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 六階層は森林地帯であった。洞窟の中だが、不思議にジャングルのように木々が生い茂っている。また、晴れたり曇ったりする代わりに、時間とともに天井が明るくなったり、暗くなったりしていた。六階層に降りて五分ほどで安全地帯に着いた。広場であったが、二人以外は誰もいなかった。

「誰もいないですね」

ヒメジがオニヨンに話しかけた。

「そうだな。だいたい五階層でみんな帰ってしまうからな。この階層からはモンスターも強くなる。特に八階層からはアンデットモンスターだから、普通の武器では通用しない。十階層へ行ったことのある冒険者も戦闘せず、逃げながらたどり着いたそうだ。これから戦闘を避けながら降りていくぞ」

「アンデッドモンスターか」

ヒメジがつぶやいた。

「で、今日は何を食べさせてくれるのかな、ヒメジ」

「今日はこれです。鳥を煮込んだ塩スープです」

ヒメジは、カバンから鍋をとりだした。アイテムボックスに入れると時間の経過がないのでできたての料理を食べて貰える。出来たてのぐつぐつと音が出て煮込んでいる料理をヒメジは皿にすくってオニヨンに差し出した。オニヨンは喜々としてそれを受け取るとパンと一緒に食べ始めた。

「うまいよ。さすがヒメジだな」

「オニヨンさんのために心を込めて作りましたよ」

(嘘です。口だけです。オール クリエーションで作ったので上手に作れただけです)

「それは嬉しいね。ところで、いつからこんなに料理が上手になったのだ?」

「それが記憶喪失で覚えていないのです」

「記憶喪失?」

「そうなのです。フォース国で旅しているときに野盗に襲われて頭を殴られたようなのです。だからそれ以前の記憶が全然無いのですよ」

「そうなのか。それは大変だったな」

オニヨンはヒメジに対して気の毒そうな顔になった。それを見たヒメジは、

(これも嘘です。でも正直に言っても信じて貰えないからなあ……)

一瞬ばつの悪そうな顔になった。しかし、すぐに話題を変えようとオニヨンに話しかけた。

「気にしないでください。これでも今の所はこの境遇を楽しんでいますから。ところでオニヨンさんはどうして一人なのですか?」

「何だと私がこの年で独身なのは不思議なのか? それとも、ヒメジは私を狙っているのか。この美貌のオニヨン様に」

「い、いえ、そういう意味ではないのです。どうしてパーティーを組んでいないのかなって思って。それだけの剣術の腕があれば引き手あまたでしょう」

「いやだ~。そういう意味か。それならそう言ってよ」

オニヨンはテレながらヒメジの頭を平手で叩いた。

「痛いですよ、オニヨンさん」

「悪い、悪い。しかし、ヒメジがそう思うのは無理ないな。これでも昔はパーティーを組んでいたのだよ。五人組だけどな」

「へえ~。オニヨンさんその時から、ばったばったとモンスターを倒していたのでしょう」

「そうだな。でもパーティーと言っても、親父と親父の連れだったから、野郎ばっかりでむさ苦しかったなあ」

「いいじゃないですか。紅一点じゃないですか。モテたでしょう」

「そうよ、引き手あまただったよ……。だったらいいのだけれど、全員親父と同じ年代のおじさんばかり。それも全員既婚者。全然モテなかったわよ。それに凄腕ばかりだったから、私なんて腕には自信あったけれど、いつも足手まといだと叱られていたわ」

「信じられないです」

「まあ、そうね。でもその頃の私は冒険者になったばかりだから、ヒメジと同じランクしかなかったわ。だから、イノシシのように突っ込んで、よく、『周りを見なさい』って親父に怒られていたの」

「そうなのですか。オニヨンさんも苦労したのですね」

「そうよ。でも、男性に言い寄られることには苦労していないわよ」

「それって、昔からモテていたと言うことですよね」

「それ以外に聞こえたら、私の言い方が悪いってことになるわね、ヒメジ」

オニヨンはヒメジを睨んだ。ヒメジは慌ててフォローした。

「いいえ、きっとオニヨンさんは若い頃からモテていたのだろうなって思って言ったのですよ」

「うむ。その通りじゃ。私はいつも何人の男に言い寄られて、よりどりみどりだったからなあ。ヒメジとは違うぞ」

「どう言う意味ですか?」

「そのまんま、ヒメジはモテないだろう」

「まあ、当たってはいますが……」

「落ち込むな、ヒメジは料理の腕はいいのだから、それを女性にアピールすればいいのだ」

「そうします。ところでオニヨンさんは男の人に何をアピールしたのですか?」

「私か? 何もアピールなどしなくても、この美貌を男どもが放っておく理由が無いだろう」

「美貌ですか?」

ヒメジはオニヨンの顔を眺めた。

(確かに、目鼻立ちははっきりしているので、美人といえば美人であるが、男勝りの気性が顔に表れているため、正直言って近寄りがたい雰囲気をかもし出している。出来るなら関わりたくない女性の一人だ。こんな人を彼女にすると絶対に尻にしかれるからな。遠慮した方が無難だ)

ヒメジが考えていると、

「何じろじろ見てくるのだよ。ははあ~ん。ヒメジ、さては私に惚れたな。この美貌に見とれて私の虜になってしまったのだろう」

「いいえ、絶対に違います」

「ごまかさなくてもいいわよ。このかわいいおじさん」

(からかうな、このおばさん)

ヒメジをからかいながら、オニヨンは食事を口に運んでいた。

「ヒメジ、一つ気になっていたのだが、ダンジョンに入るのは何回目だ」

「今日で二回目です」

「一回目はパーティーで入ったのか?」

「いいえ、薬屋の糞店主に無理矢理薬草取りを言われて、やむをえず一人でダンジョンに入りました」

「どんなダンジョンにはいったのだ?」

「初心者用で、二階層しかないダンジョンで、ゴブリンやスライムのような弱いモンスターばかりです」

「それでも苦労しただろう」

「ええ、おっしゃるとおりです。どうしても戦闘が苦手で、逃げてばかりいました」

「それでは、パーティーでダンジョンへ入るのは、今回が初めてというわけだな」

「そうです」

「よし分かった。私がパーティーでダンジョン攻略をする方法を一から十まで教えてやるから覚悟しな」

そう言って、オニヨンは塩スープを平らげた。ヒメジは、それには何も言わなかったが、

(オニヨンはスパルタだから怖いよ~。モンスターより怖いよ~。ああ、神様、女神様。お願いです。オニヨンが優しく教えてくれますように)

心の中で祈っていた


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