突き付けられた鋒
2025.3.5 少し内容を修正いたしました!
「ルクリア・スターチス。最後に何か言い残す事はあるか」
鋒を私の喉元に突き付け、彼はそう告げる。
ーーーあぁ、私の人生はここまでか。
公爵家の長女として生まれて18年、何もかもを捧げてきた。全てはこの家を公爵家として存続させるために。
それがこんな形で終焉を迎えるだなんて、一体私の人生は何のためにあったのか。
先日、我が公爵家による公金の横領が発覚し、爵位剥奪と王国追放を言い渡された。
逆上した父は、「国王と皇太子殿下を殺害してこい。あの国王に一矢報いねば気が済まん!出来なければお前は奴隷として売り飛ばす」
などと勝手極まりない言葉を残し、私を無理やり家から追い出したのだった。
父として、人として軽蔑した。
尊敬するべき父を失い、公爵家としての地位も威厳も失った。
家のために全てを捧げ、辛い事もきっといつか愛する人に出会い、この家を一緒に守っていく事で報われるのだろうと続けてきた努力は父の悪行により全て水の泡。
もう、自分の人生に明るい未来などないのだと、半ば自暴自棄になっていた。
追い出されたその足で王宮に向かい、見張りの剣士へ告げる。
「私は今から国王陛下と皇太子殿下を殺害します」
王家への反逆罪として即座に拘束される。抗う気力も残ってはいない。
間もなく、父にとっての標的である国王陛下と皇太子殿下を目の前に頭を差し出した状態となり、鋒を突き付けられている。
「シオン・クレマチス皇太子殿下、最後にお願いがございます。王家への殺害を目論んだ私にこのような権利があるとは思っていません。ただ……ただ、死ぬ前にどうか情けをいただけないでしょうか。心などいりません。偽りで構いません。この後、一思いにこの首は切り落としてくださって構いません」
「ただひとつだけ………
『愛している』と、言っていただけませんか」
本当にそう言って欲しい訳ではない。
ただ、これが最後になるなら、長く想い続けた彼に対するこの愛が、遠回しでも、ほんの少しでも、伝わってくれたらいいと思った。
そう願って見上げた殿下の瞳が、ほんの少しだけ揺れている気がした。
だがきっと思い過ごしだろう。もう一度瞬きをした後の殿下の表情は、いつもと変わらない、無表情のままだった。
彼が、私に『愛してる』なんて告げるはずはない。
幼い頃、王宮の庭園で2人で遊んだ日々を、彼が覚えているはずはないから。
「ルクリア、おおきくなったらぼくとけっこんしようね!きっときみをまもってみせる!」と約束してくれた、あの頃の彼はもういない。
彼は、この国の皇太子。
罪を犯した者に、そんな情けは必要ない。
せめて遠くからでも彼を支えられる人生でありたかったと、今はもうそんな叶わない願いを心に抱きながら、ただ貫かれるその時を待っていた。
「ーーールクリア、お前を愛している」
思いもよらないその言葉に、思わず瞳を開けたその瞬間、私は殿下の手によって貫かれていた。
「今も、昔も」
「お前を守れなかった不甲斐ない俺を、お前は許してくれないだろう」
その言葉を最後に、私の意識は途絶えた。




