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大切な時間を私の作品のために使っていただいた皆さん本当にありがとうございます。のんびりした冒険物語を書きたいと始めました。楽しんで読んで貰えたら嬉しいです。今回もゆったりと読んでください。
「へっくしょん」
老人の召喚士が言っていた大物の勇者? の男は大きなくしゃみをした。
「誰か私の悪い噂をしているのかな。そんなわけ無いよな。この異世界に来ていることを知っているのは自分だけ。きっとさっきまで服が濡れていたから風邪でもひいたのだろう」
ぶつぶつ言いながら、男は堀の斜面から道に移動して、人がいないことを確かめると、草むらや物に隠れながら、身を寄せる場所を探していた。夜間とはいえ、今まで誰にも出会っていないのが奇跡のようだ。見た目も行動も不審者そのものである。いつ人と出会って大声を上げられるか分からない。できるだけ人気のない、町の中心から端へ端へと移動した。
(夜明け前には身を隠さなければ)
男は焦り始めたが、隠れそうな場所が見当たらない。二時間程度探したであろうか、この町の城壁まで来ていた。
(早くしないと、日が昇って異世界の人に見つかれば城に連れて行かれ処刑されるかも。そうならなくても、石を投げられたり、町から追い出されて飢えて倒れたりするかもしれない。なんとかしなければ)
男が頭の中でネガティブなことを考えて歩いていると、みすぼらしい教会が目に入った。男は少しためらったが、もう、身を隠す手立てがないので、
(まあ、どの世界でも、教会の人は慈悲深いであろう。そうでなければ死ぬだけさ)
と一途の希望を持って教会の扉をたたいた。
「こんばんは、こんばんは、・・・、こんばんは」
男が何度か扉を叩いて声をかけると、教会の中から玄関に近づいてくる人の気配を感じた。
「どなたですか、こんな夜更けに」
中年で細身の男性が僅かだけ玄関の扉を開けた。扉が開いた瞬間、中年男性が掲げたランタンの光が男の目に入りまぶしかったが、男はそのままランタンに向かって懇願した。
「遅い時間にすみません。ひと晩、教会の隅で寝かせてもらえませんか?」
「いいですがどうしたのですか? 見慣れない顔ですし、服装もこの町のものとは違う。どこか別の町からきたようですが」
「はい、どうやら旅をしていたようですが、頭をぶつけてしまったらしく自分の名前しかわからないのです」
男は適当なことを言って話を続けた。
「私はヒメジといいますが、ここを見てください」
ヒメジは右手で頭を覆い心の中で唱えた。
(たんこぶ、オール クリエーション 痛い!)
扉があいている隙間から自分の頭を中年の男性に見せた。ランタンで頭を照らした中年の男性は、
「ヒメジさんですか、本当ですね。大きなたんこぶができている。少し冷やした方がいい。さあ、まずは中にお入りなさい」
扉を大きく開けてヒメジを中に入れると、
「少しここで待ってください」
言葉を残して奥に入った。頭がずきずきと痛むヒメジは教会の中を見回すが、薄暗い礼拝堂は外見と変わらずぼろぼろであった。とりわけ信者が座る木で作られた長いすのいくつかは、木がはがれて穴が開いていたり、足が折れたりして座れないものがあった。
「お待たせしました。水で濡らした布で頭を冷やしてください」
「ありがとうございます」
中年の男から手渡された布をヒメジは頭にあてると、たんこぶが冷やされて次第に痛みが取れていった。それと同時に身を隠せる場所が見つかったので安心することができた。そのため、
(手で布をたんこぶに当てているだけなのに痛みが引くなんてこれが本当の手当だ)
などと、だじゃれを考える余裕が持てるようになった。ヒメジはしばらく立ちながら布でたんこぶを冷やしていると、中年の男性が声をかけてきた。
「ヒメジさん、とんだ災難でしたね。荷物を持っていないようですし、野盗にでも襲われたのでしょうか? ご希望通り今晩泊まってくださっていいですよ。ただし、礼拝堂の中だけですよ。決して奥には入らないでください」
「ご厚意ありがとうございます。・・・神父様でいいのですか?」
「私ですか? 自己紹介がまだでしたね。私はここの神父をしております。そうそう、その格好では目立つでしょうから私の服を使ってください。今、お持ちします」
「お気を使わずに」
「ヒメジさんが教会に来たのはきっと神様のお導きでしょう。お気になさらずに」
神父は奥に入り、再び姿を現すと、手に服を持っていた。
「この町で、一般的な服ですよ。私と背格好が似ているからサイズは丁度いいでしょう」
神父から服を手渡されると、ヒメジは紺のスーツを脱ぎ始めた。
「それではヒメジさん、私はこれで休ませてもらいます。くれぐれも奥には入らないように」
神父の声かけに、着替えることをやめて、ヒメジはすぐに返事をした。
「はい、わかりました。それでは神父様、お休みなさい」
神父は十字を切るとランタンを持って奥に歩き出した。そして奥に入ると扉を閉めて鍵をかけた。あたりはすっかり薄暗くなった。ヒメジは神父が鍵を閉め終わってことを確認すると再び着替え始めた。ヒメジは上着とズボンを脱いで下着だけになった時に、
(とりあえず、今晩はなんとかなったが明日からはどうしたものか。あれ? 神父様と普通に会話できている。異世界なら言葉が違うはずなのに助かった~。コミュ二ケーションができるのがわかっただけでも今日の大きな収穫だ)
「やった~」
ヒメジは大喜びでその場でガッツポーズをとった。しかしすぐに、自分が下着だけになっていることに気がついて顔を真っ赤にして、あわてて神父が持ってきた服を着始めた。やがて服を着たヒメジは壊れていない礼拝堂の長いすに横になった。
「はあ~、疲れた。明日からどうしよう。まあ、くよくよ考えても仕方ないから取りあえず寝よう」
その時、ふと、前のいすの背もたれにかかっている紺のスーツの裾が礼拝堂の中に入ってくるすきま風で揺れているのが目に入った。気にしないように目をつぶったが、どうしても気になって寝付けなかった。
(どこかに片付けなければ。でも、風呂敷やかばんがないからどうしたらいいだろう)
その時、ヒメジの目の前に自分のハンカチが現れた。そして次の瞬間、ハンカチがヒメジの目の前の空間に吸い込まれると同時に、ヒメジの頭の中で言葉が浮かんできた。
(アイテムボックス)
「アイテムボックス? 時間経過がない無限に入れられる空間のこと?」
ヒメジは半信半疑で唱えてみた。
「アイテムボックス」
すると、ヒメジの前にハンカチを広げた程度の明るい空間が現れた。ヒメジが中をのぞき込むと無限の空間が広がっているだけで中は空っぽであった。
(本当にアイテムボックスだ。この中に紺のスーツやズボン、カッターシャツなどを入れることができるぞ。ラッキー)
ヒメジは紺のスーツやズボン、カッターシャツをたたむとアイテムボックスの中に入れた。その後、再びヒメジは壊れていない礼拝堂の長いすに横になり、濡れた布を頭に当てながら目をつぶるとすぐに寝入ってしまった。
奥の扉の鍵が開く音がする。そして扉が開くと神父がランタンを持って礼拝堂へ入ってきた。
「ヒメジさん、ヒメジさん。起きていますか? ・・・もう寝てしまったようだ」
神父はヒメジが寝ていることを確認すると、ヒメジの顔に光を当てて起こさないように気をつけて礼拝堂の中で何かを探している。やがて、神父が入ってきた扉から女性が礼拝堂へ入ってきた。
「本当にいいのでしょうか、こんなことをしても」
「シスター、彼がここに来たのは神のおぼしめしでしょう。私たちにきっと幸運をもたらしてくれる。しかし、欲しいものが見つからない。それに、眠ってしまっていては何も聞けませんね」
「こんなことをして、神が許してくださるでしょうか?」
「許してくださるでしょう。ヒメジさんには私たちの生活を助けてくれるものを持っています。一泊の宿泊を許した代わりにそれを譲ってもらうだけです」
「力ずくではないですよね」
「もちろんです。あくまでも話し合いで解決するつもりです」
「それでは、ヒメジさんは寝ていますので、また明日に出直しませんか」
「仕方が無いですね、そうしましょう。神よ、我々の行いを許し給え」
神父が十字を切った後、二人は奥の扉に向かって歩き始め、中に入ると扉を閉めて鍵をかけた。礼拝堂の中はヒメジのいびきだけが鳴り響いていた。
主人公の名前をヒメジにしました。これからヒメジがどのような冒険をするのか楽しみにしてください。それから、この作品に対して感想や評価をしていただいた皆さん本当にありがとうございます。大変励みになります。これからも感想や評価をどうぞ宜しくお願いします。




