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「いたたた」
「ヒメジ情けないね。一発で決めたのは最初に一回だけ。後はすべて外しているじゃないか。情けないったらありゃしない。私の夫になることはあきらめてくれ」
「その方がいいです」
「何だって?」
「いえ、何にもありません。それより蹴るのをやめてくれませんか。尻が痛くて明日から歩けなくなりますから」
「それは困るな、よしやめておくが、これからはよく狙って投げろよ」
「はい、そうします」
「ところで次のドアを開けると、宝箱があります。今度は賢者の剣があるといいですね」
「そうなのか。それはいいことを聞いた。断然ハッスルしちゃう。それじゃ行くぞ、ヒメジ」
オニヨンは宝箱のある部屋の扉を開けた。すると、その部屋には宝箱以外にオウルベアが二匹いた。オニヨンとヒメジが部屋の中に入ると、オウルベアが二人をにらんできた。
「グルルルル」
唸りをあげて、二頭が大きな爪でオニヨンを攻撃した。オニヨンは盾を持っていると素早さが活かされない。そこで盾をその場に捨ててショートソードで攻撃を始めた。オニヨンは体を左右に移動しながら二匹のオウルベアの大きな爪の攻撃を躱して、
「ええい」
一匹のオウルベアの首筋にショートソードをたたき込んだ。更に、オニヨンはもう一匹のオウルベアの懐に入り、
「これでもくらえ」
あごの下からショートソードを突き刺した。致命傷となった二頭はその場に倒れて、毛皮をドロップした。二匹のオウルベアを倒したオニヨンは盾を拾って宝箱に向かった。ヒメジも毛皮を拾ってオニヨンの後を追った。
「今度こそは賢者の剣がありますように」
オニヨンが宝箱を開けると、金の延べ棒と宝石の他に指輪が入っていた。
「あれヒメジ、指輪が入っているぞ」
「本当だ、オニヨンさん貸して貰えますか」
ヒメジはオニヨンから指輪を受け取った。そして、
「鑑定」
唱えた。すると、
【力の指輪 この指輪をはめた人物の力のステータスを倍にする。ただし、武器の能力までは向上しない】
表示した。
「これ力の指輪です。私が持っていても仕方が無いのでオニヨンさん使ってください」
ヒメジはオニヨンに指輪を返した。
「いいのか、これで指輪二つ目だろう」
「いいですよ。オニヨンさんさえ良ければ」
「ありがとう。ありがたくいただくよ」
「そうしてください。どうせ結婚指輪は貰えないでしょうから、代わりに力の指輪をはめてください」
「ヒメジは一言多いのだよ」
オニヨンはヒメジに拳骨を頭に一発入れた。
二人は続いて次の宝箱がある部屋に向かって移動し始めた。その間、コカトリスと数回戦ったが運が良いことにすべて単体であったのでヒメジの毒の薬がついたブーメランナイフだけで仕留めることが出来た。何回かの戦闘の後に、
「ヒメジ、随分、上手くブーメランナイフでモンスターを倒せるようになったじゃないか。一回とは行かなくても二、三回投げて当てるようになって、上達が早いな」
オニヨンが珍しくヒメジを褒めた。
「そうですか~。てへ、実力ですよ」
「まあ、出来の悪い奴でも、貶してばかりなら気が滅入るだろうから、たまには褒めてやらなければ。『豚もおだてりゃ木に登る』と言うからな」
「どう言う意味ですか」
「言ったとおりだ」
(糞ババア。私をからかうのもいい加減にしろよ。よし、少しは懲らしめてやろう)
次のドアを開けると宝箱が置いている部屋だが、ヒメジはオニヨンに伝えなかった。オニヨンは部屋に入ると、いつものように部屋の中を確認せずに盾を構えて、攻撃をヒメジに任せようとした。その部屋の中には三匹のオウルベアがいて、その中の一匹がオニヨンの盾に向かって殴りかかった。
「ドシン」
音がして、オニヨンの盾が吹き飛ばされた。驚いたオニヨンは、部屋を見回すと三匹のオウルベアと宝箱を確認した。ヒメジは、
「危ない。オニヨンさん! モンスターめ、これでもくらえ」
後方から狙いを定めてブーメランナイフを投げた。そして、オニヨンの盾を吹き飛ばしたオウルベアの眉間にブーメランナイフを当てた。
「やった~。オニヨンさん、一発で当てましたよ」
「ヒメジ、まぐれあたりだな」
オニヨンは憎まれ口を叩いた。ヒメジは一匹のオウルベアを倒したが、残りの二匹のオウルベアに警戒されて睨まれた。そのためにヒメジは蛇に睨まれた蛙のように固まってしまった。それを察したオニヨンは、ショートソードを抜いて二匹のオウルベアに向かって斬りかかった。オニヨンは指輪のおかげで素早さと力強さが向上している。そのため、一体のオウルベアの腕を簡単にショートソードで切り落とした。
「ウオオオオオ」
腕を切り落とされたオウルベアが痛みのためのけぞった。その間にオニヨンはオウルベアの胸にショートソートを突き刺して倒した。もう一体のオウルベアは仲間を殺された怒りにまかせて左手の爪でオニヨンを切り裂こうとしたが、オニヨンが後方にジャンプしてそれを躱し、オウルベアの頭部にショートソードを突き刺した。オニヨンが二体のオウルベアを倒すためにかかった時間は斬りかかってから三十秒ほどであった。見事な剣さばきであったため、ヒメジはそれに見とれてしまっていた。
「ヒメジ、終わったぞ。……おい、ヒメジ……。ヒメジどうした」
「あ! オニヨンさん。オニヨンさんの剣さばきをつい見とれていました」
「私の剣さばきだと! 私の美貌の間違いではないのか」
「いいえ、オニヨンさんが……」
(いやまずい。ここで本当のことを言ったらまた頭に拳骨が来るかも)
「そうかも知れませんね。オニヨンさんの美貌につい見とれてしまいました」
「嫌だわ、ヒメジったら。美貌だなんて照れるわ」
そう言いながら、オニヨンは平手でヒメジの頭を叩いた。
(くそ~ どっちにしても叩かれた。痛いよ~)
「あ~あ、恥ずかしいわ。ヒメジは口が上手くなったわね」
オニヨンは顔を赤らめて照れていた。ヒメジは心の中で、
(はいはい、勝手に一人で盛り上がってください)
思いながらオニヨンに尋ねた。
「宝箱があります。オニヨンさんが開けますか?」
「いいえ、今回は口の上手いヒメジが開けてくださいね」
オニヨンはまだ照れていた。
「分かりました」
ヒメジは宝箱を開けて中を確かめたが金の延べ棒と宝石だけであった。
「また、金の延べ棒と宝石ですね。今回も残念ながら賢者の剣はなかったですね」
「賢者の剣がないのは残念ですが、宝石よりも私の美貌の方が美しいなんてヒメジは罪作りな男ね」
「もう、そんなこと言っていないですよ。オニヨンさん、また私をからかっている。勘弁してください」
「だって、ヒメジからかうとすぐに顔を真っ赤にして照れるから面白いのよ」
「オニヨンさん」
「ヒメジってすぐに顔に出やすいのね」
「そうかも知れません」
「でもそんな男は嫌いではないよ」
照れながらオニヨンが言ったので、ヒメジは一瞬キュンとときめいたが、
(危ない、危ない、相手はオニヨンだ。最後に大どんでん返しがあるかも知れないので気をつけることにこしたことはないぞ)
すぐに気を引き締めて宝物を回収した。




