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中年男性はすでにビールを飲んでいた。
「よう、おっさん、こっち、こっち」
「こんばんは。もう、いい気分になっていますね」
「ああ、金儲けの話が耳に入ったからな」
「どんなもうけ話ですか?」
「内緒の話だぜ」
「私は、口が堅いです」
「実はな、セカンド国にはトゥエルブ国のすぐ近くに金鉱山があり、トゥエルブ国はそれを欲しがっている。絶対にセカンド国は金鉱山を放すことはないが、トゥエルブ国は実力行使を考えているそうだ」
「そんな無茶な。勝てるはずがないですよ」
「普通なら無理だな。しかし、トゥエルブ国はニューカントリーと盟約を結んで後顧の憂いを断ち全軍あげてセカンド国に侵入できる体制を整えつつあるようだ。今すぐというわけではないようだがな」
「それでも戦力差が大きいでしょう。セカンド国は大国といったじゃないですか」
「それがな、セカンド国はフォース国とは仲が良いが、どうもファースト国とはうまくいっていないという噂だ。そのため兵力をファースト国へさかなくてはいけなくなっている。そんな理由で、トゥエルブ国と同程度の兵力しか差し向けられない」
「ピンチじゃないですか」
「そうだ、そこでセカンド国が勝つには緻密な作戦と、綿密な戦争の準備だ。その戦争の準備の一つに武器の性能がある。これから店に戻ったら職人を動員してトゥエルブ国より優秀な武器を制作して、どんどんセカンド国に売りこむぞ!」
「ちょっと、声が大きくはないですか」
「おっと、いけない。つい、浮かれて大きな声になってしまった」
「そんな大事なこと私に話してもいいのですか?」
「いいのだよ。ただの旅行者だろ。もし、セカンド国に移住するなら雑用係として雇ってもいいがな。あ、は、は、は」
「移住する気はありませんよ。でもなぜ私に声をかけるのです?」
「気の弱そうな顔をしているのが気に入ったからさ」
(気の弱い男で悪かったな)
「そして、おっさん薬師だろ。薬草を採取しているところを見たからな。おれも薬草には興味あるって言っただろう」
(そういえば武器商人やめたら薬屋になるって言っていたな)
「だから、おれの役に立ってもらおうと思ってよ。お代ははずむぜ」
「私を雇うのは高いですよ。普通の料金では御免被ります」
「月に銀貨一枚でどうだ」
「安いです」
「じゃ、二枚で」
「全然足りません」
「じゃ、いくらならいい?」
「そうですね、月に金貨十枚でどうですか?」
「そりゃ無理だ」
「ですよね、私も自由が好きなので、たまに顔を出してお手伝いするというのでいかがですか?」
(絶対に顔を出しませんよ~だ)
「そりゃいい。お願いするわ」
「じゃそういうことで。商売頑張ってください」
「おう、前祝いだ、ビールで乾杯しようぜ」
「カンパーイ」
(変な武器商人に絡まれちまったぜ)
「ところでおっさんは武器を持っているかい」
「ええ、遠距離用のクロスボウ、中距離用の投擲用ナイフ、近距離用のダガーを持っていますよ」
「へえ、随分と考えて武器を持っているな。確かにおっさんは両手剣や斧を持っても振り回せないだろうな」
(失敬な。その通りだけどなぜか腹が立つ)
「あなたから見て私の適した武器は何ですか? 槍とか弓とか片手剣とか」
「体格がないから、やっぱりダガーや投擲用ナイフかな。上手く考えていると思うよ」
(そうだろう。これでも、いろいろ武器に触れて選んだからね)
「ありがとうござします」
「おっさん、体に身につけていないけれど、今、武器を持っているか?」
「ええ持っていますよ。このカバンの中に入っています」
「見せてみろ。俺が鑑定してやる」
(鑑定してもらわなくてもいいよ。でも断ると気まずいから、素直に出そう)
「これです」
ヒメジはカバンからダガーを取りだした。
「これか」
中年男性は、鋭い眼光で武器を見た。
「いかがですか?」
「これはそこらの店で売っている、大量生産の品だな」
(その通りです)
「そうなのですか。武器には疎くて、使いやすさで選んだので……」
「いいものをやろう。これだ」
中年男性は自分が持っていたダガーをヒメジに渡した。
「いいのですか?」
「ああいいぜ。俺はあんたを気に入っているからさ」
「ありがとうございます」
ヒメジは鞘からダガーを引き抜くと、軽く振ってみた。
(手触りは持っていたダガーより良い。切れ味は分からないが鋭い刃先なのできっとよく切れるだろう)
「良いだろう」
「よく分かりませんが、良さそうなダガーですね」
「これは、俺の店のお抱え鍛冶屋に作らせた特注品さ。何でも紙のように切れるぞ。また、随分腕の良い職人なので刃が欠けたり、血糊で切れなくなったりすることがない。これを持っていれば、もうほかのダガーは使えないぞ」
「すごいですね」
(本当か? 眉唾物だが鑑定で調べてみよう 鑑定ダガー)
【ダガー+三 鍛冶職人の中でも魔剣を作る腕を持つ職人の次に腕を持っている職人が作ったダガー。軽量・耐久・業物の強化がされている……】
(嘘だろう。こんなダガーをもらえるわけがない)
「どうだい気に入ったか」
「素人の私が見ても、このダガーのすごさが分かります。だからこのダガーはいただけません」
「そんなつれないこと言うなよ」
ヒメジが中年男性に返そうとした瞬間、
「良いこと考えた」
中年男性は声を出した。
「おっさん、このダガーとおっさんのダガーと交換だ。それなら文句ないだろう」
「それでもあなたの方が損をしていますよ」
「そうか、それなら、お前さんのダガーと銅貨一枚で交換だ。これ以上は交渉しても譲らないぞ」
「分かりました。あなたがそれでよいなら交換します」
「そう来なくては」
二人は品物を交換した。
「これでよしと。ところで、わしの店はセカンド国の南の町にあってな……」
ヒメジは良い物を交換してもらったため途中で退散するわけもいかず、中年男性の気が済むまで話の相手をしたので夜更けまで呑んでしまった。




