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いつも愛読いただきありがとうございます。今回の話はいつもより少し長めになっています。のんびり楽しんで読んでください。
ヒメジは宿屋の食堂で昼食を食べた後、薬草採取をするために町の外に出た。昨晩、薬草の本を勉強したので、それを活用するためである。ヒメジは東の門を出ると早速、鑑定の能力を使っていつも採取しているイチレン草からゴレン草以外にも、ゲンノショウコ、センブリ、ドクダミ、ヨモギ等の薬草を探し始めた。穀倉地帯にある東の町は城壁のすぐ外側には小麦畑が広がっている。しかし、その小麦畑の中に所々にある小山には樹木や草が茂っており、誰も入っていないので自然が手つかずのまま残っている。ヒメジは喜々としてそんな場所に入って行った。最初に入った小山では、早速大声を上げた
「すごい、ゴレン草の群集があるぞ」
ヒメジが一心不乱に取り始めた。二十本ほど取ると、腰が痛くなり始めたが、それでも採取に夢中になって、生えていた三十五本のゴレン草を全部採取した。
「ふう~、採った、採った。こりゃ大量だ。万能薬を何本作れるのだろう」
そう言いながら腰を左手でトントンと叩いて腰を伸ばした。
「採取が始まったばかりだ。頑張るぞ」
ヒメジは左に目を向けるとそこにはドクダミが生えていた。
「ひょ~。ドクダミも群生している。よし採るぞ~」
ヒメジは出来るだけ葉や茎を傷つけないように丁寧に採取していった。十分かけて全てのドクダミを採取するとヒメジは立ち上がって、次の小山に移動した。そこでも、
「ここにはサンレン草」
とか、
「ゲンノショウコがこんなにも生えている」
喜びながら、多くの薬草を採取した。この世界に来た時は、ただの雑草と思っていたが、勉強したおかげで今では宝の山になっていた。ヒメジは両手で採り始めた。すでに手は緑色になり野草の匂いが染みついていたが、
「軍手があればいいなあ~。なくてもいいや。終わったら石けんで洗えばいいし」
程度しか考えず、手が汚れていても気にしないで、財宝をかき集めるように喜々として薬草を採取した。不思議なことにプロテクトリングをつけていても、野草の葉やとげで切り傷や刺し傷が所々出来た。それでも、後で回復薬を飲めば治るから、軽い怪我は気にせずに作業を進めた。やがて、五つほど小山を回った時には薬草を大量に採取していた。ヒメジは、
(もうこれぐらいでいいだろう。そろそろ東門に戻ろう)
と小山を降りた。すると、
「痛い」
近くの畑で男の声がした。ヒメジが声のする方を向くと、小太りで中年の女がやせ形の中年の男に向かって棍棒で叩いているのが見えた。
「あんた、昨日の夜はどこに行っていたのさ」
「昨日は寄り合いで集会場に行っていたと話しただろう」
「うそつき。隣の奥さんに聞いたら、昨日は寄り合いなんてなかったと言っていたわよ」
「そんなことないよ。ちゃんと寄り合いに行っていたよ。隣の奥さん勘違いしているのじゃないか」
「よくもまあそんなうそをぬけぬけとシャーシャー言えるわね。確認のために寄り合いの組長さんに聞いたら、寄り合いは一昨日あったって言っていたわよ」
「うぐ・・・」
「やっぱり、だましたので。どこにいったのか白状しなさい」
女は男を何度も叩いた。ヒメジは仲裁に入ろうと思ったが、女の勢いに押されて見ているだけだった。
「ごめん悪かった。実は・・・」
「実は・・・、さあ、正直に言いなさい」
「実は、飲みに行っていたのだよ」
「誰と? まさか女性と飲みに行ったの? それなら許さないわよ」
「まさか、一人で飲みに行ったのだよ」
「どこに?」
「もちろん飲み屋だよ」
「本当かしら。あなたが昨日着ていた服に女性のキスマークがあったわよ。それをどう説明するのよ」
「どこにそんなマークがあったのだよ」
「襟首の所よ。覚えがないの」
「ない、ない。何かの間違えだよ」
「まあ、明らかな証拠があるのにしらばっくれて、あなたなんてこうよ」
女は再び男を叩き始めた。
「痛い、痛い。参った。正直に言うよ」
「さあ、早く言いなさい」
「昨日は一人で女性のいる飲み屋に行きました。そしてそこで女性を囲んで呑んでいました。さあ、正直に言ったよ」
「そこで女の子といい関係に・・・」
「なっていない、なっていない。俺がもてる男に見えるか?」
「そうよね、見えないわ」
「だろう。いい関係には、なっていないよ」
「分かったわ。今はそれを信じてあげる。それでいくら使ったのよ」
「銅貨三枚だよ」
「まあ、そんなにも使ったの。飲み屋の女に大金を使ったなんて許さないわよ」
女は再び男を叩こうと棍棒を高々と持ち上げた。男は頭の上に両手を合せて何度も謝っている。
「ごめん、ごめん。もう女のいる飲み屋には行きません。許してください」
「許しません」
女は男を叩き始めた。
「痛い、痛い。何でも好きな物買ってあげるから許して」
「そんなお金、家にはないわよ」
「俺が持っている小遣いで買ってやるよ」
「本当に買ってくれるの?」
「ああ、約束は守るよ」
「じゃあ、指輪買ってね。四月の私の誕生石のダイアモンドもつけてね」
「ああ、買ってやる」
「高いわよ。大銅貨五枚は下らないわよ」
「・・・。いいぞ。買ってやるから、許してくれ」
「あと一つ約束してくれたら、許してあげるわよ」
「何を約束すればいいのさ」
「私がいいというまで夜の外出は禁止します」
「しかしそれでは寄り合いに参加出来なくなる」
「大丈夫よ。組長さんに頼んで当分の間は寄り合いに参加しなくてもよいようにしてもらうわよ」
「そんなあ~」
「何か不満でもあるの?」
「いえ、ございません」
「それでは決まりね。私は今から家に戻って夕食の支度をするから、あなたはここでもう少し頑張りなさい」
「分かりました」
女は棍棒を持ったまま、すたすたと家のある方向へ歩き始めた。男は女にぶたれ所が痛いらしくその場にしゃがみ込んで動かなかった。ヒメジは、男が気になったので近づいた。
「大丈夫ですか?」
ヒメジは男に声をかけた。
「叩かれた頭と肩と背中が痛くて動けないのです」
「これを飲んでください」
ヒメジは二十ミリリットルの容器に入った回復薬を男に渡した。男は受け取り薬を見ると驚いた顔になりヒメジに話しかけた。
「本当に頂いてもよろしいのですか? これはハイポーションですよね。それも結構上等な品だとお見受けしますが」
「私が作った薬です。よければ飲んでください」
「本当にいいのですか?」
「ええ、飲んでください」
そう言われて、男は薬を飲んだ。しばらくはしゃがんでいたが、次第に痛みが取れてきたので、その場に立ちあがった。
「すっかりよくなりました。ありがとうございます」
「大変な目に遭いましたね」
「自業自得ですから仕方ありません」
「そうですか。一緒にいた女の方は奥さんですか?」
「はい、長年連れ添った妻ですが、私の不適切な行動で怒らせてしまいました。これから償っていくつもりです」
「いつまでも仲良くしてくださいね」
「はい。ところで薬のお礼は・・・」
「いりませんよ」
「それでは、私の気が済みません」
「それでは、これから奥さんと仲良く暮らしていくことで薬の礼としてください」
「え? いいのですか?」
「はい。それでは、私はこれで失礼いたします。奥さんと末永くお幸せに」
ヒメジは東の門へ歩き始めた。男はその場でお辞儀をしてヒメジを見送った。
(お~、女性は怖い。私も結婚したらあの男の人のように女性の尻にひかれるのかな。そんなのは嫌だ。亭主関白になろう。『飯、風呂、寝る』の三つだけ話して妻をあごで使ってやるぞ・・・。でも、自分の性格を考えるとやっぱりそんな風に出来ないだろう。やっぱりかかあ天下になっているだろうな)
ヒメジは結婚した自分のことを想像するとため息を出しながら、東の町へ戻っていった。
夕食を済ませた後で宿屋の井戸に行き、三つの寸胴に水を入れた。そこにゴレン草をそれぞれ四本ずつ入れて、それに向けて両手を広げて
(万能薬)
祈って
「オール クリエーション」
唱えた。三つの寸胴が一瞬光ると、どの寸胴の中身が濃い茶色に変わった。
「やった~。念願の万能薬を作ったぞ」
ヒメジは寸胴をアイテムボックスに入れると井戸から立ち去った。ヒメジは部屋に戻ると、三つの寸胴に入っている万能薬全てを十八リットルの薬瓶に入れかえた。入れ終わると道具をアイテムボックスにしまい、ヒメジはベッドへ横になった。始めは、午後からの夫婦げんかを思い出して、
(男性は自業自得だが、それでも女性の迫力はすごい。結婚したら女性は強くなるのだな)
と苦笑いをしていたが、ふつふつと午前中の小麦商にだまされたことを思い出して、悔しがり始めた。
(私は本当におひとよしで、単純なのだ。人の言ったことを鵜呑みにするなんて。現物を見てから購入することが商売の鉄則なのに。あ~あ、自分のばか、ばか、ばか)
ヒメジは、反省した。その時、
「にゃ~ご、にゃ~ご」
「にゃ~ご、にゃ~ご」
遠くから猫の鳴き声が聞こえてきた。ヒメジには、
「ば~か、ば~か」
(だまされて)
「ば~か、ば~か」
聞こえてくる。はじめは、
(そうだよな、私は馬鹿だよな)
鳴き声を素直にきいていたが、次第に腹が立ってきて、窓を開けて、外に向かって大声で、
「にゃ~ご、にゃ~ご、と言うにゃ~」
叫んでしまった。
いかがでしたか。皆さんは亭主関白派ですか。それとも、かかあ天下派ですか。どちらになっても夫婦円満になってくださいね。




