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「ヒメジさん大丈夫ですか? 足が震えていますよ」

「大丈夫です。これは山登りをして膝が笑っているだけなので、休憩すればすぐに治ります」

(本当は、グリフォンの声が怖いのです)

「そうですか、それならいいのですが。無理しないでくださいね。おや、グリフォンの声が聞こえなくなりましたね」

二人が登りながら話をしていると、オニヨンが厳しい口調で二人に叫んだ

「お前ら二人、武器を用意しろ」

「どうしたのですかオニヨンさん」

ヒメジは驚いた。

「前からダイアウルフがやってくる。どうやら我々のお出迎えのようだ」

オニヨンが賢者の剣を鞘から抜いた。ザインは両手剣を取り出した。ヒメジはブーメランナイフを手に取った。一匹のダイアウルフが坂道を下ってきて三人の行く手を阻んだ。

「帰れ、この先に行ってはならぬ」

ダイアウルフがしゃべった。

「ひや~。モンスターがしゃべった~」

ヒメジはすぐ近くに生えている樹木に隠れた。

「こら隠れるな、ヒメジ」

「三人に告ぐ、ここからすぐに立ち去れ。さすれば命の保証はする」

「オニヨンさん、どうします?」

「ザインか、お前ならどうする」

「私ならこうします」

ザインはダイアウルフに向かって叫んだ。

「私はザインと申す。どうしても我の妻となる女性に祝福の実をとって帰らなくてはならない。どうか道を通して貰えないだろうか」

「ザインと申す者よ、それはならぬ。今すぐ帰れ」

「それでは、私は愛する者と結ばれない。再度お願いする、そこを通して貰えないだろうか」

自分の思いを訴えるようにザインはダイアウルフの目をじっと見つめていた。ダイアウルフはザインの目が真剣であったので、

「一日ここで待て、明日の朝、再び会おう。くれぐれも、ここから先には進むなよ」

そう言って山を登っていった。残された三人は、神秘の森に少し入ったところで、ひと休みすることになった。

「ザイン、すごいじゃないか」

「ダイアウルフに自分の思いをぶつけただけです。上手く伝わって良かったです」

「そうだな。ところでヒメジ」

「はい、何ですかオニヨンさん」

「なんで木に隠れた」

「だって、しゃべるオオカミですよ。びっくりするじゃないですか」

「びっくりしても戦闘中だぞ。隠れるな」

「でも……」

「でもも、へったくれもない」

オニヨンに怒られてヒメジが落ち込んでいると、ザインが助け船を出してくれた。

「まあ、まあ、オニヨンさん。ヒメジさんも反省しているようだし、少し早いですが、おやつにしませんか?」

「おやつって何を食べさせてくれるのだ?」

ザインは自分のアイテムボックスから、紙に包んだ物を出して口を開いた。

「これです。干しブドウです。甘くておいしいですよ。はい、オニヨンさんどうぞ。ヒメジさんもどうぞ」

「上手そうだな、ザイン。本当に気が利く男だ」

オニヨンはヒメジの説教を忘れて干しブドウをおいしそうに食べ始めた。


おやつの後は、三人ともロープと布で簡易のハンモックを作り、木につるした。その夜は、オニヨン、ザイン、ヒメジの順で見張りをすることになった。ヒメジは自分の作ったハンモックの寝転がると、思ったより寝心地がよく、すぐに眠ってしまった。

「ヒメジさん、交代の時間です」

ザインがヒメジの体を揺すって起こした。すぐに目が覚めたヒメジは、ハンモックから降りると、

「ザインさん。交代しますので寝てください」

見張りをはじめた。たき火をしているが遠くの方は真っ暗である。また、動物や虫の鳴き声もなくあたりは静寂に包まれている。ヒメジは、たき火を見ながら、ため息をついた

(どうして自分は近距離の戦闘が苦手なのだろう。近くでモンスターを見ると、どうしても怖い。怖くて仕方が無い。遠くならなんとかなるのに。今日もオニヨンに何度か叱られた。年長者として情けない。このままなら、きっとオニヨンに嫌われるだろうな)

「はあ~」

「なに、ため息ついているのさ」

不意に、後ろからオニヨンが話しかけてきた。

「オニヨンさん。モンスターを怖がって、おびえている自分が情けなくてため息をついていたのです」

「ヒメジは、大丈夫だって。ダンジョンでは怖がっても最後まで戦ってモンスターに勝ったではないか。それに、私を二度もダンジョンで助けてくれただろう。もっと自信を持てばいい」

「オニヨンさん。ありがとう」

「それじゃあ、寝るからな。お休み」

オニヨンは自分のハンモックで横になると、すぐにいびきをかき始めた。ヒメジは、オニヨンに元気づけられて、それ以降の見張り番の間は、ため息をつかなかった。


二人が起き出した頃ダイアウルフが降りてきた。

「人間よ、約束通りこの先に進まなかったことを感謝する。さて、我の主人にお前達の話をすると、三つの試練を乗り越えれば、祝福の実を与えると約束された。試練を受けるか、人間よ」

「受けます」

ザインが即答で答えた。それを見た、ダイアウルフは頷いて、話し始めた

「一つ目はこの神秘の森に入って縄張りを主張するオーガの討伐だ。隣の山の麓にいる。下って谷の左を川沿いに歩いたところにある。オーガは三十匹ほどいるが、その中のリーダーだけでよい。もちろん必要ならばリーダー以外のオーガを討伐しても良い。討伐した証拠にリーダーが身につけているオーガのペンダントを持参すること。期日は明日のこの時間までとする。いいな」

「分かりました。一つ質問してもよろしいでしょうか?」

「何だ?」

「どうしてリーダーだけでいいのですか? 神秘の森に災いをもたらせているのでしたら、全てのオーガを討ち取った方が後々の憂いがなくなると思うのですが」

ザインは尋ねた。

「そうかも知れない。しかし、今まで我々が調べたところに寄ると、オーガは知恵のあるリーダーによって統率されておる。そしてそのリーダーはこの森を狙っているのだ。理由は天使の泉と祝福の実。この両方を手に入れてリーダーは自分だけ長生きしようと企んでおる。それ以外のオーガは、この二つに関心が無い。我々は無用な殺生はしたくない。リーダーがいなくなれば、他のオーガはここにいる理由もなくなるので、三々五々どこかに行ってしまうであろう。それで十分だ」

「なるほど。それではもう一つ聞いてもいいですか?」

「構わんぞ」

「オーガのペンダントを持参することになっていますが、オーガのリーダーの体の一部を持って帰ることでいいのではないですか?」

「それができるのなら、そうしてもらいたい。ただ、リーダーは魔法を使えます。おそらくリーダー自身が倒れるようなことがあると、自分の遺体を残さないように燃やすでしょう」

「なるほど。だから、燃えないオーガのペンダントを持参するのですね」

「そうだ。それでは、また明日の朝。健闘を祈る」

ダイアウルフは山を登っていった。

「さあ、オニヨンさん、ヒメジさん出発しましょう」

ザインは意気揚々と歩き出した。オニヨンとヒメジは黙ってその後を歩いた。


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