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「おいしかった」
ヒメジは若い男と共にコーヒーを飲んでいた。
「母は喜んでいましたが、料理を無理に食べていませんか?」
若い男がヒメジに尋ねた。
「そんなことないですよ。最高の料理で堪能させて頂きましたよ」
「それなら良かったです」
若い男性はヒメジが母親の料理を褒めたので喜んでいた。
「ところで、ドライフルーツを見せて頂けますか」
「わかりました。ヒメジさん、少し待ってください」
若い男は奥からドライフルーツが入っている袋を持ってきて中身をヒメジに見せた。
「これです。どうぞ」
ヒメジが中身を見ると、バナナ、リンゴ、レーズン、パイナップル、ベリー、レモン、オレンジ、アプリコット、プルーン、マンゴー、カボチャの種が混ざって入っていた。
「どれも適度に乾燥しておいしそうですね。一袋いくらでいただけますか?」
「そうですね、一袋二十キログラム入っています。一キログラムあたり大鉄貨二枚ですので、一袋は銅貨四枚ですがどうですか」
「いいですね。それなら思ったより安いです。何袋譲ってくれますか?」
「いま、売れるのは六袋しかありませんがいくら必要ですか?」
「六袋全部ください」
「全部ですか。いいのですか。正直、このドライフルーツは我が家で食べる保存食ですよ。こんな物が売れるとは思っていなかったものですからびっくりです」
「定期便で見せてもらった時に、とても丁寧に作られ、品質が良かったのでぜひ欲しいと思ったのですよ」
(異世界に来る前の世界でも、若い男が作ったドライフルーツより良い品物はなかったですからね。これは絶対お得です。町で倍以上の値段で売れること間違いなし。私の目に狂いはない)
ヒメジはそう言うと代金の大銅貨二枚と銅貨四枚を懐に入れてある巾着袋から取り出して、若い男に渡した。
「ありがとうございます。それでは奥から残りのドライフルーツを持ってきます」
若い男は奥からドライフルーツの袋を一袋持ってくると、ヒメジはそれをアイテムボックスに繫がっているカバンに入れた。同じように五回、袋を持ってくる度にカバンに入れた。全てをカバンに入れると、ヒメジは再びテーブルの上に置いてあるコーヒーを飲み始めた。若い男もいすに座ってコーヒーを飲み始めた。やがて、コーヒーを飲み終えたので、ヒメジは宿屋に戻ろうと腰を浮かしたとき時、若い男がヒメジに声をかけた。
「ヒメジさん旅をされているのですよね」
「そうですが」
ヒメジは腰をいすに降ろした。
「一つお願いがあるのですが」
「何でしょうか?」
「実は、私には妹がいるのです。年は二十で髪はロングヘアー、白のワンピースの服が好きでいつも着ています。身びいきかも知れませんが割と美人の顔をしています。その女性を見かけたら教えて欲しいのです」
「妹さんは、右目の横にホクロがあって細身の女性ではないですか?」
「ええ、そうですが、よくご存じですね」
「それなら、昨日、北の町の宿屋の食堂であなたの妹さんに似た方に会っているのです」
「本当ですか」
「ええ、私の好みに……いえ、妹さんが私を見つめていたのでつい声をかけてしまったのです」
「それで妹はどうしたのですか?」
「一緒に酒を飲んで世間話をしました。何杯か呑んだ後、別れましたが、あなたの話を聞くとその女性が妹さんに似ていると思いまして」
「間違いないです。妹は酒が大好きです。ただ、年配の男性は好みではないですので、ひょっとしたら人違いかも知れませんが……。本当にヒメジさんを見つめていたのですか」
若い男は真剣にヒメジの顔を見つめた。
(見つめていたはずだ。あのおっさんが言っていたから。でも、あの二人が組んで私を騙していたら……嫌そんなことはない。あの女性は私を見つめていたはずだ。う~ん、どっちだ~)
ヒメジは悩みながらも、
「わからないです。一緒に呑んでいた男に見つめられていると言われて、そうかと思ってしまっただけかも……」
正直に言った。
「それなら、妹です。間違いありません。ヒメジさんは北の町のどこの宿屋に泊まりましたか?」
「私は冒険者ギルドに一番近い宿屋です」
「冒険者ギルドに一番近い宿屋ですね。それならわかります。かあさん。かあさん」
若い男は台所にいた母親を呼んだ。
「どうしたのかい?」
「ヒメジさんが昨日妹に北の町の宿屋で会ったそうだ。あす、早速北の町に行って探してくる」
「あらまあ、本当かい。それは嬉しいね。早くあの子に会いたいよ。ヒメジさん、情報を教えてくれてありがとう」
若い男の母親は喜びで涙を浮かべていた。
「いいえどういたしまして、お母さん。私が話した方が妹さんならいいですね。そうだと祈っておきます」
「ヒメジさんと知り合いになってから、ドラーフルーツは売れるわ、妹の情報を教えて貰えるわ、良いことばかり続きます。どうぞ今日はこの家に泊まっていってください」
若い男はヒメジに声をかけたが、
「すみません。もう宿をとっていますので今日はこれで失礼いたします。明日、定期便で北の町に行かれるのですよね。明日、停車場で会いましょう。私はセカンド国に向かう定期便に乗ります。あなたを見送ってから出発しますので、それまで話をしましょう」
そう言ってヒメジは断った。
「そうですね。それではまた明日会いましょう」
「今日はおいしい食事ありがとうございました」
ヒメジは男の家の玄関出ると、空はすっかり晴れ渡ってたくさんの星が輝いていた。
翌朝早くヒメジは停車場にいた。まだ若い男も騎手も来ていない。
(今日はいい天気だ。気持ちがいい。何かいいことがあるかも)
ヒメジは両手を頭の上に伸ばして背伸びをした。すると、
「おはようございます」
後ろから騎手が挨拶をした。
「おはようございます」
「聞かれましたか、昨晩遅く討伐隊が野盗のねぐらを襲って全員捕らえたようですよ。これで北の町に向かう定期便は安心です。あなたのおかげですよ」
「それは良かったです。ところで、騎手さんはセカンド国へ向かう定期便に乗るのですよね」
「それが急に変更になりまして、北の町に向かう定期便に乗ることになりました」
「それは残念です。ご一緒したかったです」
「そうですね。あなたの武勇伝をもっと聞きたかったです」
そう言われてヒメジは照れた。
「いや~、武勇伝と言うほどでもありませんよ」
(本当はほとんど覚えていないのですが)
「そんなに謙遜しないでください。もう少し話をしたいのですが、定期便の準備がありますのでこれで失礼いたします」
そう言って騎手は今日乗る幌馬車に向かって歩いて行った。ヒメジは騎手を見送った後、振り向くと若い男が立っていた。
「ヒメジさん、おはようございます」
「やあ、おはようございます」
「昨日はありがとうございました」
「妹さんに会えるといいですね」
「きっと会えますよ。ヒメジさんの情報ですから間違いないです」
「ひとつ、アドバイスをしておきましょう。おそらく妹さんは今日も冒険者ギルドに一番近い宿屋の食堂に来ると思いますよ」
(昨日、帰ってからネットで調べて、彼女は毎日そこに通っているから今日も間違いなく行くはずだ)
「本当ですか。どうしてそう思うのですか?」
「年長者のカンです」
(あらまた、適当なことを言っちゃった)
「なるほど。それなら北の町に着いたらすぐにそこに行きます。何から何までありがとうございます」
「いいえ、少しでも役に立てて嬉しいです。そろそろ出発の時間ですよ。幌馬車に乗ってください」
「あ、はい。それではヒメジさんお元気で」
「あなたもお元気で」
二人は握手してその場で別れた。若い男が幌馬車に乗ると、すぐに定期便は出発した。ヒメジは定期便か見えなくなるまで手を振って見送った。その後、セカンド国に向かう幌馬車に乗るために歩き始めた。




