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 翌朝ヒメジは食堂で朝食を食べていると、オニヨンが声をかけてきた。

「おはよう、ヒメジ」

「あ、オニヨンさん。おはようございます」

「ヒメジ、昨日はよく眠れたか?」

「ええ、久しぶりのベッドでしたからぐっすり眠ることができました」

「私もだ。すっきりした。向かいの席に座ってもいいか」

「どうぞ」

「お姉さん、私にも朝食ください。大盛りで」

オニヨンは席に座ると大きな声で店員に注文した。

「オニヨンさん、朝からよく食べますね」

「食べることがわたしの元気の源だからね。今回の冒険も、ヒメジ、うまい食事頼むぞ」

「へい、へい。しょせん私はオニヨンの飯炊きジジイですよ~だ」

「ひがまない、ひがまない。ところでヒメジ、今日はまず武具屋に寄るからそのつもりで」

「でもオニヨンさんは賢者の剣があるから、武器はいらないでしょう。それに、防具の修理なら私がしますから、武具屋に行く必要がありますか?」

「それがな、飛翔系のモンスターをヒメジだけに任せるのは心許ないのでな、投擲用ナイフを私もいくつか購入しようと思っているのだ。それに、戦闘から逃げ出す男がいたら、投擲用ナイフを投げてやろうと思ってな」

「戦闘から逃げ出す男って、もしかすると、私のことですか?」

「まあな。逃げ出したら命はないと思え」

オニヨンはドスのきいた声でヒメジを脅迫した。

「あ、は、は、は、もちろん逃げませんよ」

そう言いつつも、ヒメジは冷や汗をかいた。


 食事の後、二人は武具屋に行った。

「おやじ、投擲用ナイフを見せてくれ」

オニヨンは店主に声をかけた。店主はオニヨンを一瞥すると、箱に五種類の投擲用ナイフが入ったサンプルを出してきた。

「一番右が、小さて軽いナイフ。それから左に行くにつれて大きくて重いナイフになる。どれがいい?」

「大きくて軽いのはないのか?」

「残念ながら、そんなナイフはないなあ」

「そうかい。じゃあ、ナイフを持ってもいいかい?」

「ああ、いいさ」

オニヨンはそれぞれのナイフを持って、手触りや、重さを確かめた。

「なるほど、どうやらこの真ん中のナイフが手にしっくりくる。おやじ、このナイフを百本くれ」

「たくさん買ってくれるのは嬉しいが、これからダンジョンに入るのに百本も必要ないだろう」

「いいや、ダンジョンには行かないよ」

「じゃあどこに行くのだ?」

「神秘の森」

「神秘の森だと、やめときなされ。あそこの森は、帰らずの森と言われて、中に入った者で無事に戻れたのが十人に一人しかいない。SSS級の冒険者でも帰ってこなかったから、お前さん達では戻ってこられないだろう」

そう言いながら武具屋の店主は投擲用ナイフが百本入った箱をオニヨンに渡した。

「おやじ、心配してくれているのか。ありがとう。でも、大丈夫だって。森から戻ったら、おやじに報告に来るよ」

「オニヨンさん、もしかしたら、はじめっからそんなおっかない所だと知っていたのですね。私は行きたくありません」

「ヒメジ、男が一度行くと行ったら、死んでも行かなくてはいけないのだ」

「死んだら、森にいけませんよ~だ」

オニヨンはヒメジに拳骨を落とした。

「いたたたた。もお~、オニヨンさんはすぐに暴力で解決しようとする。殴ること、やめてくださいよ」

「ヒメジは、ひと言ならず、二言三言多いのだよ。それからここのおやじに投擲用ナイフ代を払っておいてくれ」

オニヨンは箱に入った百本の投擲用ナイフを受け取って、店を出た。ヒメジはそれを見送ると、

「店主さん、私にはクロスボウの矢を見せてください」

注文した。


 オニヨンは宿屋に戻って、武器の手入れをしていた。食事の後、武具屋に行くまえにヒメジから受け取った剣を布で拭き始めた。

(明日から気合いを入れて森に入るぞ。あの祝福の実は、幸運の実とも言われて、食べた者の幸運度を上げる実だ。世界にあそこだけしかとれない。これを食べて、親友を見つけ出し、好きな人と結婚するぞ)

オニヨンは鼻歌を歌いながら、手入れをしていると、部屋の扉を叩く音がした。

「誰だ?」

「ヒメジです」

「入ってこい」

「失礼します」

ヒメジが部屋には行ってくるなり、

「オニヨンさん、武具屋から先に帰らないでくださいよ」

オニヨンに文句を言った。

「すまん、すまん。投擲用ナイフが手に入ったので、武器の手入れをしようと思って、つい足が宿屋に向いていた。ところでヒメジはクロスボウの矢を買ったのか?」

「ええ、買いました。二百本ほど買って、店主さんから気の毒がられました」

「神秘の森のことだな。あの森は心配するな。私は二度ほど父親とそのパーティーで入ったことがある。何ってことはないただの森だ」

「それじゃ、祝福の実がある場所は知っているのですね」

「いいや、そこまでは入ったことがないので知らない」

「どういうことですか?」

「あそこの森は祝福の実と天使の泉がある。私はその天使の泉に二回行ったのだ」

「天使の泉? 何ですか」

「この泉の水を飲むと素肌がみずみずしくつやつやになる。いわば若返りの薬とも美人の薬とも言われておる。女性にはたいそう人気のある水だぞ。私は冒険者ギルドの依頼で行ったが、比較的森に入ってすぐの所にあるので、危険は無かったぞ。多少モンスターに出くわして戦闘にはなったがな」

「なるほど、そのような能力の水があるのですね。こりゃ薬師としては楽しみな水です」

「売れば決行な値段で売れるからな……。ってヒメジまさか……」

「そうですよ。こんなおいしい話はないでしょう。たんまり水をいただいて、女性に売るつもりです」

「それはやめておけ」

「どうしてですか?」

「あの泉の水は女性しかすくえない。もし男がすくったら、その瞬間にただの水になる」

「え~、そうなのですか。それは残念です」

「でも、祝福の実は誰が触っても効力は変化しないから安心しろ」

「祝福の実はどのような効果があるのですか?」

「食べた人の幸運度を上げる」

「幸運度を上げる?」

「そうだ。実態に食べた人が高額な宝くじに当たったり、大金持ちと結婚したりという話を聞いたことがある。ヒメジも食べたら良いことがあるぞ」

「それじゃあ、『いっぱい薬が売れて儲かる』ことや『野盗やモンスターに襲われない』ことがあるのですね」

「まあな」

「オニヨンさんはどんな幸福を願っているのですか?」

「それは秘密だ。あまり、女性にそういうことを聞くな」

「了解しました」

「ところで何のようだ? 私に文句だけを言いに来たわけではないのだろう」

「あ、その通りです。実は、さっき、昨日の若い男に会って、今日冒険者ギルドに行ったら、神秘の森に行ってくれる冒険者が見つからなかったとぼやいていました。出来れば、我々二人が彼のパーティーになってくれないかと頼み込んできたのですが、どうしますか?」

「いいぞ。元々監視役として付き添うが、どうせモンスターに出会ったら我々も戦わなくてはいけないからな」

「と言うことです。良かったですね」

ヒメジが扉に向かって言うと、扉の外から若い男の声で、

「ありがとうございます」

礼を言ってきた。

「何だ、そこにいたのか。一緒に中に入ってくれば良かったのに」

「オニヨンさん、美しい女性の部屋には入りにくい若い男性の気持ちを汲んでください」

ヒメジの話を聞いてオニヨンは納得して、扉の外にいる若い男に向かってオニヨンは言った。

「何だそうだったのか。それでは仕方ないな。よし分かった。それでは、明日会おう。しかし、一緒に組んでいくことは、あの男には内緒だぞ。いいな」

すると、扉の外から

「はい、ありがとうございます」

若い男の喜んだ声で返事があった。


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