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「あ、あそこにおじさんがいる」
少年は父親に言った。
「おじさんって誰だい」
「ヒメジさんと言って僕を助けてくれた人だよ」
「お前がお腹をすかせて市場でリンゴを盗んだときにお金を払ってくれた人かい?」
「そうだよ。それから、宿屋の食堂で肉料理のお腹いっぱい食べさせてくれたよ」
「それでは、ヒメジさんにその時のお礼を言わなくてはいけないね」
「うん、お父さんこっちに来て」
少年は父親の腕を引っ張るとヒメジの方へ連れて行った。王都の夕方の市場には多くの人が
往来していた。その中でたまたま少年はヒメジを見つけたのだ。
「お父さん早く歩いて。おじさんが行っちゃうよ」
少年は、父親をせかしながら次第にヒメジに近づいて行った。互いに三メートルほどになった時、ヒメジも少年と父親の姿を見つけた。
「少年、こんにちは」
歩いていたヒメジはその場で立ち止まって少年に挨拶をした。少年は父親を引っ張ってヒメジの前に連れてくると、
「おじさん、こんにちは。お父さんです」
父親をヒメジに紹介した。ヒメジは父親に軽く会釈をした後、にこやかな顔で少年に尋ねた。
「少年、お父さんに会えて良かったな。お母さんとも会えたのか?」
「うん、今家で夕食を作っているよ」
「そうか、両親とも会えて、私も一安心だ」
ヒメジは安堵した表情で言った。すると横から父親が、
「あなたがヒメジさんですか。私はこの子の父親です。お初にお目にかかります。息子が大変お世話になりました。ありがとうございます」
お辞儀をしてお礼を述べた。ヒメジがお父さんを見ると、ヒメジより年下の三十代後半の男性が立っていた。
「あなたが少年のお父さんですか。お子さんと会えて良かったですね」
「ええ、ヒメジさんのおかげです。あなたが助けてくれなければ、この子は冒険者ギルドへ行くことはなかったでしょうし、犯罪者として警備団に連れて行かれて施設に入っていたかも知れません。本当にありがとうございます」
「いいえ、この子は本当に強い子です。冒険者ギルドで、グリーングロウ団について落着いて話が出来たと聞いております。私がこの少年と同じ年頃の時はきっと泣いてわめいて上手に話が出来なかったでしょう」
「本当か?」
父親はヒメジから聞いた話を息子に確認した。
「うん、僕は泣かなかったよ。おじさんがご飯を食べさせてくれたし、リンゴももらったから不思議に落着いて、冒険者ギルドの方には落着いてお話をすることが出来たよ」
少年からそれを聞くと、父親はヒメジに向かって、
「重ね重ねありがとうございます。このお礼は、今は出来ませんが、いずれ必ずさせていただきます」
「お気になさらずに。私は当たり前のことをしただけです」
言いながら、ヒメジは少年と出会ったときに面倒なことに巻き込まれたと思ったことを恥ずかしく感じた。それを父親に言おうかと思ったが、父親と少年がお辞儀をして感謝の気持ちをヒメジに伝えているため、言いにくくてそのことは言わないでおこうと思った。そして、
(まあ、いいか。人間一つぐらい後ろめたいことがあってもいいじゃないか。その方が、人間らしい)
ヒメジは変な自己弁護をしていた。
「ところで、おじさんは今、何をしているの?」
少年がヒメジに話しかけてきた。
「今から呉服屋に行こうと思っているよ」
ヒメジは少年に向かって優しく微笑んで答えた。すると父親が、
「それならこの市場を真っ直ぐ進んで右に曲がったところに呉服屋があります。品数が多くて値段も手頃ですよ。私たちがよく利用している店です。もうそろそろ閉店する時間ですが、今から行けば間に合うと思います」
ヒメジに教えた。
「本当ですか、これは良いことを教えていただきました。ありがとうございます。善は急げ、今からその呉服屋に行きますので、少年、お父さんさようなら」
ヒメジはその場から立ち去った。
「おじさんさようなら」
少年は手を振りながら、ヒメジの背中に向かって言った。父親は黙ってお辞儀した。父親が顔を上げると、少年と一緒に国王から貸し与えられている家に帰り始めた。
「ヒメジさんに会えて良かったな」
「うん、お父さん、もう会えないと思ったから嬉しかった。お礼もちゃんと言えたし」
「そうだな。それにしても背が高くて年を取っている割には優しそうな人だな」
「そうだよ。会ったときから僕に優しくしてくれたもの」
「お前は随分ヒメジさんのことを気に入っているようだね」
「命の恩人だからね。また会えるかな」
「そうだね、また会えるといいな」
二人が話をしながら歩いていると、いつの間にか夕日が赤く町を照らすようになっていた。
ヒメジは少年の父親から聞いた呉服屋に向かった。
「こんばんは」
ヒメジが店の前で声をかけると、奥から店員が出てきた。
「もうおしまいですが」
「服を買いますから、ちょっとだけ待ってください」
店員が戸を閉めかけていたが、ヒメジは強引に入ると、体のサイズに合う服を選び始めた。
「何にしますか」
店員は不機嫌そうに言ったが、ヒメジは意に介することなく、
「着心地の良い服をください」
頼んだ。店員はまだ、憮然とした声で、
「それではこのあたりですね。色やデザインは?」
尋ねてきた。
「そうですね、色は地味で、デザインは派手ではないもので」
ヒメジは答えると、数ある服の中からいくつかの服を取りだして並べて見せた。
「それではこれらはいかがですか?」
店員が見せてくれた服は、ヒメジの考えていたぴったりの服であった。
「私の思っていたとおりの服です。これと、これと・・・この服をください」
ヒメジは七着選んで
「全部でおいくらですか?」
尋ねた。店員はヒメジがたくさん服を買ってくれたので笑顔になり、
「お買い上げありがとうございます。全部で銅貨三枚です」
答えた
(へえ~、思ったより高くないや)
ヒメジは代金を払うと服を受け取り、それらをカバンの中に入れた。
「それから、手や体を拭く布はありますか?」
「ええ、それならこれがいいですよ。軽くて吸水性があり、手触りもなめらかです」
ヒメジは店員から布を手にとって受け取ると、タオルであった。
「これを十枚ください」
「ありがとうございます。代金は大鉄貨五枚になります」
ヒメジは代金を払うとタオルを受け取った。店員はたくさん服や布を購入してもらったのでにこにこしていた。
「またのお越しをお待ちしています」
ヒメジは店員に店の外まで見送ってもらった。
夜になって宿屋に着くと、食堂で夕食をとってから井戸へ行き、新しく買ってきた服に着替えた。そして、今まで着ていた服を洗濯し始めた。一週間近くも着ているのだ。途中で何度かオール クリエーションで服を新品同様にしていたが、さすがに周りの目が気になる。
「また同じ服着ている」
「あの人は不潔」
「いい年をして服の着こなしもできないの」
言われているのではないかと、不安で、不安で仕方なかったのだ。上着だけでなく、下着も手でごしごし洗った。
「これで、汗臭い服が綺麗になるぞ」
そう言いながら、服の匂いを嗅ぐと洗っているにもかかわらず汗臭い。
「やっぱり、水洗いだけだから匂いがとれないや。どこかで石けんを手に入れよう」
そうつぶやいて洗濯した服を固く絞ると、
(汗臭い香水を作れ)
祈りながら
「オール クリエーション」
唱えた。ヒメジが洗濯した場所には汗臭い匂いの水たまりが出来たので、ヒメジは大量の水を流して匂いを薄めた後、部屋に戻った。そして、匂いが取れた洗濯物を手でポンポンと叩きながら広げて、いすや机の上に干し始めた。
(ハンガーあればいいな)
ヒメジはそう思ったが、オール クリエーションで作る材料がない。針金や木材があれば簡単に作れるのに残念だと思いながらヒメジは洗濯物を干し終えた。その直後、急にお腹に痛みを感じてきた。
「久しぶりにキタァ~」
ヒメジはお腹から排出するところに行った。下着を脱いでしゃがみ込むと茶色い物が一気に出始めた。
「ふう~。気持ちいい~」
しばらく出ていたが、小休止になると次が出るまで手持ち無沙汰になるので、ヒメジはネットを開いて東の町の情報を収集し始めた。
【東の町 フォース国で三番目に大きい町。小麦が栽培されている穀倉地帯で、フォース国では一番の収穫量を誇る。小麦を比較的安く仕入れることができる・・・】
(なるほど、東の町では西の町で購入した魚を販売して小麦を購入しよう)
ヒメジは頭の中で商売の皮算用を始めた。見ながら、小休止が終わると茶色い物は再びたくさん出始めた。そして出し尽くすとヒメジの体重は二キロ程痩せていた。




