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翌朝、ヒメジとオニヨンが宿屋から出ると若い男が待っていた。
「お二人さん、今日からよろしくお願いします」
「おはようございます。こちらこそよろしくお願いします」
ヒメジは返事をしたが、オニヨンは、
「やあ」
だけしか言わなかった。
「ところで、今日からあなたのことをなんてお呼びしたらいいですか?」
ヒメジは若い男に尋ねた。
「私は、ザイン。ザインと呼んでください」
「分かりました。それではザインさん荷物が少ないですね。剣と防具だけですが、食料や水はどうするのですか?」
「それなら用意しています」
「用意しているとは、どこに?」
「私は生まれつきアイテムボックス持ちなのです。容量は多くはありませんが、それでも当分の間の食料と水は余裕で入ります。ところで、ヒメジさんやオニヨンさんも軽装ですが持ち物はどうされたのです?」
「私たちは、私が持っているこのマジックバッグの中に入れています」
「なるほど、そうでしたか」
「おい、話は歩きながらでも出来るだろう。出発しようぜ」
「はいオニヨンさん、行きましょう」
三人は神秘の森に向かって歩き出した。ダンジョンの町から山道を通り三時間ほど歩くと、山の頂上に着いた。ヒメジは頂上に着くと、仰向けに倒れた。
「もうだめ、動けない。足がパンパンで、パンパンで……」
「動けないのだろう。情けない。仕方ない、少し早いがここで昼食にしよう」
「あのう~」
「何だ、ザイン。何か用か?」
「これ私が作りました。パンに干し肉を挟んだだけですが、良ければいかがですか?」
「いいねえ、気が利くじゃないか」
オニヨンはザインから干し肉を挟んだパンを受け取った。
「ヒメジさんもいかがですか?」
「ありがとう。いただきます」
ザインはヒメジにも渡した。ヒメジはそれを食べた。サンドイッチほどではないが、味は悪くない。もう二口ほど食べた後、水を飲むため、地面の上にひいた紙にパンに干し肉を挟んだ食べ物を置いた。すると、上空からそれを狙って急降下してきた動物がいた。ヒメジがコップの中の水を飲んでいる間にヒメジの昼食を足でつかむと再び上空へ飛んでいった。ヒメジは、動物の気配を感じて、コップを口から離したが、もうすでにその動物はヒメジに向かって、
「カア~、カア~」
と言いながら飛び去っていった。それを見たオニヨンとザインは、思いっきり笑った。
「あはははは、あはははは。ヒメジのドジ。カラスに持って行かれるなんて。あはははは。本当に、ヒメジはどんくさいな、あはははは」
「オニヨンさん、笑いすぎです。ザインさんも」
ヒメジにたしなめられて、二人は笑いをこらえた。
「ヒメジ、すまん、すまん。でも、今回はカラスで良かったが、上空からの攻撃を受けて、あの高さまで逃げられると武器が届かないから困るな。ヒメジ、何かいい考えはないか?」
「そうですね。我々を攻撃するなら、モンスターもある程度、高度を下げなくてはいけません。その時を狙うしかないですね」
「しかし、それでは飛んでいるスピードが速くて当てられないではないか」
「それが問題なのです。モンスターが急降下して攻撃してくる時に、どのようにすれば武器を当てられるのかが課題です」
「ヒメジさん、オニヨンさん、私は魔法が使えます。急降下してくるモンスターの前に弱いウインドウオールを出します。おそらく、モンスターはウインドウオールの風に巻き込まれて体勢を崩すでしょう、その時に武器で倒してください」
「さすがザイン、いい考えだ。それで行こう」
「そうですね。それが今、考えられる一番の作戦でしょう」
「お二人に褒められて嬉しいです。それでは、モンスターが現れたら教えてください。すぐに魔法を使いますね」
「ああ、頼む。それからヒメジ」
「何ですか、オニヨンさん」
「腹減っているだろう。僅かだが、これでも食べて元気を出せ」
オニヨンは自分が食べていたパンをちぎってヒメジに渡した。
「ありがとうございます。いただきます」
ヒメジはそれを受け取って食べ始めた。すると、ザインが耳打ちしてきた。
「ヒメジさんはオニヨンさんの彼ですか?」
「どうしてそう思うの?」
「オニヨンさん、パンを渡すときに少し顔を赤らめていましたから……」
「そうは見えなかったけれど」
「いや、僕には分かるのです。おそらくオニヨンさんはヒメジさんのことが気に入っていますよ」
「そんなことないですよ。毎日叩かれたり、蹴られたりしていますから」
「それは照れ隠しですって。女性の気持ちを察してあげてください」
「そうなのですかねえ~」
「あまりにも鈍ければ、デリカシーがないと思われて、嫌われますよ」
「ありがとう。気をつけるよ」
「お前ら、二人でひそひそ話をしていた。内容を言ってみろ」
「すみません。『オニヨンさんが美しいので、ヒメジさんが羨ましいですね』と話をしていました」
(ザイン、口が上手い)
ヒメジは感心した
「そうだろう。ザイン。お前は本当に見る目があるな」
「そうでしょう。私は女の人には見る目があるのです。あの人の妹も美人で器量がいいですので、必ず結婚したいと思っています」
「お前の気持ち、よく分かった。まあ、私がいるから大船に乗ったつもりでいるといいぞ」
オニヨンは上機嫌になっていた。
「はい、オニヨンさんありがとうございます」
ヒメジはザインに耳打ちした。
「ザインさんは口が上手いですね」
それを聞いたザインは右手の親指を立ててヒメジに見せた。
「食事が終わったようだな。それじゃあ出発しようか」
オニヨンが二人に声をかけた。二人は頷くと立ち上がり、オニヨンの後を歩き始めた。
「山を一度下って、また登りになったところから、神秘の森に入るからな。ヒメジ、頑張って歩けよ」
「どうして私なのですか?」
「貴様は体力が無いからだ。ザインを見習ってもっとしっかり歩け」
「分かりましたよ。どうして私とザインサンとの扱いが違うのだろう」
「ぶつぶつ言うな」
オニヨン、ザイン、ヒメジの順で山道を下り、やがて三人が再び登りはじめた時に、空から声がした。
「帰れ。さもなければ生きては戻れぬぞ」
「オニヨンさん、声が聞こえてきましたね」
「ああ」
「帰れ。さもなければ生きては戻れぬぞ」
「またですね」
「そうだな。ヒメジ、おびえているじゃないか」
「だって、誰もいないのに声がするから……」
「ヒメジ大丈夫だ。あれはグリフォンが神秘の森に入ってくる侵入者を追い返そうと警告を出しているのさ」
「オニヨンさんは怖くないのですか?」
「大丈夫だ。あのグリフォンは天使の泉までは我々には手を出してはこない」
「本当ですか?」
「疑っているのか。考えても見ろ、私は二回も天使の泉まで行っておる。それでも今この通りぴんぴんしているということは襲われなかった証拠だ」
「そりゃそうですね」
「あれはあくまでも警告だ。ただ、天使の泉より奥に行けば襲われるかも知れなから、ヒメジ、覚悟しておけよ」
「帰れ。さもなければ生きては戻れぬぞ」
「また言った。グリフォンだと分かっていても怖いよ~」




