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 「さあ、ここが十三階層で三つ目の宝箱のある大きな部屋です。前の二つの宝箱には金の延べ棒と宝石だけでしたが、今回は賢者の剣が必ず入っていることを祈っていますよ」

「よし、今回こそは賢者の剣を手に入れるぞ」

オニヨンは体育館ほどの大きさのある部屋の中央にある宝箱に手を触れた。すると、『ドスン』と四つ大きな生き物が床に落ちた音がした。二人は驚いて部屋を見回すと、宝箱から東西南北の部屋の壁際にモンスターが現れていた。東にはコカトリス、西にはヒュドラ、南にはオウルベア、北にはメデューサである。二人はコカトリスに向かって対峙していた。

「オニヨンさん、怖いよ~。モンスターに囲まれたよ~」

「ヒメジ、情けないこと言うな。この不利な状況をなんとかするのが男の中の男だろう」

「そんなこと無理ですよ。怖くて頭が回らないです」

ヒメジの手足ががくがく震えている。

「うるさいなあ、とりあえず、ヒメジはヒュドラに向かって盾を立てろ」

「え~。どうして私が一人でヒュドラを相手するのですか?」

ヒメジはわめいた。

「違う、私の背中を守れと言っているのだ」

オニヨンが怒って叫ぶと、

「ひゃ~、怒らないで~」

ヒメジは急いでオニヨンの後ろに回って、ヒュドラに盾を向けた。

「オニヨンさん、盾を構えました。その後どうすればいいですか」

「自分で考えろ」

「分かりません」

「ええ、もうしょうがない奴だな、適当にブーメランナイフを投げておけ。まぐれで当たるかも知れないからな」

二人が話をしている間にいきなり、コカトリスとヒュドラが石化の息と毒の息を吐いてきた。二人はそれを盾で防いだ。その時、オニヨンは迷った。

(私が盾を捨てて素早さを活かせばコカトリスを倒すことは出来る。しかし、そうなると三匹のモンスターに囲まれたヒメジは孤立して、戦うことが出来るのだろうか。おそらくは、怖がってその場で腰を抜かすに違いない。ああ、どうしよう)

すると、後ろからヒメジの声がした。

「これでもくらえ、えい」

ヒメジはオニヨンの心配をよそに、オニヨンに言われたとおりブーメランナイフをヒュドラに向けて投げたが左にそれて、再びヒメジの手許にもどってきた。その間にじわじわと四匹のモンスターは二人に近づいてきた。

「もう一度、えい」

ヒメジはブーメランナイフをヒュドラの胴体に向けて投げた。

「よし、次は当たったぞ」

ヒメジが自信満々で思った瞬間、ヒュドラの大蛇の一つがブーメランナイフから胴体を守るように動いた。すると、ブーメランナイフが大蛇の眉間に当たった。

「しゅるるるる」

奇声を出して大蛇が首から落ちたが、なくなった首から二本の大蛇がすぐに生えてきた。

「ばけものだ~」

ヒメジは、おびえながらも、三回目を投げるために、ブーメランナイフが戻ってくるのを待っていた。一方、オニヨンは近接戦をあきらめて、持っていた投擲用ナイフを投げた。

「えい、えい、えい、」

オニヨンが連続して三本投げた投擲用ナイフはコカトリスの頭、首、胴体にすべて正確に当たった。ヒメジと同様に投擲用ナイフには猛毒がついているので、コカトリスはすぐに体中に毒が回りその場で倒れた。

「一丁上がり、ヒメジはどうだ?」

「いまやっています」

三回目に投げたブーメランナイフを投げると、今度もヒュドラの胴体にめがけてとんでいった。今回もヒュドラの十ある大蛇は胴体をかばうように胴体の前にたれていたが、ブーメランナイフはそれらの間をすり抜けてヒュドラの胴体に命中した。すると、十の大蛇から一斉に、

「しゅるるるる」

大きな奇声が発した後、ヒュドラは倒れた。

「よくやったぞ、ヒメジ」

「残り二匹ですね。頑張りましょう」

ヒメジは、ほっと一息入れたが、オウルベアは、ヒメジを一服させる気はなかった。仲間がやられるとこを見ると、一目散に、ヒメジに向かってかけだして体当たりをしてきた。オニヨンはそれに気づいて、ヒメジとオウルベアの間に移動した。そして、盾を立ててオウルベアの攻撃からヒメジを守った。

「ドン」大きな音がして、オニヨンは盾ごと吹き飛ばされた。

「しまった」

オニヨンは、数メートル飛ばされて床に落ちると、手から盾が離れてしまった。そして、ゴロゴロと体が転がり仰向になって止まると、目の前にはメデューサがオニヨンの顔をのぞき込んだ。

「危ない、オニヨンさん」

ヒメジはオニヨンに向かって叫んだ。オニヨンは咄嗟に剣を抜いてメデューサの鼻のあたりを突いた。すると、メデューサは消えて、ドロップアイテムを落としたが、オニヨンもまともにメデューサの顔を見てしまい石化してしまった。

「オニヨンさん」

ヒメジはすぐにでもオニヨンに万能薬をかけたかったが、オウルベアがそれを邪魔して左手の鋭い爪をヒメジにむかって振り上げた。

「怖いよ~。助けて~」

ヒメジは震えながら盾で身構えると、強烈な一撃が盾を通じてヒメジに襲った。

「うわ~」

ヒメジも一メートル後退させられたが、なんとか両足を踏ん張って立ち止まった。オウルベアは再びヒメジに突進してきた。

「今度は防げない、やられる」

ヒメジは、ブーメランナイフをオウルベアに投げて、両手で盾をつかんで身構えた。先ほどよりも大きな衝撃がヒメジを襲った。

「うわ~~」

数メートル跳ばされて床に落ちたときに、ヒメジは盾を手放してうつぶせに倒れた。

「しまった、盾がないとオウルベアに叩かれて万事休すだ」

ヒメジは自分がプロテクトリングでどんな攻撃でも防げることを忘れて、最後を覚悟した。跳ばされてうつぶせになったまま、しばらく待ったが、オウルベアは何もしてこない。そっと顔を見上げると、幸いなことに、オウルベアはブーメランナイフが左肩に当たって、もがき苦しんでいた。やがて毒が全身に回ったようで、オウルベアはその場で倒れた。

「助かった~」

ヒメジはゆっくり立ち上がると、石化したオニヨンの傍へ行き、万能薬をかけた。やがて、オニヨンは石化が解かれて生身になった。

「ヒメジ、これで二度目だな。ありがとう」

オニヨンはヒメジに礼を言った瞬間に、ふとヒメジに対して不思議な思いがこみ上げてきた。

(この人が、二度も私を助けてくれるとは。ひょっとするとヒメジは私の白馬の王子様……まさか)

僅かな時間、思いにふけていたオニヨンであったが、ヒメジの声で我に返った。

「いいえ、どういたしまして。それよりオニヨンさん大丈夫ですか?」

「ああ、大丈夫だ」

「それなら、宝箱を開けましょう」

「宝箱を開けても大丈夫かな。またモンスターが現れるかも知れないぞ。そうなったらヒメジまた怖い思いするぞ」

オニヨンは少し用心したが、ヒメジはトラップが一度きりしか発動しないと信じていた。

「大丈夫ですよ。もうモンスターは出ないでしょう」

「そう言っていると、絶対にモンスターが出てくるぞ。用心したことに越したことはないからな」

「オニヨンさんは用心深いですね」

「ヒメジに言われたくないわ」

オニヨンは宝箱の前に手を出したが、触れようかやめようか迷っていた。すると、ヒメジが手を出してふたを開けてしまった。

「バタン」

大きな音がして、二人はびっくりした。再びモンスターが現れたのかと思い、オニヨンは剣に手をかけ、ヒメジはブーメランナイフを持って辺りを見回した。何回も注意深く見回したが、モンスターは一匹も現れなかった。代わりに、床に十四階層に通じる階段が現れていた。二人は胸をなで下ろして、オニヨンは剣から手を離して、ヒメジはブーメランナイフをカバンにいれた。

「それでは十四階に行きましょう」

「ちょっと待て、ヒメジ、宝箱の中身を確認するぞ」

「そうでした」

二人は宝箱の中を確認すると、空っぽであった。

「あれ、何にもない」

オニヨンはそうつぶやくと、急に肩を落とした。ヒメジは、

「次がありますので、気を落とさないようにしてください」

元気づけた。しかし、あれだけ苦労したのに、賢者の剣がなかったのでオニヨンは相当ショックを受けたようだ。ヒメジは何度も勇気づけたが、オニヨンはうつむいたまま無言で十四階層へ向かう階段を降り始めた。


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