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昨日の続きです。読者の皆様にはいつも目を通していただきありがとうございます。後半をゆっくり楽しんで読んでください。
二時間ほど道を歩いた後、急な山の斜面を男は登り始めた。女性はそれについて行った。五分ほど登ったところで、人間の背丈ほど伸びている草の中を男は歩き始めた。女性は男のすぐ後を歩いていた。一時間ほど歩いたところで、急に前方が開けて山の麓に洞窟が見えた。
「私が見つけたダンジョンです。何が出るかは分かりませんが、未踏のダンジョンなのでお宝が山のようにありますよ」
男は自慢げに言ったが、女性は少し緊張して男の自慢している声が耳に入ってこなかった。
二人は洞窟の入り口まで歩くと、男が、
「さあ、中に入りますよ、準備はいいですか? 鬼が出るか蛇が出るか、それとも金銀財宝が出るか楽しみです」
子どものようにはしゃぎながら言った。女性は、男があまりにも砕けた話し方をしたのでクスクス笑った。男は、少し女性の近況がほぐれたと思い、松明に火を灯して中に入っていった。女性もその後についていった。やがて、前方から松明の明かりを灯したモンスターが二人の前にやってきた。近づくまでは何がきているのか分からなかったが、互いの距離が二メートルほどになると五匹のゴブリンであると分かった。松明を持ったまま男は剣を抜くと、すぐにゴブリンに斬りかかった、男の剣はゴブリンが攻撃する暇を与えずに次々とゴブリンの体を貫いていく。最後の一体の胸を剣で貫いて剣を鞘に収めると、女性は両手をぱちぱちと叩いた。
「お見事ですわ。ずいぶんの手練れですわね」
男は頭をかきながら、
「それほどでもありませんよ」
返事をしたが、顔を真っ赤にした。人に褒められたことがあまりないからではあるが、女性からは暗くて、男が真っ赤にしている表情を見ることは出来なかった。男は照れ隠しで、
「さあ、先へ進みましょう」
そう言って、ダンジョンを歩き始めた。女性も、
「はい」
短く答えて男の後を進んでいった。
いくつかの戦闘をこなし、いくつかの階段を降りると大きな空間が広がる場所に出た。そこで男はただならぬ気配を感じた。
「何か、危ないものが潜んでいます。気をつけてください」
男は女性に声をかけた。女性もただならぬ気配を感じているので緊張して体を硬直させていた。そのため、男の声かけにはひと言、
「はい」
だけ答えた。二人は五分ほどその場で様子をうかがっていると、奥の方からドン、ドン、ドン、ドンと大きな生き物が歩いてくる足音が聞こえる。そして、大きな生き物が近づいてくるとガオーと叫んだ。二人はその声を聞くと萎縮して体が動かなくなった。
「これはまずいドラゴンの咆哮だ」
男がつぶやいた。それを聞いた女性が勇気を与える魔法を唱えた。
「ありがとう」
「いいえ、気にしないで。それより、近づいてきている魔物はドラゴンなのね」
「そうみたいだ。俺が、攻撃をするから、援護してくれ」
男は剣を鞘から抜くと松明を持ったままドラゴンへ斬りかかっていった。女性は、四つん這いのドラゴンに向かって走っている男に筋力強化の魔法をかけた。魔法をかけられた男は、ジャンプをしてドラゴンの首筋に剣を突き刺したが、ドラゴンの堅い鱗のためにはじき返された。背中から落ちていったが、地面に落ちる直前に一回転して足から着地した。そしてすぐに、男はドラゴンの足に剣を振るった。しかしこれも固い鱗によってはじき返された。ドラゴンは足元にいる男に向かって口から火炎を吐いた。男は左に走りながらそれを避けた。このように男とドラゴンは二十分ほど戦ったがどちらとも致命傷を与えることは出来なかった。ただ、次第に男の体力が失われていった。女性は、時々男に回復の魔法をかけて体力を回復させていったが、それでも男は肩で息をするようになっていった。暗闇の中で、男が持つ松明を目で追うことしか出来ない女性は暗闇で戦闘がどのようになっているのか分からなかった。ただ、男が不利な状況になりつつあるのが男の息づかいで察知していた。更に十分ほど男とドラゴンが戦った後で、ドラゴンが大きな声を上げた。咆哮ではなく鳴き声に近かった。どうやら、男の剣がドラゴンの目に刺さっているようであった。そして男は刺さっている剣を持ってファイアーボールの魔法を唱えて、ドラゴンの目を攻撃した。剣を通って魔法がドラゴンに当たるとドラゴンが首を振り回してもだえ苦しんだ。あまりにもドラゴンが暴れるので、男は剣から手を離してしまい、全身を強く地面にたたきつけてしまった。その拍子に男は松明を離してしまい、女性は男を見失って、男に回復の魔法をかけることができなくなった。ドラゴンは相変わらずもだえていたがやがて、目を攻撃したファイアーボールが致命傷となったようで、ドラゴンはその場にうずくまり動かなくなった。そして、輝きだしたかと思うとすぐに消えて、小さなリングが地面に現れた。女性は走って光り輝いているリングをとりに行った。右手でリングをつかむと光っていたリングの光が消えて、ただのリングになった。女性はリングを左ズボンのポケットに入れると、男を捜した。そして、地面に倒れている男を見つけた。女性はすぐに男に回復魔法をかけたが、男は地面に落ちたときに強く体を打ったため全身の骨だけでなく内臓も傷ついて手の施しようがなかった。女性は治癒魔法をかけながら、
「頑張って。今、助けているから。もうじき良くなりますよ」
男に声をかけたが、
「もう、だめだろう。リングはもらってくれ。おそらく、プロテクトリングだろう」
息も絶え絶えに男は言った。女性は、
「生きて。強力な回復魔法をかけているから、死なないで」
涙声で言ったが、男は目を閉じて息を引き取った。女性はその場でしばらく泣いていたが、気を取り直すと、男の髪の毛を剣で斬り、死体はそのまま置いて元来た道を歩いて帰った。女の力では屈強であった男の死体を運べることは出来ないため形見として髪の毛だけを持ち帰ることにしたのだ。女性は帰り道でも戦闘になったはずではあるがどこをどうして帰ったのか記憶になかった。ただ、気がつくと男の剣を持ったまま教会の礼拝堂まで帰っていた。リングはいつの間にか女性の左手の薬指にはまっていた。
「あなたが助けてくれていたのね」
女性はリングを指から外して両手でしっかりと握りしめながら大粒の涙を流して泣いていた。やがて泣きやむと、両手を広げてプロテクトリングを見た。リングの表面はシルバー色で輝いていたが、指をはめる裏面には何か文字が彫られていた。女性はその文字が魔法文字であることはすぐに分かった。女性が魔法を使えることから、子ども時に魔法学校へ行って学んだからだ。女性はリングの裏に書かれている文字を読んだ。
「エ オ へ」
女性はリングを見ながら驚いた。
「『エオへ』は防御という意味。つまりこのリングはプロテクトリングだわ」
女性は、持っていたリングを左手の薬指にはめて、台所にあるナイフで自分の首をさした。しかし、何度ナイフを首に突き刺しても、ナイフははじき返されて女性に傷一つつけることはなかった。
「やはり、このリングはプロテクトリングで間違いない。あの人は命がけでこのリングを私に与えてくれた。これは大切に使わせていただくわ」
女性は、人生を全うするまでプロテクトリングを指にはめていた。
「という話さ。このリングを我が家では代々大切にしてきたが、使っているうちに裏面に彫られている魔法の文字がなぜかすり消えていき、今では消えてしまった。おそらくリングにかけられている魔法の力が消えたのだろう。私はそのリングを修理することは出来ないからもう使い道がない。ただ、五十代でやせ型の男の人が夜に教会を訪ねてきたことはヒメジさんと同じだなと思ってね。ひょっとすると、ヒメジさんがその男の生まれ変わりかもしれない。だから、私たちに手をさしのべてくれたヒメジさんが命を落とすことがないように守って欲しいと思い、女性を守った指輪をお守り代わりに渡したのさ」
「そうでしたか。それでヒメジさんに・・・。分かりました」
シスターは神父の話を聞いて納得すると、すぐに台所に下がった。神父は、
「これで良かったのさ」
つぶやいて礼拝堂へ向かった。
感想はいかがですか? 「男を殺した作者は最低」でしょうか。最初はハッピーエンドを考えていたのですが、思ったほどドラゴンが強くしすぎて相打ちになってしまいました。ただ、いいわけ作者のいいわけですが主人公を殺していないので許してください。




