第2章 — カムバック
アッシュボーン:第2章 — カムバック
「ドラ…ドラゴン?!」
シルラは叫んだ。その声はひびき、獣の咆哮が宇宙の静寂を飲み込んだ。
獣は両腕を上げ、2本の黄金の稲妻を手にしたまま、両手を合わせる。ドラゴンはゆっくりと片方の手からもう一方の手を離すと、稲妻の弓と矢が現れた。
シルラは、稲妻の弓と矢を作り出すドラゴンを仰ぎ見ていた。やがてドラゴンは彼女を狙い定め、射る準備を整えた。ルパンの黄金の光が彼女の傍らに現れ、彼は彼女の腕を掴むと、素早くドラゴンの視界から身を隠した。二人が小惑星帯へと逃げ込むと、稲妻の矢は宇宙へと放たれ、静寂な宇宙に響き渡った。ルパンがドラゴンに発見されていないか確認するために振り返る間、シルラはドラゴンが存在するという衝撃的な事実から、徐々に我に返り始めていた。ルパンは彼女の方を向き、恐ろしいローゼン王の娘でさえ恐怖に震えているのを見た。彼自身も完全に衝撃を受けていたが、自分にとって最強の「味方」を戦線から外したくはなかった。
「なあ、君がここまで追ってきたのを見た時、すごくいいジョークを思いついたんだ。でも、あまりのショックで思い出せない。信じられるか?」
シルラは、その考えから頭を切り替え、この事態を把握しようと努め、苛立った表情でルパンの方を向いた。面白くなさそうな表情を彼に向けたその時、彼女は何かが近づいてくるのを感じ取り、集中しようと頭を向けた。
「わかった、じゃあ次は? もっと熱く行かなきゃね。覚えておくわ。わかった。で――」
シルラは隠れ場所からルパンにタックルを仕掛け、ほんの数秒後に飛来した別の稲妻から彼を遠ざけた。ルパンは、彼女がついさっき受けた恩をすぐに返したのだと考えると一瞬くすくす笑ったが、彼女が攻撃が来るずっと前にそれを察知していたことに気づいた。シルラはそこから飛び出し、凍てつく霧を背後に引きながら、戦いの渦の奥へと姿を消した。
「もう俺に借りはないみたいだな」ルパンはそう言うと、光の柱の中に消えていった。
ドラゴンの咆哮は、アリーナや岩々を風と振動で揺らし続けていた。シルラがドラゴンの視界に入るよう立ち上がると、彼女の掌に氷の球体が形成された。シルラはその球体を二つに割ると、ドラゴンに向かって放った。
獣は攻撃を受け、氷の球体が鱗の皮膚を貫き、ドラゴンの体を切り裂き始めた。獣はこれらの氷の球体を払い除けようと腕をばたつかせたが、やがてシルラが猛然と襲いかかり、両手に刃のような氷の造形物を構えた。一閃で、シルラは獣の胸に深い切り傷を負わせ、その鱗の鎧が氷の武器に貫かれるのを見届けた。
獣は苦痛に咆哮し、胸から血を流しながら、戦っていた岩の上に巨大な血の池を広げるように倒れ込んだ。獣は両方の尾を使ってシルラを叩き飛ばし、彼女は岩にぶつかり、さらに別の岩に激突して視界から消えていった。獣は怒りに満ちて唸ったが、その場からはまだ動こうとしなかった。頭を回して嗅ぎ回り、周囲をきょろきょろと見回していたが、顔面に投げつけられた岩によってその動作を遮られた。
「わかったよ。俺、強くないし。超カッコいい氷の技も使えない。でも、石を投げられないなんて誰が言ったんだ――」
ルパンの独り言はそこで遮られた。獣が地面に爪を突き立てると、その手全体が稲光に包まれ、岩を抉り出してルパンの方へ投げつけたのだ。
ルパンは驚愕の表情で岩を見つめると、その場から姿を消し、獣の真前に再出現した。怒りを露わに、ルパンは両手を振って、今かろうじて避けた岩を指し示し、叫び始めた。
「雷を使って武器を作れるくせに、子供じみて岩を投げたりするなんて?! 大人になれ!」
ルパンは、ドラゴンが岩を攻撃手段として使うという発想そのものに完全に反対しており、その仕草にすっかり軽んじられた気分になっていた。ドラゴンは唸り声を上げ、喉の奥に黄色い光が浮かび上がるのと同時に顎を開き始めた。口からは稲妻や静電気のような光が噴き出し、まさに攻撃を仕掛けようとしたその瞬間、巨大な氷の塊が獣の顎に投げ込まれ、口から放たれた稲妻の光線は軌道を変え、宇宙へと逸らされた。
ルパンを口から放たれる稲妻の光線から救うために駆けつけたシルラは、さらに別の攻撃を仕掛けた。5000フィートもの巨体を持つドラゴンに見合った大きさの、星形の氷の球体を形成したのだ。シルラは体をひと振りしてくるりと回転させ、尾で空気を切り裂き、その氷の星を鋭い先端から先に入らせるようにして、巨獣の腹部に直撃させた。
ドラゴンは、氷が自分の体に突き刺さるのを見て、痛みに悲鳴を上げた。しかし、その刺さった深さは、到底十分とは言えなかった。ドラゴンは自ら主導権を握り、体から氷の塊を引きちぎってアリーナの外へ放り投げると、頭を上げたその瞬間、上空からシルラがまた新たな攻撃を仕掛けてくるのを見た。ドラゴンは彼女に向かって爪を振り下ろしたが、何かがおかしかった。まるで何事もなかったかのように、二人の体は互いを通り抜けてしまった。その瞬間、ドラゴンは両方の尾に鋭い痛みを感じ、突然、苦痛の咆哮を上げた。
シルラはドラゴンの両方の尾を切り落としていたのだ。
「わ、わあ! まさか俺がドラゴンを騙せたなんて信じられない! すごいだろ? ねえ、シルラ、あの様子見た?」
ルパンはチームワークへの「ご褒美」として、腹に小さな氷の玉を食らった。彼は軽い痛みでうめき声を上げたが、やがてそれは痛みに耐えかねた笑い声へと変わっていった。
ドラゴンはシルラの背後から両手で彼女を掴み上げ、その体をぎゅっと締め上げた後、彼女の頭をかみ砕こうと構えた。
シルラは歯を食いしばって痛みに耐え、力を集中させながら耐え抜いた。やがて、彼女はベールのエネルギーをすべてドラゴンの手に放ち始めた。ドラゴンの手は徐々に霜に覆われ、凍りつき、やがて完全な氷へと変わった。シルラは、骨を砕きそうなほどきつく締め付けられていた握りが緩み始めるのを感じた。ドラゴンは下を見下ろし、自分の手が凍りついていることに気づいた。やがて、その巨大な獣がどれほど懸命に動こうとも、手は動かなくなってしまった。シルラはドラゴンの手の上からひと跳びしてドラゴンと向き合い、くるりと回転しながら尾で氷を切り裂き、完全に砕き散らした。その回転の勢いを利用して、ドラゴンの目めがけて氷の槍をトリックショットで放った。
ドラゴンは咆哮を上げてよろめきながら後退し、その両手は氷と血の塊となって地面に落ち、衝撃で砕け散った。片目を失い、二か所の傷を負い、両手を失ったドラゴンは、怒りに燃えて敵たちを見下ろした。ドラゴンはこの機会を捉え、二人に最後の一撃、致命的な傷を負わせようとした。ドラゴンは全身から稲妻を紡ぎ出し始め、翼を空へと掲げた。飛行を支える四つの翼は、その魔法のすべてを注ぎ込まれ、完全に黄色く輝き始めた。
シルラは素早く地面から飛び立ち、その場から飛び去った。一方、ルパンは得意の技を駆使し、迫り来る攻撃を避ける最後の試みとしてその場から姿を消した。しかし、このドラゴンの怒りが露わにした生々しい凶暴さから逃れるには、二人とも手遅れだった。シルラとルパンは即座に攻撃を受け、ドラゴンの血と切断された両手が散らばる水たまりに倒れ込み、苦痛に身をよじりながら地面を転がり、雷撃に打たれた。ドラゴンは、二人が生きてはいるものの意識を失っていることに気づき、注意深く見守った。
ドラゴンは立ち上がったかと思うと、二人の隣に倒れ込み、疲れ果てて頭を彼らの体のすぐ横に預けた。ドラゴンは彼らの運命を決めるまでしばらくくつろいでいたが、再び空気を嗅ぎ、頭を向けると、遠くにかすかな光が見えた。
ドラゴンは目を細め、自分に向かってまっすぐ飛来する紫色の光の球を捉えた。ドラゴンは素早く立ち上がったが、反応する間もなく、その紫色の光の球は腹部の傷口にまっすぐ突き刺さった。ドラゴンが下を見下ろすと、光の球が腹部に入り込んだ瞬間、血が渦を巻いて紫色の球に吸い込まれるだけでなく、内臓や肉までもが吸い込まれていくのが見えた。まるでその体が一点へと内側に陥没していくかのようで、骨もひずみ、軋み、そしてこの紫色の球体へと砕け散っていった。ドラゴンにはその球体を取り除こうとする腕もなく、そもそもそれが可能かどうかさえ確信が持てなかった。ドラゴンは宇宙空間へと血を吐き出し、やがて岩の上を転がりながら咆哮をあげ、銀河の暗い深淵の中で最期の息を引き取った。
ドラゴンが倒れると、数人の仲間を従えた一人の男が、シルラとルパンの容態を確認するために飛び降りてきた。この謎めいた男は、先ほどまでドラゴンがじっとしていた場所に横たわる二人の遺体の横を通り過ぎた。彼は一つの箱を見つけ、それを手に取って開けてみると、中には星がぎっしりと詰まっていた。それは、シルラとルパンの懸命な努力に対する報酬として与えられた通貨だった。彼は振り返り、部下が二人の遺体をアリーナからゆっくりと運び出すのを見守ると、続いて彼らに続いて宇宙へと飛び立っていった。
その最中、ドラゴンの血がゆっくりと岩を完全に覆い尽くし、ドラゴンが鎖でつながれていた場所へと滲み戻っていった。その血は、戦闘中もその直後も誰の目にも留まらなかった楕円形の光に到達した。それは、血が表面に触れたことでわずかにひびが入った卵だった。
…しばらくして…
「うっ……ちっ……」
ルパンはゆっくりと目を開け、周囲を見回した。冷たく暗い部屋で、一筋の光だけが差し込む床に、自分が縛り付けられていることに気づいた。この感覚は、彼にはあまりにも馴染み深いものだった。ルパンが顔を向けると、自分が縛り付けられている相手は、他ならぬシルラだった。その瞬間、ルパンの目が大きく見開かれ、顔にニヤリと笑みが浮かんだ。
「思い出したぞ! えへん。お前、やっぱり慈善活動やってるんだな? 俺を思うがままに操ってるってわけか? 好きにしろよ」とルパンは言った。
ルパンはしばらく黙って座っていたが、彼の冗談があまり受けなかったことは明らかだった。
「おしゃべりね」とシルラは言った。
シルラはゆっくりと体を起こし、この縛られた状況など子供だましに過ぎないことに気づいた。それでも、彼女はすぐに逃げ出す決心はつかなかった。
「で、えっと、ここから脱出させてくれるの? それとも?」とルパンが尋ねた。
シルラは歯の間から「シーッ」と声を漏らし、彼に静かにするよう促した。部屋の暗闇から、足音がゆっくりと近づいてくるのが聞こえたからだ。パキッという音が響き、突然、紫色の光の球が現れ、部屋の最も影の濃い隅々までが、暗闇から薄暗い光に包まれた。赤い肌をしたがっしりとした男が、その光の球を指先で浮かべたまま、ゆっくりと彼らに近づいてきて、口を開いた。
「ローゼンの娘、そして彼女の…… 手下。お前たち二人、なかなかのショーを見せてくれたな」と、謎の男は言った。
「一体、どなたとお話ししているのですか?」とシルラが尋ねた。
「で、俺の金はどこだ?! あれを手に入れるために、本当に苦労したんだぞ!『ドラゴンと戦ったことあるか? 俺はドラゴンと戦ったことがある。シルラ、このクソ野郎、見てるか? こいつ、ドラゴンと戦ったことなんてない――』
男は二人の横を回り込み、ルパンの頬を平手打ちした。そして再びパチンという音が響くと、紫色の球体は部屋の隅へと飛んでいった。その隅から星の詰まった箱が現れ、ゆっくりと球体の影響圏へと引き寄せられていった。パチンという音と共に、 オーブは消え、男はルパンを見下ろした。ルパンは当然、それに対してニヤリと笑った。シルラはこの状況から抜け出そうとしていたが、彼の力の真の規模を把握できているかどうか、躊躇していた。
「俺の名前はオリンだ。お前たち二人には、相応の星を分け与えてやる。だが、あの化け物との戦いは見ていたぞ。一瞬、『一体どんな馬鹿がドラゴンと戦うなんて狂ったことをするんだ?』と思ったよ。ところが、よく見たら、スクラップヤードのチンピラとローゼン王の娘だったなんてな!」
」と、オリンは笑いながら言った。
「……あなたがそれを倒したのね? だから星をもらえたわけね」とシルラは言った。
ルパンの表情は、明らかに嬉しそうだったものから、完全に苛立ったものへと一変した。
「おっ、いいね。ただ戦っただけじゃなくて、倒したんだ。おめでとう」と、ルパンは気乗りしない様子で言った。
「 「ああ、心配するな。噂はあっという間に広まったよ。君がとどめを刺したわけじゃないけど、ドラゴンが銀河を徘徊しているって話だけでなく、シルラと『つまようじ』の二人が一匹を倒したって話も、みんなに知れ渡ってる」とルパンは言った。
シルラはルパンのその言葉に鼻で笑いかけたが、心の奥底で何かが気にかかっていた。この件について、父と話し合わなければならないと彼女は分かっていた。
「それは素晴らしいけど、そろそろ出発したいの。あの子、すごくかっこいい船をそこに置いてあるし――」
オルインが話を手短に済ませようと決めたため、ルパンの言葉は遮られた。
「君たちの船は破壊されたよ」とルパンは言った。
シルラの胸は締め付けられた。部屋を飾り付けたすべての努力が無駄になったと悟ったのだ。彼女は敗北感に打ちひしがれ、ゆっくりと頭を下げた。一方、ルパンは自分の船がどう破壊されたかなど、あまり気にしていない様子だった。しかし、ルパンはシルラの沈黙に気づいた。それは……あまりにも「静か」だった。
「あ、大丈夫だよ、シルラ!元気出して!きっと俺たちは――待て、誰が彼女の船を破壊したんだ?俺たちはここにどれくらいいるんだ?!」
ルパンは、ローゼン王の技術や造船物に手を出すほど勇敢な者がいることに、今になって気づいたのだ。
「一週間…… 「最近、君たち二人はラグーンの標的になりつつあるんだ。船の様子から、一瞬君たちが彼らの一味かと思ったけど、あの組織の鎧も着てないし、みすぼらしい密輸業者みたいだった。でも、俺たち三人には共通点があるんだ」とオリンは言った。
シルラは怒りで、彼の次の言葉を聞く気すらほとんどなかったが、オリンから有益な情報を聞き出せなくなるのを避けるため、なんとか自制した。
「取引を提案する。俺が君たちの命を救う見返りに、二人は俺が『ラグーン』との因縁を清算するのを手伝ってくれ。一人はしばらく彼らの目につかないように隠れ、もう一人は痛快な復讐を果たせる。俺たちは皆、彼らの標的だし、彼らは明らかにローゼン王の血筋や権威など意に介していない。どうだ?」
ルパンが尋ねた。シルラはしばらくオリンをじっと見つめた後、ロープを凍らせ、氷に変わった瞬間に粉々に砕いた。ようやく自由の身となった彼女は、体や手足を伸ばし始めた。一方、ルパンは静かに星の宝箱の方へ忍び足で近づいていった。シルラは、ルパンが先ほど「私たち」と言ったことに気づいた。それは、彼が今や彼女の味方になる意思があることの証だった。彼女は再びオリンの方を向き、手を差し出した。
「そうよ、オリン。私たち二人とも参加するわ。あなたの考え方が気に入ったから」とシルラは言った。
オリンは彼女の手を握って握手し、その瞬間、二人は目と目を合わせながら、この一時的な同盟を結んだ。
…その頃……
…リクテル星……
「ドラゴンだ! ドラゴンが、戻ってきた!しかも、奴らは俺たちに怒っている!」
ある男がリクテルの街中を走り回り、恐怖に駆られて皆にその知らせを叫び続けていた。そしてほんの数分後、この情報は惑星全体に瞬く間に広まった。
ローゼン王の執務室では、誰かが必死に入室を求め、ドアを叩く音が聞こえていた。ローゼンは執務室のドアの向こうからの騒ぎに顔を上げ、その切迫した様子に少々苛立ちを覚えた。
「入っていいぞ」とローゼン王は言った。
ローゼン王がドアの向こうにいる人物を招き入れると、普段は賑やかで秩序が保たれているはずの街が、今や人で溢れかえり、混沌としている様子が、視界の端に映った。ローゼンは即座に、何かが起きていることを悟った。兵士がドアを突き破って飛び込んできて、入ってきたのと同じ勢いで片膝をついた。
「ローゼン様。娘様と、ロイリエ星から迷い込んだ者が……ドラゴンを倒したという報告が入りました」と、兵士は怯えた声で呟いた。
「何だと?! 娘はどこだ?」
ローゼン王は尋ねた。
「……分かりません。調査に駆けつけた時には、娘様の船の残骸と焼け焦げた破片しか見当たりませんでした。『…ラゴーンが何らかの関与をしているのではないかと考えております』」と兵士は言った。
「ラゴーンだと?」
ローゼン王は机を拳で叩きつけ、怒りを込めて兵士を睨みつけると、机を回り込んでゆっくりと出口へと向かった。執務室を出る直前、彼は兵士の方を振り返った。
「部隊を準備せよ。我々は戦争に突入する」とローゼン王は言った。
「だ、でも国民はどうするのですか? 惑星は混乱状態にあり、政治家たちでさえ人々を落ち着かせるための手を打っていません! むしろ、彼らもこの事態にパニックになり始めているのです」と、兵士は心配そうに言った。
ローゼン王は苛立ちを込めてうめき声を上げた。国民を落ち着かせるような時間など、自分にはないと確信していたからだ。何しろ、娘が行方不明であり、その件には『ラグーン』が関わっているのだ。
「私の船を準備せよ」とローゼン王は言った。
……しばらくして……
集会の周囲には人だかりができ、公聴会には絶え間なく群衆が押し寄せ、会場の至る所からささやき声が聞こえていた。ちょうどその時、ローゼン王が演壇へと歩み寄ると、ささやき声は静寂へと変わった。ローゼン王は民衆を見渡すと、そこには恐怖、好奇心、絶望、そして希望への渇望が混在していた。ローゼン王は、彼らを安心させなければならないと悟った。
「皆さんがこのニュースに動揺していることは承知している。私も同様だ。私の娘が行方不明となり、静寂と平和が続いていた時期にドラゴンが再び姿を現した。新たな知見が得られる一方で、悲しみもまた私たちに付きまとう。しかし、私は皆さんに、私という王、そして皆だけでなく、このような脅威からすべての人々を守るために銀河へと進軍するすべての兵士たちに、信頼を託してほしいと願う。」
群衆の表情は、次第に険しく陰鬱なものから、希望と幸福の兆しへと変わっていった。演説が続く中、宇宙船が次々と空を舞い上がり、人々は一生に一度のこの瞬間に畏敬の念を抱いた。
「今日という日は、我々が捕らえられることを受け入れるのではなく、奪われたものを取り戻すために犠牲を払う日である。ラグーンは私の娘を人質に取っている。だからこそ、我々は彼らが二度と何ものも、誰一人として手に入れられないようにする。だから私、ローゼン王は、この戦時下において恐怖に囚われて生きるのではなく、希望と信仰を持って、皆でより明るい未来へと向かっていくよう、あなた方に切に願う」とローゼン王は語った。
ローゼン王は集まった人々からゆっくりと身を離し、やがて空へと完全に姿を消した。その存在の痕跡すら、一切残さずに。
……数時間後……
ルパンはオリンの船の兵舎で時間を潰し、必死の思いで手に入れた星の数を数えていた。足音が近づいてくるのに気づき、ルパンは星の数を数えることから注意をそらした。そして、それらを山分けし始め、ついに互いに離して片付けた。ルパンが振り返ると、シャワーから上がったばかりのようで、頭にタオルを巻いたシルラが立っていた。
「心配するな、君にはすごく大きな分け前をあげたぞ!」
ルパンは星を見せながら、自分の横に明らかに大きな山のお金を引き寄せ、小さな山を彼女の方へ押しやった。
シルラはルパンのほうを見やり、それから部屋の二段ベッドへと視線を移した。一週間前に自分が寝るつもりだった、かつては広くて綺麗で装飾も施されていた部屋が、もうなくなってしまったことが、彼女には本当に辛かった。楽しい日々がすべて無駄になってしまったのだ。シルラはため息をつき、タオルを床に投げ捨てると、二段ベッドの上段へと登っていった。
一方、ルパンは、彼女が武器や鎧、その他すべてのものを失ったことに落ち込んでいるのだと確信していた。再び雰囲気を和らげようと、彼は星をすべてかき集めて宝箱に戻し、お金だけを残してベッドから立ち上がり、口を開いた。
「えーっと、お金なんて気にしなくていいよ! 俺が大事に預かっておくから。その代わり……さっきあそこで、すっごーく美味しい料理が出てたんだ、本当に美味しかった。君のために一皿盗んできようかと思ったんだけど、あの人たち、どうしても我慢できなかったみたいで! 俺もね、へへ……」
シルラは彼に返事をせず、代わりに手のひらで氷の網を作り出し、彼に話しかけられても無反応を貫いた。
ルパンは別の話題を探そうと視線を横へ走らせ、頭の中で必死にオチを巡らせた。しかし、下から吹いてくる風を感じ、彼女が「ヴェール」を使っていることに気づいた。ルパンは黙ってその様子を見守った。
「一晩中、こんな調子なの?」
シルラが尋ねた。
ルパンは喜びで目を輝かせた。彼女の機嫌にもかかわらず、ついに何か言葉を返してくれたようだ。ルパンは肩をすくめ、ベッドにもたれかかりながら目を閉じ、腕を組んだ。
「一晩なんて、もっとずっと長く耐えられるよ」
シルラは部屋の隅に向かって氷の蜘蛛の巣を次々と放ち、隅に小さな氷の蜘蛛の巣でできたハンモックを作り始めた。作り終えると、シルラはその中に入り、横になった。彼女の尾は、宙に浮かぶベッドの外側に垂れ下がっていた。ルパンは感嘆の眼差しで上を見上げた。彼女のハンモックは、ヴェイルの使い道として実に独創的だと感じた。
「あの……それ、冷房機能付き? それとも、すごく寒い?」
ルパンが尋ねた。
「ええ、さあ、寝なさい」とシルラは言った。
彼女は体を横向きにして横になり、休息を取ろうとしたその時、ある悪臭に気づかずにはいられなかった。しばらくの間、静寂が続いたが、物音が聞こえてきた。やがて、彼は当然の権利であり、必要な入浴のために道具をまとめているのだと彼女は思った。しかし、彼がベッドの下段に座る音が聞こえた瞬間、その考えは覆された。
「さっきのことは取り消すわ、ルパン。さっさと風呂に入りなさいよ、もう貧乏じゃないんだから」と、シルラは苛立ちを込めて叫んだ。
「おいおい、もう少し寛大になってくれよ? ただちょっと星を数えてただけなのに……」
ルパンがそう言ったとき、金の入った箱はまだ箱の中にあった。あの物音が星のせいなのかどうか、彼女ならきっと気づいているはずだと彼は確信していた。ルパンは二段ベッドから立ち上がり、部屋を出て行った。天井の隅にある冷たいハンモックに、シルラ一人を残して。ルパンがオリンの船内を移動していると、ある場所に自分の姿が映り込んだ。その一瞬の光景で、彼はシャワー室を通り過ぎてしまったことに気づき、思わず数歩後ずさった。
ルパンは浴室に入ると、他に誰もいないことに気づいた。おそらくオリンの乗組員のほとんどが、同じ時間に寝ているのだろうと彼は推測した。中に入ると、ルパンは鏡を見て、明らかな違いに気づいた。彼は相変わらずひょろひょろした体つきだったが、普段ならこの時間には必ず鳴っていたはずの空腹のうなり声が、今日は聞こえてこなかったのだ。彼は鏡を見つめ続け、一瞬、この命がけの状況にあっても、それでも自分の人生を立て直すことができると嬉しくなった。特に、なんとか手に入れた金があればなおさらだ。
「 「そろそろ何か進展があるかもな? いや、誰を騙してるんだ。他にどこへ行くというんだ?」
ルパンは独り言のように冗談を言ったが、その気持ちは一瞬で消え去った。隠されたポッドや、宇宙へ飛び立てるような小型の乗り物を探して、手に入れた金を持って逃げ出すこともできたが、彼の本能がそれに抵抗していた。
「あと少しだ、ルパン。もうすぐ自由になれる」とルパンは言った。
…その頃……
..ロイリエ星..
着陸ドックでは、二人の兵士が待機しながら互いに雑談していた。この星は荒廃していたものの、銀河系全体にニュースが野火のように広がり続けていたため、少しばかり活気が戻っていた。一見平和が訪れているように見えたこの星に、三隻の巨大なリクテル艦が大気圏に突入していた。
「お、おい、上の方! あれは……!?」
警備兵たちは、空に広がる光景に動揺を隠せなかった。リクテル艦の上には、鎧を身にまとったローゼン王が立っており、艦は着陸ドックへと降下していた。警備兵たちは片膝をつき、ローゼン王の威厳に即座に屈服し、一斉に「陛下」と声を揃えて言った。
「ラグーンもここにいた。娘も、そして見知らぬ男も。何か知らせはあるか?」
ローゼン王が兵士たちに問いかけると、かつて活気に満ちていたロイリエのスラム街は、たちまち暗く、薄暗く、人影も消え去った。人々は皆、自宅へと散り散りになり、3隻の船から降りてきた兵士たちが惑星中に群がり、蟻塚の蟻のように隅々まで捜索を始めた。
「その浮浪者は、ただの泥棒、ルパンです。彼…彼は少し前にこの惑星から逃亡し、その後すぐに『ラグーン』も宇宙へと旅立ちました。それ…それ以上のことは何も存じ上げません…」
彼らはロゼン王の反応を恐れて、わずかに顔を上げた。ロゼン王は失望し、怒りのうめき声が彼らの骨の髄まで凍りつかせた後、船の方へと背を向けた。
「この惑星からのいかなる出発も禁止する。また、すべての入国者はリクテル軍による検査を受けること。まもなく司令官がここに到着する」とロゼン王は言った。
ロゼン王はその後、着陸ドックを離れ、軌道へと飛び去り、その去り際に激しい風を残した。惑星は今や監視下に置かれた。
……翌日……
……エルドルール惑星の軌道上……
シルラは船の展望デッキに立ち、その壮麗な姿を見せる惑星をじっと見つめていた。その惑星は、きらめく紫色の海と白い大地が広がっており、彼女が生きてきた中でめったに見ることのできなかった数ある惑星の一つだった。それを見て、彼女は、こうした状況にもかかわらず、最近ローゼン王から任務を任され、今のところここにいる人々だけが頼りだと改めて思い知らされた。
「えーっと……私たち二人とも、紫色の水ってどんな味なのか考えてる?」
惑星に接近する中、ルパンが沈黙を破って尋ねた。シルラは死を覚悟し、景色から目を背けた。その瞬間、彼女の尾がルパンの顔の前で揺れ、床を叩いた。
「死なないで」とシルラは彼に言った。
「ふん、俺が? こいつらは素人同然だ! ロイリエでの俺の姿を見ておくべきだったな」とルパンは鼻で笑った。
しばらくして、オリンはシルラとルパンがようやく司令室にたどり着いたのを見つけた。オリンは二人の方を見てうなずくと、部下全員に聞こえるよう大きな声で語りかけた。
「諸君、ラグーンとは決着をつける必要がある。皆も知っている通り、ローゼン王の娘とその……同志が同行することになる。今、彼女たちの姿は見えるが、彼女たちは我々を検知も視認もできない。先手は我々のものだ。攻撃する前に、あの迷い者が潜入する必要がある。我々が向かっていることを知られてはならない。だから、君たちは監視と乗っ取りを担当してくれ――」
「何だって? 俺は技術系じゃないし、そんなの全部無理だ!」
ルパンが口を挟んだ。
オリンは苛立ちながらため息をつくと、ある装置を掲げ、それをルパンの方へ投げた。ルパンはそれを見事にキャッチした。
「これを使え、この無能な馬鹿。やり方は俺が教えるから、捕まらないようにしろ」とオリンは言った。
ルパンがシルラの方を見ると、彼女はニヤリと笑いながら肩をすくめた。計画の重要な一環と思われる任務を任されたルパンを、彼女は助ける気など微塵もなかったようだ。
「彼が作業を終えたら、ポッドも船も投入しない。敵の装備の大部分を無傷のまま残すのが狙いだから、我々は単独で静かに急襲する。大気圏に突入しても、彼らはおそらくまだ我々に武器を向け続けているだろう。そこで、私の部隊が役割を果たす。この段階まで来れば、敵の技術や兵器の大部分は機能停止状態になっているはずだから、戦況は我々に有利になる。あとはただ――」
「待って、質問がある」とルパンが口を挟んだ。
「……はい?」
オーリンが尋ねた。
「あの惑星全体がこいつらで埋め尽くされているのか、それとも特定の場所を攻撃するのか? つまり、計画自体は悪くないと思うけど、自分がどこへ向かうのかよく分からないんだ……ここ……」
ルパンの話し方はだんだんと遅くなり、部屋の中のさらに多くの人々が、まるで彼が支離滅裂なことを言っているかのように彼を凝視した。彼は黙り込んだ。
……数分後……
ルパンは装置を手に持ちながら換気ダクトの中を這い進んでいたが、戸惑いながら立ち止まり、それをじっと見つめた。彼には、数字や文字が並んだボタンがいくつもあるようにしか見えなかった。それから下を覗き込み、換気ダクトの先には基地の内部へと続く扉があることに気づいた。ルパンはその場からテレポートし、物資の積まれた木箱の陰に現れた。ルパンは上を見上げ、再びその場からテレポートして建物の中へ入り、ようやく内部にたどり着いた。中に入ると、彼は角からこっそり覗き込んだ。その瞬間、彼はオリンが何か計画を立てていることを願った。
ルパンの期待に満ちた思いは、やがて押し寄せる静寂に飲み込まれ、やがて自分が暗闇の中にいることに気づいた。その時まで……
「おい」
ルパンは驚いて飛び上がった。オリンの声を聞いてはっとしたのだ。ルパンは覗き見をした後、見つからないよう素早くテレポートし、すでに惑星に到着しているかどうかを確認するために辺りを見回した。
「『ブループリント』って言うんだ、このバカ。俺のヴェールを使えば、相手の心の中で会話もできるんだ」と、オーリンは宇宙の彼方から言った。
「もっと早く教えてくれなかったのか? 何を探せばいいんだ?」
ルパンは尋ねた。
「制御室を探せ。そこに着いたら、その装置の扱い方を教えてやる」とオーリンは言った。
ルパンは基地の廊下を移動し始め、ある場所から別の場所へとテレポートを繰り返したが、やがてラグーン兵に捕まってしまった。
「一目瞭然だろう」とオーリンは言った。
ルパンは壁に押し付けられ、男がゆっくりとブラスターに手を伸ばす間、首を絞められていた。ルパンは男の顎に膝を突き上げると、腰からブラスターを奪い取り、最初の一発を放とうとした。
「ごくありふれた制御室に見える。至る所にモニターがずらりと並んでいる。部屋の壁の代わりに窓がある」とオリンは言った。
銃声が響く中、兵士とルパンは生死を懸けて戦っていた。その一方で、最も近くにいた兵士は別の兵士に気を取られていた。二人は長方形の装置を手に持ち、冗談を言い合いながら口から煙を吐き出していた。
「マジかよ、リクテルにいるあのバカどもは、ただの泥棒がシルラと共闘していたなんて本気で信じてるんだな」と兵士は言った。
「で、何と戦ったっていうんだ?! ドラゴンか?」
もう一人の兵士は爆笑で応じたが、突然咳き込み、その間にもう一人の兵士はあの「ガンデバイスのようなもの」をまた一吸いしていた。部屋の外からエネルギーの弾幕が飛び交い、そこではルパンが兵士の背中にまたがり、武器で絶え間なくその頭を叩きつけているのが見えた。
「これ、何て言うんだっけ? ウェープス?ラペス? マジで最高だな――」
「おい、あれは『ベイプ』って言うんだぞ。『ウェープス』って一体どんな名前なんだ? 『ラペス』なんて、どうやって思いついたんだ?」
「さあな。でも『ベイプ』だってバカげた名前だろ。どこからそんな名前を思いついたんだ? 『ベーパー』から? プフッ!」
…
二人の兵士は黙り込んだ。
「……へえ。やっぱり『ウェープス』なのかもな」
「いや、それより――」
天井の扇風機が兵士の頭上に落ちてきた。兵士は頭を押さえながら、背後に落ちたその「発明品」を見下ろした。
「おい、俺が任務に出ると、ここっていつもボロボロになるよな」と兵士は言った。
「とにかく、あそこを確認したほうがいい――」
ルパンが窓から死んだ兵士を突き飛ばし、すぐに残りの二人の兵士を撃ち倒したため、煙を吸っていた二人の会話は中断された。ルパンはようやく制御室にたどり着くと、荒い息をついた。
「ここ、天井の扇風機がすごく変なんだよ、ルパン。初めてここに来た時、頭をぶつけたんだ。ルパン、中にいるか? ルパン?」
「ここにいるよ、オリン。いるよ」とルパンは叫んだ。
ルパンは部屋の匂いに気づいた。果物を連想させる匂いだった。
「よし。あとは、あの装置を使って、その後その部屋を爆破するだけだ。俺の指示通りにやればいい。まずは赤いボタンから押せ」とオリンは言った。
「えっと……赤いボタンが二つある。この装置と、この制御室にある。監視システムまでここにあるなんて信じられるか? いつも別物だと思っていたんだけど」とルパンは言った。
「ちょっとだけ聞いてくれ、ルパン。みんな、準備を。シルラ、君は俺と一緒に先頭を切ってくれ」とオーリンは言った。
……数分後……
基地の外に立っていた兵士たちは、紫色に染まった空を見渡した。すると、何かがおかしいことに気づいた。設置されていた2基の砲塔が、まるで電源を切られるかのように動作を停止し始め、その他の探知装置もすべて同様に機能しなくなった。
「全員、警戒態勢を取れ。誰か空に上がって、そこに何かいないか確認してくれ」と、ある兵士が言った。
ラグーンの兵士たちが船へと駆け寄ろうとした瞬間、船の電源が入った途端にすべてが爆発し、遺体や宇宙ポッドの破片が空中に飛び散った。まさにその時、この不意を突いた攻撃に乗じて、シルラ、オリン、そして彼の軍勢が基地へと急降下する中、氷の刃の雨が基地へと降り注ぎ始めた。
「奴らを全員殺せ、一人も生かすな!手に入るものは何でも奪え」とオリンは叫んだ。
シルラは空気を切り裂き、敵に向かって水平に氷の雨を降らせた。彼女が殺戮の嵐を巻き起こしている最中、ルパンが彼女のすぐ隣に現れた。
「ちょうどいいタイミングだな。俺がいなくて寂しかったか?」
とルパンは尋ねた。シルラは蹴りを繰り出して身をかわし、ブラスターの攻撃を避けるために横へ踏み出した。シルラはルパンの方を一瞥すると、氷の盾を作り、その塊を地面に落とした。
「隠れるか、それともこれを受け止めるか」とシルラは言った。
シルラは飛び上がって戦場へと戻っていったが、ルパンは氷の盾を見つめていた。
「……俺のカップに氷を入れてくれるかな?」
ルパンは心の中で呟いた。
その間、オリンは兵士たちを一人残らず紫色の球体の中に引き込み、それを紫色の海へと送り出していた。球体に閉じ込められた兵士たちは溺れ、彼が指をパチンと鳴らすまで、永遠に海へと沈み続けていく。オリンは、まるで何か特定のものを探しているかのように、兵士たちの装備を漁り始めた。
「ここにはないのか? いや、ここにあるはずだ!」
苛立ちを隠せない男は振り返ると、床に倒れていた瀕死の兵士を引っ張り上げ、その魂をじっと見つめ始めた。
「この木箱のどこかに、強力な手袋がある。お前は俺の知り合いからそれを盗んだんだ。どこにある?」
オリンはそう問いかけると、指をパチンと鳴らした。すると、紫色の球体が指先に再び現れ、徐々に大きさと威力を増していった。
「……そんなこと、お前になんて言わな――」
オーリンが指をパチンと鳴らすと、球体は男の喉元へと飛び込み、肉と骨をねじり渦巻かせて一点へと凝縮し始めた。球体が内臓をスパゲッティのように絡め取るうちに、男は息絶えた。ちょうどその時、オーリンは拳を木箱の一つに叩きつけた。仲間たちは目的のものを手に入れたが、彼自身はそうではなかった。
一方、ルパンは地面に押し付けられ、首を絞められていたが、そこにシルラが飛び込んで兵士の顔めがけて氷の糸を放ち、瞬時に凍りつかせた。ルパンはそれに続き、男の頭部を撃ち抜き、その頭部が氷の血の塊へと変わるのを見届けた。ルパンはゆっくりと立ち上がり、服のほこりを払い落とした。
「助けてくれてありがとう――あ、もういなくなったな」
とルパンは言った。シルラが少なくとも微笑みを浮かべながら戦いの渦へと飛び込んでいくのを見送りながら。ルパンが振り返ると、オリンが木箱の前で怒っているのか不機嫌なのか分からない様子で立っていた。後でその件について話したいと、ルパンは待ちきれない思いだった。
戦いは続き、やがて最後の一人と見られる兵士が、シルラに拷問されていた。ルパンが近づくと、シルラは小さな氷の刃を手にし、悲鳴を上げる兵士の腕に何かを書き込んでいた。そこには「MY ROOM」と書かれていた。シルラは、その腕とは反対側の体を凍らせ、凍った体を粉々に砕き始めた。そして、冷気を帯びたベールから取り出したハンマーを一振りすると、兵士はガラスのように粉々に砕け散った。シルラは兵士の腕を抱えたまま立ち上がり、それを遠くの海へと投げ捨てた。
「わ、わあ……これ全部? 君の部屋を爆破したから? 船じゃなくて?」
ルパンはそう尋ねると、その女性を指差して大爆笑した。ルパンは彼女の頭に手を置き、笑いながら軽くつついた。
「青いお姫様、身長5フィートもなくて、部屋のインテリアのせいで心が砕けたなんて! ああ、なんて悲劇的な話だ」ルパンは彼女の身長をからかって叫んだ。
シルラは彼のふざけた態度に唸り声を上げ、尻尾で彼の腹を叩くと、すでに部下を集め始めていたオリンの方をじっと見つめ始めた。
「必要なものはなかった。戦いは終わった、行こう」とオリンは言った。
ルパンは姿を消し、シルラはその場から飛び立ち、空へと舞い上がった。基地は廃墟と化していた。基地の至る所に、炎、血、死体、そして破壊された施設が広がっていた。残されていたのは、氷と死体の山、そして空の木箱だけだった。
……船に到着して……
ルパンとシルラは展望デッキで合流し、勝利の雄叫びと祝賀の歓声が聞こえてきた。ちょうどその時、オリンが二人の元へと近づいてきた。
「二人ともよくやった……しかし、私が探していたものは見つからなかった。とはいえ、お前たちは私の捕虜ではない。身支度を整えたら、この船を自由に出ていい。借りは返した」とオリンは言い、その場を立ち去ろうとした。
「待って」とシルラは彼を引き止めた。
「私……私たちはここに残る。失ったものから立ち直れるまで、この船に居座らせてほしい」
とシルラは言った。
シルラは、宇宙空間や見知らぬ惑星に取り残されるわけにはいかないことを知っていた。そして現状では、これが彼女への信頼を深め、彼らからの忠誠心を高める唯一の方法だと信じていた。
「なるほど……それなら、どうぞご自由に、シルラ。我々の次の行動は延期になったから、急いで手を汚す必要はないよ」とオリンは言い、展望デッキから立ち去っていった。
沈黙が流れた。
「……で、君の部屋にはアイスベッドがあったの?」
ルパンが尋ねた。シルラはルパンをちらりと一瞥すると、彼女もまたデッキを後にし、ルパンは独り、独り言を呟くことになった。
「……間違いなくあったよ」とルパンは言った。
終わり




