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翌朝になり、ヒメジは自分の部屋の床に転がっていた。目を覚ますと、自分が寝るはずのベッドでオニヨンが乱れた格好で寝ている。驚いたヒメジはあわてて部屋から出た。そして、ヒメジは井戸に行き、顔を洗った。

「びっくりした。へそが丸見えだから、心臓が止まるかと思った。あの人、本当にお金がないのか」

深呼吸したヒメジは落ち着きを取り戻して布で顔を拭いた。そして、ブラックボックスを一つ取り出して、

「水よ入れ」

と唱えた。するとブラックボックスが満タンになるまで井戸水が入っていった。ヒメジは井戸水で満タンになったブラックボックスをアイテムボックスに入れると、オニヨンが現れた。

「はあ、久しぶりにぐっすり眠れたぜ。それにしても、ヒメジは臆病者だな。こんないい女が同じ部屋にいるのに襲わないなんて不思議だよな」

(襲わないのではなく、怖いから襲えないのです)

思いながらも、笑顔で、

「パートナーは大切にしたいですからね。え、へ、へ」

言った。するとオニヨンは

「なんてかわいい子でしょう」

言いながら頬ずりをしてきた。

「やめてください」

ヒメジは後退りした。

「かわいいおじさんだね」

「あまり年長者をからかわないでください」

その後ヒメジは顔を真っ赤にしながらオニヨンと一緒に宿屋の食堂に行った。そして、朝食をとった後に市場に出かけたがその時もまだヒメジの顔は赤かった。

フォース国では三本あった市場の通りが、ここでは碁盤の目のようになっており、東西南北に二キロメートル以上はある。一見さんなら、どこも同じ風景に見えて自分のいる場所がわからなくなるが、オニヨンは自宅の庭にいるかのように、迷うことなく歩いている。そんなオニヨンに、ヒメジは聞いてみた。

「市場がわかるのですか?」

「当たり前よ。生まれ育ったところがここよ。どこに何があるのか目をつぶってもわかるわ。さあ、最初はパン屋へ行きましょう」

筋の角を曲がるとすぐにパン屋があった。

「ここは私好みのパンを売っているの。たくさん買いなさいよ」

オニヨンの指示通りにヒメジは、パンを三十本も買ってカバンに入れた。

「さあ次は肉屋よ。ピカイチの干し肉を売っているうまい店があるのよ」

オニヨンに連れて行かれた店は、香辛料がよく効いた干し肉を売っていた。

「干し肉を六十枚ください」

ヒメジが注文するとオニヨンが、

「何せこいこと言っているのよ。店主、干し肉百枚にして」

注文しなおした。

(支払いはこっち持ちだと思って、この野郎)

ヒメジはオニヨンを蹴飛ばしたかったが、後が怖いのでがまんして干し肉を買った。

「あと、挽肉とソーセージもください」

「はいよ。これね。ところで、お前さん、オニヨンのこれかい」

肉屋の店主が小指を立ててきた。

「違いますよ。ただの、冒険者パートナーです」

「そうかい。彼女は長い間、単独の冒険者だったのでパートナーを連れてくるのは珍しくてね。てっきりそう思ったのさ」

「そうですか」

「まあ、せいぜい頑張りな」

肉屋の亭主はにやけた笑いをしていた。

(よからぬことを考えているのだろう。私は肉屋の店主が考えている関係ではないからね)

ヒメジは代金を払いながら心の中で肉屋の亭主の考えを否定した。品物を受け取りカバンの中に入れると、オニヨンが尋ねてきた。

「さぁて、ヒメジはどこへ行きたい?」

「そうですね、野菜や果物が欲しいな」

「それならこっちに良い店があるから付いてきて」

オニヨンについていくと大きな生鮮食料品店があった。どれも新鮮な野菜ばかりだった。

「ええっと、タマネギとニンジンとジャガイモを五十個ずつ、キャベツそれにブロッコリーを十個ずつください。あと玉子やレタス、キュウリ、トマトはありますか?」

「それなら右手にあるよ」

「どれ、本当だ。あるある。どれも新鮮でおいしそうだ。玉子五十個、キュウリとトマトは十個ずつください。あとは……」

ヒメジは次々と注文したが、今回は珍しくオニヨンが横から口を挟まなかった。

(ははあ~ん、オニヨンは野菜が嫌いだな)

オニヨンの弱点を見つけたヒメジはささやかに喜んだ。次に、味付け用に香辛料を購入したくてオニヨンに店を頼んだ。オニヨンは、

「あいよ」

言ってすぐにその店にヒメジを連れて行った。店の中に入ると香辛料のいい匂いがしたが、オニヨンは浮かない顔して店には入って来なかった。

(やっぱり料理が出来ないのは本当だ)

ヒメジは、オニヨンの弱点その二を発見して更に喜んだ。そこでいくつかの香辛料を購入してヒメジが気分良く外へ出ると、次は自分の番だと言いたげに、

「武具を見に行くぞ」

オニヨンは目を輝かせて有無も言わせず武具屋へヒメジを連れて行った。

「おやじ、きたぞ」

「またお前か。金は持っているのか?」

「持っているぜ、ヒメジが」

オニヨンはヒメジに向かって右手の親指を立てた。

「こんにちは、ヒメジです」

「ヒメジさんか。あんたはえらいやつに目をつけられたな」

店主は気の毒そうな顔をした。ヒメジも小声で店主に、

「私もそう思います」

答えて、二人でクスクス笑った。

「おやじ、このショートソードと、あの防具をくれ」

「おう、で、今、持っているショートソードと防具はどうする」

「予備で使うからメンテナンスしてくれ」

「わかった。全部で銀貨三枚だ」

「ほらヒメジ頼むよ」

「わかりましたよ、オニヨンさん」

ヒメジは店主にお金を渡した。

「ヒメジは購入しないのか?」

「クロスボウの矢も投擲用ナイフもまだ十分ありますし、ダガーも新しくなったばかりなので大丈夫ですよ」

「そうは言うがな、ダンジョンでは何があるのか分からないから、少しぐらい多めに持っておいた方がよいぞ」

「そうですかね。分かりました。店主さんクロスボウの矢を百本と投擲用ナイフを百本とダガーを一本ください」

「ありがとうよ」

ヒメジは品物を受け取ると代金を支払った。二人が次に向かったのは料理器具屋だった。ヒメジが使っている鍋は薬用なので使用できない。そのため料理用の鍋が必要だった。以前と同じ七十二リットル入る寸胴を二つ購入した。他にもフライパンや食器等を購入し、その場でオニヨンに手伝ってもらいながらカバンに入れた。入れ終わると、オニヨンが、

「お前のカバン本当にすごいな。本当にマジックバッグか? ここまで入るマジックバッグなんて見たことがないぞ。本当は魔法を使っているのだろ。一体どんな魔法を使っているのだ?」

聞いてきた。

「本当にマジックバッグですよ。魔法なんて使っていません」

「そう言うなよ。教えてくれたらヒメジにあんなことやこんなこと等、良いことして、あ げ る」

「いりません」

「ヒメジの意地悪」

「意地悪で結構です。本当にマジックバッグなので信用してくれないならそれでいいです」

ヒメジはすねてしまった。しかし、オニヨンは気にせずにいくつかの店で買い物しては、ヒメジをすかしたり脅したりしてお金を払わせた。最後に武具屋に寄った。

「おやじ、メンテナンスできているか?」

オニヨンは中に入ると大きな声で叫んだ。

「相変わらず元気だな。ああ、出来ているよ。それにしてももう少し武具を大切に扱え。ショートソードなんか刃がぼろぼろだったし革鎧もほころびがたくさんあったぞ」

「まあ、メンテナンスして元通りになったのだからいいじゃないか。おっ、これか私の愛しの相棒達よ。これから大切に使うからな」

オニヨンは武具を手に取ると、それらに頬ずりをした。

「おやじさん、オニヨンさんいつもこんな人なのですか」

ヒメジは武具屋のおやじに耳打ちした。するとおやじがヒメジに、

「ああ、そうだよ。おおざっぱで、気が短くて、男勝りなくせに、年の割にはかわいい面を持っている。お前さん、オニヨンのいい人だろう。意外ともろいところを持っているから支えてやりなよ」

「私はオニヨンさんのいい人ではありません。昨日、強引にパートナーにされた犠牲者です」

「そうかい、そうかい」

武具屋のおやじはそう言いながら、ヒメジを見ながら微笑んでいた。

(あ~あ、このおやじきっと勘違いしている。私は本当に犠牲者なのだよ~)

ヒメジは口で説明してもいいわけにしか聞こえないから、話をすることをあきらめた。

「おや、二人で何をこそこそやっている。武具を受け取ったから宿屋に帰るぞ」

オニヨンがヒメジに向けて言ったので、ヒメジは武具屋のおやじにお辞儀をしてオニヨンのそばに行った。二人は武具屋を出ると宿屋に戻った。


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