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 宿屋に戻ると、ヒメジは亭主に

「部屋を二つ」

頼んだ。すると、亭主は意地悪い顔をして、

「部屋は一つじゃないのですか?」

尋ねてきた。

「いや、二つ必要です。今日は絶対に二つだ。何でそんなこと言うのですか?」

ヒメジは顔を真っ赤にしながら言った。

「いや、昨日は一部屋からお二人出てきたので、あたしゃてっきりねえ、お二人はそういう関係だと思っていましたよ」

「私たちはそんな関係ではないです。清廉潔白です。ねえ、オニヨンさん」

ヒメジはオニヨンに話を振った。きっとオニヨンもヒメジと同様に別々の部屋を希望するものだと思っていた。しかし、オニヨンは、

「亭主の言っていることは面白いな。私は同じ部屋でもいいのだが、ヒメジはどうする?」

とぬかしてきた。ヒメジは目の前が真っ暗になって、

「ぜ~ったいにだめです。結婚前の男女が同じ部屋に泊まるなんてあってはいけません」

強く拒否した。

「そんなこと言ったって、もう昨日一緒に同じ部屋で泊まったじゃないか」

「だからそれは事故ですって。今日は、事故らないように別々の部屋にしましょう」

「え~、昨日は私にあんなことやこんなことをしたではないか。つれないなあ~。もう忘れたのか」

「していません。誤解を受けるようなこと言わないでください」

あまりにもヒメジが顔を真っ赤にして真面目に一生懸命言うものだから、亭主とオニヨンは

「あ、は、は、は」

笑い始めた。

「ヒメジをからかうのは面白いな。亭主、今日は別々の部屋でたのむ」

「はい、分かりました」

亭主は二本鍵を二人に渡した。


 夕食を済ませると二人はそれぞれ自分の部屋にもどった。オニヨンも僅かの容量だがアイテムボックスがあり、そこにはいくつかの武器や防具が入っていた。

「よし、お前ら、しっかり明日から働いてもらうぞ」

武具を手に取ると布で丁寧に拭き始めた。一つ拭き終わると母親が子どもへ声をかけるように、

「さあ、あなたはしっかり頑張ってね」

「明日は使うことは無いけれど、使うときはよろしくね」

ヒメジに話しかける時とはほど遠い優しい声で一つ一つ話かけていた。一方ヒメジの方は、「オール クリエーション」

光が消えると上等のハイポーションができあがっていた。

「少し多めに作っておかなければ何が起こるか分からないからね。次は上等のハイナチュラルポーションを作るぞ」

ヒメジは十八リットルと二十ミリリットルの薬瓶に回復薬を入れると、水が入った寸胴とゴレン草を取りだして、

「オール クリエーション」

唱えた。寸胴の中には万能薬が出来ていた。これも、十八リットルと二十ミリリットルの薬瓶に入れて一度全ての道具をアイテムボックスの中に入れた。

「毒薬はまだあるから作らなくてもいいや。それでは次に、今日買った寸胴をステンレスに加工しよう」

ヒメジは、今日買った寸胴二つとクロム鋼をアイテムボックスから取りだして、

「オール クリエーション」

唱えると、ステンレスの寸胴が七十二リットルの寸胴が3つと三十六リットルの寸胴が六つ出来ていた。

「よし、良い出来栄えだ。次は料理を作ろう。オニヨンさんは食いしん坊だからたくさん作るぞ」

小麦粉を取りだしてオール クリエーションでピザの生地を作ったり、パンを薄くスライスしてオール クリエーションでサンドイッチを作ったりして、鍋料理以外の料理をたくさん作った。

「よしこれだけあれば、食べ物には困ることはないだろう。これらを片付けて次は鍋料理だ」

ヒメジは三十六リットルの寸胴六つに、ブラックボックスに入れていた水を入れて、ある鍋には野菜とソーセージ、別の鍋には根菜類と鶏肉など入れる物を変えて食材を放り込んだ。そしてそれぞれの鍋に食材によくあった香辛料を入れて、

「オール クリアーション」

唱えると、六つの寸胴においしい料理ができあがった。

「どれ、少し味見をするか。これはどうかな」

ヒメジは近くにあった寸胴からおたまを使って料理を一口食べた。

「おいしい。これはいける。これはどうだ」

別の寸胴におたまを入れて料理をすくうと一口味見をした。

「これも絶品だ。オニヨンさん喜ぶぞ。それじゃこれはどうかな」

こうして全ての料理の味見をしてヒメジは全ての料理に満足した。

「どれも絶品だ。我ながら素晴らしい。一旦これをアイテムボックスに入れておこう」

ヒメジは順番に道具をアイテムボックスの中に入れていった。全てを入れ終わり、窓の外を見ると、東の水平線上に出ていた月がいつの間にか南中付近にあった。

「もう、こんな時間か。最後は全ての武器に毒をつけて今日は終わろう」

こうして。最後に全ての武器に毒をつけてヒメジが作業を終わらせベッドに入った時には日付がかわっていた。

  

 朝は晴天であった。ヒメジとオニヨンは朝食を食べると宿屋を出た。二人とも町の男が着ている服でありヒメジはそれにカバンを肩からかけているだけであり、オニオンは革製品の防具と腰にショートソードをかけているだけの冒険者の格好であった。二人を見て、誰もダンジョン攻略に今から挑戦するとは思わないだろう。ダンジョンへむかって歩きながらヒメジはオニヨンに聞いた。

「オニヨンさん、武器と防具は大丈夫ですか?」

「ヒメジよ、何心配しているの? これでもSSS級の冒険者よ。抜かりはないわ」

「それならいいですが……」

「それより、ヒメジの方こそ大丈夫よね、私が倒したモンスターのドロップアイテムや見つけた宝物はすべて持ち帰る。また、ダンジョンに入っている時は私を空腹にさせないでよね」

「それはもう、承知しております」

(この女は、顔はいいのに、ああ言えばこう言う、こう言えばああ言うで、必ずお返しが来るな。苦手なタイプだよ。トホホ)

ヒメジは心の中で暗くなった。オニヨンは、

(しっかりしてくれよ。私にとっては、一世一代の大勝負なのだからな)

心の中でヒメジを叱咤していた。目的地のダンジョンは、セカンド国の南の町から東へ半日歩いたところにある。入り口は洞窟になっているが、中に入ると多様な地形とモンスターが待ち構えており冒険者の行く手を阻む。そのため十階層までしかまだ到達できていない。ダンジョンに着くまで二人は世間話をしながら歩いていた。やがて、目的地へ到着するとヒメジが驚きの声を出した。

「え? 洞窟の周りが市場になっている。酒場や宿屋、冒険者ギルドもある。まるで小さな町のようだ」

「そりゃそうだよ。ダンジョン攻略で一儲けしようと思っている連中が集まっている場所さ。五階層まで入ってもドロップアイテムでたんまりともうけられるからな」

「それなら私たちも、そのあたりで手を打ちませんか?」

「馬鹿野郎! 最後の十五階層まで攻略するからな、逃げたら、地の果てでも探し出して……」

「逃げませんよ、大丈夫ですよ」

「いやわからない、ヒメジは弱虫だから信用できない」

「え~。そんなあ。信用ないのですね。それじゃあ、私も言わせてもらいますが、オニヨンさんが私を放って一人で先に行くのではないかと心配しています。ちゃんと歩く速さ合せてくださいよ」

「お前が遅れなければな。ところで、ここで最後の準備をする場所になるが、購入するものはあるか」

「購入する物は無いですが、冒険者ギルドへ寄ってもらえませんか?」

「どうしてだ?」

「ここで、一昨日手に入れた、ゴブリンの斧を売りたいのです」

「あの襲撃された時に手に入れた斧のことか。二束三文の品だけど、荷物になるなら売りに行こう」

二人は冒険者ギルドに入ると、ヒメジは受付の男性に声をかけた。

「ゴブリンの斧を買ってもらえますか?」

「はい、一つ鉄貨五枚ですがよろしいですか?」

「はい、十個お願いします」

ヒメジはカバンからとりだした。受付の男性は十個あることを確認すると大鉄貨五枚を差し出した。ヒメジはそれを受け取るとオニヨンとともに冒険者ギルドから出た。

「よしこれで攻略開始だな、ヒメジ」

「はい、行きましょう、オニヨンさん」


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