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「オニヨンさん、次は十三階層へ行きますよ」
「承知した。あ~あ、疲れた。もうオウルベアとの戦闘はこりごりだ」
「そういえば、ここ数回はコカトリスではなくてオウルベアばかりでしたね」
「そうさ、誰かさんは怖がって、ブーメランナイフを外しまくっていたからなあ~。誰かが戦わなくてはいけなくなっていたものなあ~」
「あら、また嫌みを言っていますね」
「嫌みではない。本当のことだ。ヒメジ、もっとしっかりしてくれよ」
「すみません。ところで次のドアを開けたら十三階層へ降りる階段があります。そうしたら、十三階層の安全地帯にたどり着けますので、もう少しの辛抱です」
「わかった。じゃあ、案内頼むよ」
「はい、任せてください」
ヒメジが扉を開けるとそこにはオウルベアが二匹いた。そしてその横に宝箱が置いてあった。いつものようにひめじは毒の薬がついたブーメランナイフを投げたが外してしまった。自分たちが攻撃されたことを認識した二匹のオウルベアは、ヒメジに向かって吠えながら、長い爪の生えた右腕で攻撃してきた。ヒメジは思わず盾を持って防御した。その時にオニヨンが盾を捨てて、ショートソードで一匹のオウルベアの右腹部を斬った。オウルベアは倒れるとポンという音と共に消えて毛皮をドロップした。もう一匹のオウルベアはヒメジの持っている盾を右手で思いっきり殴った。その威力に耐えきれずにヒメジは盾と共に後ろへ吹き飛ばされてしまった。盾を持ったまま尻餅をついたヒメジは、オウルベアの馬鹿力に驚き、震えながら次の攻撃を避けようと、両足を動かして後ろに下がろうとじたばたした。そこへ、オウルベアの右手がヒメジに向かって降ろされた。ヒメジはプロテクトリングがあることを忘れて、
(もうだめだ、倒される)
観念して目をつぶった瞬間、オウルベアがバタンと前のめりになって倒れた。ヒメジがおそるおそる目を開けると、オニヨンが立っていた。
「大丈夫か? ヒメジ」
「ありがとうございます。オウルベアはどうしたのですか?」
「後ろから首根っこを刺した。こいつ攻撃に夢中になって後ろをおろそかにしていたから、簡単に剣で刺すことが出来たぜ」
「そうでしたか。良かった。助かった」
「さあ、お宝を拝みに行こうぜ」
オニヨンは宝箱の前に移動した。ヒメジも慌てて立ち上がると、オニヨンの後を追った。
「それでは、開けるぞ。どうか、賢者の剣が出てきますように」
オニヨンは子どもが遠足の前に『明日は天気になりますように』と真剣に願うように両手を合わせて祈っていた。そして、宝箱のふたに手をやると、
「さあ、でてこい」
かけ声と共にふたを開けた。
「え~。またか。金の延べ棒と宝石ばかりだ。ここにもなかった。後はヒメジ任せたぞ」
「またですか、残念ですね」
ヒメジは、宝箱の中身をカバンに入れ始めた。
「まあ、日頃この私をいじめるから賢者の剣が手に入らないのです。ざまみやがれ」
ヒメジは、小声で独り言を言った。しかし、距離があったのも関わらず、ヒメジの声を聞いたオニヨンは、ヒメジの頭を思いっきり拳骨で叩いた。
「いた~い。何するのですか?」
「ヒメジが余計なことを言うからだ」
「聞こえていたのですか」
「ああ、私の耳を侮るなよ。悪口は一キロ先の小声でも聞き取れるのだからな」
「これから気をつけます」
ヒメジは反省して、宝物をカバンに入れると、十三階層に向かう階段へ歩き始めた。
十三階層も十二階層とかわらず城の中のようなダンジョンであった。十三階層に降りて五分歩いたところに安全地帯があった。安全地帯までは一本道でいくつかの扉があったが、一度も戦闘は起こらなかった。安全地帯に着くとオニヨンなヒメジに叫んだ。
「腹減った。ヒメジ何か食べさせろ」
「分かりました、今から用意しますね」
ヒメジはアイテムボックスから寸胴を取り出すとおたまを使って皿に盛った。そしてそれをオニヨンに渡した。もらったオニヨンはガツガツガツと食べ始めた。
「ふう~。うまい。今日はトマト味のスープだな。ジャガイモにタマネギにんじんとこの緑色はキャベツか! それに干し肉が入って体が温まる。ヒメジは料理の天才だな」
「いいえ、ただの食いしん坊です。おいしい物には目がないのでそれのまねをしているだけです。ところで明日の作戦ですが……」
そうヒメジが言いかけた時に、オニヨンが真面目な顔でヒメジに話しかけた。
「一つ質問だが、嫌なら答えなくてもいい。ヒメジって異世界から召喚されたのだろう」
「どうしてそう思うのですか?」
「理由は三つ。一つは的確に情報を集めている。地図の能力のような情報収集の能力を持っているのだろ。二つ目に鑑定能力だ。一目見たときに指輪やナイフの能力を見極めていた。最後に、ひと晩で見事な盾を作った。それも道具も無しに。そのような特殊能力があるのは私の知っている限り異世界から召喚された人だけだ」
「……」
「私は、ヒメジ以外に異世界から召喚された人間をサード国で二人知っている。一人は剣士で、武術の達人だ。剣を持たせたら右に出るものはいない。またアイテムボックスも無限に入るものであった。しかし、それ以外は平凡な男で、よく酔いつぶれては元の世界に戻りたいとぼやいていた。もう一人は魔法使いの女で、多種多様な魔法を使えるし、鑑定能力もあった。しかし血を見るのが苦手で戦闘後はいつも寝込んでしまう。今では二人とも戦闘には役に立たなくなっている。サード国ではお荷物になっている」
「セカンド国にはいないのですか?」
「セカンド国は異世界人を召喚していない。召喚しているのはフォース国とサード国とトゥエルブス国だけだ。しかし、最近、フォース国は召喚をやめたそうだが、ヒメジはフォース国で召喚されたのだろう」
「……」
「まあ、始めに言ったが、しゃべりたくなければ言わなくていい」
「私はフォース国で召喚されました。しかし、召喚の魔方陣の上ではなく、どうやらその下にあった便所で召喚されました」
「ぶは、トイレだって! あ、は、は、は。こりゃいい。トイレの中で召喚される話は初めて聞いたぜ」
「笑わないでください。それから特別な能力はいくつかありますが。それを教えることは出来ません。その代わりそれを使って協力することはいくらでもします」
「よしわかった。言いたくなかったことを言ってくれたお礼だ、私からもとっておきの秘密を教えてやる。実はな、賢者の杖というものがある。それに賢者の宝石を取り付けると異世界人は元の世界に戻れるという話がある。昔、ヒメジみたいな何でも作れる異世界人が作ったそうだが、それらは異世界人しか使えないそうだ。そのためこちらの世界の人は作った異世界人がいなくなるとそれを隠してしまったと言われている」
「なぜ隠してしまったのですか?」
「異世界召喚した人をすぐに帰すわけに行かないだろう。全員特殊能力を持っているのだから戦闘要員としては役に立つ。そういうヒメジは……プロテクトリングがなければほとんど役に立たないか」
「事実ですが腹が立ちますね、オニヨンさんの言い方は。それより、その賢者の杖と賢者の宝石はどこにあるのですか?」
「知らん」
「え! ひとことで終わらせないでください」
「本当に知らないのだ。どこかのダンジョンの宝箱にでも入っているのだろう。私が欲しい賢者の剣も異世界人が作ったものだが、その剣は誰でも使えるそうだ。何でも、作った異世界人の友達の剣士のために作った剣という話だから、私でも使えるはず。もしそれを手に入れたなら、私は天下無双の女剣士になれる。そうなるとこんな美女に男が知らんふりできるわけがない。な、ヒメジよ」
「あなたのことはどうでもいいです。オニヨンさんがダンジョン攻略をしているのはその賢者の剣を得るためなのですね」
「最初からそう言っているだろう。私の彼氏は賢者の剣とヒメジだからね」
「はい、はい。では十三階層と十四階層の作戦会議を開いてもいいですか」
「おう、いいぜ。ただし、飯を食べながらだ」




