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「パッスはあるか」
セカンド国の国境検問所で質問されたヒメジはカバンからパッスを取り出して係員に渡した。
「持ち込み禁止物はないだろうな」
十分ほど前はフォース国の国境検問所で、
「持ち出し禁止物はないだろうな」
聞かれて、
「ありません」
嘘をついたが、今回も、
「ありません」
嘘をついた。
両方の検問所とも持ち物検査をしたが、検問員は禁止物を見つけられなかった。もちろん禁止物の硫黄はアイテムボックスに入っている。ヒメジは見つかることはないと思って笑顔で対応したが、内心はひやひやであった。上手く検問所を通り抜けることが出来たので肩の荷が下りてつい声をあげてしまった。
「セカンド国についたぞ。王都を定期便に乗って出てから三日目でやっと着いた」
すると、隣に座っていた中年男性が話しかけてきた。
「おっさん、セカンド国の最初の町に着くにはあと二日必要だぜ。のんびり行こうじゃないか」
「あなたは?」
「さっきの村から乗ってきた者だが、フォース国で商売をしてセカンド国に帰る者だ」
「じゃあ、あなたもパッスをお持ちですよね」
「ああ、持っているぜ」
「入手するにはご苦労があったのでしょうね」
「ねえよ」
「え? 苦労しなかったのですか?」
「セカンド国では銀貨一枚で、誰でも出してくれるぜ」
(なんだって~。フォース国ではたくさんの薬瓶と飲み薬を作ってやっと発行してもらえたのに。誰かフォース国の富国強兵政策だと言っていたな。セカンド国がうらやましい)
「フォース国は高かったですよ」
「仕方ないよな。国力が違う。セカンド国の方がフォース国より大国だから、パッスの手数料が安くてもたくさん人がいるから儲かる。フォース国なんて田舎国だものな」
「どれぐらい違うのですか?」
「国力は十倍とは行かないが、軽く八倍は超えているぜ。人口も五倍以上いるしな」
「すごい国ですね」
「ああ、ファースト国とセカンド国は創世国といわれていて、人間国がはじめてつられた国だから、歴史が古い。その間、善政を敷いているので国が乱れることもなく力をつけてきたという。もちろんフォース国も歴史はあるけれどファースト国とセカンド国に比べたら、まだまだひよっこの歴史しかない」
「良いことを聞きました。それでセカンド国は何が有名なのですか?」
「燃える水」
「燃える水があるのですか!」
「といわれている。聞き伝えだがな」
「驚かさないでください。びっくりした」
「驚かせてすまなかった。セカンド国についてだったな。この国は砂漠地帯があるので、硝石やガラス製品が有名だな。地下資源も豊富で金鉱山、銀鉱山、鉄鉱石、などもたくさん見つかっている」
「そうなのですか、すごいですね」
「すごいのは、まだあるぞ。国の面積が一番広いってことだ。フォース国の三倍はあるぞ」
「三倍も、広いや」
「ダンジョンもたくさんあるし、冒険者も多いから、ひと稼ぎするのにちょうど良いかもな」
「あなたは冒険者ですか?」
「いいや、ただの商人さ」
「お前さんは……、聞くまでもないか。ただの旅行者だろう」
「ええ、まあ」
「顔を見れば弱そうだもんな。いくら冒険者といわれても信じられないぜ」
(確かにそうだけど、糞、腹が立つ)
ヒメジは少しふてくされた顔をした。
「おいおい、そんなことで機嫌を悪くしたのか?」
「いいえ、悪くしていません」
そう言いつつ、ヒメジは内心怒りの炎がめらめらと燃えていた。
「まあ、そんなに機嫌を悪くするなよ、おっさん」
男は、ふてぶてしく言った。ついにヒメジの堪忍袋の緒が切れた。
(この、糞野郎。お前の方が弱っちいじゃないか。剣もまともに振れないだろう……)
頭の中では言いたいことを言っていたが、深呼吸して気持ちを落ちつけ、怒りの顔を見せず穏やかに話をした。
「あなたは、商人と言いましたが、商品を持っていないようですね。何を商売しているのですか?」
「おれかい? おれは武器商人さ。この間のフォース国とシックスス国の戦争でもうけさせてもらった。その金で念願のフォース国の温泉旅行に行ってきた帰りよ」
「それは、それはうらやましい限りで。ずいぶん儲けたでしょう」
「ちょっとな。セカンド国の王都で家が一軒建つほどもうけたぜ。お前さんもやってみるかい?」
「遠慮します。平和主義で争いごとは苦手です」
「なるほどな。そういう顔をしているな」
「あなたは、戦争が好きそうな顔をしていますね」
「おう、言うなあ。そうだぜ、おれは戦争が大好きさ。戦争のおかげで大もうけできるからな」
「そうでしょうね」
「ところでおっさん、フォース国が勇者の召喚をやめたって知っているかい?」
「フォース国はそんなことしていたのですか?」
「ああ、勇者を数百人ほど召喚したが、王子が急に召喚することを禁止にしたそうだ」
「どうしてですか?」
「何でも、自国のことは自国民で解決すべきだと言うことだ。また、他の世界の勇者を召喚すると勇者も迷惑だろうという理由もあるらしい」
「なるほどね。良い話ではありませんか」
「そうか?」
「ええ、勇者が争いごとをなくせば、武器商人の商売もできなくなるでしょう」
「そりゃそうだな」
「じゃ、商売替えですね」
「そうなったら、武器商人から薬屋にでもなるわ」
「どうしてですか」
「薬は誰でも必要だから需要がある。フォース国では上等のハイポーションが出回っているので、それを作る薬師と交流を持てば大もうけだぜ」
(それは私のことですが、あなたのことはあの薬屋の糞店主より嫌いなので交流を持ちません)
ヒメジは心でこの人とは関わりたくないと思いながらにこやかに、
「薬師と交流が持てたらいいですね」
すっとぼけて言った。やがて、定期便は本日の停車場となるセカンド国の南の村に到着した。
「これからおっさんはどうする?」
中年男性が尋ねてきた。
「私は、村を散歩してきます。この年になると、少し運動をしなければ、足腰が弱ってしまうので毎日の日課です」
「年取ると、大変だな」
(あなたも年を取ると一緒ですよ)
思いながら笑顔で、
「それではまた後ほど」
「おう、おれは宿屋に行って先に飲んでいるから、じゃあな」
二人は別れた後、それぞれの目的の方向に歩き始めた。定期便は少し早くつき、日がまだ高かったので、ヒメジは散歩をしながら薬草採取を行うことにした。場所によって生えている薬草の種類や数が異なるので、ヒメジは定期便の停車する場所では薬草採取を楽しみにしていた。郊外に出ると早速鑑定でいつものイチレン草やゴレン草を見つけていた。何本か採取していると、表示に、
「カキドオシ」
が出ていた。結石に効く薬草である。ヒメジは夢中で取り始めた。すると今度は、
「ウラジロガシ」
表示が出た。改めて木を見ると、たしかに樹皮が胆石に効果のあるウラジロガシである。樹皮を丁寧にはいでブラックボックスへ入れていった。やがて、日が暮れてきたのでヒメジは、
「今日は二十種類の薬草を手に入れられたぞ」
うきうきしながら宿屋に向かった。フォース国の王都の薬屋でこき使われた後に、ご褒美で大量の砂や灰、石灰をもらった。これらでガラス作りができる。今まで、旅で宿屋に泊まる度に、ガラスの薬瓶づくりを行ってきて大量の十八リットルの薬瓶と一リットルの薬瓶を作った。今日は二十ミリリットルの薬瓶作りを行うために、部屋の床に砂、灰、石炭を置いて両手をかざし、
(二十ミリリットルの薬瓶)
祈って、
「オール クリエーション」
唱えると、材料が一瞬光って二十ミリリットルの薬瓶が大量に出来上がった。作成した二十ミリリットルの薬瓶をブラックボックスに入れると、夕食の時間になっていた。ヒメジは食堂に向かった。




