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天使の泉から平坦な山道を五分ほど歩いたところでダイアウルフは立ち止まった。
「ここだ、ここにグリフォン様がいらっしゃる」
ダイアウルフが見ている方向を見ても誰もいない。
「どこにグリフォンがいるのだ」
ザインはダイアウルフに尋ねたが、彼は、返事をせずに上を向いた。すると、空からグリフォンが降りてきた。ダイアウルフは急にその場でしゃがんで頭を垂れた。やがて、グリフォンが地面に立つと話し始めた。
「人間よ、今から三つ目の試練を与える。おそらくこれが一番困難な試練であろう」
「どのような試練ですか」
ザインは尋ねた。
「今から勇気と知恵と信念の門に一人ずつ入ってもらう。そして門から再び三人とも出てこられたら試練はクリアとなる」
「勇気と知恵と信念の門とは何ですか?」
「それは、あの三本の木を見よ」
グリフォスが向いた顔の先には三本の木が並んでおり、その幹には扉があった。
「右から勇気の扉、知恵の扉、信念の扉となっている」
「二つ質問してもいいですか」
「何だ?」
「一つ目は、中に何があるのですか?」
「それは言えない。各自が中に入って確かめたらいいだろう」
「では、二つ目ですが、もし、門から出てくることとおっしゃいましたが、出てこられなかったら一生閉じ込められるのでしょうか」
「そう思ってくれてよい。質問はもういいか」
ザインは頷いた。
「では、人間よ。今から試練に挑戦しろ」
「ヒメジ、ザイン、どうする。だれがどこの門に入る?」
「この中で一番勇気があるのはオニヨンさんですよね。だから勇気の門はオニヨンさんにお願いします」
「ザイン、いいこと言うじゃないか。その通りだ。それじゃあ遠慮しないで入らせてもらうぞ」
オニヨンは勇気の門の扉を開けると中に入っていった。
「ザインさん、あなたは知恵と信念どちらに入りますか?」
「そうですね。私は、ここまで好きな女性と結婚するために頑張ってきました。その信念だけは誰にも負けません。だから、信念の門に入らせてもらいます」
「分かりました。ザインさん頑張ってください」
「ありがとう。ところで、ヒメジさんは知恵の門でいいですか?」
「はい、私は勇気も信念も無いですから、丁度知恵の門で良かったです。まあ、知恵比べでしたら年の功でなんとかなるでしょう」
「わかりました。それならお互い頑張りましょう」
二人は右手でタッチして、ザインは信念の門の扉を、ヒメジは知恵の門の扉を開けて中に入っていった。
オニヨンが中に入ると、中は大きな洞窟になっており、松明はないものの、月夜程度の明るさがあった。空気はよどんでいるが、冷たくはない。オニヨンがしばらく洞窟の中を進んでいくと、人の背丈の五倍はある大きな鉄の門が見えてきた。
「なんだあの門は。でかいな~」
オニヨンが門に十メートル手前まで近づいていくと、
「ギイイイイ」
音を鳴らしながら、大きな鉄の扉が手前に開いた。オニヨンは、賢者の剣に手をかけて用心した。
「ドスン、ドスン」
何か大きな生き物が奥から門に向かって来る足音がする。地面もその足音と共に少し揺れていた。
「何か、得体の知れない大きなモンスターがやってくる」
オニヨンは賢者の剣を鞘から抜いて戦闘の準備を行った。
「ドスン、ドスン」
門に近づいてくるにつれ、足音が大きくなり、地面も大きく揺れるようになった。
「いよいよ来る」
そう、感じたオニヨンは、賢者の剣で中段の構えをとりながら、ファイアーボールの魔法の詠唱をはじめた。
「ドスン、ドスン、ドスン、ドスン」
足音が大きくなり、やがて門から大きな犬の顔が現れた。
「ファイアーボール」
オニヨンは魔法を発射した後、大きなモンスターに向かって走った。ファイアーボールは門から顔を出したモンスターに当たり爆発した。しかし、そのモンスターは、顔をぶるぶると振ると何事もなかったように当たりを見回した。そして、更に、
「ドスン、ドスン」
歩くと、別の大きな犬の顔が現れた。
「まずい、モンスターが二匹いるのか……」
しかし、オニヨンが驚く間もなく、モンスターが歩いて門から出てくると、更に三頭目の犬の顔が現れた。
「三匹いるのか。厄介だ」
そして、モンスターがもう一歩動いて門から胴体を見せた時に、オニヨンはそれを見てつぶやいた。
「ケルベロス 地獄の門番」
ヒメジが門を入ると中は、砂漠であった。空は炎天下で、空気も熱風である。ヒメジは砂に足を取られながら一歩一歩歩いていると、履いている左靴の紐が、ぷつりと切れた。それを見てヒメジは不吉な予感がした。
「オニヨンさん、大丈夫かな」
ケルベロスの三つの頭は、オニヨンに向かって、口から火を吐いて攻撃した。右側の頭の火炎を右にジャンプして回避すると、そこに真ん中の頭が火炎を放ってくる。それを今度は左にジャンプして躱すと左側の頭から火炎が放たれる。その火炎を後ろにジャンプしてかわしながら、ケルベロスに攻撃する隙をうかがっているが、三つの頭の火炎のコンビネーションが良くて近づくことさえ出来ない。
「この火炎をなんとかしなければ、ケルベロスに勝てない」
オニヨンは、アイテムボックスより投擲用ナイフを三つ取り出すと、右の頭にそれを投げた。三つの投擲用ナイフは一直線にケルベロスの右の頭に飛んでいったが、二本は外れてしまった。そして一本は顔に当たりそうになった時に、投擲用ナイフを口で噛んで防いだ。そして、右側の頭はそれをかみ砕いてしまった。ヒメジがいればきっと、『怖い~』言いながら逃げ出してしまうであろうが、オニヨンは『にこ』っと笑うと、素早い動きでケルベロスの右側の頭に近づいた。真ん中の頭が先に、左側の頭はその後でオニヨンに向かって火炎を放ったが、どちらもオニヨンが動いたその後の空間を燃やしただけであった。
「これで、一匹目」
オニヨンは右側の頭のすぐ下側からジャンプして賢者の剣を下から上に振った。
「クウ~」
右側の頭は唸りながら首から地面に落ちた。高く上がったオニヨンであったが、その瞬間、胴体から毒蛇が飛んできた。
「シュ、シュ、シュ、シュ」
無数の毒蛇がオニヨンの体に噛みついた。
「痛い」
オニヨンはバランスを崩れて背中から落ちた。その拍子に、多くの毒蛇がオニヨンから離れた。しかし、追い打ちをかけるように真ん中の頭が地面にいるオニヨンに向かって火炎を放った。
「くそ」
オニヨンは素早く立ち上がると、すぐにケルベロスから距離をとった。火炎が届かない距離まで一旦離れると、オニヨンの全身に激痛が走った。
「ウァァァァ」
何匹かまだオニヨンを噛んでいる毒蛇がいる。そして、ケルベロスがオニヨンに近づいてくる。オニヨンは再び走ってケルベロスとの距離をとりながら、全身に噛みついている全ての毒蛇の胴体を剣で斬った。やがて、全ての毒蛇を取り終えたオニヨンは、アイテムボックスから、ヒメジがくれた万能薬を取り出したが、そこで力尽きて薬を持ったまま倒れてしまった。




