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「ヒメジさん、さっきは格好良かったですよ。真っ先に野盗に立ち向かっていって、私はとても勇気がある人だと感心しました」
体が拭き終わり着替えをして、落着いたときに若い男がヒメジを賞賛した。
「ありがとう。『私は偉いでしょう』って言いたいのですが、酔っ払ってあまり覚えていないのです。いつもはおびえているのに、あの時だけは酔っ払った勢いで野盗の前にのこのこ飛び出していったのだけは覚えています」
「酔っ払っていたのですか。そういえば、それまでに何杯もウイスキーを呑んでいましたものね」
「そうなのです。人間はアルコールを呑むと感覚が麻痺して気分が大きくなり自分は大丈夫、何でも出来てしまうという感覚になってしまうのですね。これからは呑む量を考えなくてはいけません」
「でもそのおかげで、この定期便は野盗から守られたのです。ヒメジさんさまさまですよ」
「ありがとう。ところで今晩、あなたの家に行ってもいいですか。あのドライフルーツがおいしかったので、早速購入したいのです」
「ええ、いいですよ。いつでもお越しください。良かったらささやかですが夕食をご一緒にいかがですか?」
「いいのですか?」
「大丈夫ですよ。料理は母親が作ってくれていますが、いつも多めに作っているので一人分ぐらいどうにでもなりますから」
「それでは、お言葉に甘えまして、宿屋で荷物を置いたら伺わせて頂きます」
「ええ、そうしてください。ヒメジさんが来ることを楽しみに待っています」
二人が話をしている間に、定期便は次の村に近づいていった。
夕方になって定期便は次の村に到着した。雨は弱まっており霧雨の状態になっていた。
「ヒメジさん、その地図に描いた通りに来て頂ければ、私の家に着きます。小さな村ですので道に迷うことはないですよ。それではまた後で会いましょう」
「ありがとうございます。また後で会うことを楽しみにしています。それでは」
二人は停車場から別れた。ヒメジは、宿屋に向かうと亭主に宿代を渡して鍵を受け取った。そして部屋に入ると、
「ネット 山の中の野盗」
唱えた。するとすぐに画面が現れて文字が表示された。
【山の中の野盗 国境にある山の中を縄張りとしている盗賊。人数は五人から十人程度の小規模だが、知恵がまわり、商人や旅人に変装して襲っている。定期便も襲い金品を奪うが人の命までは取らない。もともとは貴族の家来であったが、リストラされて食べるのに困った者が集まった。ねぐらは北の町と次の村の中間にある山の中の洞穴に隠れ住んでいる。詳しい場所は・・・】
(なるほど、この情報を冒険者ギルドに伝えれば、きっと討伐隊が編成されて、彼らで解決してくれるぞ。それでは冒険者ギルドにレッツゴー)
ヒメジは部屋を出て冒険者ギルドに向かった。この時には雨はやんでいたが、まだ空は厚い雲に覆われていた。
「こんにちは」
ヒメジが挨拶をした。
「こんにちは」
受付の若い女性が返事をした。
「さっき定期便に乗っていましたら、野盗に襲われまして」
ヒメジがそこまで言うと、
「おや、来ていたのですか」
声をかけてくる人がいる。ヒメジがそちらを見ると、騎手が手をあげてきた。ヒメジは騎手に向かってお辞儀した後、受付の若い女性に、あの人と一緒に、今、言っていたことを伝えますのであちらに行ってもいいですか?」
尋ねた
「分かりました。私も一緒にあちらへまいりますので、そちらでお知らせください」
「はい、それでは行きましょう」
二人は騎手の方へ歩いて行った。
「あなたも野盗に襲われたことを伝えに来たのですか?」
騎手はヒメジに質問した。
「ええ、そうです。あなたも伝えに来たのですよね」
「そうですが、さっき別の受付さんに伝えました」
「そうですか。実は私はとびっきりの情報を手に入れたのでそれを伝えに来ました」
「どんな情報ですか?」
「実はですね、野盗のねぐらが山の中にある洞穴にあることを突き止めたのですよ」
「へえ、それはすごい。具体的にはどこですか?」
「それはですね、山道から山に向かって入ったところに小さな広い場所があります。そこから登って山を一つ越えたところに滝があって、その滝で隠れるように滝底付近に洞穴が開いているところがあるのです。そこを彼らはねぐらとしています」
「本当ですか?」
受付の若い女性がヒメジに尋ねた。
「ええ、間違いないです。野盗が落としていった地図を見ると、そう描かれていました」
(嘘だよ。オール クリエーションで作った偽物の地図だよ。ネットで調べてそれを写しとっただけだけどね)
ヒメジは受付の女性にそれを渡した。
「ところで、討伐隊は派遣されるのですか?」
ヒメジは受付の女性に尋ねた。
「これがあれば派遣できますわ。今からギルド長にこの地図を見せて判断してもらいます」
「よろしくお願いします」
ヒメジがそう頼むと、受付の若い女性はギルド長の部屋に向かって歩いて行った。ヒメジは騎手に体を向けると、
「先ほどは肩を貸してもらいありがとうございました」
礼を言った。
「随分嘔吐されていましたが、気分はいかがです?」
「薬を飲みましたので大丈夫です」
「あなたは、他の乗客を助けるために真っ先に野盗に立ち向かったと聞きましたが、冒険者でもないのに無理をなさいましたね」
「お恥ずかしい限りで。酔っ払って気が大きくなって、一人で野盗を倒せると思ったのです。それでつい飛び出してしまったのです。ですが、幌馬車から降りてから、酔いが回って、自分が何をしていたのか全然覚えていないのです」
「よくまあ、そんな状態で倒されなかったですね」
「運が良かったのかも知れないですね」
「なにわともあれ、あなたのおかげで私たちは助かりました。礼を述べておきます。ありがとうございました」
「こちらこそ、本当にお役に立てたかどうか」
「ところでこの後はどうされるのですか?」
「私はこれから若い男の人の家に行って商売の話をします」
「そうですか。もう少しあなたと話をしたかったのですが、今日はこれで終わりにします。明日の定期便に乗るのですよね」
「ええ、乗ります」
「それでは、また明日」
「明日、よろしくお願いします」
こうして二人は別れた。
「こんばんは」
ヒメジは若い男の家の玄関で声をかけた。この頃になると、雲の隙間に星が輝いていた。
「いらっしゃい。お待ちしていました」
若い男が玄関の扉を開けた。ヒメジは食堂のテーブルに中に通された。テーブルには牛肉のステーキとパン、スープ、サラダが置かれていた。
「ごちそうですね」
ヒメジは驚いた声をあげた。
「ええ、ヒメジさんが来るというので、母が腕によりをかけて作ったのです。さあ、召し上がってください」
若い男が言ったが、ヒメジは立ったまま、若い男の母親が台所から出てくるまで待った。やがて、母親が食堂に現れると、
「ヒメジです。このたびはお招きありがとうございます。それにこれだけの手料理、大変嬉しく思います。おいしくいただきます」
そう言ってお辞儀をした。
「まあ、まあ、ご丁寧に。どうぞお座りください。私がこの子の母親です。息子が大変お世話になったお礼です。さあ、さあ、お食べください。お口に合うでしょうか」
そう言われて、ヒメジはいすに座ると、スープをスプーンですくって食べ始めた。
「おいしい。宿屋の食堂とは違う優しい味付けですね」
ヒメジは次にステーキを切って口に入れた。
「これは、柔らかい。火加減がミディアムレアで、中心部の肉はまだ赤いのにしっかりと火が通っている。こんな肉は滅多に食べられないです」
「ヒメジさん、そんなに大げさに言わないでくださいよ。母親が天狗になりますから」
若い男は耳打ちしてきたが、本当においしく感じたヒメジは、テーブルマナーをそっちのけにして、料理をむさぼり食べた。




