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 二人は空間の中央付近を無言で歩いていた。空気の流れはないはずだが、空間の中央に近づくにつれてなまあたたかい空気が上空から強く降りてきている。

(普通は、暖かい空気は上に行くのになあ~)

ヒメジは不思議に思ったが、オニヨンを見ても彼女は何も気づいていないかのように、ひたすら歩いているだけである。二人がちょうど空間の中央に着いた時に、オニヨンがヒメジに話しかけた。

「おい、ヒメジ何か聞こえないか?」

「何ですか」

「何が大きな生き物が動く音だ」

「何も聞こえませんがね」

オニヨンは立ち止まって空間を見回した。真上を見た時、

「ヒメジ、走れ」

叫んで前に走り始めた。

「どうしたのですかオニオンさん。ちょっと待ってくださいよ」

ヒメジもその後を追った。十メートルほど走った時に、二人の後ろで、

「ドスン」

大きな音がした。二人は走りながら振り向くとそこには、今まで戦ったヒュドラの三倍はある大きなヒュドラが立っていた。

「あわわわわ」

ヒメジが急に驚いて、走りながらこけてしまった。

「大丈夫か、ヒメジ」

オニヨンは立ち止まって、ヒメジに声をかけた。

「ええ、大丈夫です。あれは何ですか?」

ヒメジは立ち上がりながら聞いた。

「ヒュドラのボスだな。キングオブヒュドラと言っておこうか」

「大きいですね。さあ、オニヨンさん逃げましょう」

ヒメジは後ずさりしながら逃げようとした。

「ヒメジ、逃げるな。今からこいつと戦うのだ」

オニヨンはヒメジの首根っこをつかんだ。

「どうして戦うのですか。あんな大きなモンスターにかなうはずがないですよ。とっとと逃げましょう」

「どこに逃げるというのだ。おそらく、出口と思われる扉はこいつを倒さなくては開かないだろう」

「どうしてそう思うのですか?」

「長年ダンジョンを攻略している私の経験がそう言っている」

「眉唾物ですね」

「うるさい。ヒメジは本当に一言多い」

オニヨンの拳骨がヒメジの頭に落ちた。

「いたたたた」

「さあ、武器を持て、戦うぞ」

オニヨンは盾を地面に置くと剣を鞘から抜いてキングオブヒュドラに走りながら斬りかかっていった。ヒメジもそれに合せて、カバンからブーメランナイフを取り出すと、キングオブヒュドラの胴体に向けて投げた。ヒュドラの九つの大蛇からは毒を放出して、オニヨンに攻撃をしたが、オニヨンは左右上下に蝶が舞うように素早く移動して全ての毒を躱した。一方、ヒメジが投げたブーメランナイフはヒュドラの一匹の大蛇の首に命中した。大蛇は苦しみ始め、やがて首が垂れ下がったが、いつの間にか首がとれて、のっこった首の後から二匹の大蛇が生えてきた。

「またかよ。首を狙うと必ず分裂して大蛇が増えてしまう。オニヨンさ~ん、胴体を狙ってくださいね」

「わかっているよ~」

そういったものの、オニヨンはキングオブヒュドラの毒攻撃を躱すのが精一杯で近づくことが出来ない。

(なんとかして、あのキングオブヒュドラの動きを止めなければ)

ヒメジの元にブーメランナイフが戻ってきた。再びブーメランナイフを投げようとした時に、ヒメジが幼い頃に聞いた物語をふと思い出した。

(たしかある魔物が、酒を呑んで酔って寝たところを勇者に剣で切り刻んで退治されたと聞いたことがある、ちょっと勿体ないが試してみよう)

「オニヨンさん、さがってください」

ヒメジはそう叫んだ後、アイテムボックスに繫がっているカバンからウイスキーの樽を取り出して、それをキングオブヒュドラに向かって転がした。キングオブヒュドラの足元に樽が転がった時に、キングオブヒュドラはそれを踏みつぶそうとした。しかし、樽からおいしそうな酒の匂いがしてきたため、一匹の大蛇がそれを立ててふたを頭で割って中の酒をゴクゴクと呑み始めた。その間ヒメジは次々とウイスキーの樽をキングオブヒュドラの足元に転がした。始めにウイスキーを呑んだ大蛇は、呑み終わると酔ってすぐに眠り始めた。他の大蛇も同様にウイスキーを呑み終わるとすぐ眠り始めた。全部で十樽転がして、全ての大蛇にウイスキーを呑ませると、全ての大蛇が眠り始め、胴体もその場で横になった。

「オニヨンさん、今です。そのキングオブヒュドラの胴体を切り刻んでください」

ヒメジがオニヨンに向かって叫ぶと、

「任せろ」

オニヨンは言って、剣でキングオブヒュドラの胴体を切り刻んだ。オニヨンに切り刻まれた

キングオブヒュドラはその場で一瞬光って消えると宝箱になった。それと同時に、閉じていた扉が開いた。

「上手くいったな。ヒメジ。それにしてもよくあんな作戦思いついたな」

「ええ、これでも長年生きていますから、今まで体験したことが役に立っています」

「どんな体験だ?」

「怖いものは酒が大好きだということです」

「どういうことだ?」

「昔から、大蛇やデーモン(鬼)、川の中にいるモンスターなど酒が好きと言うじゃないですか。人間でも、おじさんよりおばさんの方が、お酒は強いしね」

「ん? ちょっとまて、まさかおばさんは私のことではないか?」

(正解です。だってオニヨン、酒好きで怖いもの)

そう思っているヒメジではあるが、口では

「もちろん違いますよ。オニヨンさんは優しくて酒呑みですから、全然違います」

適当にごまかした。

「『優しくて酒呑み』とは気になる表現だが、おばさんが私でないのならそれでいい。ただ、ヒメジは時々嘘をついてごまかすからな」

「私はオニヨンさんに嘘をついたことがありません。それは誤解です」

「よく言うよ。ヒメジが嘘をつく時は鼻がひくひく動くからなあ」

ヒメジは慌てて鼻を手で触った。

(ヒメジは、わかりやすい男だな。こいつ私に嘘をついていたな)

「鼻は動いていないじゃないですか。オニヨンさん私を騙したのですね。でも、私は嘘をついていませんよ」

「ああ、わかった。そういうことにしておいてやる。ところでヒメジ、どちらが宝箱を開ける?」

「も、もちろん、オニヨンさんですよ」

「わかった、それでは開けるぞ」

オニヨンは宝箱のふたを開けた。中には金の延べ棒と宝石があった。

「あ~あ。ここでも賢者の剣は出てこなかったよ。つまらないな」

「大丈夫ですよ、オニヨンさん。まだ十四階層の大きな空間と十五階層が残っていますから、頑張っていきましょう」

「そこに間違いなく賢者の剣があるのか」

「ええ、絶対にあります」

「ほらまた、ヒメジの鼻が動いた」

ヒメジはまた、鼻を手で触ったが、その時はオニヨンに嘘が完全にばれたと感じた。それでも負け惜しみで

「オニヨンさん。私は嘘をついていませんよ」

言い張りながら、ヒメジは宝物をカバンに入れていった。


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