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ヒメジは夕方、宿屋の食堂でビールと野菜料理を注文した。
(今日は一日中、北の町の市場で商談をしていたので疲れた。昼食抜きなのがきつい。早く胃袋に何か入れたい)
「お待たせしました。ビールお持ちしました」
女性の店員がビールの入ったジョッキをテーブルの上に置いた。
(きた、きた、きたぞ)
ヒメジはジョッキを右手で持つと、右手大きく上に上げて、
「カンパーイ」
言ったあと、ジョッキを口に持って行った。グビグビグビとビールを喉に流し、ジョッキをテーブルの上に置きながら、
「ぶは~。うまい。五臓六腑に染み渡る」
ビールを堪能していた。やがて、女性の店員が野菜料理を持ってきたが、ヒメジはそれに箸をつける前に再度ジョッキを口に運んだ。グビグビグビと全てのジョッキに吐いたビールを飲み干すと、ヒメジの顔を少し赤くなってきた。
「お姉さん」
ヒメジは店員に声をかけた。
「はい、ご用は何でしょうか?」
「もういっぱいビールを持ってきてください」
「ビールですね。おまちください」
店員が去った後で、ヒメジが野菜料理を食べようとしたときに、どっと酔いが回ってきた。
「空腹時に酒を飲んだから、酔っ払ってきたぜ」
独り言をつぶやいて、ヒメジは目を閉じてテーブルに頭を乗せた。
「・・・」
お待たせしました。店員がビール持ってきた。しかしヒメジは、テーブルの上に頭をのせたままであった。その時、
「そのビール飲まないのなら俺がいただくぜ」
男がヒメジの前の椅子に座って声をかけてきた。ヒメジは驚いて顔を上げると、厳つい顔をした四十代の男が目の前にいる。
「お前さん、ビール飲まないなら、俺がいただくぜ。喉が渇いて、渇いて仕方が無いからな」
「これは私が飲みますから、自分で注文してください」
「お前さん、今、寝ていたじゃないか」
「今から飲むのです。ほら」
ヒメジがジョッキに右手を伸ばしてつかもうとした時に、厳つい顔の男は、ヒメジをにらみつけてきた。
「お前さん、それを飲もうとしているのか?」
ドスのきいた声でヒメジに話しかけてくる。ヒメジは、その言葉を聞いて、背筋が寒くなってきた。
(怖いおっさんだな。ここは面倒にならないようにするために素直にビールを譲った方がいいかもしれない)
「あの~。少し酔っ払ったみたいなので飲んで貰えますか」
ヒメジはおそるおそる返事をした。
「そうこなくっちゃ。お前さん、話が分かる男だな」
そう言って厳つい顔の男はジョッキをつかむと一気に全て飲み干した。
「うまい。もう一杯飲んでもいいか?」
(え~、まだ飲むの。自分の金で飲んでくれよ)
思いながらも顔では笑顔で、
「どうぞ」
ヒメジは返事した。すると厳つい顔の男は店員に、
「ビール二つ」
注文した。
「お前さんも飲むだろう」
「ええ、飲みます」
(鬱陶しいおっさんだな。早く酒飲んであっちに行け)
苦虫をかみしめた顔になるのを必死で我慢して、笑顔で返事をした。
「お待たせしました。ビール二つですね」
店員がジョッキを二つテーブルの上に置いて、空のジョッキを下げていった。
「ほら乾杯するぞ、ジョッキをもて」
厳つい男がヒメジに命令したので、ヒメジは素直にジョッキを持って、
「カンパーイ」
厳つい男が言った後、ヒメジも
「カンパーイ」
言った。そして、厳つい顔の男はヒメジのジョッキに自分のジョッキをかちんとぶつけてきた。その勢いでヒメジのビールは少しヒメジの右手身こぼれたが、厳つい顔の男はそんなことはお構いなしに自分のジョッキを口に運んでビールをゴクンゴクンと飲み始めた。ヒメジは一口ビールをすすると、飲む気が失せて、テーブルの上にジョッキを置いた。
「お前さん、ビールが進んでないがどうした。体の調子が悪いのか?」
尋ねてきたので、
(お前がいるから、調子が悪いのだ)
思っていることとは裏腹に、
「いいえ、至って元気ですよ。野菜料理をあてにして飲むつもりです」
笑顔で返事をした。
「そうか、それならわしも食事を頂こう。お姉さん肉料理を持ってきてくれ」
厳つい顔の男が注文すると店員は、
「わかりました」
行って奥に入っていった。
「ところで、お前さん。女に興味はないかい」
(急に何を聞いてくるのだよ。男だから女には興味あるけれど、おっさんに正直に言うわけないだろう)
「もう、年ですから、あまり興味は無いです」
「嘘を言っちゃだめだぞ。男という生物はいくつになっても自分の子孫を残したいものさ。いい女がいればあわよくばと考えるのが普通だぜ。それともお前さんは、こっちの方か?」
厳つい顔の男は親指を一本立てた。
(何を言ってくるのだよ。この変態野郎)
「違います」
ヒメジは大きく首を振った。
「それなら、それならあの女はどうだ」
厳つい顔の男が宿屋の玄関に立っている女を親指で指した。ヒメジ時がそちらを見ると、年は二十で髪はロングヘアー、白のワンピースの服を着た美人の女が立っていた。
(どんぴしゃり、ストライクゾーンの女性だ)
ヒメジは胸が高ぶった。しかし、口では
「タイプじゃないです」
興味なさそうに厳つい顔の男に言った。
「そうかい。残念だな。あの女、お前さんにホの字だぜ。さっきからずっとお前さんの方を見つめているぞ」
「そうですか。気がつきませんでした。それにしても私のどこがいいのでしょうね」
「本人に聞いてみるか?」
「え? そんなこと出来るのですか?」
ヒメジがそう言っている間に厳つい顔の男は椅子から立ち上がると玄関に立っている女の方へ歩いて行った。そして、女に声をかけて、少し会話をした後、女を連れてヒメジのいるテーブルに戻ってきた。
「あんたはここに座りな」
厳つい顔の男はヒメジの横に椅子に女を座らせた。そして厳つい顔の男自身はヒメジの前に座った。
「おい、姉ちゃん。ビール三つ持ってきて」
厳つい顔の男が店員に声をかけると、店員は、
「はあ~い。ビール三つね」
遠くの方から返事があった。
「この女はお前さんを一目見るなり恋をしちまったそうだぜ。あ、は、は、は」
厳つい顔の男が笑いながら言った。ヒメジはテレながら、
「私のどこがいいのですか?」
女に尋ねた。
「ほっそりとした体型に、優しそうなお顔。それに年上の落着いた雰囲気が魅力的なの」
女がテレながら答えたとたん、ヒメジの体全身に巡る血流が一気に増えて、体温が上昇し、呼吸も増えて興奮状態になった。厳つい顔の男がヒメジの耳にささやいた。
「よかったじゃねえか。これから一緒にベッドの上で・・・」
「・・・」
ヒメジは興奮して何も言えない。厳つい顔の男が続けてささやく。
「あんなことやこんなことをしてひと晩過ごしたらいいじゃないか。あの女を楽しませてやれよ」
「・・・」
ヒメジは頭に大量の血が回って何も考えられない。ただ、興奮して本能の赴くままに行動しないように理性をフル回転して自制している状態である。
「おい女よ。今日はこの男と一緒に過ごしたいだろう」
厳つい顔の男に質問された女は、こくりと頷いた。
「お前さんよかったじゃないか。今日は楽しめよ」
厳つい男に言われてヒメジはますます顔を赤くして、頭に血が上った。その時に女の店員が、
「おまちどおさま。ビール三つお持ちしました」
そう言ってジョッキをテーブルの上に三つ置いた。厳つい顔の男と女がビールを呑み始めた。ヒメジがビールをのまずに下を向いてもじもじしているので、
「一緒に呑みましょうよ。はいどうぞ」
女はヒメジにジョッキを渡した。ヒメジはジョッキを受け取ると一気に半分ビールを飲み干した。




