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いつも愛読いただきありがとうございます。いよいよ旅が始まります。短い旅ですが楽しんで読んでください。

 四日目の朝は日が昇ってからヒメジは目が覚めた。起きるとすぐにカバンを肩にかけ、一階に降りていった。宿屋の亭主に鍵を渡し、井戸で水袋に水を満タンしてヒメジは西の門に向かった。しばらく歩くと西の門に着いた、いよいよ、異世界に来て初めての旅路である。ヒメジは大きく深呼吸をした。そして、

「さあ、出発だ」

大きな声を上げた。王都の西の門を出ると草原が広がり、その中に道が通っている。爽やかな風が吹いて、ヒメジの門出を祝福しているかのようであった。ヒメジは早速鑑定の能力を使って道沿いに薬草の採取を始めた。

「ここに、ゴレン草がある」

喜んで採取をしたり、

「あそこには、イチレン草が群生している」

驚いて採取をしたりして、ヒメジはまるで遠足で歩きながら道沿いで新しい物を発見し、それに気を取られて時間をつぶしてなかなか前に進まない小学生のようであった。それでも、午前中で、イチレン草二十四本、二レン草十九本、サンレン草十八本、ヨレン草二十一本、ゴレン草十六本を採取して西の町までの道中の半分程歩いた。

「ふう~。少し疲れた。あの木陰で休憩しよう」

そう言ってヒメジは草原の中の道のすぐ脇に生えている樹木の下に入った。樹木の葉から僅かであるが冷気が出て、日光の当たっている場所より温度が僅かだけ低い。ひめじはそこで座ってパンと干し肉とバナナのような果物をカバンから取り出して食べ始めた。パンをちぎって口にほおりこんだ。

「うま~い。外で食べる食事はどうしていつもこんなにおいしいのだろう」

そうつぶやきながら、ヒメジはあっという間に用意した分をむしゃむしゃと半分ほど食べてしまった。

(そういえば、宿屋の亭主が昨日、日頃の行いが悪い人には盗賊が現れるかも知れないと言っていたな。でも私はそれには当てはまらないので出てくることはないだろう。それより、あ! 食べることで気を取られていたが、こんな所にゴレン草の群集がある)

ヒメジは座っているすぐ後ろにあるゴレン草を採取し始めた。やがて、ゴレン草を全部採取して、痛くなった腰を叩くためにその場で立ち上がった時に、ヒメジは数人の男に取り囲まれている気配を感じた。

「だれだ?」

ヒメジは取り終えたゴレン草をカバンに入れながら叫んだ。すると手に剣を持った男が五人、ヒメジを取り囲んで近づいてきた。

「おいそこのお前、命が欲しければ、金を出せ」

厳つい顔の頭のはげた男が言った。

(あれ~? よい子は盗賊に襲われないはずだよ。私はそんなに悪いことしていたかな? 拾ったお金は必ず警察に届けているし、自転車で走行する時はハンドサインを出して曲がっているし、悪いことしたと言えば、カラスが巣作りのために針金のハンガーを取っていった時に、『ドロボウガラスの馬鹿野郎』と叫んだことがあるぐらいかな)

ヒメジは頭ではいろいろ考えていたが、体は恐怖で動かなかった。

「早く金をよこせ。命がいらないのか」

再び頭のはげた男が低い大きな声でヒメジを威嚇しながら言った。

(え! こわいよ~)

ヒメジはがくがく震えながら、

「た、助けてください。お、お金はここにありますから」

言って、懐にあった巾着袋を取り出し、右手を巾着袋の中に入れて貨幣を握りしめると、辺り一面にばらまいた。盗賊は、一斉に草むらに落ちた貨幣を拾い始めた。それを見たヒメジは、チャンスとばかり一目散に西の町の方へ向かって逃げた。火事場のくそ力というのであろうか五十代にしては素早くスタートを切ることが出来たので、盗賊の間をすり抜けて包囲網から離脱することが出来た。

(よし、このまま走って立ち去るぞ)

ヒメジは足を懸命に動かして必死で逃げた。普段、運動をしていないので足が絡まってなかなか思うように走れない。気持ちは先に進んでいるはずなのに、体は百メートル後ろを走っている感覚である。

(神様、女神様これから運動を毎日しますので、どうかお助けください)

心で祈りながら夢中で足を動かした。後ろからは二名の男が追いかけてきた。おそらく残りの三名が貨幣を拾っているのだろう。二名の男が、

「待てー」

叫ぶが、

(待たないよ~)

ヒメジは逃げながらどこか隠れる場所がないか探していた。相手はヒメジより若いため足が速い。いつかは追いつかれてしまう。西の町に近づくにつれて道の両側に野草が高く茂ってきた。ヒメジがふと気がついたときには人の背丈まで野草が伸びていた。

(こんな草が高くなってくると、どこかに隠れることができるかも)

ヒメジは逃げながら隠れる場所を探した。そして、逃げていると右に曲がったすぐのところに小さな橋があった。ヒメジはとっさに小さな橋から飛び降りて橋桁の下に隠れた。飛び降りたところは橋の端でちょうど地面だったので水音は立たずにすんだ。追いかけてきた音達とは少し距離があるので、橋の下に飛び降りたところは野草に隠れて見えていないはず。ヒメジは橋の下でじっとうずくまっていた。やがて、追いかけてきた二人の男が橋の所まで来るとヒメジを見失っていた。

「ちきしょう。あの、おっさんどこへ行った? 若くないからそれほど遠くには行っていないぞ」

「そうだな。きっとその辺に隠れているに違いない」

男達は草むらに入ったり川を覗いたりしてヒメジを五分ほど探した。

「いないな。どこへ隠れていやがるのだ」

「橋の下にいるのじゃないかな」

声がした時、ヒメジは

(しまった、見つかる)

思いながら橋の隅にある橋桁と地面の僅かの隙間にぶるぶる震えながら身を潜めた。幸いなことに、しばらく二人は橋の上から下をのぞき込んで探したがヒメジを見つけられなかった。

「もういいじゃないか。戻って分け前をもらいに行こうぜ」

「三人に分け前を多めに取られちゃいやだしな。おっさんには逃げられたことにしようぜ」

「そうしようぜ、さあ戻ろう」

二人は三名が貨幣を拾っている場所へ戻っていった。ヒメジは三十分ほど橋桁の下に隠れていたが、人の気配がしなくなったので橋桁の上に顔を出してあたりを見渡した。

「誰もいないようだ。良かった~。死ぬかと思った」

ヒメジは橋の上に出て急いで西の町に向かって歩き始めた。歩きながら懐の巾着袋を取り出し中身を確認したが、鉄貨一枚だけ入っていた。

「随分お金をばらまいたな。まあ、いいか。命は助かったし。とりあえず鑑定で周りを確認しながら進んでいこう」

ヒメジは鑑定の能力を使い野盗やオオカミ、魔獣がいないか確認しながらゆっくりと慎重に歩いていた。道ばたにゴレン草が生えていてもそれを無視して、前方をずっと見通して危険な動物がいないか確認していた。しばらく歩いていると、太陽が厚い雲に覆われて辺りが暗くなった。視界が悪くなってきたので、ヒメジはさらに気持ちを引き締めて慎重に歩いていると、枝に留まっていたカラスが、

「カア~、カア~」

鳴きながらヒメジの前を通り過ぎた。黒い物体が急に飛び込んできたので、ヒメジはまるで死に神に襲われたのかと思われるほどびっくりして、その場で尻餅をついて腰を抜かした。そして、両手を頭でクロスして身を守るポーズをしながら、そっと驚かせた方を見た。するとカラスが、

「アホ~、アホ~」

言いながら飛んで行くのが見えた。

「なんだ、カラスか。驚かすなよ。それより、アホ、アホと言う方がアホなんだぞ。このアホガラス~」

そうカラスに向かって言いながら、

「ほう~」

大きく息を吐いて安心した顔になった。しかし、なかなか立ち上がれることが出来ず、抜かした腰が動くまでしばらくその場で固まっていた。なんとか動くようになると、ヒメジはゆっくりと立ち上がり以前より増して慎重に先に進んだ。林の中にある道を歩いている時は、瞬間的に風が強く吹いて木々はざわざわと動くと、ヒメジは

「ヒエ~。なんだ、なんだ。何か動物が動いているのか」

びびっていた。しばらくその場で、ダガーを持ち、へっぴり腰の攻撃態勢で構えていた。

「だれだ、出てこい」

そう言いながら鑑定の能力を使って回りを確認したが、何も表示されない。五分ほど過ぎても何も起こらなかったので、ダガーをカバンの中にしまって先に進んだ。こうして、幸いにも危険なものに出会わなかったが、夕方に西の町まで着いたときには再び襲われないかという緊張と鑑定の使いすぎで、ヒメジは疲労困憊になっていた。宿屋に入りベッドへ倒れ込むとすぐに眠ってしまった。


いかがでしたでしょうか。西の町でもいろいろな出来事が起こります。楽しみにしてください。

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