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ヒメジが覚えたマップでは宝物から次の宝物までの道のりは長くはなかったが、数メートル進む度にモンスターが現れたため、二人は戦闘にうんざりしてきた。
「また、リッチが三体ですよ」
「本当にしつこいわね。後から続々と降って湧いたように出てくるなんて」
「オニヨンさん、お願いします」
「任せて」
オニヨンはリッチに素早く近づくと、先頭を歩いているリッチの左肩から右脇腹にかけてショートソードで斬り込んだ。斬られたリッチは、
「ポン」
音を立てて消えてしまったが、すぐ後ろを歩いていたリッチがヒメジに殴りかかってきた。また後方から歩いていたリッチは呪文を唱えて仲間がいるのにファイアーボールを撃ってきた。オニヨンは右にステップして躱したが、仲間のリッチはファイアーボールに当たって燃え始めた。
「うわあああ」
うめき声をあげながらリッチは燃え尽きてしまった。後方にいたリッチは、仲間を魔法で撃ったことなど気にしないで再びファイアーボールの呪文を唱え始めた。オニヨンは素早さのリングのおかげで走る速さが上がり、リッチがファイアーボールの呪文を唱える前にリッチの胸をショートソードで突き刺した。
「ポン」
音と共にリッチは消えた。
「オニヨンさんやりましたね」
「いたっ」
「どうしたのですかオニヨンさん」
「どうやらファイアーボールの炎が左腕をかすめたみたいだ」
ヒメジがオニヨンの左腕を見ると親指ほどの水ぶくれが出来ていた。ヒメジはすぐにカバンから二十ミリリットルの回復薬を取りだしてオニヨンに渡した。
「これを飲んでください」
「ありがとう。いただくよ」
オニヨンは回復薬を受け取ると、それを飲んだ。すると、水ぶくれは跡形もなくなった。
「治りましたね、オニヨンさん」
「これでばっちりだ! 先を急ぐぞ、ヒメジ」
「はい、オニヨンさん」
こうして、リッチが自分の味方を無視して魔法攻撃をするため、オニヨンは何度か回復薬を飲む羽目になった。それでも、戦闘力はオニヨンの方が高かった。素早さの指輪のおかげで両手にショートソードを持って目に見えないほどの速さでスケルトンやグールやリッチをなぎ倒していった。また、デュラハンが数体出てきた時も、素早い動きで鎧の継ぎ目を正確に貫いて一瞬で倒していった。ヒメジは後をついてドロップアイテムを拾うか、オニヨンに回復薬を渡すことに徹した。やがて、宝物の部屋までやってきた。
「ここが宝箱を置いてある部屋です」
「やっと着いたか。もう戦闘は飽き飽きしてきた」
「随分、戦いましたね。私も移動したりドロップアイテムを拾ったりしたので、両手両足と腰がパンパンですよ」
「ヒメジは年寄りだから筋肉痛になるのが早いな」
「オニヨンさんは大丈夫ですか?」
「私は若いからな。ほれこの通りまだぴんぴんしている」
「いいなあ。私もあと二十歳若ければなあ~」
「愚痴を言っても仕方ないぞ。さあ、中に入ろう」
オニヨンはショートソードを構えて部屋の中に入った。ヒメジもオニヨンの後について入った。幸い、部屋の中にはモンスターはいなかった。
「開けるぞ」
オニヨンは宝箱を開けると、ここでも金の延べ棒や宝石があった。それ以外にナイフが一本入っていた。ヒメジはいつものように鑑定をした。
【ブーメランナイフ 投げた人のところへ必ず帰ってくるナイフ。動物や植物にあたり刺さってもすぐに抜けて戻ってくる……】
「オニヨンさん、このナイフはブーメランナイフといって投げた人のところに戻ってくるナイフです」
「便利なナイフだな」
「オニヨンさん使います?」
「私よりもヒメジの方がいいだろう。それに私は先ほど指輪をもらったからな」
「いいのですか?」
「ああ」
「じゃあ、使わせてもらいますよ」
ブーメランナイフはヒメジが使用することになったが、これはとても便利なものだった。十一階層へ降りる階段に至るまで、ヒメジはそれ一本だけで戦った。
「オニヨンさん、前からスケルトンがやってきました。一、二、三、四、五体です」
「ヒメジ、遠距離攻撃できるか?」
「先ほど手に入れたブーメランナイフを使ってみます」
「何体か倒してくれ」
「分かりました。えい!」
ヒメジはブーメランナイフを先頭のスケルトンに向かって投げた。真っ直ぐ投げたつもりであったがやや左にそれてしまった。
「しまった外した」
ヒメジは叫んだが、
「いやよく見てみろ」
オニヨンが指さすと、先頭のスケルトンのすぐ後ろに歩いていたスケルトンの頭部に当たり頭蓋骨をくだいた。
「やった! 当たった」
投擲用ナイフなら投げっぱなしではあるが、ブーメランナイフは、当たったスケルトンの頭蓋骨からヒメジの右手に戻ってきた。戻ってきたときに本当にブーメランのように回転しながら戻ってきたので刃先をつかみかけたが、不思議なことに柄の部分をつかんでいた。
「本当に便利なブーメランナイフだ。これなら投擲用ナイフがなくてもこれ一本でモンスターを倒せることが出来る。それに、投擲者には傷つかないように戻ってくる。良い物を手に入れた。よし、もう一丁」
ヒメジはブーメランナイフをスケルトンに向かって投げた。これは、先頭を歩いているスケルトンの頭部に当たり、頭蓋骨を砕いた。そして、ブーメランナイフはヒメジの右手に戻ってきた。
「よくやったヒメジ。後は任せておけ」
オニヨンがスケルトンに向かって走り始めた。オニヨンは両手にショートソードを持って左にいるスケルトンに攻撃を仕掛けた。右手のショートソードでスケルトンの剣での攻撃を防いで、左手のショートソードでスケルトンの胴体を打ち砕いた。続いて、後方にいた二体のスケルトンの間を通り過ぎて、すぐに振り向くと、両方のスケルトンの頭部をショートソードで打ち砕いた。
「ざっとこんなものよ」
「リングのおかげで素早さが上がって、スケルトンぐらいならお茶の子さいさいですね」
「そうだな。まあ、ヒメジが数を減らしてくれたので助かっているがな」
こうして、オニヨンとヒメジは効率よくモンスターを倒し、十一階層にたどり着くことが出来た。
十一階層は城中を歩いているようである。廊下の両側にドアがありその向こうにも廊下が続いている。迷路のような構造になっている。そして、ここからは冒険者が誰も到達していない領域でもある。ヒメジは安全地帯までの道のりは覚えているためオニヨンを連れてそこまでは到達することができた。しかし、問題はこれからである。
「今日はここでひと晩泊まりますね」
ヒメジはオニヨンに確認した。
「そうしよう」
「ところで、十階層からは石化攻撃を仕掛けてくるモンスターが増えてきます。オニヨンさんはその対策を考えていますか?」
「考えていない。でも、どうしてモンスターのこと知っているのだ。この階層には我々がはじめて到達したばかりだぞ」
「以前本で読んだことがあるのです。あくまでも言い伝えのたぐいですが、ダンジョンの中に城中があれば息をはいて相手を石化させてしまうコカトリス、顔を見るだけで石化してしまう蛇の髪をしたメデューサなどのモンスターがいると書いてあったのです」
「それが、ここのダンジョンにも当てはまると?」
「そうならないことを祈っていますが、万が一、出会ったときのことを考えておく必要があると思うのです」
「そうだな、私は素早さで対応できるが、ヒメジはな……。ところで、以前本で読んだことがあると言ったが、記憶が戻ったのか?」
(しまった。昨晩ネットで調べたことをばれないように適当に言っただけなので、何も考えていなかった。どうしようか……。よし適当にごまかそう)
「残念ながら戻ってはいません。実は、記憶喪失になってフォース国の教会の礼拝堂に泊めてもらった時、そこに置いてあった本をふと手にとって読んだのです。題名は忘れましたが、伝承の本なので読み始めると面白くて夢中で読みました。だから覚えていたのです」
「そうなのか。残念だな。記憶が戻ったのかと思ったよ」
(ふう。なんとかごまかせたよ)




