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「あの~。いいですか?」
一人の老人がヒメジに声をかけてきた。
「どうかしましたか」
「ウイスキーをわしにも呑ませてもらえないかい」
「いいですよ。どうぞ。ほかの方も、ウイスキーが欲しい方がいればどうぞ呑んでください」
ヒメジは老人が差し出したコップの中にウイスキーを入れた。老人は自分の席に戻るとウイスキーを大切に呑み始めた。老人の様子を見た他の乗客達も次々にヒメジの所にコップを持って集まってきた。ヒメジは、コップを受け取るとウイスキーを注いで乗客に渡した。そして気がつくと全員の乗客にウイスキーを呑ませていた。ヒメジは、
「温まる~」
「おいしい。最高だ」
「ふう、助かった~」
ウイスキーを呑んだ乗客達の言葉を聞いて嬉しくなったが、気がつくとヒメジは、自分がまだウイスキーを呑んでいなくて、手足ががくがく震えていることに気がついた。慌てて、ヒメジはコップをカバンから取り出すと、それにウイスキーを入れて呑み始めた。一口、口の中に入れて、香りを楽しんだ後、ゴクリと呑み込む。体の中に入ったウイスキーがやがて食道を通り胃に入ると、お腹の中が温かくなってくる。
(体が温まる~。最高)
ヒメジは、ウイスキーを呑みながら至福の時間を過ごした。
「ヒメジさん、ありがとうございます。体が随分温まりました」
若い男は、ウイスキーを全て飲み干していた。
「もう一杯いかがですか?」
「いいのですか。頂けるのなら助かります」
ヒメジは若い男のコップにウイスキーを注いだ。若い男は大事に持って、ゆっくりと呑み始めた。他にも、ウイスキーを飲み干した人達がヒメジの所へやってくる。ヒメジは笑顔で乗客のコップにウイスキーを注いだ。すると、若い男の次にウイスキーを入れた老人が、ヒメジに声をかけてきた。
「ちょっといいかのう」
「ウイスキーですね。コップを出してください」
「いいや、ウイスキーは欲しいが、瓶で売ってくれないか」
「売るのですか?」
「そうじゃ。このウイスキーが旨くてな。もし、まだウイスキーを持っているなら売ってもらいたいと思っておる」
「それは嬉しいことです。お譲りしますよ」
「一瓶いくらじゃ」
「一リットル瓶で銅貨五枚ですが、いいですか?」
「そりゃ、思ったより安い。買うぞ」
「何本買います?」
「二本もらおうかの」
「ありがとうごぞいます」
ヒメジはそう言って、アイテムボックスに繫がっているカバンから二本のウイスキーを取り出して老人に渡した。老人はそれを受け取ると大銅貨一枚をヒメジに渡した。それにつられて、他の人もウイスキーをヒメジに買い求めた。ヒメジは全部で三十本のウイスキーが売れて、大銅貨十五枚が手に入った。
「ヒメジさん、随分儲けましたね」
若い男が、笑顔で話しかけてくる。
「ええ、こんなところで儲けられるとは思っていませんでした。これ僅かですが、親切にして頂いたお礼です。受け取ってください」
ヒメジは、乗客に呑ませて四分の一ほどになったウイスキーが入っている瓶を若い男に渡した。
「こんなに入っているのにいいのですか」
「いいですよ。どうぞ」
「ありがとうございます。そうだ、ヒメジさん、これをウイスキーのつまみにしてください」
若い男はカバンから紙に包んでいる物を取り出して、紙を開いた。するとドライフルーツが見えた。
「ドライフルーツじゃないですか。おいしそうですね」
「ええ、これは我が家で作ったドライフルーツです。バナナ、リンゴ、レーズン、パイナップルなど数種類の果物が混ざっています。どうぞ、食べてください」
「ありがとうございます」
ヒメジは薄く切られたバナナのドライフルーツをつまんで一口食べた。ドライフルーツと言うだけあって、水分が少なく噛んだ時は堅かったが、何度も噛んでいるとバナナの甘みが口の中に広がりおいしくなってきた。ヒメジは、ウイスキーを口に含ませると、バナナの甘みとウイスキー芳醇の香りが混ざり、ウイスキーがより一層おいしく感じられた。
「おいしいです。このドライフルーツとウイスキーはよく合いますね」
ヒメジはドライフルートのうまさに大変感心した。
「そうでしょう。このドライフルーツはうまみを出すために丹念に水分を拭き取り数日~一週間、日光を当てて乾燥させたものです。我が家の自信作ですよ」
「そうでしょうね。丁寧に作られているのが見て分かります。このレーズンもいただきますね」
「どうぞ、食べてください」
ヒメジは、レーズンを食べると、適度に水分が抜けて甘みが凝縮した味が口いっぱいに広がった。
「これを肴にしていくらでもウイスキーを呑むことが出来ますね」
ヒメジは若い男に声をかけると、彼は嬉しそうに、
「そう言って頂けると大変嬉しいです。どうぞもっと食べてください」
ヒメジに話した。
「ありがとうございます。ところで、これだけおいしいドライフルーツなら購入したいですが売ってもらえますか?」
「いいですが、今はこれだけしかありません。次の村に着いたら家に来てください。そうすればお売りできますよ」
「それは楽しみです。よろしくお願いします」
ヒメジは、思わぬ物が手に入るので嬉しくなった。ヒメジが喜んでいる間に、外では嵐のように雨が激しく降ってきた。強い風が当たる度、少し幌が傾き、中にいる乗客は恐怖を覚えるようになった。ヒメジは、
(以前にもこのような嵐の中を定期便が走っていたな。前はこんな時に、ゴブリンの襲撃を受けたのだっけ。あのときはショコラさんがいたからなんとかなったが・・・。まあ、いつも嵐の時に襲撃を受けるとは限らないからのんびり行こう)
思いながら若い男と一緒にドライフルーツを肴にウイスキーを呑んでいた。
森の中を定期便が進んでいる前に、商人の幌馬車が立ちふさがった。
「すみません、すごい雨で前が見えなくて道をふさいでしまいましたね。すぐに横にどきますので待ってください」
商人が定期便の騎手に向かって言った。騎手は、
「この嵐ですから、ゆっくり安全に行動してください」
注意を呼びかけた。
「ありがとうございます。それでは、移動させますね」
商人の幌馬車がゆっくり定期便の右に移動しようと動いた。それに合せて定期便も商人の幌馬車の右に移動し始めた。お互いが真横に並んだときに商人の幌馬車が止まった。道幅が二代の幌馬車でぎりぎりであったが、なんとか通れそうであったので、騎手は不思議に思った。
「どうしたのですか? 何か不都合でもあったのですか」
定期便の騎手が商人の幌馬車に向かって大声を上げた。すると、
「大丈夫です。少し慎重に動こうとしたのです。今、動かしますよ。その前に、一仕事しますので、そこでしばらくおとなしくしておいてもらえますか」
「どう言う意味ですか」
「それはですね。こういう意味です」
そう声がすると、幌馬車から数人の男達が大雨の中に飛び出して定期便を取り巻いた。
「これはどういうことですか」
騎手は慌てて商人に聞いたら、商人は、
「俺たちは、この山の中を縄張りにしている野盗だ。金目の物を置いていけば命だけは助けてやる。さあ、おとなしくして何もするなよ」
そう叫んだ。その声は幌馬車の中にも聞こえてきたので定期便の乗客は全員息をひそめて静かになった。




