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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第五話 その二人の婚約を彼らは知りたくなかった
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その嵐の前の静けさを、彼らは知らない

「ただいまぁ、父さん、母さん!」


 一つの木で出来た民家に、エンリカは無遠慮に入って行く。

 丁度ダイニングルームでゆったりしていた御両親は、それに気付いて軽く驚いていた。

 まぁ、社会見学に外界言ってきますとか出て行った娘が連絡一つなく帰って来たのだから驚くだろう。

 しかし、二人にとっては驚きではあったが嬉しいサプライズだった。


 若い綺麗な顔の男と女。

 エンリカと比べても殆ど変わらない。

 むしろ同年代と言われてもしっくり来る整った顔。


 そんな父親はエンリカの急な帰郷に顔をほころばせて立ち上がると、我が子を抱きしめる。

 なんだろう、父と娘なのに普通に同年代の男女が抱き合ってるようにしか見えない。

 それをあらあらと少し困ったように笑うエンリカの母。


 溺愛ぶりを見せつけながら、エンリカの父がエンリカの頭を撫でて行く。

 うっわぁ。男共に見せつけるように、この娘はやらんぞみたいな威嚇しだしたぞこの親父さん。

 オークであるバズ・オークやクーフを見て多少顔を顰めたモノの、エンリカを愛情持って撫でまわすと、両肩を持って身体を離す。


「少し見ない間に綺麗になったんじゃないか。今日はどうしたエンリカ?」


「う、うん。そのちょっとその……」


「こちらの皆さんはエンリカの知り合いなの?」


 口ごもるエンリカに、今直ぐに話しづらいことなのだと察した母親がカインたちに目を向けて話を逸らす。

 出来る母親です。

 気付いていない父親はカインたちを一度見回しエンリカから離れた。


「そういえば、彼らは?」


「あ、そうだよね。紹介するよ父さん、母さん。今お世話になってるえっと……アルセ姫護衛騎士団っていうパーティーの皆だよ。私の冒険仲間なの」


「ほぅ、それはそれは、娘がお世話になっているようで。初めましてリカード・エル・ぱにゃぱです。手のかかる娘ですが今後ともよろしくお願いします」


 エンリカ父、リカードさんが丁寧に言って軽い会釈をする。


「こちらは妻のルイーズ」


 紹介された母親のルイーズさんが会釈をして来たので、カインたちも会釈で返す。

 そしてカインたちによる自己紹介。

 エンリカが紹介しながら、一言ずつ初めましてと告げる面々。

 今回はバズ・オークの紹介は名前だけにしたようだ。


「ルイーズ、折角だ、今日は腕を振るってくれ」


「ええ。秘蔵のエルフ酒を出しますわね」


 リカードさんもルイーズさんも嬉しげに動きだす。

 エンリカの冒険譚を聞きたいのだろう。少し早いが食事を始めるとか言いだした。

 まぁ僕らもお腹は減っていたから問題はない。


 ご両親との初対面はどうやら友好的に終われたらしい。

 けれど、これが嵐の前の静けさだと、彼らは気付いていない。

 そう、吹き荒れる嵐が大きい程に、その直前の海は穏やかに不穏な空気を漂わせるのだ。


 ちなみに、プリカは外でエンリカの娘とアニア相手に遊んでいる。

 アニアを相手にしても嫌悪を抱かないのは幸福病のせいだろうか?

 おそらくエルフ達の中では唯一妖精を嫌悪していない人なのだろう。

 出来るなら命中補正治してあげたいけど、やり方わからないしな。頑張ってくれとしかいえない。


「しかし、君たちの武器はあれだな。だいぶ壊れているね」


「あ、そういえばメンテナンスも買い替えもしてなかったな。ゴブリン討伐から殆ど変えてなかった」


「バズ・オークのアルセソード折れてたわよね。代わりの剣買わないと」


 リカードさんに言われてカインたちは改めて自分たちの武器を見る。


「ふむ。丁度用意の時間があるし、エルフの武器で良ければ見に行ってみたまえ。エンリカ、プリカの家に案内してあげなさい」


「はい。じゃあ、ちょっと行ってくるね父さん、母さん」


 僕らはエンリカの案内のもと、一度武器屋に向う事にした。

 というか、プリカの家が武器屋だったのか。

 外に出るとプリカがアニアの羽を持って豚娘に何かを教えていた。


「でねぇ。この羽ってちょっと力を加えただけで簡単に千切れちゃうの。力を入れ過ぎると価値が無くなっちゃうから付け根部分から慎重に力を入れて引き抜く感じで……」


「やめてぇ。お願いだから毟らないでぇ。妖精の羽は一度毟ると生えて来ないんだよっ。髪や歯とは訳が違うんだよぉっ。誰かたっけてぇっ」


 アニア、何気に人生の危機らしい。

 楽しげにプリカが妖精の羽を毟ろうとしていた。

 それに気付いたネフティアがだっと駆け寄ると、プリカにチョップ。


 頭に突然来た攻撃にあいたっ。と呻く彼女からアニアをひったくったネフティアは、羽を傷付けないようにむんずと掴むと、再び空へ向ってアニアを掲げた。

 妖精、捕ったどぉ。とそんな声が聞こえた気がした。背景放射、見えた気がします。


 実は何気にアニアを気に入っていたのねネフティアさん。

 アニアもむんずと掴まれながらもネフティアなら羽をちぎろうとしないと気付いたようで、明らかにほっと息を吐いていた。

 リカード・エル・ぱにゃぱ

 クラス:重戦士アタッカー

 ・エンリカの父親。気さくで心優しいが、娘を溺愛し過ぎている親父さん。

 娘に取りつく男の事を知った時、優しかった父は豹変する……


 ルイーズ・エル・ぱにゃぱ

 クラス・弓使い(アーチャー)

 ・エンリカの母親。少し天然の入ったぽやぽやなお母さん。愛娘のエンリカのこととなると豹変する。

 愛用の包丁が月夜に煌めく時、憎き恩敵は肉塊へと姿を変える。

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