第3話 雨の中の救世主
あれから数日。学校は私にとって、ただの息苦しい地獄でしかなかった。
私の存在は完全に無視され、すれ違うたびに向けられる冷たい視線と、クスクス笑う声。
「美月を裏切った最低女」
そのレッテルを貼られた私に、弁明するチャンスなんてどこにもなかった。
♢
そんなある日の放課後。
私は誰もいない渡り廊下で、偶然、拓海くんと出くわした。
「あ……拓海くん……」
すがるような思いで声をかけた私を、拓海くんは信じられないくらい冷たい目で見下ろした。
前までの優しい笑顔は、どこにもない。
「……もう俺に話しかけるなよ」
「え……?」
「美月から全部聞いた。お前、蓮に近づくために俺を利用したんだってな。美月が裏でどれだけ泣いてるか知ってんのか?」
「違うの! 私はそんなこと……!」
「お前が蓮を好きなのは勝手だけどさ……俺の気持ち、踏みにじって楽しかったか?」
「っ……」
言い返す言葉が、喉に詰まる。拓海くんの瞳にあるのは、私への純粋な軽蔑だった。
拓海くんはそれ以上私の言葉を聞こうとせず、肩をぶつけるようにして去っていった。
その瞬間、外の空気が一気に暗くなり、大粒の雨が地面を叩きつけ始めた。
まるで、私の心を映したような土砂降りの雨。
♢
私はもう、教室に戻る気力もなくて、カバンを抱えたまま保健室の裏の濡れたベンチに座り込んだ。
雨の音が、私のすすり泣く声をかき消してくれる。
(どうして……どうして誰も信じてくれないの……?)
冷たい雨が私の体温を奪っていく。
孤独と絶望で頭がどうにかなりそうだった、
その時。
バタバタバタッ、と激しく水溜りを跳ね上げる足音が近づいてきた。
「ハァ、ハァ……っ、実結……!」
濡れた前髪の隙間から見えたのは、
傘もささずに、
激しく肩を上下させている、
蓮くんの姿だった。
息を切らし、狂ったように私を探していたのが一目でわかるほど、全身の服が雨で張り付いている。
「蓮……くん……? なんで……」
私が驚いて顔を上げると、
蓮くんは一瞬で私の両肩を痛いほど強く掴んだ。
「探した……っ、どこにいたんだよお前……!」
「冷たい……蓮くん、雨に濡れちゃうよ……私に関わったら、蓮くんまで……」
そう言って俯こうとする私の顎を、蓮くんの大きな手が強引に上を向かせた。
その三白眼は、怒りで燃えるようにギラギラと輝いている。
「関係ねえよ、そんなこと……!」
蓮くんは、自分が着ていた黒い学ランをバサッと脱ぐと、私の濡れた肩に乱暴に、でも愛おしそうに着せかけた。
彼の体温が残る学ランから、独特の甘い香りがして胸が苦しくなる。
次の瞬間、私は蓮くんの固い胸の中に、強く、強く抱きしめられていた。
「なんで俺を頼らねえんだよ……!」
「蓮、くん……」
「あの写真が嘘だってことくらい、俺が一番よく分かってんだよ。学校中が、世界中がお前を敵に回して、嘘の噂で責め立てたとしても……」
蓮くんの腕の力が、さらに強くなる。骨がきしむほど、必死に私を自分のものだと主張するように。
「俺だけは、お前を信じる。お前の味方だ。……だから、もう一人で泣くな」
「……っ、うあ、ぁ……っ!」
その言葉を聞いた瞬間、せき止めていた涙が溢れ出した。
私は蓮くんの濡れたシャツを両手でギュッと掴み、子供みたいに声を上げて大号泣した。
蓮くんは何も言わず、ただ私の背中を大きな手で何度も、優しく、撫で続けてくれた。




