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いつも愛読いただきありがとうございます。今回は西の町で起こった物語です。のんびり楽しく読んでください。

 五日目の朝は、自分の空腹の音でヒメジは起きた。

「ぐ~、ぐ~、ぐ~」

ヒメジはベッドから飛び起きると、窓の外を見た。まだ夜が明けておらず、暗闇と静けさが町を覆っていた。

(自分の空腹の音で起きたのは生まれてはじめてだ。それにしても、お腹空いたなあ~。お腹空いた。お腹空いた。もう朝まで我慢できない。お腹に何かを入れよう。しかし、こんな時間では食堂は開いていないからどうしよう。・・・そうだ、持ってきたパンと干し肉がある。それを食べよう)

ヒメジはすぐにカバンから昨日の昼食で残った食べ物を取り出して、口の中に入れていった。

「うまい、うまい。こんなにおいしい干し肉を食べたのは生まれて始めてだ。それにこのパン。柔らかくて口に入れると小麦の風味があふれ出ている。空腹で食べるとこんなにも食べ物がおいしくなるのだな」

あまりにも空腹だったので、右手にパン、左手に干し肉を持って交互にガツガツ食べた。そして、気がつくとカバンに入っていた食べ物はすべて食べてしまったが、まだ足りない。

「もうなくなっちゃった。でも、まだお腹がすいている。はあ~。もう少し食べたいなあ~。他に食べ物はなかったかなあ~・・・。ん! アイテムボックスの中にあった、あった」

パンと干し肉、バナナのような果物を見つけると、ヒメジは喜んでそれらを取り出した。

「よし、これも食べるぞ」

食べ始めると、一心不乱にむさぼり食っていたが、やがてお腹がふくれて、

「もう少しだけ食べよう」

から、

「だいぶん食べたな」

そして、

「もういっぱいになった」

最後に、

「もう食べられない」

と食べる速度が緩やかになった。やがて満腹状態になったヒメジは机にある食べ物を見ながら

「お腹いっぱいになった~。もう食べられないや~。残った分はアイテムボックスに入れておこう」

干し肉二枚と、バナナのような果物を三本アイテムボックスに入れた。やがて、食べ過ぎてお腹が苦しくなってきたので、ベルトをゆるめて、ベッドで横になった。

「食べ過ぎた~。若い頃はこのぐらい食べても平気だったのに、この年になると胃が小さくなって思うように食べられない。はあ~、調子に乗って食べ過ぎた~。あ~あ、お腹が重たくてくるしい」

ヒメジはベッドで横向きながらじっとして動かずに過ごした。しばらく横になっていると、お腹の重たさが改善されたので、ヒメジは仰向けになった。天井を見つめていると、

(今日は午前中に依頼を済ませたらどうしよう。そういえば、西の町は漁業の町だと聞いたので海へ行ってみよう。向こうの世界では都会育ちだったから久しぶりに潮風にあったってみたい。それから市場にも行ってこの町の産物を手に入れようかな。旅をしたときに、他の国で高く売れるかもしれないし。そうだ、そのために懐の巾着袋に少し金貨と銀貨を入れておこう・・・)

考えているうちにいつの間にか眠ってしまった。


 ヒメジは再び目を覚ましたのは夜が明けて、日が少し高くなってからであった。ヒメジは慌てて起きると宿屋を出て、頼まれていた薬屋に行った。

「おはようございます」

「いらっしゃい」

出てきたのは厳つい顔の男で、王都の薬屋と顔がうり二つだった。

「あの~、薬屋の店主から頼まれて手紙持ってきました」

「おう、ありがとうよ」

ヒメジは手紙を店主に渡すと、店主はそれをすぐに読み始めた。読みながら、

「兄貴の奴め」

ぼやいた後、読み終えてからヒメジに、

「これを、お前さんに手紙を渡した薬屋に渡してくれ」

薬包に入った薬が百個ほどぎっしり詰まった箱を渡した。

「え? 王都に持って行くのですか?」

「そうだがどうした?」

「いや、何も聞いていなかったものですから」

「あ、は、は、は。兄貴らしいや。何でも、町で病気がはやっているから必要なのだと。人助けだと思って持って行ってもらいたい」

「わかりました。人助けなら仕方ないですけど、人を小間使いのように扱わないで欲しいですね」

ヒメジはぼやいた。薬屋の店主は、

「駄賃だ、これを持って行け」

薬草の本をヒメジに渡した。ヒメジは欲しいとは思わなかったが、厳つい顔の店主に断る勇気が無いため受け取った。

「ありがとうございます」

「それじゃあ宜しく頼むぞ」

「分かりました。でも、今日すぐには持って行きませんよ」

「ああ、いいぜ。こちらも無理に頼んでいるからな。いつ持って行くかは任せるよ」

「承知しました」

「ところで、お前さんは上等のハイポーションを作れるそうだな。手紙に書いてあったぞ」

「ええ、たまたま作れただけですが」

「それなら上等のハイポーションを十八リットルの薬瓶一本ほど譲ってくれないか?」

「構いませんよ」

ヒメジはカバンに手を突っ込むと、カバンの中にあるアイテムボックスから十八リットルの薬瓶に入った上等のハイポーションを取りだして店主に渡した。

「おお、久しぶりに見るが、間違いなく上等のハイポーションだ。王都と同じ値段だが金貨四枚と大銀貨五枚でいいか」

「ええ、それで構いません」

「それじゃこれな」

ヒメジに店主は代金を払った。代金を受け取ったヒメジは、懐にある巾着袋に貨幣を入れた。

「お前さん、他に何が作れる?」

店主が尋ねてきたので、ヒメジは

「薬草があれば、何でも作れますよ」

答えた。

「それはいいことを聞かせてもらった。薬草と薬瓶の看板のある薬屋に上級の薬を作ったときには優先的に卸してくれよ」

(多少人相は厳ついが、悪い人たちと違うようだから承知しよう)

「まかせてください」

「今は上等のハイポーション以外の何か薬持っているか?」

「ありますよ。上等のハイポイズンポーションですがいいですか?」

「へえ、見せてもらってもいいかい?」

「構いませんよ」

そう言って、ヒメジは再びカバンに手を突っ込むと、カバンの中にあるアイテムボックスから十八リットルの薬瓶に入った上等のハイポイズンポーションを取りだして店主に渡した。

「ほお、これは立派な紫色をしている。よし買った。上等のハイポーションと同じ金貨四枚と大銀貨五枚でいいか?」

「ええ、それでお願いします」

「よし決まり」

薬屋の店主は再び代金をヒメジに渡した。ヒメジはそれを懐の巾着袋に入れると、そろそろ店から出たかったので、

「それでは失礼します」

店主に声をかけた。

「おう、また来いよ」

店主は言ったので、ヒメジは店を出た。


 店を出た後、本当は薬を必要としている人がいるのですぐに王都へ持って行くべきなのだが、せっかく西の町に来たので見聞を広げたいと思ったヒメジは、王都に向かうことを一日延ばして、予定通り海に向かった。西の町の西門を出て三十分ほど歩くと砂浜に着いた。潮風が吹いていたので大変気持ちが良い。

「間違いなく海の匂いがする」

砂浜はゴミがなくすべてが砂で覆われている。砂に足を取られながらも波打ち際まで歩いてきたヒメジは海を見渡した。

「いい気持ちだ」

両手を挙げて大きく深呼吸をした。そして、百八十度水平線を見渡しあと、ヒメジは足下を見た。海水が足下のすぐそばまで来ている。数回波が寄せては引く様子を見ていたヒメジは、急に両手を海水面にかざし、

「オール クリエーション」 

唱えた。すると両手をかざしたところが光ったかと思うと、塩の大きな塊が目の前に現れた。ヒメジは両手でそれを持ち上げてアイテムボックスに入れると、再び両手を海水面にかざし、

「オール クリエーション」

唱え、塩の塊を作ってはアイテムボックスに入れることを十数回行った。

(へ、へ、へ、これで塩を商品として販売できるぞ)

十数分前までは観光気分できていたヒメジではあるが、いつの間にか、商売人へと気持ちが変わった。もう一度オール クリエーションを行おうと両手を海水面にかざした時、水面上にでた突起物がこちらに向かってやってくるのが見えた。

「まずいぞ、サメだ」

ヒメジは慌てて逃げた。音も立てずに、ものすごいスピードでヒメジのところまでやってくると、サメは大きな口を開けてヒメジを食べようとした。ヒメジは海から離れるように、

「えい!」

思いっきりジャンプした。そのとき偶然にヒメジの右足裏とサメの鼻先が当たり、ヒメジは強くサメに押されて、

「わあ~」

言う間に一メートルほど飛ばされた。一方、ヒメジを食べ損ねたサメは陸地にいったんあがると、尾ひれと、胸びれを器用に使い百八十度回転して海に体を向けた。そして、体をうねうねと動かしながら海に帰っていった。ヒメジはしばらくの間、腰を抜かして動けなかったが、我に返ると、

「欲張った罰だ。神様が私に必要以上に塩を取るなとの警告だ。怖かったよ~」

などとサメに襲われたことを神様のせいにして、海岸から走って西の町の西門まで戻った。


いかがでしたでしょうか。西の町での物語はまだ続きます。楽しみにしてください。

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