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南の町に着いたとき三人はそれぞれ別々の方向へ分かれた。中年男性は自分の店へ。女性は冒険者ギルドへ。そしてヒメジは宿屋へ向かった。ヒメジが宿屋に向かっている道は主要道路ではないものの、道幅がフォース国の二倍はあり往来人数も多い。歩行は右側通行で、人が体をぶつからないようにルールはみんな守っていた。ヒメジが、
「大都会だ。人が多い」
つぶやくほど大きな町であった。ヒメジがフォース国の三倍は大きい宿屋に着くと、店員にお金を前払いして部屋を借りた。部屋は大きくはなかったが、フォース国の宿屋と比べると新しい。宿屋で水の調達をすると、部屋で薬の作成を始めた。これも、最近では、日課となっている。道具を床に広げて始めようとしたときにノックをする音が聞こえた。
「はい、ちょっとまってください」
ヒメジは答えて、道具をアイテムボックスに急いで入れた。そして、部屋のドアを開けると、停車場で別れたはずの女性が立っていた。
「中に入るよ」
女性はヒメジの部屋に入っていすに座った。
「相談だが、といってもお前には拒否権はないけれど、今からパーティーをお前と組む」
女性はヒメジに向かって宣言した。ヒメジは目をパチクリとさせて、
「どうしてですか? さっき出会ったばかりで私には戦闘能力はからっきしないのは承知のはずですよね。パーティーを組んでも足手まといにしかなりませんよ」
女に反論した
「いや、戦闘力がなくても大丈夫だ。少なくても、もう一人の男に比べたら怪我一つしていないので自分を守ることが出来る。それに、ハイポーションを持っているようだし、私に何かあっても私を助ける責任感は持っているようだし」
「どうして、そう思うのですか?」
「女の感だよ。それに、私は人を見る目があるのだよ」
「そう言われても……」
「私は、オニヨン。よろしくな」
オニヨンは右手をヒメジの前に出した。ヒメジはためらっていたが、オニヨンはもう一度強くヒメジの前に手を差し出したので、ヒメジは仕方なく、
「私は、ヒメジです」
オニヨンの手をつかんで握手した。手を離した後でオニヨンはヒメジに話しかけた
「ヒメジか。弱そうな名前だな。でもまあ、弱い強いは名前で決まるわけがないからな。は、は、は」
(この女、私の名前をからかっているのか。失敬な)
ヒメジは怒りたいところを我慢して、にこやかに質問した。
「ところで、私とパーティーを組んで何をするのですか?」
「おう、肝心なことを言い忘れていたわ。この町の近くにあるダンジョンを二人で攻略するのよ」
ヒメジは一瞬固まった。そして我に返るとオニヨンに抗議した。
「ダンジョンですか? モンスターなんか出てきて怖いじゃないですか! やめましょうよ」
「今更やめられるか」
「絶対嫌です」
「拒否権はないと始めに言ったぞ」
「それなら、一階層だけで終わりにしませんか」
「馬鹿いえ、そのダンジョンはまだ最下層までたどり着いたパーティーがいないそうだ。もし、最下層に行けたら誰も手につけていないお宝を手に入れることができるだろう。それに、そこには賢者の剣があるという話じゃないか」
「賢者の剣って何ですか? すごいお宝ですか?」
「すごいという物じゃないぜ、その剣があれば、どのような魔物でも切り裂くことができる伝説の剣だ」
「オニヨンさんはそれが欲しいのですね」
「まあな。私は腕には自信があるが、回復と運搬のサポートが欲しくて探していたのだ。そしてそれにぴったりの者がヒメジ、お前だったというわけさ」
「行きたくないです」
「もう一度言うぞ。拒否権はない。無理にでも連れて行くからな」
(この人おっかないよ~。それに強引な人だ。でも、戦わずに回復と運搬係だけなら悪くはないな。それじゃあ報酬をたくさんもらうことで引き受けよう)
「わかりました。それほど必要としているなら引き受けましょう。あなたは賢者の剣があればいいのですよね。それでしたら残りの宝物は私がいただきます。もし賢者の剣がなければ宝物は七対三でいかがですか? もちろん私が七です」
「いいぜ。ようやくやる気になってきたな。それじゃ親睦も込めて今日は酒場で祝杯だ」
「気が早いですね」
「めでたいことは早くやっちまった方がいいのよ」
二人は酒場に向かいビールで祝杯を挙げた。
「カンパーイ」
「ゴクン、ゴクン、ゴクン、プハ~」
二人がビールを飲み干した後で、ヒメジがオニヨンに話しかけた。
「ところで、オニヨンさんってお強いですね。どこで剣術を習ったのですか」
「私は子どもの頃から冒険者の親父に剣術をたたき込まれて、十歳で冒険者となり、それから二十数年間ひたすら依頼を受けて腕を磨いてきたのよ。今では、SSS級冒険者となっているわ」
「へえ、すごいですね。私などはまだE級冒険者ですよ」
「そんなもの今回のダンジョンを攻略したら、私と同じSSS級になるわよ」
「そうなるといいのですが」
ヒメジは、冒険者のランクはどうでも良かった。たたオニヨンが自分を誘ってダンジョンに向かうことに興味があった。
「明日は、一日ダンジョンへ入る準備をするよ。あんたお金は持っているかい」
「ええ、少しなら」
「じゃ、あんた持ちで頼むわ。私はすっからかんだ。よろしくな」
「お金持っていないのですか?」
「ああそうさ。美女は宵越しの銭は持たぬと言うからな」
「そんな言葉聞いたことがありません」
「ヒメジは美女にお金を出させる気か? ええ、どうなのだい」
オニヨンは急にヒメジをにらみつけてきたので、ヒメジはその気迫に負けて、
「い、いえ。私が払います」
返事してしまった、そうは言ったもののヒメジは、
(こんにゃろう。やっぱり金目的で近づいてきたな。美人がおっさんに近づいてくる理由なんてそれしかない)
そう思ってオニヨンを用心することにした。
「ところでオニヨンさん、明日は何を買ったらいいのですか?」
「そうだな、食料に水を入れる革袋、それに武具の調達が主なものだ。特に水は貴重だからたくさん持って行っても余ることはない」
「食料は何日分必要ですか?」
「十五階層まであると聞いているから、一日一階層として往復で三十日分。余分に十日分で計四十日分」
「え! 四十日分もですか。干し肉とパンばかりでは嫌です。材料を用意しますので料理してくれますよね」
「それはヒメジに任せる。私は料理ができない」
「へえ、女性なのに料理ができない~」
「あ! それジェンダーフリーに反する発言。めっ!」
「すみません」
「そうそう、今日は寝床がないから、ヒメジの部屋に泊まらせてもらうわ」
「男女が同じ部屋なんて」
「ヒメジ、私を襲える?」
「しません」
(怖くて襲えるわけないじゃないですか)
「だろうね。顔ができませんって書いているもの。いい男なのにね」
オニヨンはそう言うと、
「亭主、ビール二つ」
再びビールを注文した。ヒメジは六杯飲んだことまでは覚えているが、それから酔いつぶれてしまった。




