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 「北へ向かう定期便に乗る方はこちらです。お急ぎください」

騎手が大きな声をあげていた。

「乗りま~す」

大声をあげながらヒメジは走って乗車した。

「危なかった。寝坊してギリギリだった」

定期便はヒメジが乗るとすぐに出発した。ヒメジは昨晩からの筋肉痛のため、足腰や肩、背中至る所が痛くて、だるくて夜中まで眠れなかった。そのため、幌馬車がガタンと揺れるたびに、

(いたたたた。あたたたた)

あちこちの筋肉の痛みで苦しめられた。

(あの店主、こき使いやがって。今度会ったら・・・)

仕返しを考えているうちに、寝不足で頭もぼーっとしてきた。アイテムボックスに繫がっているカバンなので、持ち物が盗まれることはない。そのため、妙な安心感があり、うとうとと眠り込んでしまった。それでも、馬車が揺れて体を床や梁にぶつける度に、

(いたたたた。あたたたた)

うめいているヒメジであった。やがて、夕方になり北の町に到着した。門をくぐると、硫黄の匂いがしてきた。この匂いをかぐと温泉に来た気持ちになる。

「到着した~」

ヒメジは両手を挙げて、背伸びをしたら、全身に痛みが走り、

「いたたたた」

叫んでしまった。まずは温泉宿には行かず、手紙を渡すために薬屋に行った。裏通りの入った場所にあったので、少し見つけることに時間がかかった。

「こんにちは」

「いらっしゃい」

(また厳つい顔のおっさんだ。何人兄弟なのだ)

「王都の薬屋で手紙を預かってきました。これです」

ヒメジは店主に手紙を渡すと、店主はすぐに封を切って読み始めた。読み終わるとヒメジに声をかけてきた

「兄貴から、ヒメジさんをよろしくとのことだ。お前さんがヒメジさんか?」

「そうです」

「この町一番の温泉宿を紹介してやるよ。建物は古いが温泉も飯も最高だぜ。多少金がかかるがな」

「へえ~、楽しみです。どこの宿屋ですか?」

「この店だよ」

「失礼しました」

ひめじは店から出ようとすると、店主が、

「冗談だよ。この筋をまっすぐ行くと宿屋がある。そこで養生しな。薬屋の紹介だと言えばよくしてくれるぜ」

笑顔で話した。

「あなたの兄弟は、私をからかうのが好きなのですね」

「そりゃ、『いじって、いじって』と言っている顔だもの。いじってやらなきゃ申し訳ないだろう」

「この顔が?」

「あ、は、は、は。冗談だよ。兄貴から『いじってやれ』と書いてあったからさ」

(兄弟そろって、悪趣味、糞野郎)

ヒメジは心の中で悪態をついていた。

「まあ、しっかりと体を休めてくれ」

店主がヒメジの肩を叩いた。

「うぎゃ~。痛い~」

ヒメジはうめいた。

「おい、大丈夫か」

店主がヒメジに尋ねた。ヒメジは店主が悪気なしに行ったことは理解しているが、自分に痛い思いをさせたので、

「筋肉痛で、いま体がめちゃくちゃ痛いので、触らないでください」

少し怒りながら返事をした。

「それは悪かったな。筋肉痛の薬を飲むか?」

「そんな薬があるのですか?」

「これだ」

薬屋の店主は戸棚から黒っぽい薬を取り出してきた。

「これはな、この薬屋特製の薬だからな。他の薬屋では飲めないぞ。効果抜群で、飲むと随分楽になるぞ」

そう言って、薬屋の店主はヒメジに薬を渡した。ヒメジは、筋肉痛が少しでも収まって欲しかったので薬を一気に飲み干した。すると、不思議なことに筋肉痛が少し治まってきた。

「どうだ、少しは痛みがとれたか」

「はい、少し良くなりました」

「そうだろう。宿屋に行って風呂に入ってこい。更に筋肉痛が治るからな」

「ありがとうございます。それでは早速宿屋に向かいます」

そういうと、ヒメジは薬屋を出て宿屋に向かった。一本道だったのですぐに宿屋がわかった。

「こんにちは」

「いらっしょいませ」

「宿泊をお願いします」

「さようですか。どうぞお入りください」

「薬屋の紹介できました。しばらくお世話になります」

「薬屋さんの紹介ですか。それなら、奮発させていただきます」

「よろしくお願いたします」

「お部屋をご案内いたします」

ヒメジは二階の部屋に通された。その部屋は一人で宿泊するには少し広かった。しかし、女将の笑顔でヒメジは、薬屋のおかげだと納得した。

「食事は、夕方ならいつでも一階の食堂で食べられます。お風呂は一階の西側にある大露天風呂か、東にある小露天風呂がります。どちらも、男女に分かれているので間違えないようにしてください。きちんと男女と表示はしております」

女将は説明すると部屋から立ち去った。ヒメジは風呂用の布を持って大露天風呂に行った。確かに男女別になっている。服を脱ぎ、男子の大露天風呂に入ると、湯加減が熱すぎず冷たすぎず良い加減であった。他の客も、

「良い湯加減だ」

「気持ちいい。極楽、極楽」

なんて言っている。皆さん天国に来たように幸せな顔をしていた。ヒメジも、入っていると、肩こりや筋肉痛が和らいでいるのが実感してきた。

(おや、疲れがずいぶんとれてきた。この温泉はすごいぞ)

ヒメジは大露天風呂で堪能した後、小露天風呂に入った。こちらも湯加減はちょうど良い。

(おや、こちらは肌がつやつやしてきた。それに体の中まで温泉のエキスが入って、全身を癒やしてくれている)

ヒメジは風呂に大満足した。

(そういえば、この世界に来てから風呂に入るのははじめてだよな。今まではもっぱら体を拭く程度だったからな。この世界に来てさんざんだったけれど、今日だけはこの世界に本当に来て良かった)

しばらく温泉につかった後、食堂へ行った。夕食を食べると、ヒメジは再び温泉のはしごをした。他の宿泊客も同様に食後にお風呂に入った。

「ああいい湯だ」

ヒメジが小露天風呂でつぶやいていると。世話好きそうな頭の薄い初老の男が声をかけてきた。

「本当にいい湯ですな」

「ええ」

「硫黄の匂いが立ちこめて、鼻につんときます」

「そうですね」

(硫黄なんてどうでもいい)

ヒメジは男の話を流しながら聞いていると、

「硫黄は火薬の成分で、火薬は硫黄に硝石と木炭を合わせるとできますよ」

「そうなのですか。よくご存じですね」

ヒメジは少し興味がわいてきた。

「昔は火薬にちょっと興味がありまして、研究していました。しかし、このフォース国には硝石がとれないので火薬が作れません。反対にセカンド国は硝石が産出しますが硫黄がとれません。お互いが交易すれば火薬を作れるのですが、火薬は戦争の道具になります。戦争になった時に、火薬を持つことで強い国にならないようにどの国も硫黄と硝石は販売を規制しています」

「個人レベルでも購入できないのですか?」

「個人レベルでは購入できますよ。硫黄はその辺の店に簡単に売っていますが、国内のみの使用に限られています。もし国外の持ち出しが見つかると処罰されます。まあ、パッスがあっても出入国する場合、国境の検問所で持ち物検査がありますからね」

「なるほど」

「私はもう少し火薬で強力な武器を作れるように研究をしたいのですが、今は叶わぬ夢です」

「もし、火薬の研究をすることができればどのような武器を作れるのですか?」

「そうですね、火薬の力で金属を飛ばす武器などを考えています」

「この国では魔法が使えるでしょう。火薬がなくても魔法で物を飛ばせばいいのでは?」

「え! 魔法が使える人はほんの一握りに人だけなのはご存じなかったのですか?」

「そうなのですか」

「ええ、フォース国で数百人程度です。そのうち、異世界から召喚された人が百人程度使えるそうですが、中には使えない人もいるそうです」

「それは知りませんでした。良いことを教えてもらいました」

「あなたは、魔法に興味があるのですか?」

「いいえ、でも薬草には興味があります」

「薬草ですか。それなら、最近、上等のハイポーションが出回っているそうですがご存じですか?」

「噂はきいています」

(実は私が作っているのだけれどね)

「随分大量に作成できる人がいるので、多くの人が命拾いをしていると聞いています」

「それは素敵なお話ですね」

「一つお聞きしたいのは、上等のハイポーションの材料となる薬草は何でしたっけ?」

「イチレン草ですよ」

「イチレン草ですか。そうでしたな。この年になると忘れっぽくなってきました。どんな色の花を咲かせているのですか?」

「黄色ですね。たまに、薄い黄色の花をつけているものもありますが、薬を作るときにはどちらも大差ありません」

「なるほど、よくご存じですね」

「はい。あなたも薬草には興味があるのですか?」

「私は薬草に興味があると言うよりは薬の方に興味があります。温泉に入っているのも、肩や腰の痛みやリュウマチなどの症状の改善のためです。もし、上等のハイポーションが手に入れば、それらの症状が和らぐために是非呑んでみたいと思っています」

「それなら・・・」

ヒメジが言いかけたときに

「おっと、話し込んでしまいました。のぼせてきたので私は先に上がります」

初老の男は湯船から上がった。

(上等のハイポーションを譲って挙げようと思ったのに、まあいいや)

「大丈夫ですか? お気をつけて」

ヒメジは初老の男を見送った後、しばらくの間は少しお風呂につかりながら考えていたが、何か良いことを考えついたようで晴れやかに、お風呂から上がった。


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