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 べろんべろんに酔っ払ったヒメジは、野盗の襲撃と聞いてまたかと思ったが、何を思ったのかカバンからダガーを取り出すと幌馬車から降りて野盗に対峙した。

「ヒメジさん、どうしたのですか? 危ないですよ」

若い男が幌馬車から顔を出して、ヒメジに声をかけた。

「あなたも降りませんか。一緒にこの人達を退治しましょう」

「それは無理ですよ。私は武器を持っていないですよ」

「武器は持っていなくても、その平鍬を持っているでしょう。それで戦いましょう」

ずぶ濡れになりながらべろんべろんに酔っ払ったヒメジは若い男に返事した。それを見て、野盗の一人が、

「俺たちは随分見くびられたようだな。あの酔っ払いをやっつけてしまえ」

そう言ってヒメジに向かって剣を構えた。その声を聞いて幌馬車を囲っていた野盗が、ヒメジの周りに集まった。

「何人でもかかってきやがれ。私は、逃げも隠れもしないぞ」

ヒメジは言うとその場に突っ立ったまま動こうとしなかった。いや実際は、酔っ払って動けなかっただけだった。そんなことはお構いなしに、五人の野盗がヒメジに向かって剣を振ってきた。一人目はヒメジも胸を刺そうとついたが不思議なことに剣がはじかれた。二人目はヒメジの左から右脇腹に向かって振ったがそれもはじかれて傷を与えることは出来なかった。三人目はヒメジの頭から剣を縦に振って真っ二つにしようとしたが、その剣もはじかれてしまった。四人目は腹に、五人目は背中に同時に突き刺したが、両方とも剣がはじかれた。

「こいつ、化け物か」

野盗は驚いたが、気を取り直して、五人とも、もう一度構えると、ヒメジに攻撃を仕掛けた。それを見ていた若い男は、

(ヒメジさんだけ一人で戦わせてはいけない。俺も勇気を振り絞って野盗に向かっていかなくては)

そう思うと平鍬を持って幌馬車から飛び出ると、一人の野盗の後頭部に向かって平鍬でおもいっきり叩いた。かなり力強く叩いたので叩かれた野盗は武器を落として両手で頭を抱えてその場にうずくまった。また、定期便の騎手も慌ててヒメジと野盗が戦っている場所に来ると一人の野盗に剣を振った。残念ながらその攻撃はかわされたが、これで定期便側三人、野盗側四人と数の上ではほぼ同じになってきた。野盗の一人がヒメジの頭から剣を振って斬ろうとしたが、先ほど同様に剣がはじかれた。野盗は、

「糞、もう一度」

と剣を構えると、剣が短くなっていた。

「お前、剣が折れているぞ」

仲間に言われて、初めて自分の剣が折れていることが分かった男は、

「うわああああ~、化け物だ~」

短くなった剣を放り投げて、叫びながら逃げていった。残った野盗は、ヒメジ、若い男、騎手に一人ずつ対峙した。若い男は平鍬を持って中段に構えたが、相手は剣の手練れで、一度剣を交えたら平鍬の柄の部分を斬られてしまった。そして、野盗が斜め左から若い男に斬りかかるとそれを避けようとして足がからまり尻からこけてしまった。尻餅をついた若い男に対して野盗が、

「観念しろ」

言って剣を若い男の胸に突こうとした。若い男は、最後の抵抗と言わんばかりに、持っていた平鍬の柄の一部分を野盗に向かって投げた。野盗はそれを、剣で打ち落とそうとした時に、強い風が吹いて顔に強い雨が打ちつけて周りが見えなくなった。その隙に柄の部分が野盗の頭に当たった。その隙に若い男は四つん這いになり、後ろから叩いた野盗が落とした武器を手に持つと、怖さで全身が震えながらもなんとかその場に立ち上がった。一方、騎手は、かなりの手練れで、野盗を相手にしなかった。剣を一度交えて、二度目に交えた時に野盗は騎手のあまりの力強い打ち込みに手がしびれて剣を落としてしまった。

「これで終わりだ」

そう言って騎手が野盗を斬ろうとした時に、ヒメジと対峙していた野盗が騎手の頭めがけて斬り込んできた。

「ええい。これでもくらえ」

しかし、騎手はそれを自分の剣で受け止めた。

「おい、お前は倒れている奴を担いで馬車で逃げろ。俺たちもすぐに逃げる」

騎手とつばぜり合いをしながら野盗は叫んだ。剣を打ち落とされた野盗は走って、後ろから平鍬で叩かれた野盗に肩を貸しながら幌馬車に向かった。これで、定期便側は数的に野盗側より多くなった。若い男は頭を怪我した野盗に対峙したが、野盗から剣を振られると怖がって逃げていた。しかし、何度目かの野盗が横一文字に剣を振ったときに、若い男は避けきれなくて腹の皮を薄く斬られた。

「痛い。斬られた」

若い男はその場にうずくまってしまった。それを見たヒメジは、千鳥足で若い男をかばうように、野盗の前に立った。

「酔っ払い、その若い男のように素直に斬られろ」

野盗はそう言うと、ヒメジの右脇腹から左肩に向かって剣を振った。普通の人間なら致命傷になる剣さばきであったが不思議なことに剣が折れてしまった。

「ろうら、わたちには、ろんなへんはきかないろ」

ヒメジはいつの間にか酔いが回って、ろれつが回らない状態で言ったので、野盗はヒメジが何を言っているのか分からず、逆にお化けでも見るかの顔で怖がった。それを見ていた、騎手と対峙している野盗が、

「退散するぞ。引き上げろ」

言って二人とも陸上部の選手のように素早くその場から離れて走って逃げた。

「逃げてくれて助かった。大丈夫か」

騎手が若い男に尋ねた。

「大丈夫です。少し腹の皮を斬られただけです。自分で幌馬車まで戻れます」

そう言って、立ち上がった。騎手は彼に肩を貸そうとしたが、それを遮って、

「あの英雄を助けてあげてください。真っ先に野盗に立ち向かった人ですから」

ヒメジに指をさした。

「わかった、気をつけて戻れよ」

「はい」

若い男はそう言って幌馬車に向かって歩き始めた。騎手は、べろんべろんに酔っ払った英雄? に近づいて、

「大丈夫か?」

尋ねたら、

「きおち、わうい」

いいながら、その場で嘔吐し始めた。騎手はそれを見るなり、

「飲み過ぎだ、アルコールをしっかり吐き出してしまえ。そうすれば楽になる。酔っ払いの英雄さんよ」

ヒメジの背中をさすりながら言うと、ヒメジは

「すひまへん」

返事した。一通り出す物を吐き出すと、騎手はヒメジに肩を貸して幌馬車まで運んだ。ヒメジは幌馬車に乗ると、仰向けになったが、そのまま寝てしまうと風邪を引いてしまう。ヒメジは酔っ払いながらも、カバンに手を突っ込んで回復薬と取り出して、無理矢理飲み始めた。

「ふう」

ため息をいいながら、横になっていたが次第に酔いが回復していくのを自覚した。やがて、すっかりアルコールが抜けて酔いが覚めた感覚になると、ヒメジはむくっと上半身を起こして上半身の服を脱いだ。そして、カバンから大きな布を取り出して体を拭き始めた。頭、顔、腕、体と順番に拭いていくとヒメジはさっぱりした気分になった。ふと隣を見ると若い男が横になったままである。

(この人、腹を斬られていた。すぐに回復薬だ)

ヒメジは慌てて、カバンから回復薬をとりだした。そして若い男に、

「これを飲みなさい」

上半身を起こして回復薬を口に持って行った。若い男は素直にその薬を飲んで、しばらく横になっていたが、その間に腹部の傷がみるみる治っていき、やがて傷跡もなくなってしまった。

「ヒメジさん、ありがとう。痛みがなくなって元気になりました」

「それは良かったです。さあ、あなたも体を拭いてください。そのままでは風邪を引きますよ」

「そうします」

若い男もカバンから布を取り出すと体を拭き始めた。幌馬車はいつの間にか動き始めていた。


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