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 二人はそれぞれ自分の部屋に戻った。ヒメジは、疲れたのでベッドの上で横になって酔いをさましていた。すると、

「トントントン」

誰かがドアを叩いた。

「どうぞ」

ヒメジが返事をすると、扉を開けてオニヨンが部屋の中に入ってきた。

「やあ、ヒメジ。まだ起きているか?」

「ええ、起きていますよ」

「頼みたいことがあるのだが、いいか?」

「何ですか? 結婚するのは嫌ですよ」

「何を馬鹿なこと言っているのさ」

オニヨンはヒメジの頭に拳骨を落とした。

「痛いですよ」

ヒメジは頭を抱えた。

「ヒメジが嫌らしいことを言うからだ」

「だからといって殴ることはないでしょう」

「お決まりだから、気にするな」

「いたたたた。馬鹿になったら責任取ってくださいね」

「ああ、いくらでも責任とってやるぞ、ヒメジ」

(どうせ口ばっかりでしょうが、オニヨン)

「ところで、頼みたいことは何ですか?」

「ああ、実はダンジョンで折れた剣を修理してもらいたくてな。頼めるか?」

「そういうことでしたらお安いご用ですよ。さあ、剣を出してください。明日の朝までに直しておきますから」

「悪いな。頼むぞ」

「任せてください」

「謝礼だが」

「そんなの必要ありませんよ」

「まあ、そう言うな。希望は貨幣か? 品物か? それとも私か?」

「私って、オニヨンさんのことですよね」

「そうだが、あ! ヒメジ鼻血を出している。嫌らしいこと考えたな」

「だって、オニヨンさんが、私って言うから、ついオニヨンさんが体にリボンを巻いて、私にプレゼントしてくれる場面を考えていました」

「ヒメジ、本当はエロおやじだろう~」

「オニヨンさん、からかわないでください」

「まあ、謝礼はいらないというなら、なしでお願いするわ。はい、これ」

オニヨンはヒメジに折れた剣を渡した。ヒメジがそれを受け取ると、急に、

「てめえ、表に出ろ」

男の大きな声が食堂から聞こえてきた。何だろうと二人はヒメジの部屋の扉を開けると、

「俺の妹と結婚したいだと。笑わせるな」

「お兄さん」

「お前にお兄さんと言われる覚えはない」

「話を聞いてください」

「うるさい、こっちに来い」

口論が耳に入ってきた。ヒメジとオニヨンは、『喧嘩だ』お互いに顔を見合わせた後、食堂に向かった。二人が食堂に着いた時には、年上の男が若い男の胸ぐらをつかんで、右手で左頬を殴ろうとしていた。オニヨンが仲裁に入ろうと駆け寄ったが、間に合わずに、年上の男が若い男の左頬を殴った。

「バン」

若い男は、殴り飛ばされて地面に倒れた。若い男は立ち上がると、

「痛いなあ。兄さんでも許さない。力ずくでも奪ってやる」

右拳に力を入れて年上の男の顔面に殴りかかった。年上の男は顔の前に両腕でガードした。その時、オニヨンが、

「二人とも、やめろ」

ドスのきいた大きな声で叫んだ。二人の男は、女性から怒鳴られて、一瞬我を忘れた。そして、叫んだオニヨンを見た。

「みんな、ここで、うまい酒を呑んでいるのだ。それを、喧嘩で台無しにするな」

「女、俺たちに構うな」

年上の男がオニヨンにくってかかった。

「やかましい。お前達が喧嘩すると酒がまずくなるのだよ」

(格好いい、オニヨンさん)

ヒメジは遠くからオニヨンを応援していた。

「とりあえず、落ち着け。喧嘩の理由を言ってみな」

オニヨンは二人の男に穏やかに尋ねた。年上の男は、黙っていたが若い男が話し始めた。

「僕はこの男の妹と結婚するのに、この男はそれを許さない。何度も頭を下げて頼んだのに頑として首を縦に振ってくれなかった。今日もそのお願いをしていたら、急に怒り出して、僕を殴ってきた」

「お前など、ただの下級冒険者じゃないか。そんな男に妹を嫁がせたら、妹が苦労するのが目に見えている。安定して稼げる冒険者にならなきゃ妹は嫁がせられない」

「なるほど、二人の言い分は分かった。ところで妹さんは何と言っておるのさ」

「彼女は、僕と結婚すると言ってくれている」

「妹は、そんなことは言ってなかったぞ。『どうしようかな』と悩んでいた」

「そんなことはない。二人で結婚すると確かに約束したのだ」

「嘘をつくな。約束していないと言っていたぞ」

「まあ、まあ、二人とも。要はこの若い男が冒険者としての実力を示せばいいのだろう」

「ああ、まあな」

「それなら私から一つ提案がある」

「それは、なんだ?」

年上の男が尋ねた。

「この若い男がここから少し離れている神秘の森へ行って祝福の実をとってくれば結婚を許してやるというのはどうだ」

「僕が祝福の実をとってくるのですか」

「そうだ、神秘の森で生き残れるにはS級冒険者の実力が必要だ。それだけの実力があることを証明できれば、結婚は許してあげるよな」

「分かった、この若造が神秘の森で祝福の実をとってこられたら考えてやろう」

「ふむ。それでは、契約成立。私は、この若い男が不正をしないか、あの男、ヒメジというが、一緒に監視させもらうがいいか?」

「僕は構いません」

「俺も、異議無しだ。ただ、若造の手助けはするなよ」

「承知した。それでは明日準備して、明後日出発でいいか?」

二人とも頷いたので、オニヨンは最後に、

「それでは明後日の早朝にこの宿屋の前に集合だ」

付け加えて解散した。二人の男は、宿屋の食堂から出ると、若い男は右に曲がり、年上の男は左に曲がった。


 仲裁がすんで、機嫌良くヒメジの近くに戻ってきたオニヨンは、

「と言うことなので、明日からまたしばらく宜しく頼むわ」

ヒメジに声をかけた。

「幼なじみを探しに行かなくてもいいのですか?」

「乗りかかった船だ。これが終わってから探すよ」

「探しに行ったらいいのに」

「どうしてだ?」

「だって、私が、また怖いモンスターのいる森に入るのでしょう。勘弁してくださいよ」

「いいじゃないか。これも人助けだ。ヒメジは人助け嫌いじゃないだろう」

「人助けは嫌いじゃないですが、モンスターが嫌いです。行きたくないよ~」

「相変わらすへたれだな」

「へたれで構いませんが、私を巻き込まないでください」

オニヨンの拳骨がヒメジの頭に落ちた。

「うるさい、ぐたぐた言わずに一緒に行くのだよ」

(暴力反対。でも怖い~)

「痛いです。オニヨンさん」

「痛い目に遭いたくなかったら、私と一緒に行くか」

「行きます。行きますよ。一緒に行かせてください」

「いい子だ。それなら明日は、早速買い出しだ。ヒメジ、代金は頼むぜ」

「さっき、金貨渡したでしょう」

「あれは、幼なじみを探す資金で、今回の冒険の資金ではない」

「オニヨンさん……」

「ヒメジに反論の自由はない。明日の代金は全てヒメジ持ちでいいな。それだけのものは今回のダンジョンの冒険で手にいれているはずだからな」

「分かりましたよ。もう、オニヨンさんは身勝手なのだから」

ヒメジはぶつぶつ言いながら自分の部屋に戻りはじめた。オニヨンもヒメジの後を歩いてきた

「ヒメジ、一つ言い忘れたことがある」

ヒメジはうんざりとした言い方で、

「何ですか」

オニヨンに聞いた。

「神秘の森にいるモンスターは強敵が多い。おそらくヒメジも戦う羽目になるだろう。特に空を飛ぶモンスターにはヒメジの飛び道具が役に立つ。クロスボウの矢や投擲用ナイフは多めに、持って行った方がいいぞ」

「分かりました、オニヨンさんも用意するのですか?」

「いいや、私はこの賢者の剣がある。これさえあれば、もう十分だ。遠距離は全てヒメジに任せるから頼んだぞ」

「分かりました」

(素直に話を聞いておかなければ、口答えなんかしたらまた拳骨落とされるからな)

「それではヒメジまた明日な」

「はい、オニヨンさん」

二人は自分の部屋に戻った。


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