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 翌日、ヒメジは早朝から大露天風呂から小露天風呂へのはしご風呂をしたのち、朝食を食べて、市場に行った。温泉町というだけあって、お土産屋が多かったが、その中で硫黄屋という店があった。その店では、『漂白剤や殺虫剤に使用』と硫黄を販売していた。なるほど、温泉の効能や臭い匂いを考えると『漂白剤や殺虫剤に使用』というのも納得がゆく。

「すみません」

「はい、いらっしゃい」

「硫黄を売ってください」

「五百グラムで大鉄貨一枚です」

「それなら、五百キログラムください」

「え? 普通は皆さん五百グラムだけ買っていきますよ。そんなに買う人はいませんが、何に使うのですか?」

「村の人のお土産にと思いまして」

「なるほど、でも国外には持ち出してはいけませんよ。見つかると捕まってしまいますから」

「はい、わかっていますよ。それでは銀貨一枚ですね」

「いま、硫黄を持ってきますね」

店員は倉庫から袋に入った硫黄を持ってきた。二十キログラム入りの袋を四つ店に持ってくると、ヒメジはカバンに一つずつ入れていった。カバンの中にはブラックボックスがあり大量の硫黄をその中に入れておくことができる。店員は汗だくになりながら何度も店と倉庫の往復を行い五百キログラムの硫黄をヒメジに渡した。

「はあ、はあ、毎度ありがとうございました」

「はあ、はあ、失礼します」

ヒメジも、二十五回も硫黄が入った袋をカバンの中にあるブラックスボックス入れる作業を行ったため、汗をかいて息切れもしていた。その後も、メジは二軒目の硫黄屋にいって硫黄を購入した。二軒目も随分汗をかいたので、一度、宿屋に戻って大露天風呂に入った。汗を流し落とすと午後からも別の硫黄屋に行って硫黄を購入した。

「硫黄は随分手に入れたのでもういいだろう。せっかく、観光地に来たのだから、いろいろ見物しないともったいない。ようし、今から行くぞ! どこにしようかな。そういえば昨日、宿屋の女将に聞いたけれど橋杭岩があるそうだ。そこに行こう!」

ヒメジは女将に聞いた場所に歩いて行った。温泉の近くに海岸がありそこには波で浸食された石が橋杭のように並んでいる。

「素晴らしい。異世界に来る前にもこのような風景を見たが、こちらの世界はその三倍のスケールだ」

ヒメジはスケールの大きさに驚きを隠せなかった。ついでに海岸でオール クリエーションを行い塩の採取も怠らなかった。温泉宿に来てから三日目は王都に戻る日だ。それでも、ヒメジは朝から風呂のはしごをした。朝食後女将に宿泊料を支払い、定期便乗り場に向かった。定期便乗り場に行くと数名の乗客が幌馬車に乗っていた。ヒメジも幌馬車に乗るとまもなく出発した。

     

 定期便は順調よく進み、その日の夕方には王都に到着した。幌馬車から降りると、

「ヒメジさん」

声をかけられた。ヒメジはあたりを見渡すと、少し離れた後方に少ししょぼくれたショコラが立っていた。

「ショコラさん。お久しぶりです。少し元気がないですが、いかがされましたか?」

「それがですね、父親から許嫁を決められまして、来年度には婚姻をあげる段取りになっているのです」

「おめでたいことではないですか」

「いいえ、めでたくはありません。結婚すれば自由に遊べる時間が無くなります」

ショコラは声を荒立てて話をした。

「まあ、まあ、そんなに興奮しなくても・・・。どこかで飲みながらゆっくり話をしましょう」

そう言うとヒメジは宿屋の食堂へ行き、ビールを二杯注文した。

「カンパーイ」

した後、ヒメジは聞いた。

「急に許嫁とは驚きました。どのようないきさつで決まったのですか?」

「先の戦争で手柄を立てたということで許嫁を決めてきたそうです」

「いいことではないですか。腹を立てないようにしてください。もし遊びたいのでしたら私も一緒にお供いたしますから」

「ヒメジさんは脳天気でいいですね」

「結婚できない男から見ればうらやましい限りですよ」

「そういえば、ヒメジさんは独身だったですね」

「まあ、いい人がいれば紹介してください」

「私の相手はいかがですか」

「年は何歳ですか」

「十六歳です」

「私とは釣り合いませんよ」

「そんなことないですよ。年齢差婚なんて珍しくないですよ」

「若すぎる女性は興味がないので・・・」

「よく言いますよ。おじさんは若い女が好みだと通説になっていますよ」

「私がおじさんなのは認めますが、性格が合わないとねえ~」

「上品で男性を立てる器量のよい女性だと聞いています。ますます、ヒメジさんにぴったりじゃないですか」

(まずい、このままでは私が十六歳と結婚させられるかも。話題を変えよう)

「ところで、先の戦争とは何ですか?」

「え?」

ショコラは目をぱちぱちしてヒメジの顔を見た。

「ヒメジさん、シックスス国との戦争をご存じないのですか?」

「ええ、知りません。いつあったのですか?」

「今から一週間前です」

「勝ったのでしょう?」

「ええ、まあ」

「私はその頃、あの薬屋の糞店主にこき使われていましたから、戦争の話など全然耳に入ってきませんでした」

「あ、は、は、は。そうでしたか。あの店主、ヒメジさんには何も言わなかったのですね」

「そうなのですよ。ところで戦争はどうなったのですか?」

「長くなりますがよろしいですか?」

「はい、夜は長いのです、聞かせてください」

「それがですね・・・始めに国境の戦いがありまして、シックスス国がフォース国の国境を越えて侵攻してきたのですよ。予想通り東の町の東の国境から侵入しましたが、フォース国もそれを予想していたので山の麓にある山林に兵士を待ち伏せさせていました。私もその中の一人として参加していました。待ち伏せしてから半日後、シックスス国が山林まで降りてきたので『突撃』の合図でフォース国が攻撃をして開戦したのです」

「なるほど、フォース国は敵を侵入させて、山林に伏兵で待ち構えていたのですね。これは効果あったでしょう」

「それはもう絶大でした。シックスス国は騎馬隊ですが山林という地形とフォース国の歩兵が行く手を遮ったため進軍の速度が遅くなったところを側面から弓矢の攻撃を受けてどんどん兵力を減らしていました。もちろん、シックスス国の騎馬隊は強くフォース国の歩兵隊も被害を受けましたが、回復薬と万能薬のおかげで戦線を維持することができ、シックスス国は三分の一が被害を受けたところで、退却し始めたのです」

「それで終わったのですか?」

「そんなに簡単にはすみません。その後、控えていたフォース国の騎兵隊が退却したシックスス国を追撃して、残りの半数を討ち取りました。こうして、シックスス国を撃退したのでフォース国はシックスス国へ進撃しました。緒戦でこてんぱんにシックスス国を打ち負かしたので、シックスス国の王都までは楽勝かと思われていましたが、敗残兵の一部が国境の砦にこもり、我が軍に徹底抗戦の姿勢を示したのです。その数二万人。こちらは十万。我が国はその砦を包囲して攻砦戦が始まりました」

「あれ、死傷者はいないのですか?」

「回復薬と万能薬のおかげでフォース軍は一人の死傷者は出なかったですし、シックスス国の兵も倒れた時に武具を没収したのち、回復薬や万能薬で回復させて捕虜として扱ったのでおそらく死傷者はいなかったと思います」

「それはすごいですね」

「誰が作ったのかは知りませんが、あの回復薬や万能薬の効力は素晴らしかった」

「そうでしょうね」

「そうでしょう? ヒメジさんはあの薬のことを知っているのですか?」

「いや、知りません。ところでその続きはどうなりましたか?」

「第二戦目は、正攻法で門を壊して砦の中に入る作戦でした。しかし、シックスス国は弓矢をフォース国へ射かけてなかなかも門に近づけないようにしました。盾を使って弓矢を防ぎながら、破城槌を何度も門に打ち付けました。やがて門が壊されて、フォース国の兵士が砦になだれ込んでいきましたが、門を壊すだけで一万を超す負傷者を出してしましました」

「随分激しい攻防だったのですね」

「シックスス国もそれだけ必死だったと言うことですね。しかし、多勢に無勢、門を壊されたシックスス国はフォース国の攻撃に一度は押し返しましたが、二度目はなく力尽きて降伏しました」

「二戦目も勝ったのですね」

「ええ、勝ちました。一戦目と同様に回復薬と万能薬のおかげでフォース国、シックスス国共に死傷者はいませんでした」

「それはすごい。それでその後どうなりましたか?」

「それが、三戦目はシックスス国の王都での攻防戦になるかと思い進軍していたら、シックスス国から降伏の使者が来てフォース国の勝利となりました」

「それで、シックスス国はどうなったのですか?」

「フォース国の王子とシックスス国の王女が結婚し、フォース国とシックスス国を二人で共同統治することと、その際両方の王は引退する。といっても、結局はフォース国の支配下にシックスス国が入るということになりました。それとフォース国の捕虜となった者は解放するという内容です」

「じゃ、パッスなしでもシックスス国へ遊びに行くことができるのですね」

「そうだけど」

「やったー。いろいろな国に行ってみたかったから嬉しい」

「それは良かったですね」

ショコラはやや冷ややかな声で話した。

「まあ、パッスが手に入ったら隣のセカンド国へ、手が入らなければシックスス国へ遊びにいくぞ~」

「本当に、ヒメジさんはお気楽だね」

「そう言わないでください。遊びに行ったらお土産たくさん持ってきますから」

「それじゃ、たくさん頼みますよ」

「あ、は、は、は。まかせなさい! 話は変わりますが、フォース国は人身売買を認めている国なのですか?」

「いいや認めていません」

「シックスス国は?」

「あそこの国はあります。奴隷制度もあります」

「じゃ悪事を働いて捕まったら奴隷になることもありますか?」

「そうだぞ。ヒメジさん気をつけなよ~」

ショコラはヒメジにからかいながら言った。

「も、もちろん気をつけますよ。でも、人身売買や奴隷制って無くならないかな」

「そうだね。無報酬の労働者として無慈悲に扱われるのはいいとは思わない。すぐに廃止することに賛成だね。フォース国の王様に進言しておくよ」

「よろしく。今日は私のおごりです。好きなだけ飲んでください。そして、婚約者の話をもっと教えてくださいね」

「ヒメジさん、少し酔っていますね」

「ええ、ショコラさんと久しぶりに会ったから嬉しくてね。さあ、戦勝と婚約の祝い酒と行きましょう」


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