、リクテルの王は立ち去る際、この細部に気づかなかった。
……その頃……
オーリンは宇宙の虚空をじっと見つめ、その視線を宇宙の星々へと巡らせていた。船のドアが開き、オーリンが振り返ると、船に乗り込んでくるのは二人ではなく三人だった。予想通りシルラとルパンに加え、クライネもいた。オーリンは苛立ちを隠せず目を細め、なぜ野良犬が自分の船に乗っているのか、シルラには説得力のある言い訳があることを願うしかなかった。
「シルラ、これはどういうことだ?」
オーリンが尋ねた。
「このおバカさんはクラインだよ! すごく人懐っこいんだ」とルパンは、小柄な女性の頭を撫でながら言った。
シルラは二人を向いて、わずかに不快そうな表情を浮かべた。それに気づいたのはオーリンだけだった。
「ルパンが信用できる相手なら、私も賛成だ。それに、彼女も私たちと同じだ。ラグーンに捕まっていたんだ」とシルラは言った。
「それに、彼女はすごく強いんだ! クライン、彼に『赤い稲妻』を見せてあげて」とルパンは励ました。
「えっと……いいの?」
クラインは緊張した様子で言った。最初の反応を見る限り、オーリンは少し威圧的に感じられた。彼女は腕を上げ、手のひらを差し出すと、稲妻の球体を生み出した。その球体からは、赤い火花やその他の光の効果が断続的に放たれていた。現れたのと同じ速さで、それは消え去った。
オリンはその光が消えるのを見つめていた。彼女の「ヴェイル」には感心したものの、まだ疑問が残っていた。
「ところで、クライネ、どうやってラグーンに捕まったんだ?」
とオーリンが尋ねた。クラインは両手を組み、自分がどう捕らえられたかを熱心に語りたがっていた。
「よし! ある夜、私はただプツルの街をぶらついていたんだけど、そして――」
「プツル? それって惑星の名前じゃないよね? まさか誰かがそんな名前を思いつくわけないだろ」とルパンが割り込んだ。
「黙れ、小僧。続けろ、クライン」とオリンが言った。
「プツールではいつも夜だから、あまり目立たない場所にいられるのがちょっと楽しかったの。だからこれを着けているの」とクラインは言った。
クラインはマントの下からある物を取り出し、外を見るための稲妻形のスリットが入った白い仮面を見せた。
「私は、いわゆる『自警団員』だったの!この仮面とマントはただの布じゃない、ハイテクなのよ!プツールで大騒動が起こることは滅多になかったけど、いざという時はいつも屋根の上をパトロールして、悪を阻止する準備をしていたわ。私の名前は……えっと……」
クラインは考え込み、ルパンに視線を向けて、何かヒントを必死に求めた。ルパンは、彼女がさっき言った名前を口にしないことを願いながら、首を横に振った。
「それで……何?『スーパーヒーロー』とか、そういうの?その技術は誰から手に入れたの?」
シルラが尋ねた。
「あ、自分で作ったの! ガジェットは全部自分で作ってるの! 時々通っていた小さな作業場があったんだけど、ボロボロになってしまったり、バレたりして、もう行けなくなっちゃった。隠すのがあまり得意じゃなかったの」とクラインは説明した。
クラインが自分で技術を開発したと聞いて、シルラはオリンの方を見た。二人の表情は同じだった。シルラは、彼が自分と同じくらい実用性を重視していることに興味を覚えた。
「君は技術に詳しいんだな……だから、外に出てヒーローごっこができるわけか? じゃあ、ラグーンと関わった経緯も想像がつくよ」とオリンは言った。
「うん! あいつらは本当に面白くない連中だった。木箱を盗んでいるところを捕まえたんだ。ついに介入するチャンスだと思った。でも、すごく変な感じだった…… まるで誰かが、彼らと一緒にそこにいるような感覚だった。何か言いたくなるような気分だった。引き下がればその感覚は消えたけど、近づけば近づくほど怖くなった。戦うことに決めて、最初の一手を打った瞬間、僕は……気を失った? 説明するのはすごく難しいけど、今となっては、気絶したって考えていいと思う」とクラインは説明した。
シルラはこれを、外の世界、そしてラグーン側にもっと恐ろしい何かが存在するという証拠だと受け取った。
「ラグーンと戦っている間、誰かが『ベール』を使うのを見たことは一度もない。つまり、彼らはそれに必要な時間を十分に割いていないということだろう。それでも、彼らは皆同じ――ただの歩兵に過ぎない。指揮官やリーダーはまだ見たことがない」とシルラは言った。
「あ、そうだ! 気を失う直前、手袋について何か話しているのを確かに聞いたような気がする! 彼らはそれを、まるで特別なもの、あるいは重要なものかのようにしきりに話していた。もしかすると、それが僕を気絶させたのかもしれない」とクラインは推測した。
それを聞いたオリンは目を見開き、すぐにクラインの方へ一歩踏み出した。クラインは、この突然の行動に戸惑いながらも後ずさりせず、彼の切迫した様子に気づいた。
「彼らはどこへ向かっていた? 覚えてる?」
とオーリンは尋ねた。
シルラとルパンも今やクラインに視線を向けており、三人は彼女を追い詰めるように問い詰めた。これが原因で、彼らは今後一週間をただ過ごすのではなく、新たな目的地へと向かうことになったのかもしれないからだ。
「えっと……わからない。ただ、手袋について何か話していたことだけは……」
クライネは、オーリンから恐ろしい反応が返ってくるのではないかと予想しつつ、不思議そうに言った。
「プツルの座標を入力してもらえない? オーリンの手袋の痕跡が残っているとしたら、あそこにあるはずよ。それが首謀者への手がかりになって、この件に決着をつけられるかもしれない」とシルラは言った。
「え、ええ、やります」とクライネは答えた。
オーリンは手を振って、クラインに後についてくるよう合図した。
「へっ、サメの頭を狙ってるんだな? 魚が好きな娘だとは思わなかったよ」とルパンは冗談を言った。
シルラは彼を睨みつけ、その冗談の真意がなかなか掴めず、秒を追うごとに沈黙が重くのしかかってきた。
「ねえ、あれは『ラグーン』って呼ばれてるんだ。海にまつわるものよね?」
ルパンは彼女に理解してもらえるよう懸命に説明したが、シルラは微動だにしなかった。シルラは彼の腕を払い除け、船の奥へと歩いていった。しかし、去る前に、彼女はかすかな笑みを浮かべて彼を振り返った。
「準備しておいて。いつ惑星に接近してもおかしくないから」シルラはそう言うと、歩き続けた。
ルパンはそれを気にしてはいなかったが、今見た光景にずっと気を取られていた。シルラは微笑んでいたが、それが何か楽しみがあるからなのか、それとも彼のふざけた振る舞いのせいなのか、彼には分からなかった。しかしルパンは、それが後者だと心から信じていた。そして、目に見えない観客に向かって一礼すると、姿を消した。
…その頃……
リクテル船がエルドルール星の軌道に入り、白い平原へとゆっくりと着陸した。鎧とマントをまとった男が降りてきた。それは他ならぬローゼン王だった。ローゼン王は野原を数歩進み、紫色の空を見渡した。その瞬間、すぐそばで死の臭いが漂っているかのような感覚を直感的に覚えたのだ。
「……」
ローゼン王からは沈黙だけが流れた。彼は歩調を速め、地面から浮き上がり、大地の上を漂いながら進み続けた。やがて空から、彼は遠くに煙のようなものを見かけた。その方向へと飛び去りながら、ローゼン王は下を見下ろすと、眼下に死体が散らばっているのが見えた。近づくにつれて、その数はますます増えていった。そのほとんどは典型的なブラスターの弾痕によるものだったが、中には位置がずれているように見えるものもあり、宇宙で目にした死体と似ているようでいて、どこか違っていた。彼はラグーンの基地と思われる場所へと急ぎ、そこに到着すると、ローゼン王の目に映ったのは混沌とした光景だけだった。
「一体何だ……?」
基地の入り口から奥深くまで血の跡が続き、遺体は山積みになっており、手足を失った者もいた。中には、まるで巨大な力がその存在そのものをねじ曲げたかのように、螺旋状に歪んでしまった者もいた。彼は懸念を抱き、娘にはこのようなことは到底できないと改めて悟った。しかし、あるものが彼の目を引いた。
「!!!」
振り返ると、壁に突き出た氷の棘が目に入った。その瞬間、彼は娘がここにいたことを確信した。彼の表情は険しくなり、拳を固く握りしめ、呼吸は荒くなった。ローゼン王は最初に目についた兵士へと歩み寄り、そのヘルメットを剥ぎ取った。その死体を持ち上げ、彼はじっと見つめた……
「この……兵士……」
その兵士は人間だった。そしてローゼン王は、数多くの人間兵士の中でも、彼がごく少数の一人であることに賭けてもよかった。しかし、それによって彼には手がかりが得られた。重要な手がかりだ。
「……人間……」
ローゼン王は死体を放り投げ、空へと飛び立ち、一点に集中した飛行で基地を後にした。
……数日後……
オリンの船は、プツール星の軌道上で静止していた。
「おい、シルラ!「着いたぞ」とルパンは叫びながら、船内の兵舎を歩き回っていた。
ルパンはしばらく彼女を見つけられず、船内のあちこちへテレポートを繰り返していた。やがて天井を見上げ、彼女が何か奇妙な方法で這い回っているのではないかと疑い始めた。そうしていた矢先、うっかり誰かとぶつかってしまった。
「お、おっと、へへ、ごめん、えっと……」
ルパンの言葉は、自分が探していた人物にぶつかってしまったことに気づくと、途切れた。シルラは顔を向け、いつもの無表情な顔でルパンを見つめた。嬉しそうではないが、楽しげな表情だ。ルパンにとっては、時折不安に感じることもあったが、彼女が全く笑わないのを見るよりはましだった。そちらの方がもっと不安になるだろう。ルパンは船の窓の方を見渡し、ここが展望デッキだと気づいた。
「君、ここによく来るね」とルパンは付け加えた。
シルラはガラスに手を当て、惑星を見下ろした。ルパンもまた、一瞬その光景をじっと見つめた。惑星は光に満ちており、まるで誰かが宇宙とそこに浮かぶすべての星を凝縮し、星々が均等に輝く一つの小さな球体に変えたかのようだった。確かに、見とれてしまう光景だった。
「あ、あの……もう出発の準備は整ったよ。オリンがすでに、えっと……部下たちを送り出している」と、クラインが割り込んできた。
ルパンは彼女の方を向くと、再び惑星へと視線を戻し、船の格納庫からポッドがゆっくりと漂い出ていくのを見守った。
「彼の兵士の中に女性がいるなんて信じられるか? いや、あんな肩や腕をした女性なんて見たことないよ」とルパンは言い、クラインと共に船から降りていった。二人が遠ざかるにつれ、その会話はシルラの耳から次第に遠のいていった。
…
シルラはしばらく待ってから、ようやくデッキを離れ、次に格納庫へと向かった。
惑星の大気圏に到達すると、彼らはそれぞれ別の場所に着陸した。
「よし、みんな。これは戦いじゃない。我々はここに溶け込み、やがて待ち合わせ場所でクラインと合流するんだ。でも覚えておいて、何か見かけたら、すぐに報告することだ」と、オリンはテレパシーで伝えた。
街に着いたシルラは、そこが実に……暗く、それなのに非常に明るいことに気づいた。常に明かりをつけ続けなければならない惑星にいるなんて、想像もつかなかった。空は真っ暗で、まるで大気の上に降りかかってくるかのように、ほとんど実体があるかのように感じられる惑星だった。
「もしロイリエ星が人間だったら、『もっと頑張れ』って言ってやるね」と、シルラの隣に現れたルパンが言った。
「へっ、もっとマシなのも、もっとひどいのも見たことあるわ」と、シルラは鼻で笑った。
シルラは通りへと進み、ルパンと共に明るい場所へ足を踏み入れた。二人はフード付きパーカーを着ており、そのスタイルはこの惑星特有のパンク調の雰囲気にぴったりと溶け込んでいた。シルラはうつむいたまま歩いた。ドラゴンが明らかになる前も後も、彼女の名声ゆえに、人々の注目を自分からそらそうとしていたのだ。ルパンは前腕をシルラの頭の上に置いた。彼女の身長は5フィートで、それに比べてルパンは7インチほど背が高かった。
「で、どこへ向かうんだっけ?」
ルパンが尋ねた。
シルラは顔を上げ、彼の腕をつかんで頭から押し除けると、尾で彼の腹をバシッと叩いた。彼女は遠くにある建物を指さした。
「クライネはもうすぐそこに着くはずよ。ルパン、目立たないようにしなきゃ」とシルラは小言を言った。
シルラは目的地に向かって歩き続け、冷たい通りをさまよっているうちに、ルパンは通りの反対側を歩いている男たちのグループに気づいた。彼らから何人かの視線を感じたが、そのほとんどがシルラに向けられていることに気づいた。シルラは、これ以上顔を見せないようにと、わずかに顔を背けた。
男たちは酔っているようで、依然としてシルラを頭からつま先まで、前から後ろまでじろじろと見つめていた。彼らとすれ違った時、ルパンは怒りを含んだ表情で彼らを振り返った。
「いいデートだな、兄弟。そのパーカー姿、二人とも似合ってるよ」と男は言った。
普段なら、シルラが恥ずかしがっているだろうと想像して、ルパンはそれを面白がっただろう。しかし、シルラは彼らの言わんとしていることが分からず、ただ前へ進み続けた。ルパンは初めて彼らの勢いに乗らず、シルラの少し前に立ち、彼らの視線を他へそらすようにした。彼らが何を見ているのか、ルパンには分かっていたからだ。
ルパンは、シルラが特に気にしていない様子を見て、彼女の方を向いた。
「へっ、お前の氷は、お前のユーモアと同じくらい固いな」とルパンは言い、いつもの茶目っ気を振りまこうとした。
「あなた、たまに面白いわね」とシルラは言った。
ルパンは、彼女が少し見下したような口調で言っていることは分かっていたが、彼女にとって自分が少しでも面白い存在だと思われたことで、最近は絶好調だと確信した。二人が通りを歩き続ける間、ルパンは
1、2秒おきに、遠くに見える高層ビルの方をちらりと見ていた。ここは確かに明かりに包まれた惑星であり、他の惑星と比べれば、まるで一つの巨大な都市のようだった。
…
「黙っちゃったね」と、シルラが沈黙を破って言った。
しばらくして、シルラは彼の足音がもう自分の後ろに響いていないことに気づいた。
「ルパン?」
シルラは、彼が立ち止まったのか確かめるために振り返った。驚いたことに、彼の姿はなかった。
ガシャン!
シルラは物音がした方向を振り返った。いくつかの物が倒れる音が聞こえ、その音は彼らの真向かいにある店からだった。結局のところ、シルラは、まさにこういう瞬間があるからこそ、彼に興味を持っているのだと分かっていた。もう少し静かにやってくれればいいのに……。
「へえ、ここできらきら光るものが見えたような……まあいいや」ルパンは商品をあちこちに放り投げると、何事もなかったかのように歩き出した。
一方、クラインとオリンはようやく待ち合わせ場所にたどり着いた。
「全部持って行かれた……」
クラインは自分の工房を見つめながら、沈んだ声で言った。
「建物の地下までどうやって君の居場所を突き止めたんだ? ここはめちゃくちゃだ」とオリンは言った。
彼女の小さな研究室は、がれきとまではいかないものの、すべてが床に散乱しており、最も大切なガジェットや品々は消えていた。
「わからない……もしかすると、私が彼らを監視していたよりもずっと前から、彼らは私を監視していたのかもしれない。それとも……もしかして、これをやったのはあいつらじゃなかったんじゃないの?!」
クラインは叫び、作業場の前で泣き言を言いながら膝をついた。ちょうどその時、ルパンが彼らの隣に現れた。肘をオーリンの肩に預け、空いた手でストローをくわえて飲み物をすすっていた。
「うわっ、これ、俺の家よりひどいぞ。家があった頃の話だけどな」とルパンは言った。
一口飲んだ後、彼はそれをオリンの方へ差し出した。
「飲むか?」
ルパンが尋ねた。オリンは彼を突き飛ばして地面に倒し、その直後、シルラがようやく工房に駆けつけた。
ルパンが首を絞められている現場に飛び込んだシルラは、ゴミを飛び越えながら実験室を見渡した。床には工具やゴミ、正体不明の液体が散乱しているだけだった。
クラインはゆっくりと立ち上がり、すべてが台無しになったと悟ると、頭に浮かんだのはほんの数つの案だけだった。
「もしかして、その装置に追跡装置みたいなもの、付いてない? それならきっと奴らの居場所がわかるはずよ」とシルラは言った。
「あったらいいんだけど。そんなこと考えたこともなかったよ、へへ……えっと……」
クライネは緊張した様子でそう言うと、他のメンバーの方を振り返った。彼らの表情は明らかに不満そうだった。その時、彼女にひらめきが走った。
「待って! 埠頭周辺に手がかりがあるかもしれない! 何しろ、彼らが狙っている貨物がまだ残っているかもしれないんだ!」
クライネは叫んだ。
「その通りだ。それが最善の策かもしれない」とオリンは答え、ルパンから手を離した。
「先導してくれ」とシルラは言い、クラインが三人を率いて進むのを待った。
クラインの表情は、期待に応えられなかったという恥じらいから、まだ解決策が見つかるかもしれないという希望へと変わった。
一行が埠頭にたどり着くと、ルパンは木箱から木箱へとテレポートを繰り返しながら、時折コンテナを覗き込んでいた。
「おい、奴ら、本当にここまでお前を連れてきたのか? 周りをうろついている奴が一人もいないなんて、意外だな」とルパンは言った。
……しばらくして……
しばらくの間、一行は貨物埠頭全体を見渡しながら延々と捜索を続けたが、やがて全員が短い休憩を取り、疲れ果ててそれぞれのコンテナにもたれかかり、退屈そうな表情で荒い息をつき、はあはあと息を切らしていた。
「もう永遠にやってる気がするよ!クライン、君の熱意は評価するけど、彼女ならこの作業を全部片付けてくれるだろうな。腹が減ったし、オリンなら左手だけで済むはずだ」とルパンは、自分の手袋を見ながら言った。
…
誰も何も言わなかった。
クラインはさらに数秒間、ドックの上を浮遊し続け、ある興味を引くものを見つけた。クラインはマスクを装着し、ある特定のコンテナをじっと見つめた。ルパンは彼女を見上げ、そのマスクを付けた彼女は、特にこのような暗闇の中では、とても不気味だと気づいた。
「えっと……何か見つけたんだろ?そのマスク、何か良い意味があるといいんだけど」と、ルパンは少し怯えた口調で尋ねた。
もし自分が彼女と戦う平凡な手下だったら、絶対に嫌だ。だって、気絶したり死んだりする直前に、あのマスクを見るなんて、彼にとって最も避けたいことだからだ。
「何か見つけたわ」とクラインが言うと、仲間たちは彼女の発見に眉を上げて、彼女のもとへ集まり始めた。
クラインはマスク越しに、特殊な技術なしでは解読できない言語に気づいた。
「あの記号、ラグーンだわ! クライン、感心したわ」とシルラが言った。
クラインがコンテナのほこりを払い落としている間、ルパンは中にあるものを確認するためにコンテナの中にテレポートした。大したものはなく、武器や防具の入った木箱がいくつかあるだけだった。ルパンは肩をすくめて外に出てきた。オリンとシルラは、彼の調査が実を結ばなかったことを知り、不満げな表情で彼を見上げた。しかし、クラインは極めて重要な点に気づいていた。
「ここに座標がある! 奴らはこれをどこかに運ぼうとしていたんだ、みんな! ……正直、見覚えはないけど、かなり遠い場所みたいだ」とクラインは言った。
「へえ、そのマスクで他の言語も読めるの? 声変え機能もついてるのかな……」
ルパンが付け加えた。
「さあ、みんな行こう。部下を集めて、作戦を練るよ」とオリンは言い、宇宙へと向かい始めた。
「まあ、仕方ないな。さよなら、夜の街よ」とルパンは言い、姿を消した。他の者たちは船に集結し始めた。
……その頃……
ロイリエ星では、兵士たちがパトロールを続け、住民に夜間外出禁止令を課し、スラム街の通りが人影一つない状態であることを確認していた。ロイリエに夜が訪れる中、着陸地点にある船内で、ある特徴的な警報音が鳴り響いた。兵士たちは素早くドックへと駆け込み、隊列を組んで、誰が惑星の軌道に接近してきたのかを確認する準備を整えた。
「やっとか。あの新任の司令官がここへやってくるのも、そろそろいい頃だ」と、一人の男が言った。
同じ哨戒ポストに立つ別の兵士は空をじっと見つめ、何かがおかしいという直感を抱いていた。
「ああ、君の言う通りだといいんだけど……」
兵士たちは疲れ切っていた。戦争の噂を耳にして外へ出ようと必死で、混乱し怒り狂う民間人たちに一日中対応し続けてきたような気分だった。大気圏に接近してきた船はリクテル製のデザインであり、武器は依然として船に向けられていたものの、兵士たちの握る力が急に緩んだ。
…
ハッチが開き、制服姿の男が二人の兵士を従えて船から降りてくるのが見えた。それは司令官だった。残りの兵士たちの不安な心に安堵が漂い、彼らは新しい司令官を出迎えた。
「一瞬、心配したよ! 王様が去って以来、軌道に誰かが入ってくるなんてなかったし、 厄介な事態にはなりたくなかったんだ。こいつらは立ち去りたがっているし、ここに来る者全員には注意を払わなきゃならない」と兵士は言った。
「もう大丈夫だ、兵士。ローゼン王が、この馬鹿げた事態を乗り切る手助けをするよう、私を派遣してくれた。ラグーンの近況は?」
「いいえ、司令官」と兵士は答えた。
「へっ、ほらね? 心配しすぎだったよ」と、兵士は相棒の肩を軽く突いた。
その哨戒ポストに立つ二人の男は、人間の二面性を体現していた。一方は安堵している一方で、もう一方は何かがこちらに向かってきているという不吉な予感を拭いきれなかったのだ。兵士は深呼吸をして、気持ちを落ち着かせようと決心した……しかし、再び警報が鳴り響いた。
「え、えっ?」
指揮官は船の方を見やった。自分が乗ってきた船でさえ、警報を鳴らし続けていた。
「…誰かと一緒に来られたんですか、指揮官?」
一人の兵士が尋ねた。
「いや? 何を言ってるんだ、小僧?」
と指揮官は言った。
「故障だろう」と兵士たちは呟いた。
調査を始めると、何度更新しても、何度確認しても、警報が真実を告げていることに気づいた。確かに、一隻の船が大気圏に突入しようとしていた。見張りの兵士は銃を握りしめながら震え、その感覚が強まるにつれて胃が締め付けられるような感覚に襲われた。指揮官はそれに気づき、部下たちの間に恐怖が広がっていることを悟った。
「全員、準備しろ。これは『ラグーン』かもしれない。全兵士、俺について来い! 2人は空へ出ろ!」
命令が下され、恐怖という暗い虚無を照らすような、ある種の守護的な権威が示された。兵士たちが船に乗り込もうとしたその時、誰かが叫んで彼らの動きを止めた。
「待て! これは『ラグーン』じゃない! ごく普通の船だ。民間人の船かもしれない」と、兵士は安心させようとした。
…
指揮官は依然として警戒を解いていなかった。
「誰も動くな」と彼は言った。
一方、先ほど安堵していた兵士は、刻一刻と恐怖に駆られ、やがて空に向かって叫ぶと、船へと一直線に駆け込み、空の状況を確認していた男を押しのけた。本能的な動作で、彼は船の兵器から4発のエネルギー弾を発射し、降下してくる船を空から撃ち落とした。船は空から落下し始め、燃え上がりながら惑星の硬い地殻へとまっすぐ向かっていった。恐怖のあまり自分の行動を今になって理解した兵士は、これが無実の民間人だったかもしれないこと、その船に子供が乗っていたかもしれないという可能性に、罪悪感に苛まれた。
「 「何て言ったんだ、この馬鹿め!」
指揮官は叫び、兵士の腕を掴んで顔を突き合わせた。彼の良心には、数人の罪のない犠牲者の重みがのしかかっているかもしれない。指揮官は兵士を壁に押し付けると、船から立ち去った。指揮官が生存者の有無を確認するために兵士たちを派遣する中、兵士からは呟き声が聞こえた。
兵士は膝をついた。
「俺、人を殺してしまったかもしれない……それなのに、なぜこれほど揺るぎない恐怖を感じ続けるんだ?」
兵士は混乱していた。
遠くからその様子を見守っていた指揮官は、苛立ちを込めて首を振り、家の中から遠くを見守っている人々にも気づいた。見苦しい光景だった。
「空っぽです、司令官! ここには何も、誰もいません! どう命じますか?」
その報告を聞き、指揮官は戸惑いながら振り返った。もし設定された座標へ自動操縦で向かっていたのなら、何かを積んで到着しているはずだ。もし誰も乗っていなかったのなら、一体何のためにここに来たのか? それはリクテル号でもラグーン号でもなかった。
「これを片付けて――」
兵士が司令官への報告を終える前に、彼は真っ逆さまに地面に倒れ込み、夜の闇へと引きずり込まれた。船の炎は一瞬にして消え失せた。悲鳴は呻き声へと変わり、その直後、肉が引き裂かれるような音が響いた。
指揮官は、その「愚か者」の兵士が感じたのと同じ恐怖を覚えた。仲間の姿を消えゆくのを見守っていた他の者たちも同様だった。兵士たちは一斉に闇に向かって武器を構え、指揮官も背中に背負った斧を掴んで身構えた。その斧は黄金色の光に包まれていた。しかし、輝く武器の明るささえも、闇に潜むものを照らし出すことはできなかった。その時、彼らはその音を聞いた。
…ガチャン…
足音…
足音…
足音。
鎖が地面をこする音が響き、大きな足音が兵士たちの集団に近づいてきた。光の中へ完全に姿を現すと、黒い鎧とマントをまとった長身の男が現れた。その背中にはサメのようなひれがいくつも生えており、腕の方まで伸びていた。フードの下には、目がないように見える男がいた。まるで骸骨を直視しているかのようで、目玉のくぼみは闇に包まれ、光は微塵も宿っていなかった。その顔は焼け焦げたように見え、説明のつかない傷跡が刻まれていた。彼らの目の前に現れたその怪物には口がなく、頭蓋骨のような歯だけが並んでいた。
空気が重くなり、兵士たちは息苦しさを感じ、その出現とともに恐怖が彼らの魂に忍び込んだ。その瞬間、指揮官は男の鎧の胸元に刻まれた紋章に気づいた。この怪物は「ラグーン」の一員だった。彼は歯を食いしばり、斧を敵に向けて構えると、突撃した。
「発砲せよ!」
指揮官が叫ぶと同時に、ブラスターの弾幕が鎧の男を襲った。彼は片腕だけを空中で一振りすると、自分に向かって放たれたすべてのレーザー光線が鎖の環に絡め取られ、その鎖がすべてをその場に固定したかと思うと、彼は完全に姿を消した。
兵士たちはその驚異的な速さに戦慄し、彼が消えた場所を探そうと後ずさり始めた。すると、またそれが現れた……
キーッ……
鎖が地面を引きずり、きしむ音が響いたが、それがどこから来たのか誰にも分からなかった。兵士たちは一瞬動きを止め、額から汗が滴り落ちる中、皆が同じ考えを抱いた。「今夜、俺たちは死ぬのか?」
船の上から、目のない怪物が鎖を掲げて空を切り裂くと、先ほど兵士たちが放ったブラスターの弾幕が、まるで空爆のように兵士たちの上に降り注いだ。
「 ンガッ!—」
指揮官は船を見上げ、斧で飛来する砲火を素早く遮り、そらそうと試み、できるだけ多くの兵士を救おうとした。改めて確認すると、あの尽きることのない男はもはや彼らの頭上にはいなかった。
「どうやら、あの『ベール』は鎖で攻撃を反射する仕組みのようだ!このままでは攻撃できない!散開しろ、そして爆発物を使え」と指揮官は叫んだ。
兵士たちは通常の手榴弾に持ち替え、中にはより大型の武器に切り替える者もいた。散開し始めると、彼らを追い詰めていた存在の影から少しは逃れられたように感じた。しかし、その状況は一瞬にして一変した。二方向から、二人の男が闇へと引きずり込まれ、まるで叫び声がこもっているか、あるいは完全に消されたかのように、二度と彼らの声は聞こえなくなった。
そして、また、それが現れた。
…カタン…
足音…
足音…
足音。
指揮官は恐怖と疑心暗鬼に駆られ、自分の目に見え、耳に聞こえているものがもはや現実なのかどうかも判別できなくなっていた。指揮官は振り返り、サメのような巨人がどこに潜んでいるのかを確認した。その瞬間、スラム街の向こう、冷たい通りをまっすぐ進んだ先の中央に、何かを手に持った人影が立っているのを確かに見たと確信した。それは頭のように見えた。司令官は目をこすったが、その瞬間のまばたきの間に、まるで幻影だったかのように、その姿は消えていた。
「助けてええっ!――」
ある男が首を掴まれ、鎖が喉に巻き付くや否や、大きなパキッという音が静寂を破った。司令官が振り返ると、兵士の体はすでに力尽き、船の翼からぶら下がっていた。
「臆病者め! 俺と戦え!」
指揮官は叫んだ。自身の混乱に対する怒りにもかかわらず、彼は依然としてこの化け物と正面から戦うことを恐れていた。軌道に入った当初から鳴り響いていた警報は止むことなく続き、指揮官は目を閉じ、空いている手を耳に当てて、誰もそれを止めていないことに気づいた。
兵士の数は少なく、彼の左右にはほんの一握りの男たちが立ち、暗闇の中であちこちと必死に狙いを定めていた。彼は斧をしっかりと握りしめ、深く息を吸い込んだ。そして、その直後、彼は望んでいたものを手に入れた。
鎧をまとった男が再び光の中へ踏み出すと、即座にすべての兵士が射撃を開始した。今度は彼はじっと立ち止まり、すべての弾丸が彼めがけて飛んできた。その瞬間、レーザー光線は跳ね返され、彼の鎧がそれらを空へと弾き飛ばす中、彼はさらに一歩前進した。その光景を目の当たりにした兵士たちは、衝撃と沈黙に包まれた。
…
黒衣の男は前へ飛び出し、戦場を蹂躙し始めた。素手だけで兵士たちを次々と倒していく中、指揮官は斧を振りかざして踏み込んだ。指揮官の斧は鎧には当たらず、自軍の兵士の体に直撃した。その間、フードを被った敵は、まるで兵士を人間の盾のように利用するかのように、その背後に視線を向けていた。
「お前…!」
指揮官の怒号は、鎧が貫通されたことに気づいて途切れた。彼は下を向くと、これが以前のような幻影ではないことに気づいた。血が滲み出る中、数歩後退し、指揮官は腹を押さえ、内臓が飛び出さないように必死で耐えた。指揮官の頭上をもう一振りの斧が振り下ろされ、鎖が空を切り、残りの兵士たちへと向かった。こうして、彼だけが最後に残された。指揮官はゆっくりと顔を上げ、死を直視した。
「ちっ……ラゴーンが、この戦争に勝つことなどあり得ない!」
鎧をまとった男は黙って立っていた。彼はひざまずいて倒れた指揮官をじっくりと見つめ、その瞬間、左手を指揮官の腹部に突き刺した。指揮官は痛みに目を大きく見開いた。男は腕を勢いよく引き抜き、指揮官の腹から一握りの内臓を引きずり出した。痛みと苦悶の叫び声が夜空に響き渡った。指揮官から聞こえたのはそれだけだった。警報は果てしなく鳴り響き続けた。
……しばらくして……
一隻の船が軌道から離脱し、太陽が空に昇って惑星を照らし出すと、人々の群れが昨夜の惨劇を目撃しようと集まってきた。悲鳴、手榴弾、ブラスターの銃声の後、スラム街全体が好奇心に駆られていた。警報は依然として耳をつんざくほど大きく、惑星の他の地域ではほとんど誰も眠れなかった。そして彼らが着陸ドックにたどり着くと……
至る所に兵士の遺体が転がり、土や船には血痕が残り、首に鎖を巻かれた人々が船の翼からぶら下がっていた。そして、司令官の姿もあった。司令官は死んでおり、その遺体は岩にぐったりと寄りかかっていた。腹部から地面へと鎖が伸びており、それは腹部から引き裂かれて失われた肉片の代わりにあった。
誰も警報を止めようとはしなかった。虐殺の現場に近づくことさえ恐ろしかったのだ。人々が次々と集まるにつれ、群衆からは息をのむ声、すすり泣き、そして恐怖に満ちながらもこもった悲鳴が漏れ出していた。
ロイリエをパトロールしていたリクテル軍は、全滅していた。
終わり




