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その日は宿屋に戻り夕食を済ませたあと部屋で作業を行った。
「人目に付かないところでする作業は、部屋が一番だね」
ヒメジはアイテムボックスから寸胴とクロム鉱石を取り出した。
「これでステンレスの寸胴が作れるか試してみる。もしできたら、錆びない鍋ができて便利になるぞ」
(ステンレスの寸胴)
祈って、
「オール クリエーション」
唱えると、二つの材料が一つになり、ステンレスの寸胴と余分の成分のくずがそのまわりに散乱した。
「できた! 我ながらうまくできた。随分軽くて丈夫になっているぞ。これなら残りの寸胴もステンレスにしてしまおう」
アイテムボックスから寸胴二つとクロム鉱石を取り出してオール クリエーションでステンレスの寸胴を作り出した。
「うん、ステンレスの光沢、それに手触り、どれをとっても、このできならパーフェクトだ」
ヒメジは自画自賛をしながらステンレスの寸胴をアイテムボックスの中に入れた。そして、口笛を吹きながら、ゴミくずは部屋に備え付けのほうきとちりとりではきとりゴミ箱に入れた。
「よし出来たぞ。次はどうしようか。そうだ、ブラックボックスが手に入ったから、アイテムボックス内を整理しよう。まずは小麦だな」
ヒメジはブラックボックスを取り出して、アイテムボックスの中にある小麦粉をブラックボックスへ移し始めた。
「小麦粉移動」
言うだけで自動的に小麦粉が移動した。十秒ほどで、小麦粉が入った麻袋が全てブラックボックスの中に入った。
「すごい。これなら簡単にブラックボックスに入れて整理できる。次は酒樽移動」
すると、アイテムボックスに入っていた酒樽が十秒も経たないうちに全てブラックボックスの中に入っていった。
「よし、よしこの調子で他の物も移動させておこう。塩移動」
「回復薬移動」
「毒薬移動」
「・・・」
こうして、今まで手に入れた品物を別々のブラックボックスに入れて整理した。一番厄介だったのは、薬草で「イチレン草、二レン草・・・」と分類に時間がかかったが、百種類以上の薬草を仕分けして取り出しやすくした。
「これで、随分薬屋のようになってきた。それにしても、随分薬草を集めたなあ。薬草の本とオール クリエーションで上等な薬を作って人々を病気や怪我から救えるヒーローになれるぞ。そうなると、『きゃあ~、ヒメジさん素敵。私をお嫁さんにして』っと女性が現れるかも。そうなったらどうしよう」
ヒメジは、取らぬ狸の皮算用ではあるが、勝手に想像力をふくらませていた。しかし、作者とすれば、『そんなことは絶対無い』と言い切りたい。全ての薬草を整理すると、夜が随分更けていた。ヒメジが、最後に整理したのは、ダンジョンで手に入れた金の延べ棒や宝石だった。調べると、記の延べ棒が百本と宝石が大小二百程の量があった。中には、女性がもらったら大変喜ぶ色つきダイヤモンドが多数含まれていた。その一部を、
(女性にプレゼントしよう)
ぐらいの発想があればもう少し女性にモテたであろうが。ヒメジはそこまで頭が回らずに、いつか売り払おうと思ってブラックボックスに入れた。
翌朝は、早朝から起きて、定期便に乗るために西門に行った。幌馬車の周りには十人ほどの冒険者が護衛しているので、利用代が倍になっていたが、ヒメジは無理なく払える金額であった。定期便に乗ると、この日は誰か知り合いはいるかなと見渡したが、誰もいなかった。そのため、一日中、定期便の幌馬車に黙ってゆられていた。何もすることがないので、景色を見たり目をつぶって寝用としたりしたが、時間が経つのが遅くて、ヒメジは退屈した。
「退屈だな~。話をしていないとこんなにも退屈なのだ。ショコラさんに会って話をしたいな~。はあ~・・・」
ため息を出しても、時間が素早く経過するわけがない。ヒメジは悶々としながら定期便に乗っていたが、夕方になりようやく王都に到着した。ヒメジは幌馬車から降りると、両手を上に上げて
「王都に着いたぞ~」
言いながら背伸びをした。ヒメジは両手を下ろすと、見覚えの町並みが目に入ってきた。久しぶりに戻ってきたため、懐かしさを感じた。ヒメジはすぐにでも神父やシスターに会いたかったが、先に冒険者ギルドと薬屋と城に行く必要があったので、落ちついてからにすることにした。はやる気持ちを抑えて、まずは冒険者ギルドへ向かった。
「こんにちは」
定期便では黙ったままだったので、ヒメジは半日ぶりに大きな声で挨拶をした。
「ヒメジさんお久しぶりです」
受付の若い女性は笑顔でヒメジを迎えた。
「お久しぶりですね。手紙の配送の依頼すみましたので報酬をもらいに来ました。でも依頼書がないので、サインをもらっていませんがよろしいですか?」
「ええ、大丈夫ですよ。ギルド長より代金を渡すように言われていますので、ご用意はできていますよ」
受付の若い女性はヒメジに銀貨一枚を渡した。そして、
「また次の依頼もよろしくお願いしますね」
言ったが、ヒメジは
「ハイ」
と言いつつ、
(依頼を受けて野盗に襲われ、怖い思いをしたから二度とごめんだ)
心の中で簡単に高額の依頼を受けないと誓っていた。
「それでは、これで失礼いたします」
ヒメジは挨拶をすると冒険者ギルドを出た。
次に向かったのは薬屋だ。あの糞店主たちの兄貴だ。
「こんにちは」
「よう、ヒメジ。ずいぶん久しぶりじゃないか」
「店主もお元気そうで。若い女性に変わっていればどれだけ嬉しかったか」
「おう、言うようになってきたな」
「本心です」
「まあ、冗談は顔だけにしておいて、今日来てもらったのは・・・」
「そんなに冗談の顔をしているのですか。このハンサムボーイを捕まえて。それに怖い依頼でしたら嫌ですよ」
「ヒメジ、何か怖い目にあったのか?」
「商業ギルド証に名前を書いてもらうため東の町の薬屋の店主にダンジョンに行かされて、ひどい目に遭いました。怖かった~」
「東の町の薬屋がそんなことをさせたのか。あいつは人使いの荒いやつだかな。まあ生きているのだから許してやれ」
「まあ、商業ギルド証が手に入ったので許しますが、もう怖い依頼は絶対に引き受けませんからね」
「大丈夫だよ。俺のは怖くない依頼だから。実は、なぜかわからないが国王様からこの店に大量の薬の依頼が入った。それもヒメジさん作成の薬じゃないと駄目だそうだ」
「何をいくつ作ればいいのですか?」
「それがな、二十ミリリットル上等ハイポーションが三十万本、上等ハイナチュラルポーションが三十万本だ」
「そんなの無理ですよ」
ヒメジは嫌そうな顔で返事した。
「俺もそう言ったのだが、国王様はヒメジなら出来るから、店に尋ねてきたら薬を作れるように手配して欲しいと言っているのだ。それも、一週間で作って欲しいとのことだ」
店主は頭をカキながらヒメジに説明した。
「え~、一週間で作るのですか。めちゃくちゃな」
「そう言うなよ。俺も無理は承知で頼んでいるのだ」
「だいたい、全部でイチレン草やゴレン草を三十万本文集めてくるのも大変ですし、それ以上に六十万本の二十ミリリットルの薬瓶が無いでしょう」
「それは大丈夫だ」
「それだけの容器はどこにあるのですか?」
「どこにもないよ」
「え? どういうことですか?」
「どうにもこうにも、ヒメジさんが容器と薬を両方作ることになっている。俺も散々ごねて無理だと言ったのだがな、国王様の方はできると一点張りさ。何でも材料は国が用意するそうだ」
「薬とガラスの材料ですか」
「そうだ。もしできれば、報酬としてパッスを発行するそうだ」
「パッスだけですか? 結構手間賃が安いですね」
「いいや、手間賃も金貨十枚あるそうだ」
「それでも、人をこき使いますね」
「まあな。しかしパッスなんて滅多に手に入らないからいい話だと思うのだがね」
「仕方ありません。出来ることはやってみます。でも私には作る場所がないですよ。それに、薬を作っても容器に入れる余裕もありません」
「それなら大丈夫だぜ。店の裏手に大きな作業場があるそこで作ってくれ。薬の入れ替えは別のところで国がやってくれるそうだから心配しないようにとの話さ。良かったな」
(よくないよ。ところで誰が、私をこのような目に合わせているのだ? 私の能力は知られていないはずだが)
「わかりました。いつから始めたらいいですか?」
「今からだ」
「え? 今から? 帰ってきたばかりなのに」
「もう材料はそろっているので、後はヒメジさんが作るだけの状態になっている」
(え? そうなの? 私次第だったの? ええい、もう破れかぶれだ、やればいいのだろうやれば)
「仕方ありません。それでは始めましょう」
「おう! やる気が出てきてようでうれしいよ。こっちに来な」
ヒメジは店主の後をついて行った。店の裏には学校の教室二つ分の大きさがある作業場があった。そこにはすでに大量の砂 灰 石灰が置かれている。
(これでガラスを作るのだな。でもガラスを作る機械がない)
「あのう、店主さんガラスを作る炉が無いですね」
「そうだね。それでもなんとかするようにとのことだ。ひょっとしてヒメジさんは魔法使いかな? 炉がなくても作れるのだろう」
「違いますよ。でも、なんとかしますよ」
「頼むぜ」
「はい、はい、分かりました。やりますよ。やりゃいいのでしょう」
「それじゃ、邪魔したら悪いから俺は立ち去るわ。何かあったら店にいるから声をかけてくれ」
店主は作業場か出て行った。一人残されたヒメジは薬瓶作りを始めた。大きく腕まくりすると砂 灰 石灰に手のひらをかざして、
(薬瓶)
祈って、
「オール クリエーション」
唱えると、二十ミリリットルの薬瓶が材料分だけできていた。ヒメジは、店まで聞こえるほどの大きな声で、
「店主、店主」
呼びかけると、店主はすぐに作業場まで来た。
「おい、もう薬瓶作ったのかよ? やっぱりヒメジさんは魔法使いだな」
(魔法使いじゃないが・・・。訂正するのは面倒臭い。魔法使いと言うことにしておこう)
「そうでしょう。わたしは、魔法使いです。それより、これらを数えて運んでもらえますか? 次の作業ができません」
「よしわかった、手配するから飯でも食べていろ」
ヒメジは宿屋の食堂へ行って晩ご飯を食べに行った。




