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長い階段を歩いて、十四階層に降りると高さが人間の身長の三倍、横幅は人間が両手を広げた二倍はあるかと思われるほどの両開きの大きな石の扉が二人の進路をふさいでいた。扉には取っ手がなく、また何かを入れる場所もない。ヒメジはとりあえず扉を押してみた。
「ええい、どうだ。この野郎」
何度も力一杯押したが、扉はびくともしなかった。次第にヒメジの額から汗がしたたり落ちるようになった。
「はあ、はあ、もうだめだ。オニヨンさん、手伝ってくれますか? はあ、はあ」
しかし、オニヨンはうわの空であった。
「はあ、はあ、もうオニヨンさん。しっかりしてくださいよ。はあ、はあ。」
そう言って息を切らしたヒメジは、地面にぽたぽた汗を落としならヒメジはその場に足を伸ばして座り込んだ。そしてオニヨンを見たが、彼女は首を垂れたまま、口をつぐんでいた。
(そりゃ、二度石化して苦労したあげく賢者の剣が手に入らなかったから落ち込むのは分かるけれど、まだ十四階層、十五階層があるのだから頑張ってもらわなくては)
ヒメジはオニヨンの気持ちを察しながらも、どう声をかけようか考えた。しばらく休憩して、息が整ってきた時に良い考えが浮かんだヒメジはオニヨンに声をかけた。
「オニヨンさん、この扉をなんとかしなければ、先に進めませんよ。そうなると賢者の剣も手に入らないですよ。絶対に十五階層には賢者の剣があります。私は調べたのです。だから間違いありません」
(嘘ですが、こうでも言わなくては反応してくれないでしょう)
「本当か」
オニヨンが顔をヒメジに向けて尋ねてきた。
(思った通りだ。反応してくれた。この調子で嘘八百を並べて元気になってもらおう)
「当たり前じゃないですか。私が今までオニヨンさんに嘘を言ったことがありますか。ないでしょう。だから信用してください」
ここまで言うと、オニヨンの目が輝き始めた。
「本当にあるのだな」
「もちろんです」
ヒメジは笑顔で答えた。それを見て安心したのかオニヨンがヒメジに、
「『押してもだめなら引いてみな』と言われるから一緒に引いてみよう」
自分の考えを言った。
「それはいい考えです。早速やってみましょう。オニヨンさんは右を私は左を引っ張ってみます」
二人は移動して所定の場所に立つと、オニヨンが声をかけた。
「いち、にの、さん」
「ふむ~」
「ええ~い」
二人は扉の凹凸に指をかけて思いっきり引っ張った。しかし、指が痛くなっただけで扉は動かなかった。
「はあ、はあ、はあ、もうだめだ。指に力が入らない。はあ、はあ」
「はあ、はあ、はあ、私もです、オニヨンさん。はあ、はあ」
二人は両手を振りながら指の痛みを和らげた。
「くそ~、どうしたらいいのだろう。『開けごま』と呪文を言えば開くのかな。この扉め」
ヒメジは腹を立てて扉を蹴った。
「それだよ。きっと扉を開けるには呪文が必要なのだ。ヒメジ、お前頭いいなあ」
「それほどでも、でもどのような呪文で開くのでしょう」
「分からない、お互いに適当に言ってみよう」
「そうですね」
「それでは私から。『扉よ、開け』」
扉は何の反応もなかった。
「次は私ですね。『扉よ、我のために開けたまえ』」
扉は何の反応もなかった。
「次は私だな。『開け扉』」
扉は、『ゴゴゴゴッ』と音を立てて二人に対して外開きで開いた。二人はうれしさのあまりその場でハイタッチをした。
「開きましたね、オニヨンさん。単純な呪文で良かったですね」
「本当にそうだね。まあ、私にとったらこのぐらい朝飯前だわ」
オニヨンは鼻高々でヒメジに自慢した。
(はい、はい、そうです。オニヨンさんは単純ですから、単純な呪文が得意なのです)
ヒメジは心の中でオニヨンのことを茶化しながらも、顔は笑顔でにこやかに話した
「なにはともあれこれで先に進めますね、オニヨンさん」
「そうだな。さあ行こうか」
二人は大きな扉を歩いて通った。
大きな扉を通ると大きな体育館ほどの空間が広がっていた。壁の岩には松明が燃やされて空間の中は明るい。ただ空気が若干ひんやりとする。広々とした空間の中には二人以外誰もいなかった。
「昨晩、ヒメジが言っていた空間だな。モンスターは分からないと言っていたが、本当は出現しない場所なのかも」
「そうだったらどんなに嬉しいか。どうか何も出ませんように」
ヒメジは両手を合せて神に祈った。オニヨンはそれをちらっと見て、ヒメジに声をかけた。
「ヒメジ、それじゃ行くぞ」
ヒメジは祈りをやめて返事をした。
「はい、オニヨンさん」
会話の後、二人は空間を歩き始めた。しばらく歩いていると、オニヨンはヒメジの足が震えていることに気がついた。
「ヒメジはびびっているのか。そんなに震えて」
「はい、モンスターがいないということが怖いのです。ひょっとしたらさっきみたいに中央まで行くとたくさんのモンスターが現れて襲ってくるかもしれないですからね」
「ヒメジは想像力が豊かだね」
「それほどでもないですよ」
「あのなあ、貶しているのだぞ。褒めてなどないからな」
「そうだったのですか。でも、オニヨンさんは怖くないのですか?」
「怖くない。むしろ早くモンスターが出てこないかとワクワクしている」
「その前向きな気持ち羨ましいです」
「ヒメジも私のようにもっとポジティブになれ。いつもネガティブに考えていたら気持ちがへこむぞ」
「オニヨンさんの言っていることは分かるのですが、怖いものはどうしても怖いのです。ですから怖くて震えが止まらない。どうしたら震えが止まるのか分かりますか? オニヨンさん」
オニヨンはどうしようかと歩きながら考えていたが、急に顔を赤らめながら、うつむいて
「震えを止めるにはこれが一番の薬だ」
そう言ってヒメジの手を握った。確かにこれはヒメジにとって効果があった。ヒメジは急に心臓がどきどきして体中が緊張し体温も高くなり震えが止まった。
「どうだ、ヒメジ。これで震えが止まっただろう」
オニヨンは、はにかみながら言った。ヒメジは顔を引きつったまま、
「ええ、止まりましたが、代わりに体が緊張して思うように動けなくなりました。オニヨンさん、もういいですから手を離してください」
言うのが精一杯で、顔を真っ赤にしてその場に立ち止まってしまった。ヒメジが急に止まったので、オニヨンも立ち止まってヒメジを見た。
「ヒメジ、どうしたのだ。おや、全身が緊張しているぞ」
ヒメジは無言でうつむいて立っている。オニヨンは意地悪く力を入れてヒメジの手を握りしめた。
「……」
ますますヒメジは緊張して、顔は茹で蛸のようになった。それを見たオニヨンはおかしくなって笑い始めた。
「あははははは」
「笑わないでください」
ヒメジは笑われたのが恥ずかしくて、照れ隠しで少し強い口調で言った。しかしオニヨンはそんなヒメジの言動を見て更ににやけながら言った。
「だってヒメジが、ヒメジが、思春期の少年のようにうぶだもの。この年で顔を真っ赤にしている。よっぽど女性にはその年まで縁がなかったのね。まあ、いいわ、ほれ手を離したぞ」
ヒメジはその場で大きく深呼吸をして、緊張を解こうとした。すると、オニヨンが、
「ヒメジ、どうだ、手を離したらまた怖さで体が震えるか」
ヒメジに尋ねた。ヒメジは、しばらく無言で立っていたが、
「いいえ、おかげさまで震えが収まりました」
いつもの穏やかな声で返事した。するとオニヨンはヒメジに向かって親指を立てて
「それは良かったぜ。それでは先を進もうか」
元気に声をかけた。




