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 九階層にも安全地帯があり、その場所も二人しかいなかった。

「四日で九階層まで来るなど考えられない。ヒメジのおかげだ」

オニヨンは驚いていた。確かに当初の予定では一階層に一日から二日の日程を予定していた。しかし、これまでヒメジがマップを暗記しているので最短ルートで階層を降りることができている。

「そうそう、そのように感謝してください。私はえらいのです」

「何だと! 誰がえらいのだと! 偉そうに言いやがって」

オニヨンはヒメジにしかるように言った。ヒメジは、オニヨンを怒らせたと思ってあわてて取り繕った。

「冗談です。たまたま、歩いた道が正解の道だったおかげです。運が良かったのですよ」

「そうだろう。運も実力のうちと言うから、これからも期待しているぞ」

「任せてください。なんとかします」

「ところで、お腹が空いたぁ~」

「今、用意しますので少し待ってください」

ヒメジはアイテムボックスから寸胴を取りだして皿に盛ってオニヨンに渡した。

「これはなんだ? 見たこともない食べ物だな」

「これは、鶏肉と野菜を牛乳で煮込んだ料理です。スパイスと塩で味付けしています」

オニヨンは匂いをかいで、問題なしと思ったのか料理に口をつけた。

「うまい、うまいよ。ダンジョンで食べられる食事ではない。ヒメジは良い亭主になれるな」

「相手がいません」

「私ならいつでもいいぜ」

「お断りします。どうせ、あなたの身の回りのお世話をすることになるでしょう」

「正解」

「それは絶対嫌です」

「顔を赤らめて言う台詞じゃないぞ」

「ごほん。それより、九階層からは宝箱がどの階もありますので、すべてもらっていきます。そのため、交戦する回数が多くなります。私よりオニヨンさんの方が状況を的確に把握して戦闘できるのでこれからはお願いします。私は後方支援にまわりたいと思います。そうでもしなければ、体が筋肉痛で動かなくなります。もうすでに腰が痛くて満足に走れなくなってきていますから」

「本当は戦闘が怖いだけだろう」

(図星!)

「そんなことないです。本当にオニヨンさんの戦闘のセンスを考えたら、これからはオニヨンさんが戦った方が短時間で終わります。私は、クロスボウや、投擲用ナイフで援護した方が役に立つと思います」

「そう言いながら、後方の安全な場所に隠れようと思っているのだろう。なあ、かわいい、子猫ちゃん」

(その通り!)

「違いますってば、私はプロテクトリングがあるとはいえ、近接戦はダガーしか武器を持っていないので、ショートソードのオニヨンさんと比べて戦闘の能力は低いですから、戦っても役に立たないと思います。だからお願いしているのです」

「仕方ないな。それでは戦闘は私に任せておけ。言っておくが後方支援はきっちり頼むぞ」

(よし、オニヨンさんを納得させたぞ。これで、安心だ。やった~)

「はい、ボウガンや投擲用ナイフでサポートします」

「じゃ、これで作戦会議は終わりと言うことで……」

オニヨンはヒメジがアイテムボックスから取りだしたパンを受け取りすぐにかぶりついた。ヒメジは、まだ伝えたいことがあるのでオニヨンに話しかけた。

「最後に、もう一つ」

「なんだい」

「明日の朝からこの薬を飲んでください」

「なんだい、その白色の薬は」

「能力向上薬です。戦闘能力を上げる薬と思ってください。一本飲むと一日は持ちます」

「なんでこんな薬をくれるのだい?」

「これからは、モンスターも強くなってくるでしょう。本来なら五、六人のパーティーで攻略すべきところを二人で行っているのです。オニヨンさんには頑張ってもらわなくてはこのダンジョンを攻略できないでしょう。私は真剣に考えています。あなたと一緒このダンジョンを攻略したいと」

(本当は、オニヨンに戦闘を任せて、少しでも自分の負担を減らしたいと思っています)

「よしわかった。明日からその薬を飲むぜ。これから、大船に乗ったつもりで私に任せろ」

オニヨンはそう言うと、残っていたミルクスープを全部飲み干した。


 「はあ、食った、食った。うまかった」

「喜んでもらえてよかったです。食器をください。後片付けします」

「分かった」

オニヨンは自分が使っていた食器をヒメジに渡した。ヒメジはそれを受け取ると、安全地帯で流れている小川にむかった。そこで二人分の食器を洗っていると、後ろからオニヨンが声をかけてきた。

「ヒメジは随分年配だが夢を持っているか?」

(随分年配だと。失敬な。こんなハンサムボーイをつかまえて)

心の中で文句を言っていたが、オニヨンが怖くて、

「ありますよ」

笑顔で答えた。

「どんな夢だ?」

「夢は三つあります。一つは記憶喪失を治すことです」

(本当は元の世界に戻ること)

「それは、そうだろうな。記憶が戻らなかったら不自由だものな。それで二つ目は?」

「二つ目は店を持つこと」

(もし、元の世界に戻れない時には店を持ちたいと思っている)

「どんな店だ?」

「今、薬草の勉強をしているので、薬屋を開きたいと思います」

「そうだな。ヒメジは薬に詳しいから、その店の方がいいだろう。それで三つ目は?」

「それは言いたくありません」

「どうしてだ」

「男のロマンは、女には言えません」

「おじさんのロマンなんてたかが知れているではないか。どうせ、ハーレムを作りたいとでも思っているのだろう」

(図星)

「違いますよ。素敵な人と添い遂げることです」

「タイプはどんな人だ」

(『あなたと反対の人です』って言えないから)

「おとなしくて、お淑やかで、優しくて、私に尽くしてくれて、怒ったり、蹴ったり、叩いたりしない人がいいです。あとは、出来ればやせ形ででかわいい感じの人がいいですね」

「ふう~ん、そうかい。まるで私のことを言っているじゃないか。そんなに私に惚れたのなら素直に言った方がいいぞ」

(このおばさん、何を勘違いしているのだろう。絶対に違います。でも正直に言ったら何をされるのか分からないので)

「パートナーには手を出しませんよ。それに、私なんかよりオニヨンさんにはもっと相応しい人がいくらでもいると思いますよ」

「そうだな。ヒメジよりいい男はごまんといるものな」

「そうです、そうです。ところで、オニヨンさんの夢は何ですか?」

「私も夢が三つある」

「どんな夢ですか」

「一つ目は、賢者の剣を手に入れることだ」

「どうして、賢者の剣を手に入れたいのですか?」

「それはな。詳しいことは言えないが、一つだけはっきりしていることは、その剣を使ってダンジョン荒しを行い、金銀財宝を手に入れて大金持ちになることだ」

「大金持ちになってどうするのですか? 私みたいに店でも開くのですか?」

「いいや、世界中のイケメンを侍らせて、旨い料理と酒を堪能するのさ」

「な~んだ。オニヨンさんはハーレムを作りたいのですね」

「なんだ、いけないか。私だってこのぐらいの夢を持っていてもおかしくないだろう」

「それで、その男の人達と、あんなことやこんなことをするのでしょう」

「いいや、しない。そういうのはあまり関心がない。どちらかと言えば私の観賞用だな」

(オニヨンさんの観賞用にされたイケメンさん達は気の毒に。まあ、私には関係ない話ですが)

「なるほど」

「ヒメジ、お前は料理が旨いからコックとして雇ってやるぞ。私が裕福になったら尋ねてこい」

「はあ」

「なんだ、その返事は。あまり気乗りしないのか?」

「ええ、まあ。私は雇われるより、もっと自由に生きてみたいと思っています」

「仕方ないな。その気になったら尋ねてこいよ」

「オニヨンさんが大金持ちになったら考えます。ところで二つ目の夢は何ですか?」


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